十五ノ舞「友達になってもらおう」
「昨晩はお楽しみでしたね。」
翌朝、目が覚め身体中痛いことを確認し、ロボットのようにカクカク動いているのを自覚しつつ部屋から出ると、姉さんと鉢合わせ開口一番そんなことを言われた。
どんちゃん騒ぎはしましたけどね?
一番楽しんでいたのは貴方ですけどね?
酔い潰れて、疲れきったイオと並んで真っ先に寝てましたけどね?
とか色々言いたいことはあるが、俺はこの後の行動を既に決めている。
「シャルルをデートに誘うので、軍資金をください。」
と頭を下げた。
姉さんの小さな目が驚きでめちゃくちゃ見開かれているが、結局ニヤニヤとしながら金貨3枚をくれた。
やはり倍率35倍当たっているだけあり、財布の紐が緩いな。
我が姉ながら心配になる。
「まさかヴァルローレンを選ぶとはな。
献身的なアカネか、守ってあげたくなる系のアビステインを選ぶと思ってたのに。」
別に選んだわけじゃない。
昨日運んでくれたお礼だ。
あの髪留めを着けた時のシャルルの笑顔をもう一度見たいと思っていないと言えば嘘になるけども。
それと、ルクスの幻術の未来再現度がどれくらいなのかを調べたいという理由もある。
今後3年間、奴とは何度も顔を合わせるだろうからな。
敵の実力は知っておきたい。
ということでシャルロットを誘い、前と同じ行動をすることにした。
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結論から言うと、ほぼ100パーセント完全再現だった。
サンドウィッチ屋までの道のりでのシャルロットの行動、店内の状況とシャルロットが選ぶメニュー、蝶の髪留めの値段や値引き交渉含めて全てだ。
違いがあったのは、ルクスが全治1ヶ月で外に出れないとアンジェリーナが教えてくれたことと、シャルロットとアンジェリーナがライバルとして仲良くなったことくらいだ。
(俺の技のせいで)多少の違いがあったが、それ以外の事象に関しては同じと言っても過言ではない。
あれは幻術と言うより、時間圧縮をした未来視なのかもしれない。
脳に負荷がかかる分、タチが悪い。
自力で解除できたから良かったものの、解けなかった場合を考えるとゾッとする。
おそらくルクス自身が動けば解除される等の方法はあるだろうが、あくまでも仮説だ。
実際はどうなることやら。
とりあえず、シャルロットの嬉しそうな顔と、サクの照れた顔が再び見れたので満足だ。
ルクスなんて今はどうでもいいな、うん。
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部屋に戻り前回同様、ショーヤによる対戦相手発表が行われた。
案の定マジックギルドが相手だそうだ。
帰り道までの再現度からして、そうだろうとは思っていたけども。
しかし明日の試合までにこの筋肉痛は治るのだろうか。
イオが今日も健気に回復魔法をかけてくれているので、昨日よりはだいぶマシになっているものの、いざ闘うとなると怪しい。
正直いつもの半分も実力を出せない気がする。
ひとまずオーダーを決定し、明日に備えて準備することとなった。
木刀の状態だけ確認し、寝る準備をしているとイオが回復魔法をかけてくれた。
この2日間アカネに俺にと、イオには世話になりっぱなしだ。
近いうちにお礼をしなくてはだな。
そういえば初戦はアカネの回復に時間を割いたので、イオにとっては明日のマジックギルド戦が初陣となる。
無詠唱の最上級魔法のお披露目だ。
相手は短縮詠唱の上級魔法を使うらしいが、より早く、より上位の魔法が相手を襲うことになる。
俺で例えれば姉さんと闘うようなものだ。
相手に同情してしまうね。
姉さんに挑むには、自他ともに認める世界最強の剣士くらいになってからでないとダメだ。
今まで考えたことがないわけじゃない。
ただあまりにも越えられない壁が分厚すぎて、目を逸らしていた。
いつか、その領域に足を踏み入れることができるといいけど。
とりあえずは世界最強の剣士を目指すとしよう。
てことでまずは明日の試合だ。
俺が知る限りの姉さんとジジイはもちろん、そしておそらく父さんは、この程度のダメージで目先の試合を落としたりはしないだろう。
最終的にはそこに割って入るつもりだが、今は違う。
回復魔法をかけてくれたイオの目を見て言おう。
迷いなく、確かな覚悟で。
「明日は、皆で勝とう。」
ドキッとするような可愛らしい笑顔で「はい!」と答えたイオもまた、大切な仲間だ。
姉さんも9年前はこんな素晴らしい仲間と出会い、共に闘ったのだろうか。
そう考え少しだけ嬉しさを覚えつつ、眠りについた。
5人のうち2人が本調子ではない、我慢どころの準決勝が始まる──
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「聞こえていますでしょうか、この大歓声!
