一ノ舞「木刀と現実を」
人生初の投稿です。
なるべく定期的に出せるように頑張ります。
拙い点もあるかと思いますが、応援やご感想よろしくお願いいたします!
アビステイン王国─
国の東側の海に面している国家で、この世界の4大国家の1つに数えられる。
漁業が盛んでありながら、多くの冒険者でにぎわい、王国近衛兵や自警団といった自治組織もしっかりしており、平和で豊かな国である。
そのアビステイン王国の中心都市アビスリンドに1年前、隣国との競争意識、魔法騎士の後任育成を目標と掲げ設立された学園がある。
アビスリンド魔法学園だ。
理事長はサムライ、ナギ・アマハラの古くからの友人であり、学園長としてサムライの孫である『神速の剣姫』と謳われたミドリ・アマハラを雇用。
ユウリ・アマハラの実の姉であるが、数年前に事故で右腕を失い、今は後任育成のために教育者をしている。
『神速の剣姫』という学生時代についた二つ名は彼女の戦闘スタイルによるもので、『神威』を使用する移動法や、風魔法を使った剣技、どれをとっても学生最速であったことから付けられた。
そんな人物に教えを受けれるとあっては各国各地から大勢の生徒が集まり、去年、今年と他のどの学園よりも入学志願者は多かった。
アビスリンド魔法学園に、学園創立2回目の入学式が行われる季節となり、町は賑わっていた。
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「おい、聞いたか?!今年は王子様と王女様が揃って入学するらしいぞ!」
学園に向かう途中、そんな噂話が聞こえた。
「王子様ねぇ・・・上から物を言いそうなイメージで仲良くなれそうもない。」
腰に木刀をさしながらダルそうに歩く少年、ユウリ・アマハラがぼやいた。
「ユウくん、そんなこと言ってたら誰とも仲良くできないよ?」
そう答えたのは、ユウリの隣で日本刀を抱え、ユウリと同じ学園の制服を身にまとうアカネ・オオヒラだ。
実家が鍛冶屋であり、アカネが大事そうに抱える刀もオヤジさん作なんだとか。
姉さん曰く、超名刀らしい。
「王子様たちもそうだが、あのサムライの孫と弟子も入学するって聞いたぞ」
名も知らないオジサン俺たちのことを噂している。
俺達も話題になるくらいには有名らしい。
「サムライ?魔法も使えないような爺さんじゃないか。もう時代は魔法剣士ってうわ、なんだこのガキ!?」
「はーい、そんなの相手にしないの。」
ジジイは好きじゃないが、ジジイの悪口を言われるのは我慢できねぇ。
ぶん殴ろうとしたんだから止めてくれるなアカネ。
あと首の後ろつかんで引きずるのやめてください、マジで首しまる。
「師匠のこと何も知らないで言う人たちのことなんかほっときなさいよ。」
それもそうか。それよりもこんなところで油を売って遅刻する方がまずい。
入学式早々病院送りになりかねん。
誰にされるかってのは、もちろん姉さんさ。
「あ、姉さん」
ドゴンッ
ユウリがそう言うと同時に、ジジイの悪口を言った名も知らぬオジサンが壁にめりこんでいた。
「アビスリンドの七不思議だ・・・!」
「街中でサムライや剣姫の悪口を言うと、蹴られたような衝撃で吹き飛ばされるんだ・・・」
いやそれ実際蹴ってますよ?
『神威』で移動し続けていて常人には目視できない剣姫が。
「ミドリさん何してんのよ・・・」
やはりアカネにも見えてたか。
俺の雷属性の神速剣の実験台に毎日なってたからな。
動体視力と守備力、刀捌きはジジイ並みになってるんじゃないか?
