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剣の舞~サムライと呼ばれた祖父に鍛えられ、いざ騎士育成学校に入学したら剣術一位だったのでこのまま世界最強剣士を目指すけど、ラスボスはたぶん実の姉~  作者: あっきー
第10章 疫病編

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九十八ノ舞「ローレライ」


団体戦準決勝で敗北した俺たちは、その足でクノッサス商会へと向かっている。

悔しさはあるものの、吸魔病で苦しんでいるアカネをいち早く助けたいという気持ちの方が強い。

そしてそれはサクやアスカ先輩、アリスとトニーも同じだった。

闘技場内から外に出る通路の目の前で待機していたのだ。

全員にこれから殴り込みに行くと伝えたわけではないのだが、サク経由で話が行ったのだろう。

敵がどれくらいの人数居てどの程度の実力なのかが分からない分、味方は多いに越したことはない。


だが危険な行動であることには変わりはない。

下手をすれば今後の人生に関わる問題になる可能性すらあるのだ。

それでもアリス達は何も言わずについてくる。

まるで、そうするのが当たり前だと言わんばかりに。


それに対して俺たちも何も言わない。

逆の立場なら、必ず同じ行動を取るはずだから。



冒険者ギルドがある大広場。

中央の大きな噴水の淵に腰掛けて待っていたクロエと合流した。

スケッチブックで遅いですの、と怒られてしまったが。

しかしクノッサスでこのメンバーで行動するのは、やはり目立ちすぎているみたいだ。

相手の情報網に引っかかる可能性は非常に高いと言っていいだろう。

クロエと合流したことで、なおさら怪しまれるはずだ。

裏から入って罠にかけられるよりも、真正面から行って多少は警戒心を解いてから行った方がいいと思う。

そんな意見がすんなり通るほどには、現時点で周りから注目を浴びていた。



-----


「以前もお伝えしたように、薬の在庫はございません。

何度来られても急に増えることもありません。

お引き取りください。」


クノッサス商会へと入り在庫の有無を確認したところ、今回は客間に通されることもなく断られた。

それでも今回はクロエの証言もある。

はいそうですか、と引き下がるわけにもいかない。

クロエが必死にペンを走らせる。


(ウソですわ。ゼッタイ保管庫にありますの。)


それを見た秘書さんがわずかに眉を吊り上げた。

やはりこの人、知ってて隠しているのか。


「あるかないかは目で見て判断させてもらいます。」


言いながら全員で歩みを進める。

しかし一歩踏み出したところで、秘書さんに右腕を掴まれた。

この手の感じ、相当な剣の使い手だ。

帯刀していない状態なのは助かるが。


「お客様、勝手な行動は困ります。」

「こっちも仲間の命がかかって困ってるんだ。人の命と上司の命令、どっちが大事か考えてください。」

「し、しかし・・・。」

「そこで怯んだらアタシたちには口論じゃ勝てないわ。相応の覚悟はしてきてるもの。」


秘書はシャルロットの言葉に俯き、やがて手を離した。

クロエに先導されるままに階段を上へ。

結局秘書さんは見えなくなるまで俯いたままだった。



-----レイ視点


私は何をやっているんだろう。

6年前の個人戦と団体戦の結果を認められ、クノッサス商会へと就職することができた。

就職が決まった時は大喜びしてしまったけれど。

学生時代に培ってきた剣の腕は、ここでは何の意味もなかった。

買われたのは剣の腕ではなく、咄嗟の判断力だったみたい。


それはそうだ。

3年連続で個人戦ベスト8以上に名を連ねたものの、神速の剣姫、先手のアレク、王国騎士団最強の盾にそれぞれ敗れた。

どれだけ血の滲むほどの努力をしても届かなかった。

名門ウエストテインにして1年で個人戦代表に選ばれた時は天狗になっていたけれど。

その自信も木っ端みじんにされるほど、上には上が居ることを痛感させられた。

私の剣の実力はその程度なのだから、そこを買われるわけないか。


挙句学生に言いくるめられ、上司からの命すらも全うできない始末。

失敗にはやたらと厳しい人たちだし、これはさすがにクビは覚悟しないとかしらね。

ふふ、と自虐気味に笑ってしまった。


「あれ、レイ・ヴェントか?こんなところで何してんだ?」


フルネームを呼ばれたのなんていつ振りだろう。

思わずそちらに振り向くと、入り口には忘れもしない2人の影。

まさか名前を憶えられているとは。


「貴方たちと違って私の剣の腕では秘書がお似合いだったのよ。」


悪態半分、今の自分を見られたくない気持ち半分。

そんな言葉に、2人は思いもよらぬ反応を示した。


「貴女ほどの実力があって似合うわけないでしょ。」

「だよな!アタシらとアレクを除けば、アタシらの代で1番強かったもんな。」

「6年前なんて準々決勝でレイさん、準決勝でミドリで最悪だったわ。思い出したくもない・・・。」

「アタシ1年の時それだったぞ。試合終わって握手した時、ものすごい努力が伝わってくる手だったから負けられねえって気合い入れて修行したもんなー・・・ってなに泣いてんだ?」


思わず涙があふれるほどに。

言われたくないけど、ずっと誰かに言ってほしかった言葉。

あの時頑張っていたのは無駄じゃなかったんだ、と。

この2人にそんな風に思われていたなんて知らなかった。

知っていたら、違う道を歩めたかもしれないのにな。


「ところで、ここにうちのガキ共来なかったか?」

「15分くらい前に来たわよ。今頃上で暴れてるんじゃないかしら。」


血は争えないからね。

まさにこの姉にして、この弟あり。

貴方の学生時代そっくりだもの。


「まったく、どんな育ちしてんだよ。」

「「お前もな。」」



-----通常視点


2階に到着するなり、当然のようにお出迎えがあった。

屈強なグラサン黒スーツが3人。

予想はしてたけど、さすがに対応早くないか。

というかなんでこういう人たちってグラサンかけてんの?顔ばれ防止?

