二十一ノ舞「閉幕」
ウッディと呼ばれた少年は、大きな三叉槍を構えていた。
騎士というから全員剣士だと思っていたが、そうでもないらしい。
今まで槍使いとの対戦経験はなく、間合いを見切るのに時間がかかるかもしれないな。
「速度強化」
最初から最大強化をしてもよかったのだが、相手の間合いが測れるまでは様子を見たい。
ウッディは特に強化魔法を使うわけでもなく、こちらの出方を伺っているといった様子だ。
ならば先手は打たせてもらおう。
剣の舞ではなく、アマハラ流で。
「アマハラ流改─七星宝刀」
大層な名前をしているが、ようは高速の7連撃だ。
速度強化をしている俺が使用すると、高速という言葉では間に合わなくなってしまうが故に改。
カウンター技の多いアマハラ流の中でも珍しい、自ら斬り込む技である。
「ひいい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
技を仕掛けた瞬間、ウッディが情けない言葉をあげた。
しかしその言葉とは裏腹に、俺の神速の7連撃を全て捌いた。
それも、完璧にだ。
こんなことはジジイでも、アカネでも不可能だ。
俺の反射速度は、0.07秒。
ジジイクラスの剣の達人が2つの行動をする間に、俺は3つ目の行動を終える寸前といったレベルだ。
奴はそれを全て捌いた。
つまりウッディは俺と同等か、それ以上の反射速度を持っていることになる。
そんな相手は今まで姉さんしか知らなかった。
思わぬ隠し球がいたものだ。
驚きを隠せないものの、対戦相手に興味が沸いた。
「ユウリ・アマハラ。君の名前は?」
「ウ、ウッディ・アレンシュタイン・・・です。」
「アレンシュタインか。君は何故騎士に?」
「臆病な性格をなおしたくて・・・皆に尊敬されるような人になりたいから・・・」
理由は人それぞれだが、とても好感がもてるな。
尊敬されるような人になるには、まずは一歩踏み出さなければならない。
それがなかなか難しいものだが、アレンシュタインは既にそれを終えているのだ。
「なりたいからやってみよう、と踏み出した時点で君は臆病ではないと思うよ。
その最初の一歩は、頭では分かっていても本当に難しいんだ。」
その言葉はウッディに向けてのものか、過去の自分に向けてのものか。
アカネが居なければこの場に居ない自分にとって、自分から選んで踏み出したウッディが眩しく見えた。
これは偽善かもしれない。ただの自己満足かもしれない。
それでもこの才能ある騎士が塞ぎ込み、埋もれてしまってほしくないのは事実だ。
願わくば、共に研鑽して高めあっていきたい。
「全力でかかってこい!俺の最強を以て、それを打ち破る!」
思わず叫んでいた。
我ながら本当にお節介な奴だと思うし、過去の自分が聞いたら無責任に何言ってるんだコイツと思うだろう。
それでもウッディには何か響くものがあったようで、目を見開き「はい!」と元気よく返事を返してきた。
ならばこちらも、全力で。
「速度最大強化!」
「穿て、破壊と創造の三叉槍!」
今までなりを潜めていた三叉槍から、まるでアカネの『世界随一の銘刀』と同等か、それ以上の危険さを感じる。
まるで白く力強いオーラが槍全体を覆うような感じだ。
真名解放なのか、付与術なのかまでは分からないが、これだけは分かる。
アレをまともにくらったら間違いなく、一撃で負ける─
「御霊に授かりし知恵は、世の平和のために。
我が行動は、弱きを助け。
その意志、この槍に誓い貫き通す。
クゥド・シャクティ、破壊と創造の三叉槍。」
ウッディは長い詠唱ののち、一瞬でユウリの目の前に居た。
この槍を解放したが最後、今に至るまでただ一度の敗北もない。
一撃必殺。
ただの一撃で、もれなく全ての敵を倒してきたのだ。
今回もいつもと同じように槍を突き出した。
しかし今回の敵は、目の前から消えた。
突き出した槍が穿ったのは、相手が纏っていた雷だった。
ゼロコンマ数秒、もしくはもう一つゼロがつくかもしれない、ギリギリの攻防。
その刹那の回避に、ウッディは驚きのあまり動きを止めてしまった。
対戦相手は、その隙を見逃さなかった。
「剣の舞 伍式 破剣─星崩し」
ガキンと大きな音と共に、槍の先端が地面に叩きつけられた。
「壱式 居合─柳閃」
槍を持ち上げようとした時には、目に見えない居合斬りが腕を大きく弾いていた。
「漆式 紫電─星界の魔鎚」
ヤバいと思った時には意識を持っていかれていた。
反応は出来たが間に合わなかった。
雷に打たれたかのような衝撃を受け、ウッディはドサリと倒れた。
「ウッディ・アレンシュタイン、戦闘続行不可能!
