十四ノ舞「いつまでも忘れない」
実に5年ぶりだ、
父さん、前回会った時よりも少しだけ老けたかな。
母さんは相変わらずちんまいな。
姉さんそっくり、というか姉さんが母さんそっくりなのか。
俺は親父に似たのかもしれない。
話したい事がたくさんある。
姉さんが学園の学園長になったんだ。
俺はそこに2期生として受かったよ。
王子と王女とも仲良くなれたんだ。
シャルロットっていう友達もできた。
アカネには支えてもらってばっかりだけど、いつも通り仲良くやれてるよ。
そんな言葉たちが喉から出そうになる。
居ないことに慣れていたつもりではあるんだけどな。
なんだかんだで両親が家に居ないというのは、寂しいのかもしれない。
そんなことはおいといて、気付いたことがあるんだ。
本当に大切なことだ。
これだけは必ず言わなくてはいけない。
父さんと母さんが来なかったら気付かなかった。
5年ぶりに、せっかく再会できたというのに。
本当に残念だ。
「──!」
正直このまま、続きを見たかったな。
シャルルとも仲良くなれて。
あの調子なら、いずれはシャルルと・・・なんて。
父さんと母さんに5年ぶりに再会できて。
本当に元気そうで何よりだよ。
冒険者なんてやってるから、なんだかんだで心配なんだよな。
姉さんを名前で呼んでくれて。
姉さんと絶対に顔を合わせることのなかった両親が、笑顔で姉さんに挨拶していた。
「──!」
そんな世界、良いじゃないか。
ありきたりなことだが、俺や姉さんにとっては非現実的すぎるんだよ。
今からでも遅くないはずだ。
長い時間でできてしまった溝を、ゆっくりと同じように時間をかけて埋めていけば・・・
きっとこの世界のように平和な生活を送れる気がするんだけどな。
「2!」
普通の家族ってものに憧れはある。
家に帰ったら母さんが迎えてくれて。
父さんが仕事から帰ってきてくれて。
姉さんとも一緒に、笑顔で食卓を囲む。
そんな平和で、当たり前の光景。
このまま起きなかったら見れるかもしれない。
それでも。
それでも声を大にして言おう。
「1!」
俺が居るべき場所は、ここじゃない──
「ユウリ選手、立ち上がったー!!!
開始早々自身の身体強化をした瞬間急に倒れましたが、なんとか立ち上がりました!!
10カウント、ギリッギリです!」
まだ頭がクラクラする。
ふらつく頭を左手で抑え、なんとか前を向く。
そこには少々驚いた顔をするノースリンドブルムの大将、ルクス・アーク・フェギナの姿があった。
「正直、驚いた。
自力で僕の術を解いたのは君で2人目だよ。」
幻術とは・・・姑息な真似を。
しかし、なんてもの見せやがる。
ちょっと心が揺らぎそうになっちまったじゃねぇか。
速度最大強化の効果は続いている。
いつからだ。
どのタイミングから幻術を見せられていたんだ。
それが分からない限り、闇雲に動くのは危険だ。
「いつから術にかかっていたか分からない、という顔だな。
教えてやるよ。貴様が身体強化をした瞬間からだ。
周りには、自分で強化した瞬間倒れたように映っただろうよ。」
わざわざどうも。
しかし、5秒程度で1日半もの経験をさせられるとは。
頭が追いつかないはずだ。
しかしダウンしていたとはいえ、幻術にかかっている間は俺は無防備だったはずだ。
記憶が朧げではあるが、その間ルクスは一歩も動いていない・・・と思う。
動くと術が解けてしまうとか、そういったデメリットがあるのだろうか。
うーん、ダメだ、頭が痛すぎて何も考えたくない。
恐らく次にまた幻術をくらえば、俺は立ち上がれないだろう。
発動条件も分からなければ、いつ掛けられたかも分からないとは。
悪いな、少しナメていたよ、ルクス。
流石は8年連続優勝している学園の大将だわ。
身体強化の効果時間は、あと40秒ってところか。
それまでに決めないとキツイな。
奴の剣の実力が分からない以上、迂闊に間合いに踏み込むのは危険か?
