十九ノ舞「決勝戦開幕」
「『高速剣─レベル3』!」
開始早々、アライブが勢いよく飛び出した。
あっという間にアカネを間合いに捉え、常人ではなかなか見切るのが難しそうな速さで連撃を仕掛けた。
しかしアカネはその全てを無駄のない動きで捌く。
ダンッとバックステップで距離を取ったアライブが驚きの声を漏らした。
「全てを捌くとは、やるな!
『高速剣─レベル5』」
先程よりも速い連撃がアカネを襲った。
それでも全ての斬撃を一歩も動かずに捌くアカネ。
本当にアカネの動体視力には恐れ入る。
俺の壱式を持ってしても、「反応できるかどうかはおいといて、抜刀から納刀まで全部見える」と言うのだ。
アカネにも見えない斬撃は、俺の知る限りでは一つだけだ。
それにレベル5と言う割には遅すぎる。
せめてコインで砲撃を飛ばせたり、触れただけでゲームオーバー程度の性能でないと。
それは冗談として、あの程度の速さならレベルが倍になったところでアカネは反応するだろう。
俺の剣の舞の相手を約3年間、毎日していた。
既に壱式と漆式以外全部止められた程には、アカネの防御力は鉄壁だ。
普通の剣士相手に、アカネが平面勝負で負けるわけが無い。
「『高速剣─レベル10』!!」
お、思ってたよりも速いな。
アカネもついていっているものの、一歩、二歩と下がりはじめていた。
それでも、表情は笑顔のままだ。
「これが最速かな?そろそろこっちも返すよ!!」
アカネはまだ余裕という表情で、相手の高速剣を自身の右から左へ受け流した。
初戦でも見せた、アカネのもっとも得意とするカウンターだ。
「『五月雨』」
完璧に捉えたものの、全身甲冑に阻まれてダメージは全くない。
当然ダウンには至らず、ガキンという大きな音が響くだけだった。
あの甲冑、カッコイイけど厄介だな。
「開始早々からアビスリンドのアカネ選手、見事な剣捌きですね!
ダメージはなかったものの全ての斬撃に対応し、カウンターで最初の一撃を通しました!」
「鉄壁のルーナが欲しがりそうな人材だな。」
あ、うん、昨日めっちゃスカウトされてました。
しかしあの甲冑がある以上、斬撃が効きづらい。
破壊する程の攻撃力がある技をぶつけるしかなさそうだ。
さて、アカネはどう攻略するかな。
アカネも今の攻防でそれを察したのか、少し考えるような仕草を見せた。
勉強はからっきしなアカネだが、剣と魔法のことに関しては頭が回るのだ。
なぜそれが勉強に生かせないのか。
と思っていると、アカネが何か思いついたようか顔をした。
頭から電球が出るような顔だ。
右手で剣を地面と水平に持ち、左手をかざす。
まるでシャルロットの炎属性魔法剣を使うかのように。
「炎属性魔法 包み込む炎!」
「ちょっ?!」
シャルロットが思わず声をあげていた。
それはまさしくサラマンドラだった。
あんなに簡単にできるものなのかとか、シャルロットが魔法を教えたのかとか、色々聞きたいことはあるが。
「アタシがあれを習得するのにどれだけ・・・」
教えてもないし、簡単でもないらしい。
アカネは文字通り、シャルロットの魔法を見ただけで理解し、使用したのだ。
そんな器用なこと、いつの間に出来るようになってたんだ。
アカネも知らない間に、成長しているのだ。
・・・おや?アカネのようすが。
左手を剣から離してブンブンと振り、手を持ち替えて今度は右手をブンブン。
まるで熱いものを触ったかのように。
「なぁシャルル。サラマンドラの熱って何℃くらいだ?」
「測ったことないけど、燃えてるんだから熱いに決まってるじゃない。」
ですよね。
つまりはあれか、魔法を使うところまでは良かったけど、その後どうなるかまでは考えが及ばなかった、と。
実にアカネらしい。
Bボタンでキャンセルしておこう。
あ、鞘にしまった。
熱に耐えられなくなったのか。
両手にふうと息を吹きかけ冷ました。
再び剣を引き抜き、炎が出ていなくてホッとした表情を浮かべるアカネに、アライブが声を荒らげた。
「貴様、遊んでいるのか!」
「遊んでないし大真面目だよ!?
