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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
外伝(0282年4月) 王子様なんてお断り!求婚を拒否したら女将軍に任命されました。姫将軍とよばれた悪役令嬢の成り上がり戦争記!!<完結済み>
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外伝 王子様なんてお断り! 02節

 「タカノブ、こちらがスターライト商会の社長殿ですぞ。しっかりと挨拶してくだされ。」

 目通りの段になり、スターライト社長は王族タカノブ・イシガヤの前に通される。横に控えるのは石谷家家宰の鬼庭綱信長老である。彼は幕府建国戦争の英雄の一人であり、当時からイシガヤ家の重臣であった。高齢で退役してからは、父母を早くに亡くしたタカノブの庇護者を務め、得意とする経済知識や軍事知識を王族の若者達に教える教育者として知られている。ただ、長く地球圏に留まりそれらの仕事をしていることから、木星のイシガヤ家の管理については甘くなっており、株を有する巨大企業CPGは他の家臣達にいいようにされつつある。

 「スターライト商会の事は聞いている。この時世において、我が石谷家の御用を務めるようになるなど、先見の明があると言えよう。また、貴社の製品は品質も良く市況にあった適正価格で納入されているな。今後とも良い取引をお願いしたい。よろしく頼むぞ。」

 些か暗い印象だが、当主のタカノブが彼にそう伝える。年齢の割にはハッキリした物言いで、とても暗愚という感じではない。スターライト商会の取引についても内容を把握しているようであり、正当な評価を受けて彼としても本意である。

 「ありがたきお言葉を賜り恐縮です。今後もよく努めますので、引き続き当社にお声掛け頂ければ幸いです。」

 「わかった。爺、スターライト商会には今後も適切な量の注文を引き続きするようにせよ。詳細は任せる。」

 その言葉はいくらか取り入りやすい、人の良さそうな印象もあるが、適切な量、と伝えるところが肝であろう。普段以上の注文がされたところで、スターライト商会としても困るからだ。仕入れも必要であるし、資金繰りも必要になる。

 「殿、承りましたぞ。仔細はまた報告しましょう。」

 「ありがとうございます。ではこれにて……」

 スターライト社長は、承諾したオニワ長老とタカノブを見ながら礼を述べる。彼の本日の役割はこれで終いである。安心して引き下がろうとしたところで……

 「またれよスターライト社長。そちらの娘さんは?」

 オニワ長老が声を掛ける。緊張しているスターライト社長を気遣う優しい声音である。

 「おっと……。これは失礼致しました。御挨拶が遅れまして、娘で御座います。セレーナ、挨拶を。」

 そのように言われて、ようやく少女が前に出る。

 「セレーナ・スターライトと申しますわ。この度はご拝謁の機会を賜り厚く御礼申し上げます。今年で12歳、初めてこういった社交の場に参上致しましたので、御無礼ありましたら誠に申し訳ありません。御容赦頂けますと幸いですわ。」

 セレーナは、そうすらすらと挨拶を述べる。父親よりも貫禄があり、物怖じしないところは12歳かと疑うレベルである。

 「イシガヤ家当主、タカノブ・イシガヤだ。その方…………」

 オニワ長老に促される前に、タカノブもそう話し始める。が、次の言葉にその場は凍り付く。

 「セレーナと言ったな?俺の側室になれ。」

 彼はそう、獰猛な猛禽類のような瞳で、セレーナを見つめながら言うのであった。

 「はっ!?」

 「はっ!?」

 オニワ長老とスターライト社長は驚愕し、そして同時に上げた声がハモる。

 「嫌ですわ。お断りします。」

 だが、セレーナも平然とそう言い返す。

 「はっ!?」

 「はっ!?」

 もちろん、そう驚いているのはオニワ長老とスターライト社長である。セレーナとタカノブの言葉の応酬の前に、既に大人二人は硬直し様子を眺めざるを得ない。

 「……では、身分差はあるが正室でも良い。正妻となれ。」

 「絶対に嫌ですわ。全力でお断り致します。」

 「……何故だ?これでも大切にするつもりはあるが。」

 解せぬ、とでも言いたいかのような表情で、彼はそう述べる。地位や立場に絶対の自信があるからこそ言える言葉であろう。

 「身に余るお言葉ですが、身に余りますわ。わたくしには過ぎたご内容です。」

 スカートの裾に手を添えて、セレーナはお辞儀をしながらそう述べる。貴族令嬢と言ってもいいような、洗練された優美な謝罪である。スターライト社長の教育の賜物であった。

 「身分であればどうとでもなる。気にする必要はない。」

 だが、そう言った軽いお断りの言葉を無視して、タカノブは続けるのである。

 「わかりました、言い直しますわ。お気持ちは嬉しくもありますが、いきなり言われても困りますし、それ以前に、殿下はまだ家の事も掌握しきれていないとお聞きします。そのような中でわたくしが正室となりましても、非難も多く面倒が多いだけですわ。もっと簡単に申し上げると、単純に嫌です。」

 キョトンとしたタカノブの表情を見て、途中から彼女は言葉を言い換え、はっきりとした物言いに変える。王族に対しては不遜とも言えるが、敢えての事だ。

 「嫌か?」

 「はい。」

 流石にその言葉を受けては、タカノブの鷹のような瞳は普通に戻りやや落ち込んだ表情となる。一方でスターライト社長の顔は蒼白であり、オニワ長老の顔は混乱が占めるのである。ただ一人、セレーナだけが平然と澄まし顔のままであるのだが。