だが入らないことにはこちらも斬れない。
遠距離に居続けて、また幻術をくらっては元も子もない。
立ち上がってからというもの、頭がガンガンと痛む。
その痛みによろけるも、なんとか脚に力を入れて踏ん張る。
そこでふと、視界の端に仲間たちの姿が見えた。
心配そうな顔をしているショーヤ。
目を瞑り両手で祈りのポーズをしているイオ。
仁王立ちでふんぞり返りながらもソワソワしているシャルロット。
3人の後ろで横になっているアカネ。
そこに姿はないが、応援してくれているであろうサク。
それぞれが違う表情ながらも、俺の勝利を祈ってくれているのだろう。
期待に、応援に応えないとだ─
思わず仲間たちに向け、左手を伸ばしていた。
目をつぶっていたイオも、ショーヤにつつかれて目を開ける。
3人が右腕をこちらに向けて伸ばして返してくれた。
信じてるぞ─
そう言わんばかりの笑顔で。
よし、少し落ち着いてきた。
といっても頭痛か和らぎはしないが。
気持ちの問題ってやつだ。
さて、先ほどサクのことを考えた時に、少し思い出したことがある。
シノビの術を警戒し、目や手を見ずに足だけを見ながら闘った時のことだ。
その時は全くサクからの攻撃や、錯乱を受けなかったのだ。
幻術は目から映されるものだろう。
発動条件はいまだに分からないが、剣や目、手を見なければもしかしたら発動条件を満たせない可能性がある。
試してみる価値は充分にありそうだ。
「余所見をしている余裕があるとは、舐められたものだな!」
ルクスが痺れを切らしたのか、攻めに転じた。
剣技とは素直なもので、敵に撃ち込むためにはほぼ必ず踏み込みがある。
右脚が前なら右からの横薙ぎか、左頭上からの振り下ろしが多いだろう。
突きもあるだろうが、それならつま先の角度は俺を向いているはずだ。
奴のつま先は若干だが俺の右腕側に向いている。
もっと傾いていれば振り下ろしもあるだろうが、これなら一択だ。
振り下ろしの選択肢を排除。
右側からの横薙ぎを受け止めた。
小足見てからジャストガード余裕でした。
「お前今俺の脚だけを見て・・・!」
ルクスは驚いたような声をあげたが、この程度の攻めなら此方から攻める余裕もあるな。
攻める前に左腕で視界の端にいるシャルロットを指差す。
その手を後頭部に当てトントンと叩くと、シャルロットは不思議そうな顔をしながら自分の髪留めを触った。
ハッとした顔をし、慌てて髪留めを外して手に取ると、少々落ち込んだ表情をしていた。
壊れてるの読んで、というか見せられてたしな。
やっぱり髪おろしていた方が似合うと、後で言ってやろう。
さて、ルクスを引き剥がしたところでタイムリミットまで残り20秒を切ってしまった。
頭は相変わらずガンガンと痛みをあげているが、まあいい。
幻術の中で陸式はクリーンヒットしていたが、あれは敵を真正面に見据えてこその技だ。
脚しか見ないと決めた以上、あまり使い勝手の良い技ではない。
となると、敵の懐に飛び込んでの壱式。
遠距離からの参式あたりが妥当だろう。
とか考えているのが昔からのダメな所なんだよな。
サムライに勝った時の事を思い出せ─
あれこれと考える余裕なんてなかったはずだ。
その時、そのタイミングに一番合った勝てる技を使わないと格上には勝てないのだ。
無心で右上段へと剣を構えた。
ルクスが再び此方に向かい、斬りかかろうと踏み込んだその瞬間。
闘技場内の全ての人が目を瞑るか、覆い隠すかする程の閃光と共に横向きの稲妻が走った。
「剣の舞 漆式 紫電─星界の魔鎚」
速度最大強化状況下でしか使えない技だ。
身体を覆う全ての雷を腕と剣に纏わせ、『神威』の踏み込みと共に斬る、否、叩きつけるその技は、まさに稲妻だった。
ルクスの服は焼け焦げ、黒い煙をあげながらどさりと倒れた。
「アマハラが決めたぁぁぁぁぁーー!!!
思い返せば9年前、ノースリンドブルムに最後に土を着けたのも同じアマハラの名を持つ『神速の剣姫』でした!
姉弟揃ってノースリンドブルムの大将を打ち破る、開始早々のダウンから大逆転の雷光一閃!
