二十二ノ舞「マジックギルドとの交流」
新人戦終了から2日後。
新人戦優勝を果たしたのだから、少しは周りの評価も変わっているだろうと思っていたのだがそんなことはなく、以前と大して変わらず疎まれているような目を向けられていた。
理由は今朝の全校朝礼時の姉さんの言葉だろうけど。
この大陸では冒険者の絶対数はあまり多くはない。
大きな都市で騎士団などに属した方が、危険も少なく安定した生活を送れるからだ。
それでも一攫千金を目指し、冒険者になる人は一定数は居る。
その冒険者が依頼を受けるのだが、問題はその依頼の量と冒険者の比率が合っていないことだ。
冒険者ギルドは熟考の末、各学園に手の回らない依頼を手伝ってもらうことにした。
これが意外にも好評で、学園側には学生の小遣い稼ぎや腕試しに使われたり、依頼側には格安で依頼を出来ると互いにウィンウィンな関係となっている。
かといって同じ学園が依頼を失敗し続けると信頼も落ちるので、学園側はそれ相応の生徒にしか依頼は回さない。
それで今回新人戦優勝という結果をおさめた俺たち5人は、より上位の難易度の高い依頼を受けれるようになった。
ということを姉さんが今朝全校生徒の前でわざわざ説明したのだ。
おそらくその辺の嫉妬の感情も混ざった疎ましさの目だろう。
そんな依頼だの目だのはどうでもいい。
眠いから早く授業始まってほしいものだ。
授業を終えて、いつも通りサクと鍛錬をしようとしていたのだが、変化があった。
アカネがそこに加わった。
俺からすれば学園入学前に戻ったような感覚なので、特に断る理由もない。
サクも快諾してくれた。
新人戦初戦での敗北に、何か突き動かされるものがあったのかもしれない。
などと思っていたのだが。
「え、だってユウくん、捌式以降も完成させないとだって顔してたから。
それならいつも通りわたしが相手しないとなって思って。」
さすが幼なじみというか、なんというか。
伊達に3歳から同じ師を持ち、ずっと一緒に鍛錬をしてきていないな。
もう13年経つのか。
家族よりもアカネの方が一緒に居る時間も、共に剣を振るう時間も長くなってしまった。
それだけに、些細な表情の変化一つで考えていることも分かってしまうのだろう。
俺もそうだしな。
「お二人は本当に夫婦みたいで、見てて微笑ましいですね。」
サクが笑顔で言うと、アカネが顔を真っ赤にしていた。
アカネの気持ちは知っているものの、俺は家族としてしか見れないのだ。
ショウヤとイオのような感じだ。
過去への感謝と、絶対の信頼をしていても、そこに恋愛感情はない。
その事はアカネもよく知っている。
知っていてもなお、こちらが申し訳なくなる程に慕ってくれているのだ。
ということで申し訳なくなってきたので、この話は終わり。
「団体戦までに拾式まで完成させたいんだよな。」
その言葉にアカネがふふ、と笑った。
以前までの俺なら、そんなことは思いもしなかっただろう。
この学園に入学して素晴らしい仲間と出会えたことで、考えが変わり始めている。
自分が世界一の剣士になりたいと思うと同時に、仲間たちの素晴らしさ、強さを世界中に知ってほしいと思うようになった。
今までは自分が強くなれればそれで良いと思っていたからな。
アカネが笑うのも理解はできる。
団体戦は9月の半ばから開催される。
猶予は4ヶ月半。
その間に6月は1ヶ月個人戦に時間を取られると考えると、実際はもっと少ない。
最低限個人戦までに捌式、可能であれば玖式を完成させておきたいところだ。
そのためにはアカネの助力は必須なので、本当にありがたい。
もちろん、俺の速度に慣れておくことでアカネの防御力にも磨きがかかるので、ウィンウィンというやつだ。
超攻撃型付与術剣士なだけでは、本当の強者に勝てないのはアカネもよく知っている。
だからこその今回の申し出だろう。
アカネと俺は互いに何も言わずに、ドカッと地面に腰掛けた。
サクが「あれ、剣の鍛錬なのでは?」という顔をしているが、アカネと俺は技を開発する際、まずは頭の中にあるイメージを言語化するところから始めるのだ。
それが出来なくては、自分が出来たと思っていても相手からすれば出来たかどうかの判断がつかないからな。
ポンポンと自分の傍の地面を叩きサクも座るように促し、着席したのを確認したところでアカネが声をあげた。
「じゃあ早速始めようか!捌式のイメージは出来てるの?」
「準決勝の時に思ったんだが速度最大強化を使えない時でも、漆式と同じくらいの必殺技がほしいんだよな。」
「そんなの出来たら今までの苦労はなんだったのって感じだね。また差が開いちゃうし。」
「差はともかく、漆式の時は腕からありったけのカミナリをぶつけるイメージだったろ?
