二十四ノ舞「ユウリvsアリス」
ブライデン王国からの誘いをやんわりと断った後、それぞれの部屋に戻った。
イオの料理を手伝っていると、トニーにも断られたから二連敗だ、とアリスが悔しがっていた。
トニーも卒業後はやりたいことがあるのだろうか。
何かの職に就くというイメージが沸かない。
断ったということは、王国で働く気は無いということだ。
まあ余計に詮索しても悪いか。
とりあえずイオの料理を運ぶとしよう。
「ところで、今回はなぜ皆さんアビスリンドに?」
イオが最後の皿を運んで来た際、こんなことを聞いた。
確かに勧誘するためだけに選んだわけではないだろう。
「マジックギルドでは毎年この時期に学園交流を行っているのよ。
今回は、5人全員の希望がアビスリンドだったからよ。
トニーは言わなくても理由は分かると思うけど、ユウリさん目当てよね。」
トニーがうんうんと大きく頷いた。
獣人の姿を見慣れてしまっているが、元々が犬っぽいんだな。
「ジャックスもユウリさんの移動法が気になっていたし、マリーナは分からないけど・・・たぶん王子様と王女様ってことで、話してみたかったんじゃないかしら。」
マリーナが誰だか分からないという顔をしていると、トニーが横から「アリスの双子の妹だべ。」と教えてくれた。
すまんな、自分の試合の後疲れきって寝落ちしてしまったからな。
中堅から後の人の名前は分からないんだ。
「ケイオスは・・・これ言っていいのかしら?まあ面白いからいいか。
決勝でのアカネさんの闘いぶりに一目惚れしたそうよ。」
それを聞いた瞬間、イオが思いっきり噎せた。
イオの背中を摩りつつ記憶を探る。
あー、あのジャックスの後ろに居た黒髪で背が高いやつか。
決勝でのアカネか。
サラマンドラを使おうとして熱がっていた印象が強すぎて・・・あ、付与術初めて使ったんだったな。
世界随一の銘刀は確かに目を引くのは分かる。
分かっていても止められない、アカネの正真正銘の必殺技だ。
アカネの性格からして、そういう人を無下にできないんだよな。
二週間はそんな相手からのアプローチを受けていなければならないのか。
お気の毒に。
「それで、アリスさんは?」
イオが一番気になっていたであろう事を聞いてしまった。
アリスは目を丸くした後、クスクスと笑い俺の後ろに回った。
「貴女に負けて悔しかったというのも理由の一つだけれど・・・惚れた男にアプローチするためよ?」
そう言うと後ろから抱きしめられた。
これは予想していなかった。
トニーが頭を抱えてため息をついているが、助けてほしいものだ。
うちの王女様はこういう攻撃への耐性はないのだから。
並べられた料理が全て凍り付き、室内の温度が急激に下がった。
ちょっとイオさん、死んだ魚のような目で「もう一度氷漬けにしないといけませんね」とか恐いからやめて?!
アリスは「あら、貴女もなの?」と呟くと、火属性魔法だろうか。
こちらも無詠唱で室内の温度を戻した。
アリスも無詠唱魔法を使えるのかと顔に出ていたのだろうか、耳元で「簡単なものだけはね」と囁かれた。
なんというか・・・俺にもこういった耐性はなさそうだ。
このままだとイオがところ構わず魔法をぶっぱなしそうだったので、提案することにした。
「それなら明日、俺と模擬戦でもやろうか。」
トニーがガタッと音を上げて立ち上がった。
シッポが出ていたら間違いなくブンブン振っていそうな顔だ。
だが今回は残念ながらトニーに向けて言ったものではない。
アリスはニヤリとした後「互いの利点は?」と聞いた。
そうだな、利点が無いことには互いの手の内を晒すだけになってしまう。
「アリスが勝ったら、この交流期間内は俺を好きにしていい。
その代わり俺が勝ったら、親御さんとのコネを作る機会を設けてくれ。」
トニーが「オラは!」と声をあげるが、正直アリスと闘った後でトニーとの連戦は無理だろう。
この期間内のうちに必ずと約束すると笑顔で座った。
なんというか、おあずけ、おすわり、と本当に犬みたいだ。
アリスは少々考えたのち、自分にとってマイナスがないことに気づいたのか了承した。
なんでこんな条件で、とイオが言いたげだが。
美人から言い寄られて気を悪くする男の子が何処にいるというのか。
それに、ブライデン宮廷魔術師とコネを作るチャンスでもあるのだ。
将来的に役に立つコネは、作っておくに越したことはない。
そういう意味では、俺にも利点は大きいのだ。
そんなこんなで、賑やかな夜は更けていった。
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翌日。
学園内の修練場に集まった両選抜メンバーは、事の発端を聞き十人十色の反応を見せた。
アカネは昨日のうちにケイオスと同じようなやり取りの後に返り討ちにしたようで、「こっちもか」みたいな反応をしていた。
