九ノ舞「コオリコワイ」
ふと目が覚めると、見知らぬ部屋にいた。
しかもベッドに突っ伏しながら寝ていたので身体が痛い。
寝ぼけながらリビングに行くと、焼き魚のいい匂いに腹が鳴った。
「おはようございます、ユーリさん。昨日はその・・・ありがとうございました。」
エプロン姿でこちらに気づき、笑顔でお礼を言うイオ。
可愛い女の子がエプロン姿で朝食を作ってくれているシチュエーションにこそありがとうございます。
にしても、量がものすごいあるんですけど・・・?
「ちょっと、頑張りすぎちゃいました。」
そう言いながらウィンクをしてペロッと舌を出すイオ。
神よ、イオと同室にしてくれて心からありがとう。
「さすがに2人じゃ食べきれないから皆を呼んでくるよ。」
呼ばれてきたシャルロットは驚きの表情を、アカネは笑顔でよだれを垂らし、ショーヤはまたか、と頭を抱えるのだった。
「そういえば、初戦のオーダーはどうしようか。」
朝食を食べ終えると、ショーヤがこんなことを言い出した。
毎試合オーダーを入れ替えられるので、毎回考えないといけないのか。
めんちいな。
「ここに来てから負けっぱなしだし、緊張しちゃうから最初がいいな。」
アカネが苦笑いで答えた。
イオに負けたことを気にしているのか、珍しく少々落ち込み気味だ。
「俺、大将でいいぞ。」
その言葉に4人の顔が一斉にこっちを向いた。
なんだよ、そんな変なこと言ったつもりはないぞ。
「珍しいわね、アンタが率先して大将なんて。」
「ユニーク属性持ちが2人は最低でも居るんだろ?俺なら先鋒か中堅のどちらかと大将に置くからな。
相手の手の内が分からない以上、魔法をほぼ使わずに闘える俺とアカネ、ショーヤがそこに入るのがいいと思ってな。」
「なるほど、一理あるね。それなら僕は中堅に入ろう。」
俺の言葉に納得したのか、即決してくれるショーヤ。
となると性格からして、イオが次鋒、シャルロットは副将ってところかな。
提案すると、2人とも頷いた。
初戦のオーダーが決まったところで時計を見ると、そろそろ学園に向かわないといけない時間になっていた。
それぞれが一旦部屋に戻り、学園へと向かった。
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普段の授業は机に突っ伏しているのだが、剣術実技の授業だけはきちんと起きている。
何せ講師は姉さんだ。寝ていたら病院のベッドで突っ伏すことになる。
「今日はツーマンセルの実戦形式で行う。男女ペアを作れ。」
そう言われ各々組み始めた。
アカネはショーヤと組むのか。
イオは・・・ああ、複数の男子に囲まれて困った顔をしてる。
中身を知らなければ小さくて可愛い守ってあげたくなる系女子だから、人気が出るのも分かる。
助けに入ろうかと思ったが、男女ペアになってその2人が闘うことはないだろうからな。
イオと闘ってみたい俺としては、助けに入らない方がいいだろう。
ということで1人で腕を組んで仁王立ちをしているツンデレ赤ポニーに声をかけた。
「お嬢さん、俺とペアを組んでいただけますでしょうか。」
右手を差し出し、膝を曲げる。
昔に貴族だか王族だか、なんか偉い人はこんな動きをすると本で読んだことがある。まあ最後まで読まずに枕にしていたのだが。
「アンタがどうしてもって言うなら仕方ないわね。」
言いつつも嬉しそうにしながら俺の手を取るシャルロット。
ちょくちょく意見が合うし、なんだかんだ相性が良さそうなんだよな。
これは楽しみになってきた。
案の定、組んだペアで他のペアと闘うというものだった。
トーナメントというわけではないが、負けたら脱落。
対戦相手は勝ち残っているチーム同士でランダムに選ばれる、というものだった。
最初の3戦はひどかった。
俺が剣を抜くまでもなくシャルロット1人で圧倒。
もちろん炎属性魔法剣を使わずに、だ。
一応成績上位者しか居ないクラスなのだが、選抜メンバーとそれ以外では大きな戦力差があるようだ。
選抜メンバーを要するチームは順当に勝ち上がり、残り4チームになった。
ショーヤ、アカネペア対イオ、名も知らぬ生徒ペアは2人がかりでイオに近接戦闘を挑んだショーヤ、アカネペアの圧勝だった。
こちらはというと、ショーヤのルームメイトの女性(名前忘れた)と、初日に足を引っ掛けてきた男のペア。
シャルロットを抑え、俺だけが剣を構える。
当然こんな奴らに2人で相手してやるつもりはない。
開始早々『神威』を使い二振り、2人とも場外にして終了。
ショーヤ、アカネペアと最後に闘うことになった。
「ユウ達はダメだな。」
