三十ノ舞「またやろうぜ」
-----ミドリ視点
まさかアタシが弟子を持つ日が来るとはな。
今となっては大出世したアイギスですらその昔、アタシに剣を教えてくれと頼んできた。
ライバル関係で居たいと断ると、そこからの成長は目を見張るものがあった。
学生の頃にアタシを負けさせる可能性があったのは、間違いなくアイギスだけだった。
コイツらにも、そんな関係になってほしいと思う気持ちがあるからこそ、今回の申し出に首を縦に振ったのかもしれない。
ユウの隣に立ちたいと言うのなら。
最愛の弟を守る立場になりたいのなら。
最強の剣士になってもらわないと困る。
それこそ、アタシを超えるくらいにな。
生半可な気持ちで来るのであれば初日で破門してやろうと思っていたのだが、今日で既に5日目を迎えている。
ヴァルローレンの剣のセンスは、アカネをも凌ぐだろう。
アカネはセンスは良くないが、努力の天才だ。
文字通りの日々の努力で積み重ねてきた経験、自信、実力は、ヴァルローレンの比ではない。
しかしヴァルローレン・・・いや、弟子となったのだから名前で呼ぶことにしよう。
シャルロットがアカネと同じか、それ以上の積み重ねを果たした時。
本当に化けるぞ。
かつてのアイギスのように、な。
毎日睡眠時間を削り本気で、死にものぐるいで向かってくる弟子への期待は大きい。
かつての自分の祖父も、自分や弟が剣を取り向かってきた時はこんな気持ちだったのだろうか。
日々一歩ずつ成長していく弟子を見るのは、嬉しさと楽しさでいっぱいだ。
気付けば、思わずフッと笑っていた。
指導する側になっても、アタシはまだまだ教わることが多いようだ。
そんな楽しさを教えてくれた初めての弟子もまた、ボロボロにされながらも心から楽しそうな表情で向かってくるのだった。
-----通常視点
翌朝、いつも通りアリスを起こさずに部屋から出ると、早々にイオが朝食を作っていた。
どうやら昨日アリスに楽しみを奪われたことがお気に召さなかったようだ。
朝食を食べ終え、今夜は回復魔法をお願いすると思うと伝えて外に出た。
学園は休日なのでこんなに早い時間から誰も居ないだろうと思っていたのだが、汗だくでボロボロになり、肩で息をしているシャルロットがちょうど寮に戻ってきたところだった。
こんな朝までトレーニングしていたのか。
本当に最近のシャルロットには頭が上がらない。
挨拶をしてすれ違った瞬間、鳥肌がたつほどのオーラを感じ取れた。
試しに後ろから木刀を振ると、まるで後ろに目があるかのような動きで剣で止められた。
「なんのつもりよ。」
「まるで姉さんみたいなオーラをしてたから、試したくなってな。」
それを聞いたシャルロットは一瞬目を見開いた後、いつも通りニヒヒと笑い「ありがと」と答え、部屋にもどっていった。
お礼を言われるとは思わなかった。
まさか姉さんが剣を見ているわけでもあるまい。
これまで頑なに弟子を持たなかった人だ。
その可能性はあまりにも低すぎる。
ということは、シャルロットなりに姉さんに憧れているからこその反応だろう。
なんだかんだでカッコイイからな、うちの姉さんは。
さて、この後のトニーとの再戦に向けて、ウォーミングアップをしなくては。
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休日の学園の修練場は閑散としていた。
両校の選抜メンバーが見守る中、壇上にあがった。
「それでは模擬戦を始めます。
時間無制限一本勝負、3ダウンで敗北とします。」
サクの合図で位置につく。
トニーも準備完了といった様子で、開始を今か今かと待っている。
こちらもそれに答え準決勝の時には果たせなかった、全力で行こう。
目を瞑り、大きく深呼吸をする。
意識の最奥にある扉を、押し開ける─
「それでは試合開始!!」
「速度強化」
「擬獣化─白虎!!」
狼の次は虎か。
攻撃力重視ってことだろうか。
それに対してこちらは、圧倒的な速度で押し通る!