ショウヤはいつも通りやれやれといった表情で、マリーナの肩を叩き「互いに苦労するな」と労りあっていた。
ジャックス王子は昨日と同じくらいにこやかにしている。
アリスとは幼なじみだそうだし、おそらくこうなることは分かっていたのだろう。
イオはシャルロットに、どうにかして決闘の邪魔をしてアリスを負けさせないとと画策を持ちかけていたが、シャルロットに「やめなさいよ!」と言われて大人しくしていた。
色々な表情があれど、今のアリスを納得させるにはこれが一番早いのだ。
ただ、やるからには全力で相手をしないと、おそらく勝てない。
準決勝の時に、うちのメンバーではイオとショウヤくらいしか勝てる相手がいなそうだと思ったのは本当だ。
正直俺も魔術師相手の戦闘経験が多いわけではない。
コネのため、そして実力を見極めるため、全力で行こう。
「それでは模擬戦を開始します。
アリス・ポーラン、ユウリ・アマハラ両選手は前へ。」
サクの合図で中央へと向かう。
アリスの真剣な表情は、昨日の印象とは程遠いクールな美女といった感じだ。
制服がフリフリしてて可愛いからギャップが凄いけど。
トニーの前だから手の内を全ては見せたくないが、目の前の魔術師は手加減して勝てる相手でもない。
おそらく開幕速攻を仕掛けることくらいお見通しだろうし、どうしたものかな。
「試合時間は5分、1ダウンで終了とします。
それでは、試合開始!」
「速度最大強化」
「氷の壁よ!アイス・ウォール!」
開始の合図早々、アリスは自身の前に5メートルはあろう氷の壁を生成した。
迂闊に突っ込んでいたら、凍らされていたか、壁に激突していたか。
何にしても危なかった。
するとアリスが続けて同じ詠唱を何度も繰り返した。
「氷の壁よ!アイス・ウォール!
氷の壁よ!アイス・ウォール!」
その度に修練場の中央に円を描くように氷の壁が生成されていった。
その円の中には俺と、審判のサクしか居ない。
念の為サクに円の外に出るように目をやると意図を汲んでくれたようで、まだ氷が出来上がっていない箇所から外に出ていった。
俺を囲むように出来上がったその氷の円錐は、さながら氷の牢獄のようだった。
「白夜結界─氷の鏡」
アリスの透き通った声が響くと周りの氷が形を変え、氷の鏡へと姿を変えた。
多数の鏡に囲まれた俺の姿を映すそれは、方向感覚を失わせるためか、ゆっくりと時計回りに回転していた。
結界というのも頷ける。
囚われたら最後、方向感覚は失われ、どこから攻撃が来るのか分からずに精神を疲弊させて行き、弱った相手に上級魔法が襲い掛かるのだろう。
「氷の矢よ!アイシクルアロー!」
「うおっ、あっぶねぇ!」
右後ろからの矢に、咄嗟に回避した。
最大強化でなければ回避が間に合わなかっただろう。
その理由の一つとして、アリスの声は全ての鏡から聞こえるのだ。
どこから攻撃が来るのか寸前まで分からず、反射神経だけで避けるしかなかった。
こうしているうちにも最大強化のタイムリミットは迫ってきている。
どうにかして、突破口を見つけないとジリ貧だ。
「氷の矢よ!アイシクルアロー!」
次の矢を放とうとアリスが詠唱を開始した瞬間ぐるりとその場で一回転回った。
見つけた!
いくつもの鏡の中のうちの1枚が、一瞬だけ光を放った。
そこから矢が飛んできたのだ。
つまり、そこを狙えばアリスは居る。
その矢を避け、続く攻撃に全神経を集中させた。
「風の刃よ!」
「そこだ!!」
全力で一直線に駆けていた。
詠唱を続ける隙など与えるつもりもないほどに。
「剣の舞 陸式 雷光─千鳥!!」
全速力の一点突破は鏡を突き破り、術者であるアリスを捉えていた。
アリスは「ガハッ」と苦しそうな息を吐き、ドサリと倒れた。
「そこまで!勝者ユウリ・アマハラ!」
ガラガラと音を立てて崩れ去る氷の鏡を背後に、勝者もまた疲労で座り込んだ。
心配して駆けつけるアカネに肩を借りながら、起き上がるアリスに手を伸ばした。
「『全能のアリス』、強かったぞ。
結界の維持に魔力を割きながらも短縮詠唱とは恐れ入った。」
「『白夜結界』を使って初めて負けたわ。完敗よ。」
そう言いながらも笑顔で俺の手を取り立ち上がった。
「約束通りお父様との会談の場は設けさせてもらうわ。それと・・・」
何かを言いかけたアリスは俺に近づき、頬に口付けをした。
「改めて惚れ直したわ。」
ニッコリと笑顔でウィンクする彼女はとても魅力的だった。
その直後にアリスに氷と炎が降り注ぎ、第二ラウンドが始まったことは言うまでもない。
確かに敗北した時の条件は「親との会談の場を設けること」であって、諦めたり距離をおけとも言っていないから、約束を破ったりはしてないんだが・・・
やっぱりこれはモテ期到来なのでは?