それで通常の速度強化じゃ電力が足りないから、最大強化をしている時じゃないと使えない技になっちまった。
だから今回は電気はむしろ足に集めて、移動速度を上げてみようと思う。」
「高天原みたいな感じってこと?」
「イメージ的には単体の技で、多方向からの同時斬撃って感じかな。」
「なるほど・・・それじゃ、とりあえずやってみようか!」
アカネは言うなり立ち上がり、3メートル程離れたところで剣を構えた。
「全身付与─防御力上昇」
「速度強化」
こちらも立ち上がり、準備完了。
漆式の時は腕に集めていた電力を、今回は全て足に集中。
「行くぞ、アカネ。」
頷いたのを確認し、『神威』を発動。
一歩でアカネの後方へ抜け、着地時に別方向へ向かいもう一度。
この動き自体は『高天原』でやっているので慣れているものの、同時の斬撃となるとまた話は別だ。
数字の4を下から書くように3回攻撃をした。
キキキンッと音が出たということは速さは申し分ないはずだが、その全てをあっさり捌かれてしまった。
初見で完璧に捌くとは、さすがアカネだ。
「動くことに意識が行き過ぎてて剣が軽い。
足と比べて腕が遅いから見切りやすい。
抜けた方向が分かれば次の攻撃が来る角度は限られるから守りやすい。
こんなところかな?」
アカネは今の一瞬でこれだけの悪い部分を見つけたらしい。
全て的を得ているから、何も言い返せないんだよなこれ。
サクは半分くらいしか見えていなかったようで、アカネの動体視力と防御力の高さに目を丸くしていた。
再び地面に座り、頭を悩ませた。
アカネと討論を繰り返したものの結論が出なかったので、今日はお開きとなった。
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寮へ戻る帰り道、木陰に座り木に寄りかかって寝ているシャルロットを見つけた。
昨夜も朝まで俺のトレーニングに付き合い、俺と違って授業をまともに受けていたのだから眠くなるのは分かる。
しかし目の鼻の先に寮があるのに、外で寝るとは。
暖かくて眠くなるのは分からなくはないが、このまま夜になるとまだ冷える時期だ。
風邪を引かないように起こしてやるか。
そう思い近づくと、風が吹いてシャルロットの足元に置かれていたノートが、パラパラとめくれた。
ふと目をやると、炎を纏った可愛らしい虎の絵が書かれていた。
ガオーと書かれているが、それはライオンじゃなかろうか。
いや、虎もガオーなのか?
普段はツンツンしているものの、こういうところは本当に女の子らしいんだよな。
元々イオとは違ったベクトルだが可愛い顔をしているだけあり、寝顔も相応の可愛さだ。
クノッサスで何度か見る機会があったが、ここまで近づいたことはなかったな。
あまり見るのも失礼かと思い、ノートに視線を戻した。
おそらく新しい魔法のイメージをまとめたノートだろう。
不死鳥、炎竜の次は虎か。
そのうち亀も出てくるかもしれないな。
これ以上見ては闘う楽しみが減ってしまうので、そっと閉じておこう。
当初の予定通り「風邪ひくぞー」と言いながら頬っぺたをツンツンとつつき起こすと、みるみるうちに顔が真っ赤になった。
最近シャルロットの真っ赤な顔をよく見るな。
無言でノートを拾い、そのままノートの角で頭を叩かれ、寮へと走って行ってしまった。
角は痛いって・・・
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「卒業後ですか?
クノッサスに行った時に、神殿や図書館に勤めるのも悪くないかなって思いました。」
部屋に戻るとイオが居たので卒業後はどうするのかと聞いてみると、意外な返事が返ってきた。
てっきり王族の何やらがあるのかと思ってた。
だが以前に聞いたイオの扱いを考えるに、王族として王宮に居続けるのは嫌なのかもしれない。
それにイオならそのどちらに居ても違和感はないだろう。
むしろ王宮に居るよりも容易にイメージできる分、そちらの方が良さそうだ。
「あと、お恥ずかしいのですが・・・普通に恋をして、お嫁さんに迎えられることも夢、ですかね。」
顔を赤くして俯き、言葉の通り恥ずかしそうに言うイオの姿にドキッとしつつ水浴びをするために脱衣所へ向かった。
恋、か。
今まで振れなかった時期はあれど、10年は剣に費やしてきた人生だ。
無論、恋愛などしたこともない。
そんな俺には縁遠い言葉だと思うが、アカネは慕ってくれているし、サクも好感度はかなり高い方だろう。
そして最近はシャルロットとも今までよりも仲良くやれているし、イオも毎日朝晩とご飯を作ってくれて一緒に食べる仲だ。
この中の誰かと、そういう関係になる未来があるのだろうか。
あったとして、その人を幸せに出来るだけの力は俺にあるのだろうか。
なんか考えれば考えるほど哲学みたいになっていくな。
俺は考えるよりも行動する方がしょうに合っている気がする。
その時が来た際に、お金を稼いでおくのが良さそうだ。
姉さんが言っていた依頼とやらを受けてみるか。
とりあえず明日にでも、詳細を聞いてみよう。
翌日、選抜メンバーは学園長室へ招集がかけられた。
