二ノ舞「研鑽することで」
入学式の翌日、選抜メンバーは学園長室へ召集がかかった。
こういう呼び出しってのは何度経験しても慣れない。
「カギは空いてるから入ってこい。」
扉をノックすると、中から姉さんの声がした。
開いているとのことなので遠慮なく入らせてもらおう。
扉を開けた瞬間、『神威』を使い神速で幼女が突っ込んできた。
「ユーウ!!会いたかったぞー!!」
反射的に扉を閉めてしまい、中からドゴッと鈍い音がした。
自業自得なんだけど申し訳なくなるな。
「しくしく・・・憧れの姉さんとの再会だってのにユウってばひどい・・・」
いや、うん、剣の腕だけは憧れてるけどね?
とりあえず中に入ったものの、アカネと俺が一番乗りらしい。
全員揃うまで子守りをしないといけないかと思うと頭が痛い。
「ユウは本当にカッコいいこと言うようになったなぁ。
どれだけ死線を超えてきたと思ってるんだ・・・くぅーかっけぇー!!」
俺の膝の上で俺の真似をした挙句、腹を抱えて足をバタバタさせる幼女。
ちょっとマジでこの幼女ぶん殴りたくなってきた。
アカネさん、そんなドン引きした顔でこっち見ないでもらえますか。
「いやまあ悪乗りはここまでにして、2人の試験結果ひっでぇな!
アカネは学力ワーストってどういうことだよ?」
「問題2つしか解けなかったんだから仕方ないでしょ!」
いやアカネさん、逆ギレするところじゃないですよ?
「ぷっ・・・あはははは!!2つってマジかアカネ!バカすぎるだろ!」
腹いてーと涙目になる幼女。
いいからはよ俺の上からどいてくれませんかね。
「どうせバカですよーだ」
ぷうと頬を膨らませるアカネ。なにそれちょっと可愛い。
「で、ユウは魔術ワースト?試験で何したのさ。」
「・・・『神威』」
「あははははは!!バカだ、バカがいるぞ!!」
バカバカ言うな。お前も同じ遺伝子のくせに。
「『神威』はあくまで縮地法の剣術応用版であって、魔法じゃねぇってくらいユウもよく知ってるだろ?
そんなのを魔術試験でやったら、そりゃ0点だろ。」
「姉さんこそ、俺が速度強化と武器強化しかできないの知ってるよな?!」
「武器強化して石叩き割ったりすりゃ多少はマシだろうに。」
「速度強化して『神威』使ったんじゃねぇか・・・」
「ん?それはどういう・・・?」
コンコン─
「ちっ・・・良いところなのに。どうぞ。」
言うなり膝の上に居た姉さんは、『神威』で学園長用の席に戻ってやがる。
相変わらず規格外な幼女だな。
「遅くなり申し訳ございません。ショウヤ・フォン・アビステイン、イオン・フォン・アビステイン参りました。」
ショウヤが礼儀正しく一礼すると、半歩後ろから杖を抱えたイオンがそれに続き一礼した。
背も高く細いわりに引き締まった身体で、礼儀正しくイケメンな王子ときた。
さぞかしおモテになられるでしょうね。
逆にイオンは背は低く、丸眼鏡に水色の長いローツインテールで、王女様らしくないんだよな。
いや普通にめちゃくちゃ可愛いのだが、本人があまり喋らないから印象が分かりづらいな。
「時間には間に合ってるから気にすんな。適当に座ってくれて構わないぞ。」
王子と王女に対して、幼女がこの態度。
中身と身分を知っていなければ打ち首もんだね。
しかしこの王女様、どこかで見たことあるような・・・?