イオが座って観戦していると、学園長が急に隣に現れた。
「そうですね。個々の強さは目を見張るものがありますが、このお題に関しては良くないと思います。
その点、兄さんとアカネさんのペアの闘い方は素晴らしいと思います。開始早々私に2人がかりで仕掛けてくるなんて驚きました。」
「私の見立てでは気付いていたのはお前ら兄妹だけだな。アカネがそんなことに気付くわけもないし、アビステイン兄の入れ知恵だろうな。
バカユウも同じくらい頭良かったら、今よりもっとモテるだろうに。」
イオは言葉を返そうとして、飲み込んだ。
口に出そうとした言葉に顔を赤らめつつ、押し黙った。
迎えた最終戦。
開始早々ショウヤとアカネは2人がかりでユウリに襲い掛かった。
「マジかっ!」
言いながらも嬉しそうに全力で捌くユウリ。
速度強化を使おうとした瞬間、ショウヤの『魔力干渉』で魔力が霧散した。
味方なら心強いが、敵に回すとここまで厄介なのか。
ショウヤの本当の凄さは俺の速度強化を無効化しつつ、助けに入る隙を伺っているシャルロットからも目をそらさず炎属性魔法剣を使わせていない点だ。
そのおかげでアカネが全力で俺に向かってこれる余裕を作っている。
それでいて、自身も攻撃に参加しているのだから本当に器用な奴だ。
さすがにこの2人相手に速度強化なしでは全てを捌ききるのは不可能だ。
アカネの攻撃は完璧に止めつつも、ショウヤの幻影剣を既に何度かくらっている。
即席ペアにしては、いいコンビネーションだ。
・・・ん?
なるほど、そういうことか。
ここでようやくこの授業の課題に気付いた。
我ながらおせぇ。
ショーヤとアカネの闘いを見て気づくべきだったんだ。
ああくそ、頭の悪い自分に腹が立つ。
だがこの状況をなんとかしないとシャルロットは助太刀に入れそうもないか。
まずは厄介なショーヤを引き剥がそう。
アカネからの攻撃を完璧に捌き、ショーヤが幻影剣で斬りかかってくるタイミング、ここだ。
「アマハラ流奥義」
「あっ!ショーヤ、離れて!!」
残念、アカネ。もう遅い。
アカネが完成できていない3つの技のうちの1つ。
相手の剣よりも内側、剣を握る手に向けて己の剣を振り上げるカウンター技。
「破籠手!!」
ショウヤの右手がミシリと嫌な音を立てた。
普段戦闘中はあまり表情を変えないショウヤの顔が激痛に歪み、たまらずユウリから距離をとった。
この試合が始まってから初めて2人がユウリから離れた。
すかさずユウリと背中合わせになるように、シャルロットが割って入る。
ユウリはアカネと、シャルロットはショウヤと向き合う形となった。
「シャルロット、何も言わずに聞いてくれ。」
シャルロットが頷く。
「合図したら炎属性魔法剣を使ってほしい。
おそらくショーヤはそれを無効にしてくるだろう。
無効にされたら、反転してもう1回炎属性魔法剣を使って、アカネを攻撃してくれ。
倒せなくても場外させるだけでもいい。」
「アンタ結構無茶言うわね。ショーヤはどうするの?」
「俺に任せろ。」
アカネが隙を伺うようにして構える。
悪いなアカネ、ちょっと意地悪いことするぞ。
木刀で地面をカツンと叩いた。
「速度最大強化」
「火属性魔法 包み込む炎」
アカネが驚いた顔をした。
こんな授業で、3日に1度しか使用できない速度最大強化を使用したのだ。
実際には普通の速度強化しか使用していないのだが、過去の大変さから目の前で最大強化をすると止めに入るアカネにとって、それは大きな隙を作るには充分だった。
一方ショーヤはシャルロットの炎属性魔法剣を『魔力干渉』で不発に終わらせた。
「「スイッチ!!」」
言葉通りに前後入れ替わるように自分の背後に居た相手に向かう。
「火属性魔法 包み込む炎」
「えっ、ちょっ!」
「行くわよアカネ!!炎竜剣-竜の旋空!!」
シャルロットが剣を振り下ろすと、炎の竜が一直線にアカネに向かって飛びだした。
ギリギリでガードするも、5メートルもない距離から放たれた強烈な一撃は、アカネを大きく後ろに弾き飛ばした。
「『神威』」
スイッチした瞬間、ユウリはショウヤの目の前に居た。
この状況できっちり『魔力干渉』で速度強化を無効にしたのは流石としか言いようがない。
だが、ここはもう俺の間合いだ。
「剣の舞 壱式 居合─柳閃!」
速度強化を剥がされているとはいえ、普通に使っても充分に速い。
普段は抜刀から納刀まで0.3秒なのに対し、今は0.8秒といったところか。
ミドルレンジで自身が最も信頼している技が決まり、ショウヤは膝から崩れ落ちた。
「ショウヤ・フォン・アビステイン、ノックアウト!