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そんな騒動もあったが、無事に入学式。
まあなんだ、お偉いさんの話ってのはどうしてこうも長いのか。
分かるよ、催眠術かけられてるような感じになるよね。
周りを見ても数人を除いて下を向いてるし、どこの世界でもそんなもんなんだろう。
「続いて、学園長挨拶。」
やべ、これは寝てたら病院送りだ。
隣でよだれ垂らしながら寝てるアカネを起こしてやるか。
肘でゲシゲシと叩くと、アカネはガタッと音を立てて立ち上がった。
「ふぁい!?ミドリさんごめんなさい、寝てませんよ!?」
寝ぼけながらに大声。
我が幼馴染ながら恥ずかしい。
「おぉーい、せっかくの入学式に寝てるのはこの乳かー?」
と言いながら壇上に向かっていたはずの姉さんが『神威』でアカネの真後ろに現れた。
きっちりとアカネの巨乳を揉みしだいているあたり、我が姉ながら変態だ。
「きゃぁっ!ミドリさん、やめてください!」
まあ会うたびに二人はこうしているので、別に俺もとめはしない。
男子数人が前かがみになっているのはちょっと引くけど。
「寝てたお前が悪いんだろアカネ?」
「自分の揉めばいいじゃないですか!なんでわたしのを・・・」
「揉むほどねぇンだよ、叩き斬るぞテメェ!!」
そろそろヒートアップしてきたし姉さんをアカネからひっぺがすか。
「剣の舞 壱式 居合─柳閃!!」
キンッ
風に揺れる柳の葉を一閃するがごとくの速さの居合斬りで、常人にはまず見切れない。
抜刀から納刀までの速度は0.3秒の神速剣──のはずだった。
『神速の剣姫』はその剣先を親指・人差し指・中指の3本だけで止めやがった・・・!
「今のは良かったぞユウ。殺気を隠しきれてれば100点だ。」
「ちぇっ。久しぶりだな、姉さん」
「後で時間とってやるから、今はちゃんと起きて座っとけ。」
姉さんはそう言い残し『神威』で一瞬で壇上へ・・・ホント色々と規格外だ。
金髪を腰まで伸ばし、黒い和服に身を包んだ小学生とも見える少女。
剣の才能に全ての栄養を取られた変態金髪幼女。
それが姉さんだ。
「あーもう、高くてマイク取れねぇよ。」
このボヤキに新入生の何人かが吹き出した。
あらら、笑った奴らは何かしら言われるぞこれ。
「風魔法 響き渡る声」
そう唱えた姉さんは、「あーあー」と音量調整をした後、拡張した自らの声で話し始めた。
「とりあえず今吹き出した新入生、入学式が終わった後学園の外周100周な。」
講堂内がざわつくのを無視しつつ続ける。
「まずは入学おめでとう。ここに居るってことは倍率10倍以上の入学試験を突破した強者だ。だが間違ってもそこで驕ってほしくない。
ここはスタートラインだ。それぞれやりたいこと、なりたい自分の像があってここに来たはずだ。
その気持ち、初心をいついかなる時も忘れるな。
学園に居る3年間という短い時間の中で君たちが何を成し遂げるか、楽しみにしておこう。」
言い終えると軽く会釈をし、大きな拍手を受けながら幕袖へと消えていった。
「続いて新入生代表の言葉。
一学年主席、シャルロット・マリア・ヴァルローレンさん」
「はい!」
シャルロットと呼ばれた少女は、綺麗な声ではっきりと返事をし、スッと立ち上がった。
赤い髪のポニーテール、釣り目、いかにも育ちの良さそうな歩き方。
うん、友達になれなそうだ。
「本日はお日柄もよく・・・」
いかにも優等生な彼女は話し始めた途端、言葉に詰まった。
緊張しているからかと心配にざわつく構内。するとシャルロットが口を開いた。
「続き忘れた・・・」
思わず吹き出し、腹を抱えて笑ってしまった。
そんなことあるのか。
あってもこういうのってカンペ見ながらなんとかするものではなかろうか。
「そこのアンタ、笑いすぎよ!あとで覚えてなさいよ!!」
あ、やべ、変にロックオンされた気がする。
「とりあえず、今日は私たちのためにお集まりいただき、感謝するわ。学園長の言葉をお借りして、この3年間が私たちの人生でかけがえのないものとなるような素敵な学園生活になることを祈り、この場での言葉とさせていただきます。」
言い終え、スカートの両端を掴み膝を曲げるお辞儀─お嬢様特有の挨拶─をするシャルロット。
しかしその目はきっちりと俺を睨んでいた。なんでだ。
「ようしそれじゃあ、二週間後に行われる新人戦の選抜メンバーを発表する。」