「アマハラ流究極奥義 残影領域─高天原!!」
まるで真下から突風が吹いたかのように、ユウリの服や髪がバサバサと揺れていた。
「いきなりくるんけ・・・!」
驚きと喜びでトニーの視線はユウリの姿に釘付けになっていた。
目を開き、領域へと入った。
言葉とは裏腹に、とても楽しそうな笑顔を浮かべたトニーの姿に目をやった。
やはり前回学んだ通り、動こうとしない。
そしてユウリもその場を動かない。
超攻撃型の奥義なだけに、トニーは顔には出さなかったが動揺していた。
読み合いが必要な相手なのだが、何を考えているのかが全く理解できないのだ。
「剣の舞 壱式 居合─柳閃!!」
そんなトニーの内心を嘲笑うかのように、ユウリはその場から一歩も動かずにトニーを後ろから吹き飛ばした。
「トニー・フレデリック、1ダウン!」
すぐに立ち上がり体制を立て直すも、トニーは自身の身に何が起きたのかを理解できていなかった。
顔を上げると納得できる光景がそこにはあった。
ユウリが2人居る。
しかし片方はボンッと音を立てて消滅した。
「それが分身かい。いつ出したよ。」
「高天原発動と同時だな。」
「なるほど。分身さ立たせておいて、ユウリは消えてたか。」
「正解。次、行くぞ!」
言うなりユウリは消えた。
超スピードのダッシュを繰り返し使用しているのだ。
しかし鼻では追える。
左から右、もう一歩右・・・
「左!」
目に見えないので賭けではあるが、次の一歩の予測をすることである程度の動きは追える。
そしてこの白虎は攻撃力重視のモードだ。
軽いジャブでも、本気の拳ほどの威力を出せる。
以前は大振りになって捉えられなかったが、これならば捉えられるとトニーが考えた『高天原』対策だ。
トニーが左手を軽く打ち出した直後、修練場を囲う塀がドカンと音を立てて煙をあげていた。
完璧に捉えられたユウリが打ち付けられたのだ。
「ユウリ・アマハラ、1ダウン!」
ユウリは頭から血を流しながらも立ち上がり、壇上へとゆっくり歩いて戻った。
試合再開直後、ユウリは分身を4人作り出した。
自身が消えて錯乱している間に準備を整え、一斉に飛び出した。
「剣の舞 捌式 五行─桔梗紋!!」
桜の萼、星型の配置から一斉に斬り掛かる剣技をトニーは跳んで躱す。
地面を見て「危なかった」と感想を抱くトニーに、またも背後から声がかかった。
「剣の舞 伍式 破剣─星崩し!!」
捌式は跳んで躱されると同時攻撃の意味がなくなってしまう。
技の完成と共に欠点に気付き、それにすぐさま対応策を考えていたユウリが一枚上手だった。
「トニー・フレデリック、2ダウン!」
ズドンと地面に強烈に打ち付けられたトニーは、一瞬意識を飛ばしていた。
先程よりも完全に無防備な状態に、かつて自身の肩を壊された程の強烈な一撃だ。
如何にトニーの身体が強靭な肉体をしていようと、ユウリの攻撃力もそれを凌ぐ強さを持っているのだ。
まともに喰らえば一溜りもない。
試合再開。
後がなくなったトニーに対し、ユウリは攻めの手を緩めなかった。
「速度最大強化!!
餞別だ、トニー!これで決めるぞ!」
そう宣言したユウリは、連続で分身を作った。
4人、8人、12人、それ以降も留まることを知らずに、壇上はユウリの姿だらけになっていた。
「オメ、増やしすぎだべ!」
トニーは目の前の分身を殴って消滅させるも、分身たちに囲まれる形となってしまった。
「剣の舞 玖式 夢幻─千本桜!!」
全ての分身による、全方向からの『壱式』の連打。
一撃ですら必殺の威力をもつソレを、前後左右から間髪入れずに打たれては耐えようがなかった。
3度入ったところでトニーの意識は奪われ、その瞬間ボボンと音を立てて分身が全て消滅した。
「トニー・フレデリック、3ダウン!
勝者、ユウリ・アマハラ!!」
ユウリも魔力を限界まで使用したため、その場で大の字で倒れた。
イオとアリスが急いで駆け寄り、二人に回復魔法をかけた。
ユウリはすぐに立ち上がったものの、ダメージの大きいトニーはまだ意識を戻さずにいた。
アリスが「はよ起きろや!」と言いつつ水魔法を顔にぶちまけて、ようやく目を覚ました。
「ぶはっ!もっとまともな起こし方ないんけ?!」
と叫ぶトニーに思わず笑ってしまった。
「いやー、完全にやられたでよ。
あんな技どうやって止めんね?」
トニーの腕を取り立ち上がらせると、そんなことを言われた。
「捌式はともかく、玖式にそれっぽい弱点はないんだが・・・
強いて言えば場を埋め尽くすくらいの攻撃魔法じゃないか?
