百〇三ノ舞「きっと無茶をして、いっぱい頑張って」
-----通常視点
互いに連撃を仕掛けては受け止め、攻守が切り替わり攻撃を受け止められ。
こんなやりとりがかなりの時間続いている。
素で『速度強化』に難なくついてくるこの爺さん、ホントに何者なんだ。
ジジイと何度か闘ったことがあるみたいだったけど。
失礼だが歳のわりに攻撃がやたら重たく、そして鋭い。
その全てが俺を倒すための攻撃で、防ぐだけでもかなりの集中力を要している。
剣の束でガードしなければならないこともしばしば。
正直かなり危ない橋を渡っている自覚はある。
「ホホ、やはり強者との闘いは楽しいですねえ。」
「こっちはいっぱいいっぱいだっつの。」
言葉の通りこちらはギリギリなのだが、相手はまだ余裕を残している。
汗のひとつもかいてねえし。
こっちは汗だくで肩で息をし始めたというのに。
「とりあえず聞いておきたいんだが、特効薬はあるのか?」
「まあ、ありますよ。ワタシに勝てたら倉庫の鍵もお渡ししましょう。」
「話が早くて助かるわ。なおさら負けられねえ。」
新たな『陸式』で突きを試みるも、剣先をきっちり剣で受け止められる。
さっきから『剣の舞』がことごとく潰されているのだ。
自信のある壱式、威力のある伍式、そして最速の陸式。
その全てを剣で受けられた。
もはやこちらの攻撃が通る気がしない。
10秒しかもたない拾式に頼ってしまいたい気持ちはやまやまなのだが、いかんせん発動できる隙すら与えてもらえない。
そして何より相手の底なしの体力が厄介すぎる。
これでは俺が先にバテてしまうだろう。
しかし相手も人間だ。
攻撃を防げないわけではないし、カウンターもそれなりに仕掛けることはできている。
相手の動きをよく見て、それに合わせてきっちりと守っていけば─
ガキィィィン─
剣の束で右からの斬撃をガードし、攻撃に移ろうと1歩踏み込んだ。
その瞬間、鋭い蹴りに襲われた。
「ぐっ・・・!」
左のあばらを思い切り蹴られ、ミシリと嫌な音が響いた。
蹴りまでこんなに重たいとは。
そしてカウンターに移る一瞬を狙われた。
今までの攻防を無に帰すような、鮮やかなカウンター返し。
流石にこれは文字通り骨が折れる。
-----ミドリ視点
ユウは順調に成長してきているように見えるが、実際はそうでもない。
もちろんあの『雷神モード』は正直アタシでも手に負えない代物ではあるが。
自分だけの剣技を作ることにこだわりすぎているんだよな。
その点シャルロットは貪欲で、自分にないものをどんどん吸収していっている。
0を1にするより、1を10にしに行く方が圧倒的に成長速度は早い。
もちろん前者の方がオリジナルで誰も見たことのないものを作れるという点でアドバンテージがあるものの、その労力は後者よりも大きい。
入学前からのユウと来たら、それにばかり目がいっていて自慢の剣技を育てていない。
ここでアドバイスしてしまったらアイツのためにならないから言うつもりはない。
思い出せ、ユウ。
サムライの下でアマハラの剣を習得していった日々を。
そして、その剣の強さを。
お前の剣捌きがあれば、本来ならとうにサムライをも凌駕しているんだ。
「今ここでそれができなきゃ、あと2か月もあればシャルロットに置いて行かれるぞ?」
-----シャルロット視点
ミドリ師匠のつぶやきの真意はなんだろう。
確かにユウが劣勢ではあるけど、今ここでやらなきゃいけないこと。
それができなければアタシに置いて行かれる?
師匠のことだからおそらく実力のことを言っているのだろうけど、アタシがユウを超えるなんて想像がつかない。
入学式で背後を取られた瞬間から、この人には逆立ちしても敵わないと今でも思っている。
もちろん闘うことになったら全力でぶつかるけど。
・・・でも確かに『剣の舞』1つ1つは強力だけど、追えない速度ではない。
まあ『神速の剣姫』を見慣れたからこそではあるんだけど。
それよりもなんだろう。
『剣の舞』でもない単純な斬り合いで来られたら勝てる気がしないのに、『剣の舞』は守れる自信はある。
これは矛盾なのかな?
