十ノ舞「明日が楽しみだな」
新人戦開幕前日。
選抜メンバー一行は学園前の大通りに集合していた。
アビスリンド王国から馬車で北上することおよそ6時間、隣国であるクノッサスに向かうためだ。
馬車に最初に乗り込み待っていると、青ざめながら今にも泣きだしそうなシャルロットが、イオに首根っこを掴まれながら乗ってきた。
当然のようにイオは俺の横に座り、その横にシャルロットを座らせた。
向かい側は空いているはずなんだが、姉さんが横に来て騒ぐよりは千倍いい。
マイナスに倍ってどうなるんだっけか。
とりあえず姉さん<超えられない壁<イオなので俺としてはこちらの方が嬉しいのだが。
どうやらシャルロットは乗り物全般に弱いらしく、走っていくと駄々をこねたのだとか。
そこにイオが、「氷漬けにして運べば酔わないのでは」と提案したらしい。
先日上下関係がハッキリしてしまった2人の掛け合いはなかなかに面白い。
普段強気なシャルロットも、イオの前ではまるで震える子犬だ。
そんなひと悶着ありつつも、姉さん、アカネ、ショーヤが乗り込み、無事に出発した。
ちなみにサクも付き添いが許可され、馬車の上に陣取っている。
そんなところでいいのかと聞くと、危険が迫った際にいち早く対応するため、だそうだ。
しかし、『神速の剣姫』が乗る馬車に、誰が好き好んで襲撃をかけるというのか。
王宮の護衛よりも頼れるんじゃないか。
こんな規格外な存在が居るところに攻めてくるなんて命を投げ捨てるのと同義だ。
もっと命を大切にしろよ。
いのちだいじに、ってトップがめいれいしないといけない場面だ。
向かいに座る規格外な姉さんは外の景色を静かに見ていた。
喋らなければ絵になるのだ。
口を開くとガッカリ幼女だけどな。
俺の隣では乗り物酔いでダウンしているシャルロットに、イオが回復魔法をかけていた。
なんだかんだ言いつつも、きちんと介護しているあたりイオの優しさがうかがえる。
それを横目に緊張した面持ちのアカネに声をかける。
「アカネ、今から緊張してたら身体もたねーぞ。」
「学園に入ってから負けっぱなしだから、ちょっと自信なくなっちゃって・・・」
俺との鍛錬で昔から1度も勝てていないので、負け続けても折れない奴なのかと思っていた。
だが剣士タイプではないイオに手も足も出ずに負け。
自分が教える立場であったシャルロットにも隙をつかれたとはいえ場外まで飛ばされた。
これらは今まで積み重ねてきたアカネの自信を打ち砕くには充分だったのかもしれない。
しかし剣術での平面勝負では、俺以外には負けていない。
アカネの強さは1対1の剣術でこそ発揮されるのだが。
共に闘ったショーヤもそれに気付いているようで、心配することないとアカネを励ましていた。
しばらくして、シャルロットの介護にひと段落したイオは俺の肩に頭を預けるようにして眠ってしまった。
出発してから3時間、ずっと回復魔法を使っていたのだ。
疲れるのも無理はない。
姉さんがニヤニヤしながらこちらを見ているが、この幸福感に俺も思わずニヤついているだろうから何も言うまい。
アカネはジト目、ショーヤは穏やかな微笑みを向けてきたが。
そこは兄として妹の心配をした方がいいんじゃないか、ショーヤ。
そんな至福の時間はすぐに過ぎ去るもので、あっという間にクノッサスへと到着したのだった。
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クノッサスは冒険者ギルドの総本部があり、無数の冒険者で賑わう国である。
国のど真ん中に冒険者ギルド総本部があり、そこから東西南北で街並みが変わる。
東側には大きな商店街。
冒険者御用達の武器・防具屋、アイテムショップ、市場や病院、多数の宿屋がこれでもかと言わんばかりに並んでおり、クノッサスの玄関口。
南側は歓楽街。
数えきれない程の飯屋、夜の店、賭博場など、ある意味ここが一番の無法地帯だ。
北側は居住区。
王宮や、大図書館、大神殿などがあり、この国で一番静かな地区。
そして西側、大闘技場を中心とした、通称決闘地区。
大小合わせ4つの闘技場があり、あらゆる大会が年間を通して行われている。
