二十九ノ舞「その先に望むは」
アリスの宣言から一夜明け、布団にまた潜り込んできているアリスに思わず笑ってしまった。
消極的で萎れた面もアリスの一部だが、やはり積極的で明るい方が似合ってる。
宣言を聞いたシャルロットが何も言わずに部屋を出ていったのは気になるけど、考えてることなんて分からないしな。
本人が何かを言ってくるまで待つとしよう。
俺は本来、鳴くまで待とう派なのだ。
まだ早い時間だったので起こさないように抜け出したつもりだったのだが、布団を出る時に起きたアリスに腕を掴まれてしまった。
洗面台まで掴まれたままだったのだが、さすがにそのままで顔を洗うわけにもいかずに引き剥がす。
たまには自分で朝食を作ろうと思ってキッチンに立つと、アリスが作るとのことで任せることにした。
エプロンアリスを堪能しているとイオが起きてきて「私の楽しみの一つなのに」としょんぼりしていたので、頭を撫でてご機嫌取り。
「えへへ」と緩んだ顔になるイオに、朝から殺られた。
可愛いとは、この世の唯一の正義だ。
普段の寝坊助のイメージだから不安だったのだが、紫色をした物体Xが出てくるわけでもなく、イオに負けず劣らず美味しかった。
この前も思ったが、こんなにもハイスペックなのに何故俺なのだろうか。
そういえばアカネも実力も家事スキルも高い隠れハイスペックだったな。
世の中分からないものだ。
そんなドタバタしている学園交流も折り返しを過ぎ、今週いっぱいで終了となる。
それまでにトニーとの再戦の約束をしているので、捌式の完成を急がなくてはならない。
授業そっちのけで完成させたいものだが、残念ながら剣術実技の授業だ。
普段より若干目の周りが腫れている気がする姉さんに疑問を持ちつつ、授業が始まった。
「せっかく交流で来てるんだ。剣術でうちの生徒と戯れておけ。」
トニーとアリスが我先にと俺のところに向かってきているが、剣となれば相棒は決まっている。
シャルロットとすぐに目が合うと、ニヒヒと笑われた。
目の下にクマができているが、大丈夫だろうか。
魔法無しで剣術のみの勝負だ。
結局アリスはイオと、トニーはアカネ、ジャックスとショウヤがそれぞれ組んでいた。
マリーナは姉さんに暗器の持ち込みがバレて校外10周中で、ケイオスは左腕の黒炎竜が暴れだしてしまったとのことで見学している。
だからこそ俺とシャルロットが組むことに姉さんからの反対がなかったのだが、マジックギルドもなかなかに問題児揃いだな。
この組み合わせでいくつかの問題が発生した。
まずはアカネがトニーをボコボコにしたこと。
タコ殴ったりしたわけではないのだが、一太刀も浴びずに全ての攻撃に容赦なくカウンターを当てていた。
授業ということで木刀を使用していたのだが、トニーは身体中アザだらけになっていた。
アカネも普段よりも気合いが入っているようだ。
2つ目はジャックスとショウヤが互いに譲らず、どちらも一太刀も浴びずに最後まで打ち合っていたこと。
決着が着いたと思ったら、俺とトニーの試合ばりのクロスカウンターで両者共にダウンし、医務室に運ばれて行った。
両王子の意地の張り合いは引き分けだった。
そして最後、アリスとイオはもう異次元だ。
互いに攻撃魔法は使わなかったが、氷魔法や土魔法で剣を作りまくって本気で闘っていた。
彼女たちが作成した剣で、アンリミテッドブレイドなんちゃらができるのではないかと思うほどの量だった。
もちろん両者共に姉さんにこっ酷く怒られたのは言うまでもない。
俺の心配が杞憂だったと思うほど、シャルロットの動きも以前と比べ物にならない程良くなっており、何度か柄でガードをしないと間に合わない場面があった。
動きは速く、剣は重くなっている。
アカネが一本取られた理由が分かったような気がする。
間違いなく、俺たちとのトレーニング以外でも剣を振りまくっている。
どいつもこいつも、こんな短期間でどこまで成長するつもりなんだ。
午後こそはと思っていたら、まるまる身体測定に充てられていた。
身体測定と言っても、魔法の技能レベルや運動能力なども測定するようだ。
通常の身体測定だけはマジックギルドの面々も受けさせてもらえるらしく、アリスは背が伸びたかな、昨日食べ過ぎちゃったけど大丈夫かな、とソワソワしていた。
「次、ユウリ・アマハラ・・・164.2センチ。」
我ながら普通だ。
特にワクワクするわけでもなく、アリスのようにソワソワするわけでもなく。
「次、アカネ・オオヒラ・・・161.0センチ。」
アカネは女性にしては大きい方だ。
俺と3センチしか違わないのな。
アホ毛まで入れたら俺と同じくらいということになるな。
「次、シャルロット・マリア・ヴァルローレン・・・155.4センチ。」
シャルロットは普通なのかな?
