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雪だるま宅配便

作者: まるマキ

 田舎の豪雪地帯。

 どか雪の深夜、いつもどこかに出掛けていく父親のあとを着いていくと父親は山奥の倉庫に入っていく。

 恐る恐る中に入ると、驚き振り返る父親と、沢山の発泡スチロール。

 聞けば父親はこの地の雪を雪だるま型の発泡スチロールにつめ、希望者に発送するというボランティアを続けているという。

 普段の父親からは思い付きもしない話を聞き驚く僕にこのボランティアを始めたきっかけを話してくれた。



 きっかけは父さんの友達なんだ。

 同級生で凄く頭が良くて東京の大学に行ってそのまま医者になった奴がいてな、そいつが東京に行ってからは自然と疎遠になっていたんだが20年ぶりに電話が来たんだ。

 そいつは電話で初雪が降ったら雪を送ってくれ、子供に見せたいからって言うんだ。

 子供に見せたいからって、じゃあこの町に連れてくれば良いじゃないかと俺が言うとそいつの子供は大病を患っていて入院しているんだと教えてくれた。

 その子は生まれつきの心臓の病気で、やっと手術できる年齢になったのに雪を見るまで手術しないと言い張っているんだと。

 深雪ちゃんって言う名前の子で、自分の名前の由来になったこの町の雪をどうしても見たいとそう言うんだ。

 とても大きな手術で成功率もそう高くない、術中も術後も本人の気力がとても大事なことを知っている俺の友達は何とかしてやりたいと久し振りに俺に連絡をして来たって言うわけだった。


 そこまで聞いた俺はもちろん引き受けた。

 ただその時季節はまだ秋口で初雪まではまだ遠く、俺とそいつは祈るような気持ちで雪の知らせを待った。

 待ちながら俺はどうせならと昔二人でよく作った雪だるまの形をした発泡スチロールを作ったんだ。もちろん二人にはナイショでな。


 それからしばらくして三人で待ちに待った初雪の日、俺は出来るだけ山深くのきれいな雪を力作の雪だるま型発泡スチロールに詰めて送った。

 雪が届いてお礼の電話が来たんだが深雪ちゃんが喜んだのはもちろん、そいつもこの町の雪に、そして雪だるまに大喜びしていたよ。

 懐かしい、励まされたと。


 その後すぐ深雪ちゃんは心臓の手術を受けて成功し、頑張ってリハビリしてこの町にも雪遊びに来た。覚えていないか?お前とも遊んだんだぞ。


 父さんは生まれてから今までこの町から出ていない。毎年降る雪にだってどちらかと言えばうんざりしていたんだ。そんな

俺にそいつと深雪ちゃんは見方を変えたらこの町にもこの雪にも価値があることを教えてくれた。

 二人の感謝の気持ちを聞いて俺はこの町の事が少し誇らしく思えた。そしてすこしだけ好きになったんだ。


 それからそいつのつてで希望者に雪を送るボランティアを始めた。最初は2、3人からだったな。口コミで広がって今は毎年かなりの人が楽しみにしてくれているよ。


 お礼状や電話、メールや動画なんかでみんな喜んでくれてることを知らせてくれる。それを見るたび俺はこの町に暮らす意味みたいなものを見つけた気になるんだ。



 家ではいつも寡黙な父さんがそんな思いを抱えているとは知らなかった。

 父親のそんな以外な1面を知り最初は驚いたが僕も出来る限りボランティアを手伝うことにした。父さんが見つけたこの町に住む意味を、この雪の価値を、みんなの喜びを僕も感じてみたくなったんだ。


 田舎の豪雪地帯。

 どか雪が降ると二人の男が山奥の倉庫に出掛けていく。

 ちょっとだけいつもより軽い足取りで。

思春期ですが彼は父親と少し打ち解けられたんだと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] す [一言] なろうラジオのアーカイブでこの作品を聞いて、読んでみたいと思い検索しました。短くて読みやすく、素敵な話で、とても心がほっこりしました。ありがとうございます。
[一言] 雪国の雪を沖縄にお届けというニュースはたまに聞きますね。 雪の降らない地域の人にとって、雪に触れるって、なんとも言えない経験になりそうな気がします。 喜び、感動もひとしおでしょう。 そんな感…
[一言] 雪が滅多に降らない地方ですので、北海道の雪だるまゆうパックは小さい頃からの憧れでした(親にお願いして、速攻で却下されました……) 雪だるまゆうパックをベースにした実話系の童話なのかと思って…
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