明日から行われる新人戦も例外ではない。
それぞれの学園で東の宿を借り、西で決闘をする。
いつからかそのような暗黙のルールが存在しており、特別な事案がない限り南北への移動は制限される。
俺たちも例にもれず、東側からクノッサスに入国する。
入国管理のためのゲート前に到着すると、人だかりができていた。
何かトラブルでもあったのだろうか。
「っせぇなぁ、新人戦出場校だっつってんだろが!」
「し、しかし・・・」
人だかりに近づくと、徐々にやりとりが聞こえてきた。
周りの冒険者達がまだかとイライラしているのが分かる。
しかしガラの悪い奴がいるな。
同じ出場校として恥ずかしいからやめてほしいものだ。
一体どこのどいつだ。
「ん?あいつは・・・」
騒ぎの中心に居る団体を見つけ、姉さんが何か気づいたようだ。
初戦の相手はヤンキーか何かかよ。
相手したくねぇなと顔に出ていたのか、姉さんがちょっと行ってくるから待ってろと言い残し消えた。
火に火薬ぶちまくような真似はしないでほしいのだが。
「よぉ、アレク。相変わらずいつでもどこでも荒れてんな。」
姉さんが入国管理者に怒鳴っていた男に声をかけた。
すると男はピクリと身体を反応させ、ゆっくりと振り返った。
姉さんの倍近く身長のあるアレクと呼ばれた小太りの大男は、顔に青筋を浮かばせ、鋭い眼光で姉さんを睨んだ。
離れていても分かるほどの、ものすごい殺気だ。
「『剣姫』・・・テメェ、なんでここに居やがる。」
その顔を見て思い出した。
100年に1人の天才と呼ばれ、ノースリンドブルムに堂々の主席で入学。
その年からノースリンドブルムを団体戦3連覇に導いた手腕、頭脳を持ちながらも、自らも先陣を切って闘う武闘派。
その剛の剣は立ちふさがる敵を薙ぎ払い、自身の持つユニーク属性スキルは敵の思考を読み取る。
ユニークスキルで相手の先手を取り、聡明な頭脳から出される千手の作戦。
ついた二つ名は、『先手の戦神』。
そんな天賦の才を持っている彼だが、実は他の大会の成績は芳しくない。
新人戦では決勝敗退。
個人戦では3年連続準優勝。
いずれもイーストテイン学園が誇った天才、ミドリ・アマハラが四度彼の前に立ちはだかった。
『神速の剣姫』と同じ年に入学してしまったというだけが不運の、正真正銘の戦の天才。
アレクサンド・ドラコニクス。
現在はノースリンドブルムの学長を務めている男だ。
「なんでって、お前なら言わなくても勝手に読むだろ。」
「なるほど、アビスリンドか!
こりゃあいい。
テメェの大事なガキどもを捻り潰して、俺が過去に味わった辛酸をテメェにも味あわせられるってもんだ!」
アレクサンドはニヤニヤと口元を歪ませた。
姉さんはクールそうに見えて挑発にめっぽう弱いからなぁ。
これは火薬投下案件だろうな。
「思考を読むとは、相変わらず趣味の悪いスキルだな。
ああ、そうだ。1つ言っておかなくちゃだな。
明日帰るんだから荷解きは程々にして、帰る準備しておけよ?」
「テメェ・・・潰されてェのか!!」
ドガン──
姉さんが居た場所に大剣が振り下ろされ、地面が大きく抉れた。
もっとも、俺の横に戻ってきているので無傷なんだが。
「おいアレク。
ここに居る5人が、数年前と同じ気持ちを思い出させてくれるだろうよ。
明日が楽しみだな?」
シャルロットは未だに青ざめた顔ながらに腕を組んで仁王立ち。
まだ眠っているイオをおぶり、やれやれといった表情を浮かべるショウヤ。
左手に人と書いては飲み込み続けるアカネ。
だるそうに大あくびをするユウリ。
誰がどう見ても優勝候補筆頭のノースリンドブルムを倒せるようなメンバーではない。
周りの冒険者にも笑われ、いいぞ、頑張れ、などと言われている。
しかし『神速の剣姫』のその顔は、数年前のソレと変わらない。
勝利を信じ、いや確信している自信満々の笑みだ。
その顔を6年ぶりに見たアレクのいかりのボルテージがあがったことは言うまでもない。
ノースリンドブルム選抜メンバーが馬車から降り、アレクを5人がかりで抑えつけ、それぞれがこちらを一瞥した。
その後しばらくして入国していった。
周りにいた冒険者も散り散りになり、時間をおいてアビスリンドの面々も無事に入国。