そうすれば勝手に分身は消えるからな。」
まあそれも俺に気付かれないようにやるか、速度強化をしている俺より早く打つかしないとダメだけどな。
正直に言うと、この場に居る面子だとイオと、そもそも魔法を使わせてもらえないショウヤくらいにしか破られる気はしない。
姉さんも居るが、別枠ということで。
「なんにしても今のオラには厳しいな。」
参ったと言わんばかりに両手を上げて降参のポーズをとるトニー。
それでも、「いつか絶対に攻略してやるべ」と笑顔で言われた。
互いに右腕を出し、ガッシリと組む。
クノッサスで別れる前にやったやつだ。
「またやろうぜ!個人戦でも、団体戦でも。
この先まだまだ時間はたっぷりあるからな!」
「望むところだべ!次は負けんさ!」
こうして、約束の再戦は幕を降ろした。
-----シャルロット視点
深夜、修練場に大の字で倒れ、息を切らしていた。
昼間のユウの一戦、アイツはこの短期間で物凄い進化を遂げていた。
あんなの正直勝てる気がしない。
その焦りからか『神速の剣姫』相手にガムシャラに向かっていった結果、無惨にボロボロにされているのだ。
「焦る気持ちも分かるけどな。
お前とユウじゃ、歩むペースも違うんだ。
まずはそれを理解しろ。」
そんなことは分かってる。
それでも、隣に立っていたい人が自分を置いてどこかに行ってしまいそうで恐いのだ。
「今日が初日じゃなくて良かったな。
最初からこれだったらその場で破門してたぞ。」
でしょうね。
今日の剣には気持ちが入っていなかったと自分でも思う。
こんな体たらくでどうする。
お前は何を目指すんだ、シャルロット・マリア・ヴァルローレン。
自分自身の実力を理解しろ。
大丈夫、必ず追いつける。だから諦めるな。
そして何より、このありがたい環境に甘えるな。
一本一本、全てを吸収するんだ。
今朝ユウにも師匠のようなオーラと言われた、研ぎ澄まされた自分を思い出せ。
「もう一本・・・お願いします!!」
先程までとは明らかに目の色が違うのが自分でも分かる。
そして何より師匠の嬉しそうなニヤリとした顔を見たら分かる。
全ての感覚を、研ぎ澄ませ─
師匠が「入りやがったな」と小さく呟いたけど、その真意は分からない。
そんなことより、まずは目の前の一本だ。
シャルロットはふぅと息を吐き、真っ直ぐに師匠の動きを見据えた。
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『神速の剣姫』は、弟に次いで自力で扉をこじ開けた目の前の弟子に思わず笑っていた。
いつものニヤリとした顔ではない、心からの笑みだった。
そしてその相手をするのに、自身の最も得意とする付与術魔法をかけないと役不足だと判断していた。
「装備付与─神速の剣姫」
その名がそのまま二つ名となった、付与術魔法であるが必殺の剣。
命名はアイギスで、姫ってガラじゃないと命名時に一悶着あったのだが、なんだかんだで気に入ったのでそのまま使っている。
余談だが、アカネに付与術を教えたのはミドリだ。
だが剣は一切教えなかった。
今のアカネの実力は、紛うことなきアカネの努力の結晶。
使うのは義手が耐えられるかの実験を除けば、実に7年振りだ。
本人は意図して使用していないのだが、7年前最後に闘った名付け親と今のシャルロットの潜在能力を同レベルと認めた証拠だった。
その最強の剣を直で見た弟子は、越えるべき壁の高さに驚きと嬉しさの混じった笑顔をしていた。
「10分耐えたら教えてやるよ。・・・行くぞ!」
ガキンッ─
過去に10分以上闘えたのは、ルーナ・フォルス・アイギスただ1人である。
盾魔法を駆使して必死に守りながら闘ったのだ。
しかし目の前の弟子は、その初撃を剣で捌いた。
ミドリとしても初めての経験だ。
多少驚きはしたが、2撃目でガードを崩し、3撃目で地面に沈めた。
3撃目までの速度は、なんと0.2秒。
ユウリ最速の『壱式』を抜刀から納刀をするよりも速く3つもの斬撃を与えた。
人間では到達せし得ない速度、神速の領域。
そこに堂々と立つことこそ『神速の剣姫』たる所以。
「ちょっとやりすぎたか」と呟きながら、弟子に回復魔法をかけるミドリであった。
この技を目の当たりにしたシャルロットが、アカネ以上の防御力と剣捌きを身に付けるのは、ここから1年後のお話し。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