「待たせて悪かったわね。」
アビステイン兄妹を観察していると、シャルロットが入ってきた。
なんというか、本当に気の強そうな性格で仲良くやれるか不安だ。
黙っていれば王女様に負けず劣らず綺麗な顔をしているのにもったいない。
「揃ったな。早速本題に入ろう。」
言葉と共に、姉さんの後ろのモニターに画面が映し出された。
「画面を見ながらで構わないので聞いてほしい。」
うちのアカネさんはそんな器用なことできませんよ。
「ひとまず、選抜メンバーに選ばれた君たちは新人戦に出場してもらう。
新人戦はトーナメント形式で、対戦順・組み合わせは事前にランダムに決定される。
対戦形式は1vs1の5試合で、先に3勝したチームの勝ち上がりとなる。」
画面には説明を画像で書いたものが映し出されている。
先鋒から大将までを試合ごとに設定できるのは助かるな。
初戦だけは勝敗決定後も5試合全部やるらしい。
選抜メンバーにせっかく選ばれたのに出番なしってのがないように、ということだろうけど。
「出場校は全12校。
その中でもうちの学園は今年から参戦が認められた新参者だ。
どうせ誰もうちが勝つなんて思ってないだろう。」
その言葉に全員が反応したが誰よりも早く、シャルロットが声をあげた。
「バカ言わないで。出るからには優勝しか見てないわ。」
シャルロットと初めて意見があった。
だが、姉さんの目を見てその心配は杞憂だと悟った。
懐かしい。あの目は姉さんが『神速の剣姫』と呼ばれていた時の目だ。
相手がどれだけ格上の相手でも、自分に絶対の自信を持ち、全ての試合で勝ってきた。
そんな人が、誰も勝つと思ってないから気楽にやれなんて言うはずがない。
「当たり前だろ?優勝するためにこの5人を選んだんだ。
伝統ある学園だとか、ンなもん知るか。己を信じて勝て。以上!」
相変わらず口は悪いが、ジジイと並んで一番実力を認めてほしい人に選ばれたってだけでも嬉しかったんだ。
それに応えなきゃ今までの頑張りが無駄になる。
やってやろうじゃねぇか。
「最後に言い忘れてたことがあったんだ。
お前ら5人、特待生として受け入れるから今日から寮住まいな。」
おい、そんな話聞いてねぇぞ。
「それじゃ、荷造りとかあると思うから今日はこれで解散!
あ、それと明日は上級生と模擬戦やるから、そのつもりで準備しとけよ!」
思わずショウヤの方を向くと、やれやれと言いたげに肩をすくめるのだった。
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一度家に帰り荷物をまとめてアカネと学生寮へ向かう途中、アビステイン兄妹とエンカウントした。
「やあ、君の姉上は嵐みたいな人だね。」
会うなりショウヤからそんなことを言われた。
昔からあちこち振り回されてばかりだったからな。
今も昔も何も変わっていない。
「時にお2人はいつも一緒に居るけど、その・・・お付き合いをされているのだろうか?」
「家族だとは思ってるが、ただの幼馴染だ。」
「デスヨネー」
なんだアカネ。死んだ魚のような目するなよ怖いから。
「それは失礼した。僕のことは気軽にショーヤと呼んでくれると嬉しいよ。」
「おーけーショーヤ、俺もユーリでいいぞ。」
「私は親しい方には、イオと呼ばれております。」
イオね、了解。
「それじゃあイオ、早速質問だ。」
「はい、なんでしょう?」
「背後に居るその強そうな霊は誰だ?」
驚きのあまりか、イオの目が倍くらいに開いた。
「見えるんですか・・・?」
うん、もうバッチリと。
「イオは先代の王・・・僕らのおじい様に可愛がられていたからね。きっと守護霊として見守ってくださっているんだろう。」
ショーヤには見えていないのか。
これ明らかにうちの国の人じゃないけど。
まあイオから話してくれるまで、深掘りはやめておくか。
「時にショーヤ、その双剣ってもしかして?」
アカネが目を輝かせてショーヤの双剣を見ている。
出たよアカネの刀オタク。
長くなるだろうからイオと話しながら先に行くか。
さっきの霊のことも聞きたいし。
「私は、回復魔法を使い皆様の傷を癒すことがあるので、聖女と呼ばれることもあるんです。」
「そうだ、どこかで見たことあると思ったら聖女様じゃん。」
「そう呼ばれるのは正直好きではないのですが・・・」
ピタリと立ち止まり、まっすぐにこちらを向くイオ。
その真剣な面持ちに、こちらもまっすぐと目を見るしかなかった。
「私、降霊術も使えるんです。」
降霊術ってアレか、自分の身体に霊を呼び出すっていう。
「そうですね。でも私はまだ降霊の力は弱くて、霊の方から身体に入ってくることも多々あります。」
