間話「剣姫の涙」
遡ること数日。
捌式が完成する前日のことだ。
俺とシャルロット、アリス、トニー、ケイオスの5人は学園長室に呼び出されていた。
このメンバーであれば、先の討伐依頼に関してのことだろう。
そういえば報酬をまだ受け取っていなかった。
トラウマを呼び起こされた上にあれほど危険な目にあってタダ働きでは、さすがに割に合わない。
そんなことはさすがにないと思うが。
招集がかけられたメンバー全員が揃うと、姉さんが話し始めた。
「先の討伐依頼についてだが、まずはすまなかった。
アイギスを使っ・・・アイギスに頼んで調査してもらったところ、森の奥深くにSランクの魔物が誕生してしまい、それを恐れて道に近いところまで出てきたのではないかと報告があった。」
魔物の世界も人間の世界も、弱肉強食ということか。
ルーナ隊長も大変だな。
今度会った時に姉に代わり、感謝と謝罪を伝えておこう。
「元々の依頼達成の報酬として銀貨10枚。
お前らが討伐して集めた素材を換金したものが、銀貨90枚。
そして学園の生徒を危険な目に合わせた追加料金として、金貨7枚。
それぞれを1人あたりの報酬とさせてもらう。」
そう言った姉さんは、小さい袋を5つ机に並べた。
銀貨800枚だから、1人あたり金貨1枚と銀貨60枚ってことか。
これだけでも半年は暮らせるだろう。
学生という身分なので、実際はもっと持ちそうではあるが。
そう思って喜んでいると、アリスが反論した。
「学生交流として参加させて頂いた身で、そんな馬鹿げた大金は受け取れません。」
言うほど馬鹿げていないと思うのだが、そこは個人の価値観の差か。
トニーは「こんな大金持ったことないべ・・・」と呟いていた。
シャルロットは興味無さそうにポケットに突っ込んだ。
ケイオスはいつも通り「フハハハハ!」と笑っているので分かりづらいが、まあスルーでいいだろう。
うん?
金貨1枚と銀貨60枚にしては軽すぎる。
計算は間違えていないはずだけどなと思いつつ中身を見ると、金貨8枚が入っていた。
うん、馬鹿げてたわ。
ちゃんと聞いてなかったけど、1人あたりの計算だったのね。
シャルロットの髪に留まっている、マジックアイテムを加工して作られた蝶の髪飾り。
あれが金貨3枚なのだ。銅貨換算すると、3万枚だ。
それを買った日に食べたサンドイッチが銅貨3枚。
マジックアイテムがどれだけ高値で取引されているかがお分かりいただけるだろうか。
そして、今回の報酬は金貨8枚。
マジックアイテムを2つ買ってもお釣りが来るのだ。
サンドイッチをあの店で1日3食食べたとして計算すると、24年以上食べ続けられるほどの金額である。
そんな大金を5人全員に渡すと言うのだ。
太っ腹という次元の話ではない。
そんな俺たちの反応を見た姉さんがため息をついた。
「お前らの未来が、1歩間違えれば閉ざされていたんだ。
私情も入っているとはいえ、正直これでも足りないと思ってる。
それだけ次代を担う、未来ある若者たちへの期待は大きいんだよ。」
姉さんは5人それぞれを見渡し、ニヤリと笑った。
「それにここに居るメンバーなら、この程度の金はすぐに稼げるようになるだろうよ。」
学生時代、歴代最強と謳われた『神速の剣姫』。
目を見たらすぐに分かったのだが、そんな人が本当に心からそう思っているのだ。
買い被りすぎだと思わなくはないが、認められたい人にそう思われているというのは嬉しいものだ。
-----ミドリ視点
事の2日前にクノッサスへとわざわざ出向き、冒険者ギルド総本部へと怒鳴り込んだアタシは、本当に私情が入っていた。
最高の弟子が、弟子入りしてくる前に。
後に筆頭宮廷魔術師になるであろう娘も。
そして何より、最愛の弟が死んでいたのかもしれないのだ。
そんな才能ある若者たちをみすみす危険に晒した無能な奴らを、許せはしなかった。
冒険者ギルド総本部の入口の扉をぶった斬り、怒りを露わにしながら叫んでいた。