でも斬り合いの中で壱式を混ぜられたりしても守れる気はしない。
なんだろう。
このもう少しで答えが出そうなのに出て来ない感じは。
そんなもやつくアタシの隣で、レイさんが呟いた。
「んー、彼はもったいないね。」
「もったいない?・・・・・・ですか?」
「敬語苦手なのか?別にその辺は気にしてないからタメ口で構わないよ。」
「いえ、すいません。師匠たちがそういうの厳しいので。」
「まあ人として育てるのであれば、そういうのも必要か。」
「それで、もったいないってどういうことですか?」
「んー、剣捌きはミドリ以上に見えるんだけど、技が良くないね。
いや、充分破壊力はあって良いんだけど。」
良いけど良くないってことかな。
そんな会話をしていると、ルーナ師匠が隣に歩いてきた。
「それ以上は本人が気づきべきことだよ。
私たちがそれを教えてしまったら、彼のためにならないからね。」
その言葉に頷くレイさん。
苦戦しているユウを助けてあげたい気持ちはある。
でもミドリ師匠を含めた3人は、どうしたらいいかを分かっていて敢えて伝えない。
それはきっと、ユウへの期待の気持ちからだ。
アタシにもその気持ちは大いにある。
それでもアタシの場合はそれに頼ってしまう気がする。
今回もそう。
一番厄介な相手をユウが受け持ってくれて、安心してしまった自分が居た。
ダメよね、それじゃあ。
隣で闘いたいと思っているなら、助け合いができてこそだ。
3人が言わないのなら、アタシが気づいて教えてあげないと!
アタシのその決意の顔を見たルーナ師匠がクスリと笑った。
「ふふ、シャルロット。
君は本当にユウリ君が大好きなんだな。
良いよ、気づいたら言ってあげなよ。」
「はい!」
その返事はどれに対しての返事か、自分でも良く分からない。
けど許可が出た。
絶対に助けてあげるからね、ユウ─
-----通常視点
「くっそ・・・!」
これで何度目か。
攻撃を仕掛けようとした瞬間を狙われ、そこにカウンターを入れられている。
一番最初に蹴りをくらって以降はそれをガードできているものの、反撃の芽を潰されて続けている。
確かに踏み込みの瞬間というのは意外と見えたりはする。
その踏み込みを誘われているような攻撃をされているわけではない。
なのに毎回攻撃に移ろうとするとカウンターを入れられ、すぐさま距離を詰められて防戦に回らされる。
相手の連続攻撃を捌くのに精一杯ではあるが、全部を受ける必要もない。
時には避けたり、弾いて動きを止めたりすることはできる。
問題はそこから踏み込もうとすると、それに合わされる。
ガッ─
くそっ、また合わされ「分かったー!!!」
シャルロットの大声に思わず2人とも振り向く。
「ユウ!『剣の舞』なら、舞え!!」
「いや、ちょっと何言ってるか分からないです。」
「ぷっ、あははは!!半分正解。」
ルーナ隊長が笑いながら肯定した。
シャルロットの隣でレイさんも2度頷く。
ふと姉さんを見ると、目を瞑りフッと笑った。
「半分正解ってどういううおっ!!」
闘いの最中によそ見をしていた俺が悪いとはいえ、いきなり斬りかかってくるかね。
相手の猛攻を捌きながら考える。
舞えとはどういうことだ。
『剣の舞』を連続で使用しろって言いたいのだろうか。
いや、そもそも単体で機能していないのだから連続で使用したところでダメだろうな。
じゃあなんだ?
舞・・・流れるような動き・・・?
・・・試してみるか。
相手の連続攻撃を捌き、右側からの攻撃を剣の束でガード。
そのまま踏み込まずに流れるように─
「『壱式 居合─柳閃』」
ガキィィィン─
相手にガードされたものの、大幅に後退させることができた。
そのアドバンテージを活かし、今度はこちらから攻めに入る。
今の壱式は、さっきまでのようにカウンターをくらうことはなかった。
踏み込みがなかった分、普段より数段威力は落ちていた。
それでも相手は必死にガードをするほど追い込まれていたように見えた。
攻撃でもそれを活かせないか?