新人戦も残すところ準決勝と決勝のみとなりました。
実況は私、クノッサス大神殿守護騎士団1番隊副隊長、ロドリゲス・ヘッジホッグ。
解説はクノッサス王国騎士団2番隊隊長、『鉄壁のルーナ』こと、ルーナ・フォルス・アイギスさんでお送りします。
今年の優勝候補筆頭と呼び声も高いマジックギルド!
対するは絶対王者を初戦で降したダークホース、アビスリンド!
観客の皆様の反応通り、大注目の一戦がまもなく開始されようとしています。
これまでの闘いを見るに、実力は拮抗しているように思いますが、ルーナさんの目にはどう映っていますでしょうか?」
「そうね・・・オーダーを互いにいじらなければ3対1でマジックギルド。
変わっているのなら、アビスリンドにも勝ちの目はあるかしらね。」
「なるほど、前評判通りマジックギルド有利ですか。
どのような闘いを見せてくれるのか、楽しみです!
審判は我らがクノッサス神殿守護騎士団総隊長、ジークロード・グラッセさんです!
まもなく準決勝第一試合、試合開始です!」
実況の言葉の通り、超満員の大闘技場は割れんばかりの大歓声だ。
この中の何人が俺たちが勝つと思っているのやら。
そういう奴らを黙らせるのは好きだから良いのだけども。
いつも通りショーヤの掛け声で準備完了。
仁王立ちでふんぞり返るシャルロット。
人を書いては食べまくるアカネ。
いつも通りクールなショーヤ。
初陣に集中しているイオ。
柔軟体操で軽く身体を動かしている俺。
それぞれの準備は違うが、向いている方向は同じだ。
さあ始めようか。
ノースリンドブルムとは違って、相手に油断はなさそうだ。
マジックギルド、相手にとって不足はない。
「それでは先鋒戦を始める!
選手は壇上へあがりたまえ。」
ジークロードと呼ばれた審判は、顔や腕にいくつもの傷があった。
それは彼の過去の闘いの勲章だ。
決して恵まれたとは言えない体格だが、強者としての風格、自信は総隊長の名に恥じぬものがある。
いくつもの修羅場を超えてきたことが容易に想像できる佇まいだ。
「アビスリンド学園、先鋒はイオン・フォン・アビステイン選手!
初戦のノースリンドブルム戦では、不戦敗となっているためデータはあまりありませんが、名前からわかるようにアビステイン王国の王女様です。
対するマジックギルド先鋒は・・・なんと、アリス選手だー!!
本年度首席『全能のアリス』、アリス・ポーラン選手!
