間話「卒業後は」
新人戦の全日程を終え、宿に帰還した俺たちを待っていたのは、普段の食事処とは似ても似つかぬ豪華なパーティ会場だった。
お世辞にも綺麗な字とは言えない文字で「優勝おめでとう」と書かれた大きな幕に目を奪われたのもつかの間、大量のクラッカーのパァンという音と共に「おめでとう!」と大勢で出迎えてくれたのだ。
宿の従業員はもちろん、普段から利用している客、試合を観て応援してくれた観客総出だ。
この会を企画したであろう、クノッサス王国騎士団2番隊隊長様が中央で大きな拍手をしていた。
姉さんの周りには、お祭り騒ぎが好きな人が集まるのだろうか。
アカネの誕生日に続けて二日連続で駆け付けてくれているので、王国騎士団隊長は意外と暇なのかと勘違いしてしまいそうだ。
後々になって聞いてみると、今日はたまたま非番だったらしい。
そんなルーナ隊長だが、姉さんの学友というだけでわざわざ二日続けて来たわけでもなく。
今日の闘いぶりを観て、ますます熱心にアカネを勧誘したくなったのだそうだ。
良かったなアカネ。卒業後に路頭に迷うことはなさそうだな。
この大陸では別段珍しいことではなく、早い者では学園入学が決まった瞬間から卒業後の進路が決まっている者も居るのだそうで。
俺個人的には決められたレールの上を走るのは好きじゃないから、誘われてもお断りするのだろうけど。
アカネは満更でもなさそうだけど「候補の一つにさせてください。」と答えていた。
その直後にシャルロットのことも勧誘していた。
「狐百合の騎士」なんて二つ名はどうか、と提案していたくらいだ。
シャルロットは「考えておくわ」と苦笑いをしていた。
全員が闘った決勝戦の後に加え二日続けてのどんちゃん騒ぎに、イオとショウヤに多少疲れの色が出てきていた。
アカネと俺はケロッとしており、シャルロットも体力はない方だが比較的元気だ。
王宮ではこんな日常はなさそうだから、余計な気でも使って疲れたのかもしれない。
姉さんも、「疲れたら部屋に戻って休んでていいぞ」と労わっていた。
しばらくして、二人とも部屋に戻って行った。
お祭り騒ぎは夜まで続いた。
ルーナ隊長も酔っ払って姉さんに「弟を婿にくれ」と言い出し、姉さんは「お前にやるくらいなら私が貰う」などと供述しており、早いこと寝床にぶち込んだ方が良さそうだ、との見解で一致した。
アカネはルーナ隊長を、俺は姉さんを連れて部屋に放り込み食事処に戻ると、シャルロットと宿の看板娘が何やら話していた。
シャルロットの顔が真っ赤になっているので、女子トークでもしてたのだろう。
そういえば、みんな卒業後はどうするのだろう。
アカネは意外とルーナ隊長のところに行く可能性が高い。
あくまで幼なじみの勘だが。
ショウヤとイオは王族としての任があるだろうから、そちらに着手するだろう。
サクは授業を休んで着いて来たあたり、俺に付き従うんだろうな。
卒業する必要すらないのだから、授業に出なくても良いのだが・・・今度その辺は話しておくとしよう。
そして一番分からないのはシャルロットだ。
話を聞いた感じでは、特に将来的にやりたいことやなりたい職業があるわけではない。
俺のように何かの一番になりたいというわけでもなさそうだ。
周りに仲間が少なくなったこのタイミングなら、そういう話を聞いてみてもいいかもしれないな。
-----シャルロット視点
アカネとユウが酔い潰れた二人を部屋に連れて行ったのを見送ると、食事処の看板娘の子が話しかけてきた。
「あのユウリって人の闘い、カッコよかったなあ。」
それはとても分かる。
普段眠そうにしているから真剣な目はたまにしか見られないけど、たまに見れるそれにドキッとしてしまうのだ。
「私も声かけてみようかな?」
思わずガタッと音を立てて立ち上がってしまった。
それを見たその子はくすくすと笑いながら「冗談よ」と言ってきた。
「その反応、やっぱりユウリさんのこと好きなのね?」
やっぱりって思われてるの?!