勝者、アビスリンド学園ユウリ・アマハラ選手です!!」
「王者が初戦で姿を消す、大波乱であるな。」
実況や観客の盛り上がる声が上がる中、勝者の身体も限界だった。
意識が朦朧とし、前かがみに倒れた。
いや、倒れかけた。
赤い髪を肩甲骨あたりまで下ろしている少女が抱きつくように支えていた。
「お疲れ様、ユウ。」
その少女の表情はとても穏やかで、優しい顔だった。
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夢を見ていた。
5年前に無我夢中、いや、我武者羅に放った技。
現在の漆式の原型となった動きだが、1日で3度目の最大強化、計18回の剣の舞の使用。
身体中がボロボロになりながらも当時10歳であった俺が自分を、そして利き腕を失った直後の姉さんを守るために放った技だ。
今思えば、技と呼べるかどうか。
姉さんが未熟な俺を庇い、利き腕を失った。
その時は怒りと悲しみのあまり自分がどうなろうと、その相手を倒すことしか頭になかったのだ。
後々剣を振るえなくなる程度に身体中壊れ、アカネに多大な迷惑をかけてしまった。
アカネ自身は迷惑だなんて思っていないと公言しているが、こちらの気が済まない。
この先アカネが人としての道を歩む限りは、どんな道を選んでも応援するし協力もする。
それくらい頭があがらない、否、頭をあげたくないのだ。
今俺がここに居るのは、アカネのおかげだからな。
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目が覚めると、宿のベッドに寝ていた。
外もすっかり暗くなっており、寝惚けた頭でここが宿だと気付くのに時間がかかってしまった。
試合はどうなったのだろう。
漆式を使ったのだから負けたということはないだろうが、実は幻術でした、なんてオチも有り得る。
周りに誰も居ないので確かめられない。
頭痛はだいぶ治まっているものの、代わりに全身筋肉痛だ。
あまり身動きを取りたくない状態だ。
最大強化は最大1分しか持続できない中で、使用時間が長ければ長いほど身体に負担がかかり、技を使用すると相乗効果で更にドンなのだ。
特に腕に負担がかかる漆式は、両腕のあらゆる筋肉が悲鳴をあげているほどだ。
動かさなくても痛いのだから、動かしたいとすら思わない。
今は寝たきりなので動かす予定もないのだが。
窓の外から冒険者らしい人達の声が聞こえる。
新人戦の会話でも聞こえないだろうかと耳を傾けていたが、討伐依頼というワードが聞こえて諦めた瞬間、バァンと大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
身体がビクリと跳ね、全身に激痛が走った。
痛すぎて涙目だ。
どこのどいつだ、文句言ってやる。
「ユウくん、最大強化して倒れたって聞いたけど大丈夫?!」
血相を変えたアカネが息を切らしながら走り寄ってきた。
自分も派手にやられ大量の出血があり、先程まで寝たきりだったというのに他人の心配とは。
目を覚ました時に俺が居ないことに気づき、詳細を聞いたといったところだろうか。
文句など言うはずもなく、心配かけてごめんな、と頭を撫でた数秒後、部屋にゾロゾロと全員が集合した。
サクと姉さんももちろん一緒だ。
最後に入ってきて、2人ともホッとした顔をしていた。
サクはともかく、姉さんのそんな顔を見たのは2回目だ。
なかなかレアな表情が見れた。
「良かった、起きたのね。」
シャルロットが俺の顔を見るなり、安心した顔をした。
俺がソワソワしていると、察したショーヤが一言くれた。
「ユーリはきちんと勝って、チームも勝利だ。
倒れた後はシャルロットがここまで運んでくれたんだ。
お礼を言っておくといい。」
シャルロットが?
てっきりショーヤあたりがおぶってくれたのかと思ってた。
シャルロットを見てお礼を言うと「べ、別に、トレーニングの一環よ!」と、顔を赤らめ横を向いてしまった。
そんな王道ツンデレみたいな言い方しなくても、と思ったけどこいつツンデレだったわ。
シャルルは髪下ろしている方が似合うと思うぞ、と言ってやると髪の色と同じくらい顔が赤くなった。
直後の『凍える風』ひょあああ!!!のテンプレは何度見ても面白い。
でもそうか、勝てたのなら良かった。
心配事が一つ消えて気分が楽になった。
そうだ、幻術の時には出来なかったことを、今なら出来るかもしれない。
気付いた時には既に右腕をあげていた。
激痛が襲っているが構うものか。
全員がすぐに察し、拳をぶつけ合った。
この鈍い音は、いつまでも忘れないだろうな。
5人で初めての勝利のグータッチ。
この時の皆の笑顔もまた、一生忘れてたまるものか。
その直後に肩をつり、イオが回復魔法をかけまくってくれたことも、また忘れられなそうだ。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




