百〇一ノ舞「ライキリノヤスツナ」
-----通常視点
サクに支えられつつ階段を登り、次のフロアの前へ到着。
ようやくアリスに潰された視界が戻ってきたところだ。
しかしどうやらフロアの中が騒がしい。
まあこれだけ派手に暴れていれば慌てもするか。
「『神速の剣姫』と『王国騎士団最強の盾』までカチコミに来たらしい!!
7階に来る前に抑えるぞ!!」
あっ、身内がなんかごめんなさい。
俺らのことは眼中にないってことには思うところはあるが、目的は果たしやすくなるので結果オーライ。
サクの『隠れ身の術』で全員が上手いこと隠れ、おそらくこのフロアに居たであろう敵が全て下に降りて行ったのを確認してフロアに入る。
案の定無人に見えるが、先ほどサクが急襲されるほどの手練れも居るのだ。
油断せずに進んでいこう。
進むうちに上がってきた階段の方から悲鳴が聞こえてきた。
まーた無双してるのか、うちの姉は。
ここまで来ているということはシャルロットもアリスも含め、皆無事だな。
とりあえずは一安心だ。
なんて考えているうちに次の階段を発見。
本当に誰とも遭遇しないとは、恐るべし『神速の剣姫』の名。
階段を登ると、今までとは違う造りのフロアに出た。
明らかに豪華すぎて趣味が悪い。
アスカ先輩がおぶっていたクロエが降り、俺のこめかみに触ると頭の中に声が流れた。
(ここが保管庫と社長室のある8階、あの正面の一番大きな扉が保管庫ですわ。
・・・すんなり通してくれるとは思いませんけれど。)
クロエの視線の先に現れたのは、いかにもここのボスであろう趣味の悪い装飾をジャラジャラとつけた成金。
それを守るように5人の男女がこちらを見据えていた。
「お前ら普通、本当にここまで来るかね?これがどれだけの大罪か分かってやってるのか?」
「本当に薬がないのであれば罪を償いますよ。この目で確かめるまではあきらめるつもりはありませんけど。」
「まあどのみちお前らはここで終わりだ。この選りすぐりの5人に勝てるわけがないからな。」
5人の中で一番厄介そうなのは灰色の顎髭を生やした紫スーツのじいさんだが、他の4人もさっきまでの中ボスと同等かそれ以上の実力者だな。
魔法使いが居ないのは助かるが、数的不利はどうにも覆せないか。
拾式で片っ端からつついてみるか考えていると、階段から大きな悲鳴が聞こえた。
「やーっと追いついたぞユウ!アカネのためとはいえお前アホ!!」
「ボキャブラリーの無い奴に言われたくねえぞ。」
「そんな口きいていいのかなあ?助太刀しようとしてたんだけどなあ。」
「する気ないくせにそういうこと言わないの。」
「あら、バレてたか。」
何年一緒に居ると思ってんだ。弟なめんな。
しかしシャルロットをかついで大勢と闘ってきただろうに、息一つ乱していないとは。
まだ余裕で現役いけるじゃねえか。
アリスを担いで遅れてきたルーナ隊長は肩で息をしているというのに。
「・・・アリス、1回だけ『完全回復』使えたりしない?」
「ちゃんとユウリくんと一緒に看病してくれるなら良いわよ。」
「アカネが無事で居られるなら、そんなのお安い御用よ。」
「・・・『分身の術』。『完全回復』。」
シャルロットを回復させるなり、アリスは魔力切れなのか眠ってしまった。
後は任せてと言わんばかりに姉さんから飛び降り、こちらに歩みを進める。
というか今勝手に俺の同行まで承諾しなかった?