鎧が硬くて壊せなそうだから、中の人を熱中症みたいにしちゃえばいいと思っただけだもん!」
単純な思考だが、意外といい線はいってるんじゃないか。
つまりは熱で蒸し風呂状態にしてしまえば、わざわざ無理して壊す必要もない。
まあそこに至るまでのプロセスを間違えただけだな。
あとは火属性魔法を遠距離から打ち続ければ有利に進められるだろう。
しかしアカネは予想の斜め上を行く。
「んー・・・やっぱり壊すか。」
あの子の頭の中はどうなっているのだろう。
どこをどう考えると今の流れでそこにもどれるのだろうか。
イオが目を見開きぱちぱちぱちと高速で瞬きをしているくらいだ。
まあでも結局信じるのは己の剣というあたり、アカネらしくて良い。
本人が気付いてか無意識かは知らない・・・おそらく気付いていないだろうが。
今のアカネのサラマンドラの発想はイオとシャルロットに。
そしてこれから見せるであろう物理攻撃は、ショーヤと俺に。
それぞれがこれからあの甲冑と闘うためのヒントになるのだ。
アカネの奴、そこまで考えて・・・るわけもないので、おそらくたまたまだ。
相手からしたら、本当に恐ろしい子である。
これからアカネがやろうとしていることに気づいたのだが、この大会でのアカネの闘いぶりを見るとカウンターが得意な守備型の剣士という印象がある。
だからこそルーナ隊長も熱心に勧誘したのだろう。
だが、それはアカネの本当の姿ではない。
シャルロットが奥の手を隠しているように、アカネもまた自身のスタイルを見せていないのだ。
考えてもみてほしい。
速度強化を使用している俺とまともに1時間打ち合える剣士が、本当に守備型だと思うかどうか。
如何にアカネが守備が上手いといっても、それは生まれ持った動体視力と、剣さばきが俺との3年間の特訓で鍛えられたからだ。
アカネの剣士としての本当のスタイルは──
「全身付与─速度上昇。
強化付与─筋力上昇。
装備付与─世界随一の銘刀。」
超攻撃型付与術剣士だ。
余談だがアカネが魔法試験で1位を取ったのは、このハイエンチャント世界随一の銘刀のおかげで、わざわざ姉さんがそのためだけに用意した巨大な鉄の塊を真っ二つにぶった斬ったらしい。
ただでさえ銘刀と太鼓判をおされているアカネの刀、『庵』。
その美しく鋭い刀の周りに、白く輝きを放つオーラが纏われた。
今の状態の『庵』であれば、審判のアーデルハイドの持つ剣と比べても全く見劣りしないどころか、完成度としては超えているかもしれない。
それ程までに見た目も輝かしく美しく、放つオーラは雄々しかった。
「さてと・・・行くよ!!」
言うなり目にも止まらぬ速さで駆け出した。
アライブも負けじと『高速剣─レベル10』を繰り出すが、アカネは全てを捌く。
今度は前に一歩、二歩と進みながら。
「アマハラ流─」
相手の振り下ろしに対し、速度とパワーで勝る振り上げで相手の体勢を崩し、思い切り踏み込み、自身の振りあがった剣で斬りつける。
「鹿威し!!」
ズバッと大きな音を立て、両者の位置が前後代わっていた。
大きく右足で踏み込み、両手で剣を振り下ろしたアカネが剣を鞘にしまう「キンッ」という音が静かに響く。
甲冑は左肩から右脇にかけて大きく斬れ、アライブは出血と共にドサリと倒れた。
「ウエストブルム、アライブ・ビート試合続行不可能!
勝者アビスリンド、アカネ・オオヒラ!」
「決ぃーまったぁー!!
アビスリンド学園アカネ選手、付与術を完璧に使いこなし、甲冑を一刀両断しましたー!!」
「あそこまで完成度の高い武器への付与は初めて見たな。
あれだけで言えば、それぞれの隊長格に匹敵するやもしれんぞ。」
大絶賛じゃないか。
別に俺が言われているわけではないのだが、家族が褒められているのだから鼻が高くなる。
陣営に戻ってきたアカネに「ナイスエンチャ」と声をかけると、「サンキューダンス」と返された。
・・・あ、剣の舞のダンスか。
エンチャント使いがエンチャと略すなら、同じように略すとダンスということだろうか。
アカネの脳内変換の残念さに思うところはあるが、まずは先勝。
この勢いのまま優勝をかっ攫いたいところだ。
「続いて次鋒戦を始める!選手は前へ!」
アーデルハイドの低く渋い声が響くと、いつも付けている丸眼鏡を外し、そっと闘技場の隅に置いた。
国宝の杖を片手に全員とタッチを交わして壇上へ上がる少女の表情は、この時間を心から楽しむかのような笑顔だった。
「アビスリンド1勝で迎える次鋒戦!
アビスリンドは無詠唱魔法の使い手、イオン・フォン・アビステイン選手!