ようやく、クノッサスへと到着した。
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宿に入り、3人部屋2つに分かれて泊まることになった。
男女比が2:4なのでショーヤと姉さんが同室が妥当かと思っていたが、イオが震えているシャルロットの首根っこを掴んで俺の横に来た。
王女様は馬車の並びと同じ部屋割りをご所望のようだ。
姉さんがニヤニヤしながら許可した。
まあ昔からアカネを妹のように可愛がっていたし(スキンシップ方法には問題があるが)、緊張している妹分を放っておけないという気持ちもあるだろう。
ショーヤが明日の朝に疲れ切った顔をしていそうだが、面倒見がいいショーヤが今のアカネの傍に居てくれるのは俺としても助かるしな。
俺じゃ何もしてやれないどころか、姉さんと一緒にアカネをイジるだけになりそうなので同室は遠慮しておこう。
可愛いイオと、それなりにウマの合うシャルロットと同室になれるからじゃないよ、決して。
断じて違うぞ、うん。
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「2人、やべぇのがいたな。」
ベッドに寝そべりながら、ユウリがつぶやいた。
他の3人は正直アカネ1人で同時に相手をしてもお釣りが来る程度の実力だろう。
だがその2人だけは別格だった。
正直、自分でも勝てるか分からない。
おそらく両者ともにユニーク属性スキルを持っているのだろう。
どんなスキルか分からない上に、実力も高いのだ。
相手にするのは得策ではない。
「たまに思うのだけど、アンタってスカウターでもついてるわけ?」
剣の手入れをしていたシャルロットが反応した。
スカウターとは。
53万とか言っておけばいいですか。
「牛若丸の時もそうでしたけど、ユーリさんってオーラとかそういった類のものが見えるのかなって思ってます。」
「見えるというか感じるというか・・・自分でもよく分からん。
ジジイや姉さんと昔から闘ってたからなのか、分かるんだ。」
そう、分かるのだ。
いつ頃からかは覚えてないが、相手の力量がぼんやりとだが分かるようになっていた。
この人は強い、あの人なら速度強化を使うまでもない、とかそのレベルだが。
もちろんそれで痛い目をみることもある。
相手の強化魔法がやたらと強力なものだったりすると、速度強化をかけておかなかったことを後悔する。
イオのような魔法使い相手ではそもそも分からない。
これはどんな魔法が使えるかが分からないのだから仕方ない。
自分に攻撃魔法の才能がないのもあってか、相手がどれだけ強力な魔法を使える魔法使いだとしてもそれを感じ取れないのだ。
牛若丸を感じ取れたのは、牛若丸が魔法使いタイプではないからだろう。
そう、剣士だけは分かるのだ。
今まで姉さん以上の絶望感は味わったことはないが、アレクサンドも相当なものだった。
今の俺が全力で闘っても勝率は3割にも満たないだろう相手だ。
アレを4完封するとは、ウチの幼女は本物の化け物だ。
「なんにしても、明日の試合は荒れそうね。」
剣を鞘にしまい、腕を頭の後ろで組んだシャルロットがベッドにボフンと倒れた。
荒れそう、か。
この2人の対戦相手にヤバい奴が当たらないように祈るしかないな。
ショーヤは『魔力干渉』でなんとかするだろうし、アカネに関しては心配していない。
緊張しいではあるが、かなりの負けず嫌いで、うちの道場でジジイを除けば俺に次いで2番目の実力者だしな。
もっとも最近は負け込んでいるので、ちょっと落ち込んでいたが。
実力を出し切ればおのずと結果はついてくるはずだ。
「明日は早いですし、そろそろ寝ましょう。」
イオの掛け声で、俺たちは寝床についた。
隣の部屋からアカネの悲鳴と、姉さんの笑い声が時々聞こえ、なかなか寝付けなったけどな。
ショーヤの苦労している顔が夢に出てきそうだった。
新人戦試合開始まで、あと12時間。
第一章 入学編 完
第二章 新人戦編に続く
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