「次が最上階だそうですよ、トニーさん。」
「もう少しだ、頑張れ。」
「間に合ったみたいだな。」
遅れて到着したのはショウヤ、イオ、トニー。
そして入口で対応された秘書さんだ。
なぜ秘書さんは3人を護るようにあがってきたんだろうか。
「良いところに来た、ヴェント!このガキどもを排除するのを手伝え!」
ジャベリックが秘書さんに向かって叫ぶも、ヴェントと呼ばれた秘書さんは首を振る。
「ここへは辞表を提出しに来ました。
1人の仲間のためにこれだけの無茶をする彼らを見て、目が覚めました。
もう貴方の言いなりにはなりません。
短い間でしたがお世話になりました。」
その言葉に額に青筋を浮かべるジャベリック。
まあこれだけ優秀な剣士を秘書として使う程度しか理解のない人間だ。
そんなトップの会社には俺でも居たくない。
ミドリ・アマハラという人物は頭の出来は良くないが、直感力は驚異的なものを持っている。
急に何かを思いつき嬉しそうにニヤリとしたと思ったら、思いもよらぬ言葉が出てきた。
「レイ・ヴェント、君の剣の実力を見込んで問おう。
アビスリンド学園の講師として、働かないか?
給料は今より下がるかもしれないがな。」
「目の前で引き抜きとは、相変わらず破天荒な人だね。
良いよ、その話し乗った!
今年のダークホースからのお誘いだなんて、嬉しい限りさ。
それに、好きなことをしてお金がもらえるんだ。
安かろうが構うものか!」
「おっしゃ、それじゃあ最初の仕事だ。
教え子たちを護れ。方法は問わない。以上!」
「・・・まさか『神速の剣姫』に仕えることになるなんてな・・・。
『神器開放─黒漆騒速』。」
レイの目の前に円形の白い光が現れ、そこに両手を突っ込む。
引き抜いた手に握られていたのは、名の通り漆黒の剣が2本。
双剣ではなく、二刀流ということなのだろう。
隣で召喚魔法らしき魔法に目を輝かせている奴も居るが、それはおいておこう。
レイさんも一緒に闘ってくれるらしいので、これで5対5だ。
「それにしても、こっちが揃うまで待っててくれるなんて悪の組織らしくないわね。」
「案外悪いのはジャベリックだけかもしれないぞ。」
「なるほど、その発想はなかったわ。」
シャルロットとそんな会話をしつつ、敵と対峙する。
両端の2人が左右に駆けだしたのを見て、サクとアスカ先輩がそれぞれ追いかける。
残った3人のうちの1人、紫スーツのじいさんが瞬きする間もなく目の前に現れていた。
シャルロットもレイさんも完全に反応できないほどの速さだ。
暗器だろうか、逆手に持ったナイフを横薙ぎに振られて木刀でガードする。
普段であれば大剣とも打ち合えるはずの武器強化がされている木刀だが、ガードの拍子にヒビが入ってしまった。
「逆手で振ってこの威力かよ・・・!」
「よく反応した。次行きますよ。」
左右の手で次から次へと攻撃を仕掛けてくるじいさん。
やってることはショウヤの『幻影』とほぼ同じだが、パワーはトニー並みで速さはジジイくらいあるぞ。
いくつかガードした時点で木刀が悲鳴を上げてしまった。
たまらずバックステップで距離を取るも、すぐさま追撃がきた。
俺の速度についてくるなんて、本当に何者だよこのじいさん。
サムライと比べてもなんら遜色ないぞ。
「ユウ、これ使え!」
姉さんが投げてよこしたのは、普段携えている刀。
その実、サムライから譲り受けた俺の真剣だ。
最後に使ったのは姉さんの事故の時だから、実戦で使うのは5年以上ぶりになるな。
「鞘に収まったままとはいえ、普通投げるかよ・・・!」
「隙ありです。」
ガキィン─
カランカランと鞘が地面に落ちる。
木刀では受けきれなかった攻撃も、この剣なら受けきれる。
「これはこれは、懐かしい刀だ。古傷が痛みますね。」
「今は譲り受けて俺の愛刀だけどな。やっぱりジジイの知り合いか。」
「サムライとはそうですね、ライバルといったところでしょうか。