勝者アビスリンド、ユウリ・アマハラ!
よって3勝2敗で、アビスリンドの勝利!!」
「一週間に渡り行われた新人戦、完全決着ー!!
名門校を次々と撃破し、栄えある優勝を手にしたのは、アビスリンド学園ー!!」
超満員の大闘技場が大歓声に揺れた。
ふう、と息をつき木刀を腰にかけると、アカネが飛び込んできた。
「やったね、ユウくん!でも大丈夫?」
試合前のアップをしている時、この試合では最大強化をするかもしれないと事前にアカネに伝えておいた。
今回は短時間で済んだから、そこまで大事にはならないだろう。
明日両腕が筋肉痛になるくらいだ。
それでもやはり心配だったのか、アカネは不安そうな顔をしていた。
そんなアカネとは裏腹に、シャルロットは満面の笑みでハイタッチをしてきた。
「さっすがユウね!」
シャルロットがきっちり繋いでくれたから、それに応えたかったしな。
イオとショウヤも笑顔で壇上へ集まった。
誰が言うでもなく全員が拳を突き出し、ゴツンと乾いた音が、大闘技場の大歓声に掻き消された。
それでもその音は、ずっと忘れられない音となりそうだ。
「それではただ今より、閉会式及び各賞の発表に移りたいと思います!
出場校選手は、大闘技場にお揃いください。」
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しばらくして、出場選手全員が大闘技場に集まった。
決勝で審判を務めたアーデルハイドが、そのまま授与式を行うらしい。
国王様でも出てくるのかと思ったが、そんなことはなかった。
まあ新人戦だし妥当なところだろうと考えながら欠伸をしていると、壇上からアーデルハイドがマイクに向けて話し始めた。
「まずは、ベスト・オブ・マッチから発表する。」
そう言われた瞬間、少し離れたところにいたトニーと目が合い、互いにニヤリと笑い、飛び出した。
アーデルハイドが次の言葉を発する前に、既に壇上に二人とも姿を現していた。
「今年の・・・いや、お前らで間違いないのだがな。
まだ呼んでもいないうちから来るんじゃない、バカ共。」
アーデルハイドが頭を抱えながら小言を言う姿に、大闘技場に笑いが起きた。
はあ、とため息をつきながらもアーデルハイドの顔も笑っていた。
「今年のベスト・オブ・マッチは、準決勝第一試合次鋒戦、トニー・フレデリック対ユウリ・アマハラ。
互いに全てを出し切る、素晴らしい試合だった。」
その言葉と共に、四角い入れ物に入れられた、金色に光る親指程度の大きさのメダルを渡された。
メダルに書かれた剣の下に、小さくベスト・オブ・マッチと刻まれていた。
トニーに腕を捕まれ、空に向けて腕を挙げられた。
その光景に大きな拍手と歓声が響き、思わず誇らしくなってしまった。
アーデルハイドに一礼し、壇上を後にした。
「続いて最優秀選手だ。」
列に戻ると、シャルロットがニヤニヤしながら小声で話しかけてきた。
「戻ってきて、すぐにまた壇上ね。」
何言ってるんだコイツは。
最優秀選手と言っているのだから、間違いなく俺ではない。
というか、とっとと行け。
「アビスリンド学園、シャルロット・マリア・ヴァルローレン。壇上へ。」
「うぇえ?!」
どんな声出してんだ。
優勝チームの副将で、唯一の3戦3勝。選ばれて当然だ。
オロオロキョロキョロしているシャルロットの背中を軽く押し、笑顔で「はよ行けや」と声をかけると、アリスとアンジェリーナが同時に吹き出していた。
シャルロットと直接闘ったアンジェリーナ、マジックギルドのエースとしてその闘いを見ていたアリス。