確かに気になっているのは事実だけど、好きかどうかなんて分からない・・・ってなんでこんなこと考えてるんだろう。
「ふふ、その感じだと自覚なしね。
ここに来た当初はそうでもなかったけど、一昨日あたりから彼を見る視線が恋する乙女そのものよ?」
一昨日と言われると準決勝の後だから、あの時のベストオブマッチにもなったユウの闘いを見た後ということだ。
なんてこった・・・
まさかアタシが誰かを好きになる日がくるなんて思ってもなかった。
心臓の早い鼓動がとても大きく聞こえる。
「一つ、いい事を教えてあげる。ユウリさんには口止めされてるんだけどね。」
ウィンクをしながら前フリをするその女性は、女のアタシから見ても魅力的だった。
「ユウリさん、毎晩遅くに外に出掛けているの。
昨日の夜、あまりに毎晩行くものだから理由を聞いてみたのよ。
そうしたら、なんて言ったと思う?」
一緒の部屋に泊まっているのに、全然知らなかった。
アタシが答えられずに居ると、またもや「ふふ」と笑い続きを教えてくれた。
「自分の前に闘う剣士は、どんな不利な状況だとしても絶対に自分に繋いでくれると信じているから、その剣士に恥じない闘いをするために鍛えておかないと申し訳がないし、そんな凄い仲間と対等で居るためには努力しないといけませんから。だって。」
言葉を失った。
対等で居るために、とはこちらの台詞だ。
アタシがアイツと対等で居たいから、アカネと特訓して『咲き誇る狐百合』を習得したのだ。
実力も、実戦経験も劣るアタシを、まるで格上のように言う台詞は違和感しかない。
それでも、そんなふうに思ってくれているのかと思うと、嬉しすぎて今にも踊り出しそうなくらいだ。
もう誤魔化すのはやめて、認めよう。
アタシは、ユウが好きだ。大好きだ。
実力を持っていても驕らないところ、仲間を本当に大切に想っているところ、普段眠そうなのは実は誰にも知られずに影で努力をしているから。
言い出したらキリがないけど、全てを引っ括めて好きになってしまったのだ。
そんなアイツと、いつまでも一緒に居たいと思うほどに。
「シャルルは卒業後はどうするんだ?」
「ふぇえ?!」
急にユウに話しかけられ、変な声を出してしまった。
変に思われていないか不安だったけど、「ぷっ」と吹き出す顔を見て安心した。
好きだと意識しまったからか、まともに顔が見れない!恥ずかしすぎる!
そんなアタシを見てユウは「大丈夫か?」と心配そうな声を出してくれる。
全然だいじょばない!けど答えないと!
「そ、卒業後ね。特にまだ決めてないけど、自分がやりたいようにやると思うわ。」
これは嘘ではない。
さっきは変な二つ名と思ったけど、「狐百合の騎士」か。
狐百合のように燃える情熱で、当たってみるのも良いかもしれないわね。
この剣士と共にいつまでも、隣で肩を並べていたい。
たぶんそれが、アタシのやりたいことだ。
-----ユウリ視点
思っていたよりもシャルロットは将来のことを決めていないようだ。
俺も決めているわけではないが。
旅に出るのも楽しそうだし、冒険者という道もある。
選択肢は無限にある。
シャルロットもそうだが、俺もこれからゆっくり決めていけばいいだろう。
夜も更け皆が寝静まった頃、ここ最近の日課になっている深夜トレーニングをするため外に出た。
扉を出ると数歩前で、月明かりに青白く輝く蝶が、赤い髪にとまっていた。
扉が開いた音にシャルロットはこちらを振り向いた。
「やっと来たわね。アタシも特訓に付き合うわ。」
まるで俺が来ることを知っていたかのような言葉だ。
この剣士との差を埋めたいから努力をしているのだけどな、と思いながらもどこか嬉しくなっていた。
卒業後はシャルロットと共に旅に出るのも悪くないかもしれない。
そんな事を思いながら剣を腰に下げ、二人で夜道を走り始めるのだった。
次回から第3章予定です。
楽しんで頂けたら幸いです。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