『雷切安綱』と再び相まみえることになろうとは、長生きはしてみるものだ。」
ジジイ曰く「元は違う名前の刀だったんだが闘ってるさなかに雷が落ちてきたのを斬り捨てたらそう呼ばれるようになった」とのこと。
詳しくは知らん。
実際見てねえし、そんなことできるとも思っちゃいない。
咄嗟のガード以降、どちらからともなく互いに距離を取り膠着が続いていた。
-----シャルロット視点
ユウが一番厄介そうな人を受け持ってくれた。
あの人と闘うことになったらアタシはたぶん勝てなかっただろうから、助かったという気持ちはある。
けど、そんな気持ちじゃいつまでたってもユウに甘えてしまう。
このままじゃダメよね。
「レイさんは攻撃タイプって印象ですけど、どうでしょう。」
「君の師匠たちには通用しなかったけどね。」
「それはあの人たちがおかしいだけなので気にしないでください。」
「仮にも弟子だよな?」
「え?はい。」
「まあいいや、バックアップ頼めるかい。」
「任せてください、たぶんそれなら得意です。」
「ハッ、面白い生徒しか居ねえなホント!!」
言いながら突進していくレイさん。
後を追うように着いて行く。
残るは男1人女1人。
この2人はアタシたちで片付けるわ。
レイさんが男に向けて牽制の斬撃。
それをガードしようとする剣に向けて『複製』の1枚で妨害し、防御をずらすことに成功。
とはいえ相手も百戦錬磨。
防御をずらされる瞬間から回避行動に移っており、難なく牽制を躱していた。
間髪入れずに女が牽制を入れた体勢のレイさんに斬りかかる。
「『猛毒』。」
以前団体戦で褐色ロリ先輩の召喚獣を瞬殺した毒の盾だ。
女の攻撃を防ぐつもりで出したのだが、攻撃のモーションに入ってから出現させたのにも関わらず動きを止められた。
人間の動きじゃないわよそれ。
どんなコマンド入力してるのよ。
毒の盾見てから攻撃キャンセル余裕ってこと?
「注意力散漫だが、バックアップに関しては完璧だな。『鉄壁のルーナ』と組んでいるようだったぞ。」
後退してきたレイさんが褒めてくれた。
また集中力が足りないと言われてしまったけど。
これは本当に直さなきゃいけないところね。
「ところで、あのレイピアの子は大丈夫かしら。」
「アスカ先輩なら問題ないと思いますけど?」
「そうか・・・厄介な相手だから、さっさとこっちを片付けて助けたいところだな。」
-----アスカ視点
部屋の中央から少し離れ、壁の辺りまで敵を追いかけてきた。
立ち止まった敵に向かい合う形でこちらも止まる。
距離は5メートルといったところか。
黒い肌で長身の男の手にはレイピアが携えられている。
こちらも同じレイピア使いとして、負けられないな。
「赤い髪の嬢ちゃんを釣るつもりだったんだけどな。」
「釣れたのが僕で悪かったな。」
「別に良いわよお、貴方でもお。」
急な女性の声に驚く。
ほんのまばたきをしている瞬間に、目の前の敵が先ほどアリス君が対峙した女性に変わっていた。
しかし手には同じレイピア。
何がどうなっているんだ。
目の前の女性が右手を自身の顔に被せると、さらに身体が変わる。
「まあ、驚くのも無理ねえよなァ。」
今度は王国騎士団の何番隊かの副隊長。
「アタシは闘ったことのある奴、誰にでも成れる『百面相』のユニークスキル持ちさ。」
お次はミドリ学園長。
「『神速の剣姫』を見ても表情を変えずとはな。」
さらには『先手のアレク』。
どれだけの偉人に見た目を変えようとも、実力まで同じな訳がない。
そう思えると、ただのピエロに思えて驚きもしない。
しかし次の顔を見て、不覚にも反応してしまった。
「ここまでポーカーフェイスだと・・・ついに反応したな。」
そこには産まれた時から知っている顔。
父様の姿があった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します!