アカネ・オオヒラ場外!
勝者、ユウリ・アマハラ、シャルロット・マリア・ヴァルローレンペア!」
姉さんの声が響き、後方に居るシャルロットに向けて腕を伸ばす。
シャルロットはニヒヒと笑い、こちらに腕を伸ばした。
遠くて届かなくても、このペアの初めての勝利のグータッチだ。
まあ、周りからはブーイングされたし、アカネは俺にウソをつかれてご機嫌斜めだったけどな。
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「本当にごめんってアカネ!この通り!」
「ぶぅー、もうユウくんなんて知らない!」
授業終わりにアカネに全力で謝るも、これは機嫌が直るまで時間がかかるかもしれない。
「冷静に考えれば新人戦まで残り2日しかないのに使うわけがないって分かることだけどさ・・・
私がどれだけ心配したか分かってるはずなのに。」
むぅ、っと口の形が数字の3のようになるくらい拗ねておられる。
そりゃまあそうなんだけど、アカネに隙ができるのって咄嗟にアレくらいしか浮かばなかったんだ。
過去のことは本当に感謝してもし足りないと思ってる。
2年間剣を取れなかった俺に付き添い、再び剣を取れた後もブランクを埋めるために色々手伝ってくれたからな。
「最大強化は大事なものを守る時にしか使わないと、アマハラの名に誓って約束する。
もう前みたいに、アカネに迷惑かけたくないからな。」
「うーん・・・ちょっと違うけど分かったよ。
その代わり約束破ったら、本当に許さないからね!」
何が違うのかはさっぱりだが、とりあえずは許してくれたようだ。
「ところでユーリさん。」
イオが俺とアカネの間に小さい身体をねじ込んできた。
ちょっとジト目なのが怖いですよイオさん。
「ペアを組む時ずっと待ってたのに、なんで声をかけてくれなかったんですか!
ずっと待ってたのに!」
大事だから2回言ったのかな。
イオと闘うにはペアにならない方がって言ったらまずいかな?まずいよな、うん。
「あら、イオったらヤキモチ?」
お前は火に油を注ぐもとい、油に引火させるのがうまいなシャルロット。
頼むからややこしくしないでくれ。
イオの顔が真っ赤に染まっちゃったじゃないか。
「そうですよ!悪いですか!
ルームメイトとして、1人の仲間として、ペアを組みたいと思うのはダメなんですか!」
ああ、仲間として、ね。
うん、ちょっと残念な気もするけど、嬉しい気もするな。
9対1くらいだけど。
「え、冗談のつもりだったんだけど、イオまさかユーリの「『凍える風』」ひょああああ!!!」
変な声をあげて首筋を抑えるシャルロット。
イオさん、目が闇堕ちしてるみたいでマジで怖いです。
それ以上言ったら永遠に凍らせますよ?
って目に書いてあるよ・・・?
「イオ・・・コワイ・・・コオリ・・・コワイ・・・」
震えながらショーヤの後ろに隠れ、震えながらカタコトになるシャルロットだった。
まあ自業自得だが、校内序列は完全に入れ替わったな。
もしイオと組んでいたら、後ろから的確な魔法を使って援護してくれていたのだろうか。
それはそれで、やってみたかったな。
男女ペア大会の際は、いの一番にイオに声をかけよう。
それよりもまずは明後日からの新人戦だ。
これからの3年間を通して行われる大会の、一番最初の大会だ。
油断せず、闘っていこう。
この5人で。
新人戦本戦開始まで、あと2日。
拙い作品ですが、よろしければ最後まで見てやってください。
よろしくお願い致します。