それでも155センチを超えたと喜んでいた。
「次、ショウヤ・フォン・アビステイン・・・180.8センチ。」
長身だと思ってはいたが、数字で聞くと改めてでかいんだなショウヤ。
その2人後ろに更にでかいトニーが居て、ショウヤとトニーに挟まれるイオがいつもより小さく見えるくらいだ。
「次、イオン・フォン・アビステイン・・・145.1センチ。」
145センチ超えましたよ兄さん!と嬉しそうに報告するイオ。
なんというか微笑ましいね、うん。
「次はトニー・フレデリック・・・191.6センチ。」
周りからも「おおー」と歓声があがった。
べ、別に30センチ定規足せば勝ってるし!
「アリス・ポーラン・・・158.7センチ。」
アリスはなんというか、脚が長い分身長もといったイメージだ。
ウチのクラスの女子が羨ましがる程にはスタイルがいいのだ。
その後も次々と呼ばれるがままにこなして行き、最後の魔力値測定。
事件は会議室ではなく現場で起きた。
触れるだけで魔力値を測れるという水晶を使っての測定だったのだが、イオが8524という最高数値を記録し大盛り上がりの中だ。
アカネが水晶に触れた瞬間、水晶が砕け散った。
涙目になりながらゆっくりと振り返り、俺に助けを求める視線を送ってきたのだが、どう助けろと言うんだ。
「ア、アカネ・オオヒラ、測定不能・・・」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
どこかで聞いた事のある謝り方でアカネが全力で謝っていた。
静まり返った場内に、姉さんの爆笑が響いていた。
ちなみにアカネの直前に測った俺は777という喜んでいいのか悪いのか分からない見事な数字だった。
イオの10分の1にも満たないのか・・・
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そんな身体測定も終わり、放課後。
しょぼくれたアカネを連れて、今日も特訓だ。
アカネが姉さんに「弁償します」と伝えたところ金貨200枚と言われた時の雷に打たれたようなアカネの顔は、今思い出しても笑えるくらいだ。
姉さんも特に払わせるつもりもないだろうに、冗談で「出世払いでいいぞ」とニヤニヤしながら言っていた。
さて、今日は分身の人数を増やす特訓だ。
昨日までで分身をある程度思うように動かすことができるようになっている。
あとは4人分身をできるまで永遠と繰り返し反復練習だ。
かと言って時間をあまりかけるつもりもない。
とりあえず今日のうちに分身2人を目標だ。
ボボンッ
「おっ?」
何度かトライアンドエラーを繰り返すうちに、2人の分身が出来た。
しかしイオ並に小さい。
アカネは3年くらい前のユウくんそっくりと喜んでいたが、これではダメだ。
というかそっくりなのは本人の分身なのだから当たり前だ。
吸収した魔力を二方向に放出するイメージでやってみたら出来た。
イメージは合っていたのだろうが、2人の分身を作り出すには吸収した魔力が足りなかった、ということだろう。
反省点を活かし、吸収する魔力を増やしてみたのだが今度は制御がなかなかに難しい。
この量の魔力を制御するところから始め、あとはそれを複数方向に放出する。
魔力が足りなければ追加して、その量を制御。
これを繰り返せばいいだけだ。
よし、今まで不透明だった道筋がたてられた。
あとは進むだけだ。
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3日後の放課後、マジックギルドとの交流が明後日までとなっていた。