相手の防御を見つつ、素直に剣を振る。
動きの中でたまたま『剣の舞』のスタート位置に剣が来た。
そのまま流れるように─
「『伍式 破剣─星崩し』」
バキィッ─
咄嗟に剣を合わせてきたものの、普段の威力には程遠い伍式がその剣を砕く。
ユウリには、自身の心臓の音が大きく聞こえていた。
今の自分に何が起きているのかが分からない。
そんな表情をしながら、相手に斬りかかる。
その姿に、『神速の剣姫』は優しい笑みで小さく言葉をこぼした。
「おめでとう、ユウ。それがお前の『剣の舞』の完成形だ。」
続けざまに暗器を取り出されるも、全てを砕いてゆく。
先ほどまで階段付近まで追い込まれていたのが嘘のように、今度は保管庫近くまで相手を追い込んでいた。
いつしか相手の額から大粒の汗が流れ落ち、表情からも必死にかろうじて防いでいるのが見てとれる。
しかし自身に何が起きているのかを理解できていないユウリには、それは見えていない。
だが今の自分の攻撃は間違いなく、あれほどまでに押されていた相手を押し返している。
それだけは理解できていた。
ここまで何度も伍式で武器を破壊してきた。
それは狙ったわけではなく、ユウリの直感で選んだ結果だ。
そしてその直感での攻撃は、相手の守りを誘導していた。
ユウリの剣が右肩前に差し掛かった瞬間、今まで左肩口から何度も振り下ろされていた相手は咄嗟に左肩付近に意識がいく。
「『陸式・改 閃光─雷鷹』」
ドスッ─
雷を纏った突きが、相手の右わきに突き刺さる。
カランッと音を立てて暗器が床に転がり落ち、剣を引き抜くと膝を付いた。
「・・・見事・・・。雷を斬った剣が、雷を纏うとは・・・皮肉なものだな。」
「回復魔法使えるよな。終わってからでいいから、鍵をくれ。」
自身に回復魔法をかけて傷を塞いだ老人は、疲労感からか壁にもたれかかった。
その姿を見て剣についた血を払い、鞘に納めようとして放り投げていたことに気付く。
仕方がないので手に持ったまま、逆の手で鍵を受け取った。
「お、お前ら、勝手は許さんぞ!!
そこの王国騎士団、見ていただろう!!
現行犯で捕まえんか!!」
高い金を払って雇った護衛がことごとく打ち破られ、信じられないと言った表情で喚くジャベリック。
そんな彼に向かって歩くルーナ隊長。
これでお前らは終わりだと言いたげににやけるジャベリックに、ルーナ隊長が冷たく言い放った。
「私がここに来たのは別件なんでな。
1年前、そして今年の個人戦。
学生を唆して犯罪行為をさせた罪により、ジャベリック・ペドロ・アルチザーノ。
貴様を逮捕する。」
「な、なんだと!?一体どこにそんな証拠が・・・!」
ルーナ隊長が懐から音声を記録・再生できる魔道具を取り出し、その音声を再生させた。
聞こえてきたのは、ルカリ・ネス・チップの声。
1年前、リー・セイとの模擬戦をしていた際の自身の流れ弾が、たまたま通りかかったルクス・アーク・フェギナの頭に当たってしまったこと。
そしてそれを目撃してしまったジャベリック。
黙っていてほしければ、今後言う通りに動けと脅されていたこと。
続けてチャンドラ・シルバー・サージの声。
そちらも全く同じ証言が記録されていた。
その声が広間に流れるに連れて、徐々に青い顔になっていくジャベリック。
ルーナ隊長は2人の証言の再生が終わったところで魔道具を止め、ジャベリックに手錠をかけた。
「これで少しはルクスも浮かばれるだろうか。
2番隊隊長ルーナ・フォルス・アイギス、王国騎士団を代表して此度の協力に感謝を申し上げる。」
「かたっくるしいのは良いよ、アイギス。
さっさと薬もらって行かねえと。」
「それは私が手伝おう。アイギスはその男を連行しなきゃだろうからな。」
ルーナ隊長がカッコよく決めたのに姉さんひどいな。
レイさんに鍵を手渡すと、すぐに特効薬らしき青色の液体が入った瓶を3つ持って出てきてくれた。
敵を含めた闘った全員に回復魔法をかけて魔力切れを起こしたイオをおぶり、全員で来た道を引き返す。
外に出ると、すでに夜だった。
誰が言ったわけでもなく病院に向けて全力で走り出す。
病院に着き医師に薬を渡す頃には、全員が疲労困憊といった体勢で崩れ落ちていた。
-----アカネ視点
目が覚めたら、病院のベッドに居た。
外は明るくなっていて、今がいつなのかも分からない。
お腹が空いて凄い鳴っているから、長いこと寝ていたのだろうけど。
あれ、そういえば団体戦はどうなったんだろう。
思わず勢いよく飛び起きる。
飛び起きても問題ないくらいには回復してるみたい。
この前までの身体の重さや、辛さは一切なかった。
そのまま無人の部屋の外に出る。
そして、目に入った。
病室の前の壁に寄りかかっているユウくん。
そのユウくんの肩にシャルルとイオちゃんが頭を乗せて。
少し離れたところでショウヤとトニーとアリスが並んで。
ほとんどがボロボロの恰好で、全員が熟睡していた。
・・・バカのわたしでも分かるよ。
わたしのためにきっと無茶をして、いっぱい頑張ってくれたんだよね。
「只今より、本年度団体戦決勝戦を開始いたします!!」
闘技場のアナウンスが街中に響いた。
ここに居るってことは、やっぱり負けちゃったんだ。
わたしのせいでごめんね。
でも・・・
「本当にありがとう、皆。お疲れさま。」
団体戦の結果への悔しさよりも。
自分のために頑張ってくれたであろう皆への感謝で、涙が溢れた。
第10章 疫病編 ~完~
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