こんなに数が居たらいちいち覚えられねえのにな。


しかしここから目的地まで何階層あることやら。

全てを相手してたらこっちのスタミナがもたねえな。

そんな俺の思考をよそに、自己強化をし始める黒スーツたち。


「トニー以上にムキムキになってるけど、建物壊す気なのか?」

「ユウリわかってねえなあ!筋肉は多ければいいってもんでもないべ。」

「分かりましたから今はちょっと黙りましょう、トニーさん。」


「この建物には階層ごとに魔法遮断の結界が張られているんだよ。テロ対策にな。」


なるほど。つまりどれだけ暴れても問題ないと。

いや、それって逆効果じゃないか?


「筋肉は多ければいいってわけじゃないことを教えてやるべ。ここはオラに任せて、皆は先に行け。」

「それ死亡フラグよ、トニー。」

「助かるわ。また後でな!」


俺がクロエを抱え、心配するイオとシャルロットをサクとアスカ先輩が引っ張っていく。

もちろん通り抜ける時に攻撃されそうになったが、トニーがうまいこと受け止めてくれた。

でかい建物なだけあり、広い通路が幸いしたな。

どれだけ暴れても崩壊の危険がないのであれば気にすることはない。

敵に全力でぶつかれるってことだろ。


結局トニーが殿となって階段の入り口を塞ぎ、俺たちを上階へと逃がしてくれた。

目指すは最上階。

この調子で1フロアごとに敵が居ると想定して、1人もしくは2人で1階層を突破すればたどり着けるだろうか。


3階が目前に迫った瞬間、温度の上昇を感じて脚を止めた。

真後ろを走っていたシャルロットが背中にぶつかり変な声を上げていたが、これは脚を止めざるを得ない。

フロア全体が燃えているのだから。


「へえ、アタシに対する挑戦かしらね。こんな炎でアタシが止まるとでも思っひょあああ!??」


久しぶりに首筋に『凍える風(フリーズ)』を被弾し、さらに変な声を出すシャルロット。

涙目になりながら後ろを振り返ると、肩で息をして目に見えて疲れているイオが居た。


「お恥ずかしながら、これ以上階段を走るのは無理なようです。3階(ここ)とトニーさんのフォローは私がやります。」

「それなら僕も残ろう。魔力が切れたイオを放っておけないからな。」


アビステイン兄妹が前に出る。

体力はともかく魔力はまだ存分に残っているだろうに、ショウヤは心配性だからな。


「ありがとうございます、兄さん。では心置きなく全力でいきます。」


燃えているフロアの目の前に立ち杖を構えるイオ。

杖へと練り上げる魔力の量は今までのどの魔法よりも大きい。

そして『大寒波』の比ではなく冷たい。

薄く青い光が階段全体からイオの杖の先端へと集まっていく。


一滴(ひとしずく)からなる蒼き波紋。

その雫は氷花となりて。

与えるは絶望。求めるは静寂。

すべての運命を凍結し、沈黙の静けさを。

太古の虚無よ。世界を永遠の眠りに誘え!!


神話級(レジェンダリー)氷属性魔法(アイシクル) 孤独な美しき歌声(ローレライ)』!!」


詠唱の途中から辺りの温度が急激に下がり始め、魔法を放つ瞬間には冷凍庫に閉じ込められたのではないかと錯覚するほどの体感温度だった。

青い光がイオの杖から燃えているフロアに飛び立ったと思った時には、すべてが終わっていた。

文字通りの運命の凍結。

そのフロアだけ、完全に時が止まっている。

もちろん、燃えていた炎すらも。


「フロア毎に結界張ったのは、やっぱり失敗なんじゃないか?」

「階段にも影響はないんですねー。」

「相変わらず負けず嫌いね。差を縮めたと思ったらすぐ引き離すんだもの。」

「コオリ・・・コワイ・・・」


1人トラウマがさらに酷くなった奴も居るが、サクの言う通り階段には影響がない。

結界はフロアの入り口から出口までを綺麗に覆っていると思って間違いなさそうだ。

そしてライバルの神話級にあてられ、目に見えてやる気があがっているアリス。

無茶だけはしてほしくないものだけど。


「上からの動きはこれでほぼ封鎖できただろうし、僕らは宣言通りトニーくんのフォローに回るよ。あとは頼むぞ、ユウリ。」

「おう、任された。」


額から汗を流しているイオを支えながら、こちらに左手の拳を向けてくるショウヤ。

ここで2人を失うのは痛いが、1対3で残っているトニーも心配だ。

ショウヤの拳にこちらの拳をぶつけて、凍り付いたフロアへと足を向けた。



転ばないように通り抜けながら敵の人数を数えると、3階では7人が凍り付いていた。

2階では3人だったのに対し、7人だ。

これから徐々に人数も増え、強敵も増えてくるのではないか。

そんな相談をしながら、凍えそうになりつつも歩みを進める。


今の俺たちに立ち止まったり、振り返ったりする選択肢はないのだ。

残るメンバーは俺、サク、アスカ先輩、シャルロット、アリス。

そして非戦闘員であろうクロエ。


魔力まで回復できるという切り札であるアリスというカードを、どこまで切らずに行けるかが勝負だな。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします!

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