彼女らも含め、おそらく本人以外は全員シャルロットで当確と思っていただろう。
本人は呼ばれると思っていなかったようで、緊張のせいか壇上へ向かう際、両手足が同時に動いていた。
その動きにクスクスと笑いが起きていた。
いつも堂々としているから、こんなシャルロットは新鮮だ。
先程俺たちが受け取ったものよりも大きな枠に、銀色の盾が入れられていた。
あとでちゃんと見せてもらおう。
続いて成績上位の表彰に入り、ベスト4の両校、準優勝のウエストブルムがそれぞれ表彰された。
「優勝、アビスリンド学園!選手は壇上へ。」
5人が揃って壇上へ向い、代表してショウヤが優勝旗を受け取った。
歴代の優勝校が書かれている短冊の一番上に、アビスリンド学園と書かれた真新しいものを見つけ、またも誇らしい気持ちになった。
この5人で、勝ったのだ。
遅ればせながら実感がわき、思わずにやけてしまった。
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「ユウリさん!」
閉会式も終わり、祝勝会と帰り支度のため大闘技場を後にしようとしていたところでウッディに呼び止められた。
続けてイオにはアリスが、シャルロットにはアンジェリーナがそれぞれ挨拶に来ていた。
戦友が出来た面々は、楽しそうに話している。
「ユウリさんのおかげで、負けはしましたけど一歩踏み出す勇気が出た気がします。」
ウッディは清々しい笑顔をしていた。
俺はお節介を焼いただけだというのに。
「次は負けないように、騎士としての日々の鍛錬を励みます!
一人の騎士として、いつか貴方の前に立ちはだかれるように。」
騎士に立ちはだかられる時は悪いことをしている時なイメージだから、その言葉は如何なものかと思いはしたが。
言わんとしていることは何となくだが分かったので、「楽しみにしているよ」と答えておいた。
握手をしてウッディと別れの挨拶を交わしていると、猛スピードで突っ込んでくる獣人の姿が見えた。
思わず木刀に手をかけてしまったが、トニーは目の前でピタリと止まった。
ウッディは「ひいぃ!」と悲鳴をあげていたが。
この騎士が一人前になるのは、まだ先になりそうだ。
「ユウリ!挨拶せんで帰るとは酷いな。」
するつもりだったんだけどな。
俺のこれからの学園人生で、間違いなく一番の好敵手となるであろう相手だ。
剣だけでなく、言葉もたくさん交わしたいものだ。
「5月の連休、アビスリンドに交流しに行って良いことになったでよ。
その時にまた色々話すべ。」
そんな制度があるのか。
俺も夏あたりに何処か行けないか、姉さんに相談してみよう。
「これはオラの町に伝わる伝統だで。右腕出してけれ。」
言われるがままに右腕を出すと、ガシッとトニーの右腕が組まれた。
なんでも、互いの実力を認め合った友とはこうして腕を交わすのだそうだ。
握手よりも固い絆で、ということらしい。
トニーは「また5月な!」と言いながら満足そうな顔をして去っていった。
そのやりとりを見ていたウッディも「それでは僕もこれで」とお辞儀をして去っていった。
大切な仲間たちと、良き好敵手たち。
この出会いはここに居なければ出来なかった。
学園に入れて本当に良かった。
俺はここに居るぞと、アスファルトを踏みしめながら。
そんな俺は世界一の剣士にまた一歩、近づけただろうか。
そんなことを思いながら、大切な仲間たちが待つ方へと歩みを進めた。
第二章新人戦編~完~
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