サクとアカネ、アリスに見守られる中、ようやく4人の分身を作ることに成功した。
そしてアカネを中央に置き、分身を含めた5人で一斉に斬り掛かるとさすがのアカネも捌ききれずにクリーンヒットしていた。
アカネはアリスに回復魔法を受けながら「完成だね、捌式。名前はどうするの?」と聞いてきた。
これに関しては、もう決めていた。
「まあ、使うまで内緒ってことで。」
「ぶぅー、じゃあなんで星型配置なの?」
それこそ小っ恥ずかしいので内緒にしたいところだ。
しかしアリスは気が付いたようで、サクの肩にポンと手を置き「素敵な主ね」とウインクをしながら微笑んでいた。
アカネとサクが頭にはてなマークを浮かべていたのだが
「星型ではなく、桜花の萼の形よね。」
と、アリスが答えてしまった。
サクラに教わったのだから、せめて名前か形に桜の何かを残したかったのだ。
とは言えず、恥ずかしさをごまかすために頬を掻いて目を逸らしてしまった。
サクは顔を赤くし俯いてしまったが、アカネは「萼って何?」とアリスに聞いていた。
アカネの学がなくて本当に良かった。
これでトニーへの手土産も完成した。
一旦寮に戻り、明日再戦の約束を取り付けて皆でトレーニングに出ることにした。
トニーは嬉しそうにしていたものの、それはそれといった様子でトレーニングは参加するようだ。
汗だくで肩で息をしているシャルロットも着いてきた。
最近構ってあげれてないので、一人で特訓でもしているのだろうか。
そんな状態でもランニングでは俺とアカネのスピードに着いてきて、トレーニングも文句一つ言わずに最後までやりきった。
本当に体力もついたし、我慢強くもなったな。
置いていかれないためにも、俺もトレーニングの量を増やすとしよう。
-----4日前、シャルロット視点
アリスの宣言を聞いた瞬間に、負けられないという気持ちに火がついた。
先程胸ぐらを掴んだことを忘れたかのように、学園長室へと脚が向かっていた。
深夜だというのに、根拠は全くないがまだここに居ると確信があったからだ。
「失礼します。」
「ヴァルローレン、先程はすまなかったな。」
謝らなくてはならないのはこちらだというのに。
それでも、今はその話をしに来たんじゃない。
以前に見た、アカネがユウに謝っていたときに正座をして前かがみになり、おでこを地面につけていたのを見様見真似でやってみた。
「アタシに、剣の稽古をつけてください!!」
ここで頭を上げてはダメだと本能的に思っていた。
自分のプライドなんて要らない。
誰にも負けない強さを、ユウの隣で戦い続けられるだけの強さを得られるのであれば、どんな辛酸も舐めよう。
しばらく沈黙が続いていたが、『神速の剣姫』はようやく口を開いた。
「ヴァルローレン。お前は、その先に何を望む?」
先程の弱々しかった声とは真逆の、いつもの自信満々にニヤリと笑っている時の声だ。
望むものなど、決まっている。
思わず顔を上げて真っ直ぐに、相手の目を見つめていた。
「最強。」
『神速の剣姫』はフッと笑うと立ち上がった。
「アタシはたぶん、ユウとは比にならないくらい厳しいぞ?」
「望むところです。」
「空いてる時間もまちまちだから、常に同じ時間に見てやれるとは限らないぞ?」
「構いません。」
「よし、それじゃあ早速初回と行こう。着いてきな。」
「はい!!」
その日の稽古は、次の日の登校時刻まで続いた。
こうしてアタシは、『神速の剣姫』の初めての弟子となった。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