そんなことを思いつつ、何故かトニーも加わった2対2の第二ラウンドを座りながら観戦したのだった。
-----アリス視点
幼い頃、お父様の薬草採取に付き添い王都からかなり離れた田舎に訪れた。
そこで一人の少年と出会った。
獣人のように耳とシッポを生やした少年が、他の子どもたちに石を投げつけられたり、いじめられていたのだ。
当時正義感の強かったわたしは、いじめっ子たちを魔法で撃退した。
その少年は泣きながらにお礼を言っていた。
名前はトニーと言うらしい。
お父様に頼み、彼を王宮に連れて帰ることにした。
その際に色々と大人たちが話していたが、子どものわたしには内容は理解できなかった。
今思えば、人様のお子さんを勝手に連れて帰ると言い出したのだ。
お父様が国の中でも権力者でなければ、ただの誘拐だ。
そこはお父様も上手いことやってくれたようで後々聞いてみると、わたしの護衛として雇うと言ってくれたらしい。
その少年はすくすくと成長した。
数年としないうちに背も、筋力も追い越された。
特に互いに恋愛感情を抱いていたわけではなかったが、いずれ相手が見つからなければこの人と結婚するのだろうなと子どもながらに思っていた。
そんなわたしたちも15歳になり、国内のマジックギルドに入学することになった。
わたしはお父様の魔法の才能をきちんと受け継いでいたようで、首席合格だった。
トニーはマジックギルドでも珍しいビーストモードという魔法、そして戦闘力の高さを買われて選抜メンバー入りを果たした。
そして新人戦へと出場することになり、二回戦で絶対王者のノースリンドブルムと闘うであろう組み合わせに落胆したものだ。
しかし現実は違った。
アビスリンドという初出場校が、絶対王者を破ったのだ。
どんな相手か期待を膨らませていたのだが、3試合ないし4試合で決めにいこうと決まった。
先鋒に魔法No.1のわたし、次鋒に最大戦力であるトニーを入れ、中堅までに2勝しようとした布陣。
しかしアビスリンドに真っ向から打ち砕かれた。
わたしは魔法戦で敗北、トニーも激戦の末引き分け。
そこからアビスリンドを相手に試合をひっくり返す術を、わたしたちは持っていなかった。
それにトニーは幼い頃から見ていたが成長してからというもの、一度も負けたことがなかったのだ。
そんなトニーと激戦を繰り広げた相手が気になって仕方なかった。
決勝でその人は大将だった。
対戦相手の頼りなさそうな子相手に、激を飛ばし、真っ向からねじ伏せていた。
あのカッコイイ眼差しで、トニー相手でも騎士相手でも関係なく真っ向勝負をする彼に、気が付いたら心を奪われていた。
あの強く気高い人に添い遂げたいと、産まれて初めて思っていた。
後はもう、行動するだけだ。
彼の側に行き、自分という人間を知ってもらうためのアプローチをするのだ。
そんなこんなで再会したものの、彼の周りには可愛い子が沢山いた。
しかし誰ともお付き合いをしているわけではなさそうだ。
こんなに素晴らしい人なのに、と思いつつ嬉しくなっている自分がいた。
シャルロットは間違いなくユウリに好意を抱いている。
そして昨日の反応を見る限りイオもだ。
それならば何故行動に起こさないのか、行動派の自分には疑問でしかない。
キス程度で怒るくらいなら、最初から当たっておけばいいのに。
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第二ラウンドは酷い有様だった。
最初にアリスの魔力が切れてダウン。
まあこれは俺との戦闘でかなり消耗していたのだから仕方ない。
その後はトニーの防御力に攻め続けて、イオが魔力切れ。
そしてシャルロットとトニーの一騎打ちになったが、パワーでトニーに勝てるわけもなく、シャルロットが壁に打ち付けられ終了となった。
女子生徒相手に本気を出したということでアリスがトニーを説教し、そのままシャルロットはトニーに担がれている。
イオはショウヤがおぶり、アリスは俺にしがみついて離れない。
結局なんのための第二ラウンドだったのかと思いはあるが、まあそれぞれ思うところがあったのだろう。
マジックギルドのメンバーが来てからまだ二日目だというのに、随分と充実した時間を送れている気がする。
明日・・・はたぶん腕が動かないから、明後日あたり簡単な依頼でも受けてみるか。
背中に当たるアリスの感触に恥ずかしくなりながら、俺たちは寮に戻ったのだった。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