そんな奇行に及んだお陰ですぐに王国騎士団の耳に入り、アイギスが本気で止めに来てくれた。
来なかったら建物ごとぶった斬っていたかもしれない。
落ち着いた今でもそう思えるほどには荒れていた。
まあアタシが託した依頼なのだから、自分も無能に含まれているのは理解している。
だから八つ当たりではあるのだがな。
事情を聞いたアイギスが「1日で解決してくるから大人しく待て」と言い、翌日に先の報告をされたのだ。
寝ずに行動し、Sランク魔物を討伐してきてくれたアイギスには感謝の念は尽きないが、それとこれとは話が別だ。
アイギスが横に居て目を光らせてはいたが、冒険者ギルド総本部長相手に怒鳴り散らした。
責任を取れと騒ぐ様は、クレーマーそのものだな。
結局、1人あたり金貨7枚の追加報酬ということでしぶしぶ了承した。
足りないと言うアタシに、アイギスが盾で頭を殴ってきたのには驚いた。
王国最強の盾で人の頭を殴るとは。
アタシじゃなければ出血で済んでないぞ。
頭から大量の血を流しながら謝罪の書面と述べ金貨40枚を巻き上げる『神速の剣姫』は、後々クノッサスを拠点とする冒険者の間で語り草となった。
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「話しは以上だ、解散。
あー、ユウだけは少し残れ。」
姉さんが1人だけ残すなんて珍しいな。
他の人に聞かれたらまずい話でもあるのだろうか。
まさかジジイに何かあったとか・・・はないな。
そんなことがあったのなら、既に姉さんも俺もここには居ないだろう。
「その、なんだ。大丈夫だったか?」
他のメンバーが出ていったのを確認し、姉さんが話し始めた。
ぶっきらぼうに話す姉さんもまた珍しい。
いつも言いたいことをズバズバ言うくせに。
「シャルルが居なかったら、正直ヤバかった。
アイツが抑えてくれたから、冷静になることができたよ。」
そう答えると姉さんは「そうか」と元気なく言い、1歩で目の前に来て抱きしめられた。
「本当に・・・無事でよがっだ・・・」
その言葉を皮切りに今の今までずっと我慢してきたものが溢れ出たかのように、うわあああんと大声をあげて泣き出した。
小さな身体をめいいっぱい震わせ、俺の胸に顔をうずめて泣いていた。
姉さんの涙を見たのは産まれて初めてだ。
普段言葉にされてはいないし、いつものサバサバした感じからは想像もつかないが。
こんなにも優しく、そして心から愛されているのだなと実感させられた。
「確かに恐かったけど、あの時とは違って頼れる仲間ができたよ。
少しずつ強くなって、姉さんに助けてもらうだけの俺じゃなくなったよ。
だから、大丈夫・・・だけど。
いつも本当にありがとう、姉さん。」
優しい顔をしながら抱き返して頭を撫でるユウリは、決意していた。
もう二度と、愛する姉を泣かせないために強くなる。
この世の誰よりも─
-----シャルロット視点
師匠の泣き声が廊下の端まで響いていた。
ユウを待っているだけで聞き耳をたてるつもりはなかったのだけど。
いつも強気で自信満々な師匠がだ。
数日前、弟子入りする前に言った言葉を思い出す。
「なんでそれを見て、アイツの愛を向けて貰えてる・・・アンタが・・・なんでそんな感想なのよ・・・」
心から愛して、その人を心配して無事と分かって安心して涙を流すなんて。
向けられて当然よね。
アタシはユウが大好きだ。
ユウの隣は、誰にも譲る気はない。
その気持ちは今も変わらないし、この先も何があっても変わらないだろう。
師匠に向けられているのは家族としての愛なのは分かってる。
それでもやっぱり、ちょっと嫉妬しちゃうな。
少し悔しさを感じながら、その場を離れるシャルロットだった。
しかしその目の奥にある炎は、今までよりも強く燃えていた。
次回から第4章です。
今月は毎日アップできたらいいな。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