対するウエストブルムは『結界騎士』の異名を持つエース、
チェルシー・バンブレード選手に託します!」
結界術なんてあるのか。
どんな結界があるのか分からないが、チェルシーと呼ばれた女騎士は一筋縄ではいかない相手なことは分かる。
イオが苦戦するというビジョンは見えないが、心配だな。
「それでは、試合開始!」
「大寒波」
「反魔─結界!!」
開始早々、イオの無詠唱最上級魔法が地面に手をついている相手を襲った。
今までアカネ、アリスといった強敵を一撃で仕留めてきた大技だ。
しかし対戦相手のチェルシーの周りに紫色をした三角錐のフィールドが発生し、そのフィールドの中には大寒波の影響はない。
その三角錐は徐々に大きくなっていき、最終的に闘技場の壇上全てを覆った。
「間に合った・・・!」
チェルシーが安堵の声を出した。
イオは驚いた表情をしながら結界をペシペシと叩いている。
いつものように「大地の盾」と唱えるも、何も反応しない。
名前の通り、完全に魔法を封じる結界のようだ。
チェルシーの表情を見るに、間に合うかどうかは分からない一か八かの選択だったのだろう。
だが、チェルシーはその賭けに勝ったのだ。
いかに無詠唱魔法とはいえ、発動できなければ意味が無い。
かと言ってイオは近接戦闘は全くできないかと問われれば、そんなことはない。
しかし相手が騎士としての訓練を積んでいるのであれば、牛若丸が出てこない限りは勝つのは無理だろう。
その頼りの降霊術も、おそらくあの結界のせいで使えないのだろうけど。
「行くわよ!」
ほぼ丸腰となったイオに、チェルシーが詰め寄る。
イオは鋭い剣戟を杖で捌き応戦するも、騎士として剣を鍛えているチェルシーが勝る。
左肩を捉えられ痛みに顔が歪み、受け流し損ねた剣が右脚を捉え、膝をついた。
どちらからも血が流れ、制服を赤く染めていた。
普段なら回復魔法を使って治癒するが、今回はそれもできないのだ。
10カウントが始まる中、傷口を抑えしゃがみこみながら肩で息をするイオにチェルシーが声をかけた。
「諦めなさい。反魔結界が完成した時点で、貴方に勝ち目はないわ。」
確かに言う通りだ。
棄権しても誰も責めないし、何より早く手当てをした方がいい。
だが生憎、不利だから諦めるというような奴はうちのメンバーには居ないのだ。
イオは痛みに顔を歪ませながら立ち上がった。
「確かに勝てないかもしれませんね。
でも同じ負けなら、諦めて負けるよりも、闘って負ける方を選びます!」
イオの覚悟の言葉に、超満員の大闘技場は大きな拍手と大歓声に包まれた。
アビステイン王国第一王女、イオン・フォン・アビステイン。
君の覚悟、しかと見届けよう。
試合が再開されても、イオの不利は変わらない。
チェルシーの連撃に杖で応戦し、攻撃を弾くように防御する。
さながらパリィのように。
しかし鍛えている騎士と、魔法師の筋力差は歴然だ。
最終的には押し込まれ、今度は左足に傷を受け、二度目のダウン。
それでもなお、イオの心の灯火は消えない。
立っているのもやっとという体勢で杖を地面につけ、肩で息をしていた。
制服の両足と左肩の部分は、既に真っ赤に染まっている。
再び試合再開。
チェルシーも敗北が決定的でなお立ち上がるイオに敬意を表していた。
騎士の自分よりも、魔法師のイオの方が騎士のようだ。
そんなことを思いながら、最後の攻撃を仕掛けた。
これで終わらせる、そう思いながら振るった剣は、先程よりも大きな振りになっていた。
イオは魔法師ながら、その雑念を見逃さなかった。
大振りに合わせるように杖を動かし、自身の右側へと完璧に受け流して体勢を崩させた。
そのまま杖を返し、相手の兜に向けて殴りつけた。
ガンッと大きな音の後、ガシャンと音を立てて兜が地面に落ちた。
今まで全てを見ることが出来なかったチェルシーの顔が完全に見えていた。
頭から血を流し、少々驚いた表情をしていたチェルシーだが「見事。」と短く言い、一矢報われた相手を斬り伏せた。
「アビスリンド、イオン・フォン・アビステイン、3ダウン!
勝者、ウエストブルム、チェルシー・バンブレード!!」
その宣言と共に反魔結界が消失した。
チェルシーは自身が斬り伏せた相手に近寄り、回復魔法をかけていた。
イオが目を覚ますと右腕を掴み立ち上がらせ、「棄権など無礼なことを言ってすまなかった」と謝罪していた。
イオは笑顔で「今度は結界発動より早く打ち込みます」と答えた。
これで1勝1敗。
勝負は優勝への王手をかけて、中堅戦へと突入する。
大闘技場は割れんばかりの盛り上がりを見せていた。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