上級までの全ての属性魔法を短縮詠唱で使用出来るということから付けられた二つ名は、10年に1人の天賦の才能をもつ彼女にこそ相応しいですね!」
綺麗な長い銀髪を風に揺らすクール美人だ。
可愛いフリフリのついた制服で、綺麗可愛いって感じになっているけど。
彼女が持つ杖もまた立派なもので、魔法に精通していない俺にすら、その杖はとても高いのだろうと思わせるような大きな青い水晶が美しく輝いていた。
ただだいぶ持ち上げられているようだけど、落差が激しくなるからその辺にしてあげてほしい。
フリーフォールよりもビックリな落差になると思うから。いやマジで。
「それでは、試合開始!!」
開始早々、アリスが短縮詠唱を唱え始めた。
観客からは「おおー」と声があがったものの、対戦相手はニコニコとしていた。
まるで、魔法比べが楽しみな子どもの笑顔のように。
「疾き風の刃よ!「ウィンドカッター」」
両者の風の刃は互いにぶつかり相殺された。
相殺と言っても、イオが放ったウィンドカッターの方が刃が大きく、動きも早かった。
イオはあれ?という顔をしているけど、誰もが君ほどの魔力を持っているわけではないぞ。
アリスが驚きの表情に変わり、動きが一瞬止まった。
しかしすぐに立ち直り、次の詠唱を開始した。
「雷よ、敵を貫け!「大地の盾」ライトニング・アロー!」
アリスの放った雷の矢が、イオの周りに現れた3つの岩の盾にぶつかり、バゴンと大きな音を立てて1つを破壊した。
イオも全ての魔法を使えるわけではないが、使えない魔法への対策となる魔法を瞬時に唱えて対応しているあたり、やはりイオの魔法の才能は桁違いだ。
イオが相手でなければ、ショーヤ以外にうちでアリスに勝てそうな面子は居ないだけに、先鋒で出てきたことが悔やまれるだろうな。
「もうこちらから攻めて良いですかね?」
イオが笑顔でそう言うと、アリスはバックステップで距離をとった。
普通ならその対応で正解なのだろう。
ただし何度も何度も言うが、相手が悪い。
「大寒波」
氷属性最上級魔法だ。
イオが無詠唱で唱えた瞬間、闘技場内が凍りついた。
対戦相手のアリスもろともだ。
審判のジークロードは一切の影響を受けておらず、10カウントを始めた。
初戦のシャルロットの炎属性魔法剣を素手で止めたり、審判の皆さんは規格外な方が多いな。
ショーヤに両腕を横に引っ張ってもらいつつカウントを見守る。
氷を破壊して飛び出てくる可能性とかも考えたが、どうやらなさそうだ。
イオが友達を待つ子どものように落ち着きがなく、クルクルと周りながらカウントダウンを待っていた。
「0!
マジックギルド、アリス・ポーラン10カウントダウン!
勝者アビスリンド、イオン・フォン・アビステイン!」
ジークロードの宣言と共にこちらに振り返り、満面の笑みでピースをするイオ。
その無邪気さに思わず笑みが溢れた。
「『全能のアリス』、魔法戦で敗れるー!!
初戦では鳴りを潜めていたイオン選手、なんと無詠唱魔法の使い手でした!
前評判を覆し、先手を取ったのはアビスリンド学園ー!」
「無詠唱の最上級魔法なんて初めて見たわね。
これはいよいよ分からなくなってきた。」
実況解説だけではなく超満員の闘技場内もざわめきが残る中、「勝ちましたぁ!」と言わんばかりの笑顔でイオが戻ってきた。
こちらも不思議と笑顔になり、「おめでとう」とひと言かけ頭を撫でた。
さて、それじゃあ俺も続くか。
「次鋒の選手は前へ!」
「おーっと、これはどういうことだー!
アビスリンド学園、次鋒で早くもユウリ・アマハラ選手が出てきました!
そしてマジックギルドも、トニー・フレデリック選手!
初戦で大将を務めた2人が、なんと次鋒戦で激突します!!」
「『雷光』対『白狼』。
どっちが速いか見物ね。」
白い短めの髪、鍛えあげられた肉体、鋭い八重歯を光らせ鋭い眼光のトニーは、早く闘いたくてウズウズしている様子だ。
対する俺は本調子ではなくて申し訳ないな。
昨日よりもイオのおかげでだいぶマシになったとはいえ、最大強化ができるわけじゃない。
普通の速度強化も、持って30分といったところだろう。
・・・出来ることをしていくしかないな。
ところで『雷光』って俺のことか。
二つ名がいよいよ付いたことに嬉し恥ずかしいな。
「初戦の試合、見てたでよ。
オラと同じくれぇのスピードの奴、初めて見た。
そんな奴と闘えるなんて、ワクワクが止まらねぇべ!」
「楽しみにしてくれているところ悪いが、ちょっと無理をしたせいで本調子じゃないんだ。
だけど剣の腕には、多少なりとも自信はある。
本気は見せれそうにないが、全力で行かせてもらうよ。」
「ああ、楽しもうな!」
見た目の厳つさの割に、めちゃくちゃ良い奴じゃん。
試合が終わったら友達になってもらおう。
「それでは、次鋒戦開始!!」
この2人の闘いが、後に語り継がれる程の試合となるとは、この時は誰も知らない。
これが俺と、生涯の友となるトニー・フレデリックとの出会いだった。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