なにそれ怖い。ただの乗っ取りじゃん。
「降霊術使用中の記憶はうっすらとあるのですが私の意識はないのです。
ですが見た目は私と変わらないので、兄には多重人格と思われているようで・・・」
一番近しい家族に勘違いされるってのはきついな。
内容が内容だけに相談もしづらいだろうし。
「この人が見えるって言ったのは、ユーリさんが初めてですよ。」
「その人は実在した人物で、降霊術で呼べるのか?」
「呼べますし、一番勝手に入ってくる人ですね・・・」
なんて迷惑な霊だな。
いったいどこのどいつだ。
「・・・・・・源義経。
大昔の東洋の偉人、牛若丸です。」
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寮へ到着したものの、部屋割りを見て一同騒然とした。
301号室 ユウリ・アマハラ イオン・フォン・アビステイン
408号室 アカネ・オオヒラ シャルロット・マリア・ヴァルローレン
603号室 ショウヤ・フォン・アビステイン トルティ・バルド
「仕方ないだろー、空いてる部屋が他になかったんだから。」
「しかし学園長、男女が同じ部屋で生活というのは・・・」
いやまあショーヤ言いたいことは分かるよ。
俺も聖女様で牛若丸が憑いた王女様と同じ部屋とか驚いてるもん。
「アビステイン家の王族は男女同じ部屋で生活したら間違いを起こすのか?」
姉さんめ、その言い方はダメだろう。
「それはあり得ませんが・・・」
「なら問題ないな!」
このやり取りが10分前の出来事。
まあ2部屋あるし、部屋1つずつなら問題ないだろう。
「共有部分もありますし、これなら問題ないかと。」
イオはどこぞのツンツン赤ポニーと違って話が早くて助かる。
「ヘクチッ」
「風邪?」
アカネがシャルロットに問いかける。
「誰かがアタシのことを褒めたたえてるんじゃないかしら。」
408号室は平和だった。
荷ほどきが終わり、イオが入れてくれた紅茶を飲みながらまったり過ごしていると部屋のチャイムが鳴った。
「あら、兄さん」
迎えに出たイオが兄の突然の来訪に驚きの声を出した。
どうしたショーヤ、早くも妹ロスに耐えられなくなったのだろうか。
「ルームメイトが以前に結婚の申し出を断った男爵家の令嬢でね。」
「ああ、バルド家の。」
それで気まずくなって逃げてきた、と。
とりあえず外で爆発してくれないかな。
「とても魅力的な方なのは認めるが、僕はまだそんな気持ちはないんだ。
そもそも僕は普通の生活に憧れてるんだけどな。」
変わってやろうか・・・と言おうとしたけど、俺も大概普通じゃなかったわ。
祖父はサムライ、両親はSS級冒険者、姉は『神速の剣姫』。
なんなんだこの家系。王子の方がマシに思えてきた。
「それは良いとしてユーリ、イオの件で話があるんだ。」
ショウヤのかしこまった物言いと真剣な表情で、大事な話なのだろうと予想がついた。
これからのルームメイトのことだから、きちんと聞いておこう。
「イオは普段は大人しい性格なんだが、実は多重人格のようなんだ。」
あ、うん、それたぶん牛若丸が乗り移ってるんじゃないかな。
とは言えず、イオの方をチラッと見ると「ごめんなさい」と言わんばかりにウィンクされた。
王女様にウィンクされる日が来るとは・・・この学校に入って正解だった。
「見た目はそのままなのに言葉遣いが粗暴になったり、夜な夜な出歩いたりするかもしれないが・・・
それを含めてイオなんだ。変に思わず、仲良くしてやってほしい。」
言うなり頭を下げるショーヤ。王族が簡単に頭を下げるんじゃない。
「アカネを除けばショーヤとイオは一番話しやすいし、今後のためにも仲良くやっていきたいしな。
こちらこそよろしく頼むよ。」
「そう言ってくれると助かるよ。」
安心した表情で席を立つショーヤ。
「これから日課の訓練でまずは走り込みをするつもりなんだが、2人も散策ついでに一緒にどうだい?」
「ご一緒します。」
「良いね。ちょうど身体を動かしたかったところだ。」
一緒に訓練をして分かったことがある。
2人ともめちゃくちゃ鍛えている。
ショーヤは学園長室で見てから分かってはいたが、イオもだ。
細くて小さいのに、しなやかな筋肉で動きにまったく無駄がない。
てっきり降霊術をして牛若丸が闘うものだと思っていたが、そうでもないらしい。
アカネは強いし、シャルロットもかなりの努力をしていたらしいので剣の腕は聞くまでもないだろう。
やっぱり学園に来て正解だった。
彼らと研鑽することで、俺はまだまだ強くなれそうだ。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