こちらから向かおうとしていたのでちょうどいい。
学園長室に入り全員が着席すると、姉さんが話し始めた。
「ユウは既に知ってると思うが明日からマジックギルドの選抜メンバーが、アビスリンドに来ることになっている。
くれぐれも粗相のないようにな。」
トニーだけかと思っていたのだが、選抜メンバーがまるまる来るのか。
魔法に関しては疎いので、正直俺が得られるものは少なそうだし、トニーに捌式の実験を見られるわけにはいかないしで、行動に縛りがつきそうだ。
「学園交流として来ることを忘れるなよ。
特にユウ、フレデリックとばかり稽古したりしないように。」
さすが姉さん、俺の思考を読む天才だ。
そんなに単純なのか、俺って。
「了解。こっちからも一つ良いか?」
姉さんが頷いたので、昨日から聞こうと思っていたことを聞こう。
「マジックギルドのメンバーと、簡単な依頼を受けたりしてもいいのか?」
「危険がないものに限るが、受けても構わない。
怪我をさせたりするわけにはいかないが、あくまでこの学園での生活をしてもらうための交流だからな。」
なるほどね。
討伐系の依頼ではなく、例えばペット探し等の雑用や、薬草採取くらいなら問題は無いということか。
それはそれで普段自分たちじゃ選びそうもないから、こういう機会にやってみるのも良いかもしれないな。
なんというか魔術師って薬草とか詳しそうなイメージだし。
「とまあ伝達は以上だ。
何もなければこのまま解散だが、何か質問はあるか?」
誰も特に何も言わず、そのままお開きとなった。
思っていたよりも早く終わってしまった。
何をするでもなく校舎を歩いていると、後ろからシャルロットに声をかけられた。
「ねぇユウ。もし依頼を受けるのなら、アタシも一緒に行っても・・・いいかしら?」
顔を赤くしてモジモジしながら上目遣いとか、いつからそんな可愛いことできるようになったんだコイツは。
それは置いといて、こちらから誘おうと思っていたくらいなので断る理由もない。
二つ返事で了承すると、満面の笑みで小さい声で「やった!」と喜んでいた。
うちの首席がこんなに可愛いわけがない。
普段はもっとツンツンしていて、上から物を言うけど優しい奴だったはずだ。
最近寝不足で俺もシャルロットも疲れが溜まっているのかもしれないな。
休むこともまた鍛錬。
今日はこの後剣を振らないことにしよう。
シャルロットに今日の深夜トレーニングはなしと伝え、寮へと向かった。
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久しぶりにぐっすりと眠り、スッキリした気分だ。
いつも通りイオが作ってくれた朝食を食べ、学園へと向かった。
正門前に近づくと、大きな馬車が二台と人だかりが出来ていた。
イオと何かあったのだろうかと近づくと、人だかりの中心から聞き覚えのある喋り方が聞こえてきた。
「オメらユウリのことさ、なんもわかっちゃいねぇ!
アイツのこと侮辱する奴、オラが許さねぇ!!」
あーこれはアカンやつや。
イオに「先に行く」と一言伝え一歩で人だかりに割って入ると、トニーが血相をかえて怒鳴っているのを、アリスと水色の髪の男が二人がかりで止めようとしていた。
「俺のために怒ってくれるのは凄い嬉しいけど、喧嘩しに来たわけじゃないんだから落ち着けって。」
後ろから声をかけると、アリスがホッとした顔を向けてきた。
トニーの獣耳がピーンと立ち、バツの悪そうな顔でこちらを振り向いた。
野次馬たちに手の甲を向けて振りどっか行けとアピールすると、徐々に散り散りになっていった。
「それで、何がどうなったらこうなるの?」
トニーを正座させ、シャルロットの如き仁王立ちで目の前に立つ。
トニーは俯きながらポツポツと答えた。
「オラ、今回の交流、本当に楽しみでよ。
早くユウリに会いたかったんだ。
そんで、夜も休まず馬車さ飛ばして到着した。」
ああ、アリス達の目の下にクマがあるのはそういう理由ね。
・・・ん?夜も休まずに馬車って動けるのか?
「ユウリはどこさいんだ?
って聞いたら、ユウリのこと落ちこぼれとか、剣しか才能ないとか言った。
んな事ねぇって言ったら笑われて、オラ頭にきたでよ。それでつい・・・」
まあ毎度の事ながら、間違ったこと言ってないんだよなあ。
勉強はしようとも思わないし、魔法の才能もあるわけじゃないしな。
「さっきも言ったけど、俺のことで怒ってくれてありがとうな。
それでもこの学園では魔法も勉強も剣もできるエリート様が多いみたいでよ。
剣しか出来ない俺の評価はそんなに高くないんだ。
そこだけは誰にも譲るつもりはねぇけどな。」
トニーは驚いた表情の後、落ち込んだ表情になり「そうなのか」と零した。
意外だったのは、アリスがそこに続いてきたことだ。
「ちょっと待って。
貴方、魔法が出来ないなんてことはないはずよ。
あの出鱈目な縮地法に、速度強化の魔力を組み合わせるなんて芸当、私でも出来ないわ。」
えーっと・・・ちょっと何言ってるか分からないです。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