 「タカノブよ、突然何を言いだすのじゃ?セレーナ嬢が可愛らしいと言っても、突然恋に落ちた、などと言うではあるまいな!?」

 冷静沈着と言われるオニワ長老が、まるで素の言い方でタカノブに問う。ちなみにスターライト社長は蒼白い顔をしながらも様子を見るだけで何も言わない。娘が可愛いので無理強いさせる気はなく、断るにしても大事にならないように慎重に構えているためであろう。

 「爺、この娘はどうしても手に入れるべきに思えるのだ。なので手っ取り早く結婚を申し込んだ。」

 「意味がわからんぞ。」

 突拍子もない出来事であったのだから、意味が分かる方が凄いのではあるが。

 「見よ。俺を前にしてこの受け答えをしながらも、平然とした顔をしている。落ち目と言っても、俺は天下の石谷家当主だぞ?どれだけの権力があるか知らないことはあるまい。」

 彼は豪語するが、実際にCPG社が彼にもたらす財力は、重臣達の問題があるにしても圧倒的であり、加えて彼の家は木星の穀倉地帯エウロパを私有している。幕府の半分どころか木星圏の半分を支配していると言ってもおかしくはないレベルの経済力はあるのだ。

 「スターライト社長、悪いことは言わぬ。いや、言うんだが、娘を我らに預けてくれないか?」

 「ご結婚については、ありがたく畏れ多い事ではありますが、娘が嫌がっておりますので……」

 物理的に首が飛んでおかしくは無いが、スターライト社長は気丈にそう応える。重ねて言うが、彼は娘が可愛いのである。

 「そのことは、まぁいい。残念ではあるが。それはそれとして、王族と一緒に教育を受けさせる気はないか?胆力もそうだが、相応に才覚もありそうだ。単純に人材を囲いたい。」

 「いえ、しかし……」

 「お尋ねしたいのですが。」

 口ごもるスターライト社長とは対象的に、セレーナが口を挟む。

 「なんだ?」

 「殿下は、どのような将来をお考えで?」

 「なるほど。人を払え。」

 既に人は払っているが、念の為に彼が指示する。場に残るのは彼ら4人だけである。

 「近く木星に遊学する。その際に我が家の権益を取り戻すつもりだ。」

 「ご算段が?」

 「当然だ。父母は暗殺されたが、俺は爺達に工作員としての訓練も相当受けさせられている。これは本来当家の家業でな。とはいえ、武力を用いるのは宜しくない。先ずはエウロパを確実に抑え、その上でCPGの改革に着手する。」

 タカノブは目線を部屋にある騎士リアの像という装飾に逸らしながらそういう。公に知られて居ることでもあるが、陰鬱になる内容だからであろう。

 「……エウロパは、穀物があるからですか?」

 エウロパはイシガヤ家が心血を注いで開拓してきた木星の衛星であり、木星の穀物の大部分を供給する上に水なども生産されている。木星圏に居住する人類にとっては、まごう事なき生命線であった。

 「それが一番大きい理由だが、当家最大の拠点で忠義の者が多い。」

 「エウロパを抑えれば、木星に飢餓をもたらすことも可能ですが?」

 「そうだな。それをする気は無いが、故に武器よりも強力だ。」

 古来より重要なのは武器よりも兵糧である。食わなければ人は死ぬからだ。それを承知の上でイシガヤ家はエウロパを開発してきたのだから、うすら寒いところであった。

 「なるほど。しかし殿下はお若いので、下の者達が言うことを聞かぬと考えますが。オニワ様ご同行で?」

 「いや。木星にはモガミという長老格がいるし、工作に優れた重臣の一人を帯同する。確かにそなたの言うように巧く行かない可能性もある。だが、今の所他に策は無く、CPGを失うとしてもエウロパさえ抑えておけば我が身くらいはどうにかなる。現在のところ当家が木星圏を留守にして久しく、テコ入れはどうしても必要だ。どちらにしても木星には行かないとならん。」

 実際、イシガヤ家には彼を除いて近縁の血縁者がいないため、その本拠地の管理に問題があることは事実であった。

 「なるほど。それで、そこまでのお話を、初見のわたくしにお話されたのは如何なるご理由で?」

 「俺はこれでもイボルブという超能力がある。そなたに悪意があるかくらいはわかる。それと、当国における女神に選ばれた人材、つまり女神隊として信仰され国家防衛に当たる部隊だが、あの選定システムを作ったのは俺の祖だ。我が家に親しまれる者はそもそも適性が高いので、そなたも高かろう。つまり、俺が信用出来る人材とも言える。」

 「些か突飛なお話ですわね。」

 「それについては、その通りだな。所詮は感覚の世界だ。」

 その言葉は、手をひらひらと振りながらそう述べるタカノブ自身、理解されないことをわかっていて話す素振りである。

 「少々お時間を頂き、父と相談してからのご回答で宜しいでしょうか?」

 「それで良い。期待している。」

 「ご期待に添えるか解りませんが、ご評価頂き感謝致しますわ。」

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