どこから現れたのか、姉さんがシャルロットの隣に立ち、響き渡る声で喋り始めた。
新人戦?なんのことだ。
「入学前の手紙に書いてあったけど、その様子じゃ読んでないよねユウくん・・・」
可哀想な小動物を見る目でこっちを見るなアカネ。
「この国では12個の都市の学園同士で選抜メンバーを選んで闘って、次代を担う魔法剣士育成をしてるんだって。年間を通して新人戦、個人戦、団体戦、男女ペア、バトルロイヤルの5種類行われてて、入学早々上位メンバーの選抜で新人戦があるんだよ。
選抜方法は各入学試験の上位者って書いてあったけど、主席のシャルロットさんは確定みたいだね。」
なるほど、そのメンバーに入れば凄い奴らと闘えるってことね。だいたい理解。
アカネの説明台詞が終わった直後、姉さんが話し始めた。
「とりあえずシャルロットは学力試験満点1位だ。そしてもう一人の満点合格者、イオン・フォン・アビステイン、前へ。」
「はい。」
ん?アビステイン?ってことはあの子が王女様か。
剣じゃなくて杖を持ってるあたり、魔法使いタイプなんだろうか。
「続いて学年次席、ショウヤ・フォン・アビステイン。」
「はい!」
今度は王子様か。
双子の王子と王女とは聞いてたけど、あんまり似てないんだな。
「そして魔術試験1位・・・」
姉さんがニヤッとしたと同時に、シャルロットは「は?」って顔をした。
あのお嬢様は自分が全部1位だと思ってたのか。
世界広しって言葉があってだな、なんでも自分や周りが1番だと思わない方がいいぞ。
「アカネ・オオヒラ」
「えっ、あっ、はい!・・・えっ?」
ん・・・?今あの幼女なんて言った?
いやいやアカネは確かに魔術操作は凄いけど、あのお嬢様より上ってことはないでしょう。
ほら、アカネも理解が追いついてないですよ。
「アカネ、さっさと上がってこい。また揉みしだいてやろうか?」
「い、今行きますー!!」
慌てて立ち上がり走って壇上へ行くアカネ。
あれ、うちの幼馴染はそんなに出来がいい子でしたっけ?
間違いなく学力ワーストクラスなんだけどな。・・・俺もだけど。
「そして最後、剣術試験1位。」
「ちょっと待った!!」
姉さんの発表を遮るシャルロット。
その顔は納得のいかない駄々っ子そのものだ。
「アタシが魔術でも剣術でも負けたというの?!有り得ない!!」
「見識が狭いと苦労するのは自分だぞ、ヴァルローレン。お前の成績は全て上位だが、1位なのは学力テストだけで、魔術・剣術共に3位だ。」
「なっ・・・!」
現実を突きつけられ、髪のように顔を真っ赤にするシャルロットさん。
黙ってれば可愛いのにな。
「まあ気持ちは分かるぞ?
アカネのバカは魔術1位で剣術2位、なのに学力試験ワーストだからな。」
「えへへー」
照れながら壇上にあがるアカネに、姉さんは右腕の義手でチョップをかましたのだった。
「褒めてねぇよ!!」
「こんな奴に剣術でも魔術でも負けたっていうの・・・このアタシが・・・?!」
頭を押さえてうずくまるアカネを横目に、悔しがるシャルロットにさらに追い打ちがかかる。
「剣術1位の奴は魔術ワースト、学力ワースト2だけどな。
ユウリ・アマハラその場で立て。」
呼ばれたっ!俺も『神威』で壇上に!・・・その場で立て?はい、立ちました。
あ、シャルロットさんそんなに睨まないでください。
「このお嬢さんはお前にも負けたことが納得できないらしい。そこからシャルロットの背後を取れたら選抜メンバーに加えてやるよ。」
ニヤニヤしながら挑発してくる姉さんにため息をつきながら頭をかくと、シャルロットが騒ぎ出した。
「アタシが背後を取られるわけないじゃない!!どれだけ修羅場をくぐってきたと思ってるの!」
「そうか・・・俺は君のその努力を認めよう。でもな・・・」
『神速の剣姫』、サムライとの手合わせをしてきた俺に言う言葉じゃないな。
「そのまま言葉を返そう。どれだけ死線を超えてきたと思ってるんだ?」
背後から背中に木刀を構え、シャルロットに突きつけた。
文字通り、木刀と、現実を。
姉さんはフッと笑うと、
「以上5名が新人戦選抜メンバーだ。異論は認めない。
以上を持って、アビスリンド魔法学園入学式を終了とする。解散!
・・・外周100周忘れるなよ?」
構内のざわつきは、当分の間静まらなかった。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。