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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
前編
73/144

第15章 北海道降下作戦 03節

 「ヘルメス、ヒビキ中尉はなかなかやるものだな。」

 本陣旗艦の朝凪艦橋からクラウン中佐が述べる。ほとんどの注意は降下作戦に関することに払っているが、それでも前線の状況を確認するために手元のモニターへヒビキ機の行動を映しているのである。無論生のデータでは指揮官の見るデータとしては不適切であるため、クオン曹長がリアルタイムで編集しているものだ。

 「えぇカナン。情報が入りました。」

 「うむ。」

 「ヒビキ中尉機のカメラの情報を確認したところ、朝鮮製と思われる部品の多くを確認しました。」

 音紋などは変更されているが、高解像度カメラに映る兵装の破片などには、朝鮮メーカーなどの社名が刻印されている所がはっきりと映っている。偽装にしてもお粗末なものだ。

 「……。」

 「正面の敵は、海賊ではなく朝鮮の偽装艦隊です。」

 「ヒビキ中尉に敵艦に取り付かせてアンカーを打ち込ませよ。ニンフのアンカーは音を拾えたはずだ。」

 「艦内の声を拾うのですか?」

 「そうだ。やらせろ。」

 すでに兵装の破片類の回収指示は出している。後はより確実な証拠、あるいは確実と思わせることができるようなモノを集めることだ。



挿絵(By みてみん)

 「取り付けって!?ヘルメスばかなのっ!!!!」

 上官に向かってその発言であるが……

 「ヒビキ中尉、あなたならできます。」

 ヘルメス少佐は軽く聞き流す。問題発言ではあるのだが、彼女の才能はそれを補って余りあるし、要所ではちゃんとした行動をとれるため大目に見ている、と言ったところだ。

 「音声なんて拾わなくてもいいじゃん!どうせ敵なんだよ、やっつけちゃえばいいんだ!」

 前線指揮官としてのヒビキ中尉の発言は、あながち間違いではない。だが、戦争はあくまで政治の延長線上にあるものであって、上級指揮官としてはそれ以上の判断をせざるを得ないこともあるのだ。

 「政治的に敵に圧力をかける為です。やりなさい。」

 「む〜……」

 不満そうではあるが、流石に知略には優れていないわけではないヒビキ中尉であるから、そのあたりは理解できないわけでもない。だが、理解できることが簡単に出来るかと言えば、全く別の事である。音声をとれということは、わざわざ艦橋にでもとりつかなければ無理だからだ。護衛部隊を蹴散らし、対空砲火をくぐってそれをしろ、という命令である。

 「死んだら恨むからね!!!」

 「存分にどうぞ。」

 無論、無理な命令であることはヘルメス少佐としても百も承知である。彼女もまた前線で活躍したパイロットでもあるからだ。

 「ぅー……ヘルメスひどい……。バズーカを3分で拾うからさー、ちょっとまっててよね!」

 「よろしくおねがいしますね。」

 そのため、ヒビキ中尉としては反論をしたくてもしきれない。まぁ、つらさをわかっていて指示していることも判るには判るが、ヘルメス少佐の場合は単純に冷徹だから、という可能性も捨てがたいのではあるが……。

 「ヒビキ中尉、おしゃべりされていますが……そろそろバズーカが到着しますよ。」

 「りょーかいだよ!クオン曹長さんきゅ!」

 ヒビキ中尉がコクピットでの操作を始める。

 「ガディス・システム起動……」

 この『ガディスシステム』というのは、『女神の加護』というオートパイロットシステムでパイロット補正をかけるものである。現在の王家縁のパイロットの戦闘データを主に作られ、パイロットの操作無しでも機体が自動操縦されることもある。200年前の戦争から今まで積み重ねてきたこの学習プログラムは、既存のパイロットを凌駕する動きを見せることもあるが、ガディス系ユニットでも『ニンフ』には学習装置はついておらずオリジナルデータの模造品に過ぎない。また、動きに癖が強いシステムのため、パイロットの『ガディス適正』が高くないと起動すらできない。王族の妻、先祖のデータを中心に学習しているため、王族や王族に親しまれる人物は一般にこの適性が高い。クオン曹長などはこのシステムの適性率が99%程度あり、ヒビキ中尉でも70%程の適性がある。一般にガディスシステム搭載機に乗れる基準は70%程度以上の適性率を持ち、ある程度のパイロット適性も併せ持つものだけである。

 「ニンフ、システム起動完了。自動操作開始。バズーカの回収はシステムにお任せだね!」

 ヒビキ中尉はどちらかと言えばガディス適性よりはパイロット適性の高さからニンフに搭乗しているのだが、それでもこういった作業は機体に任せるほうが確実である。

 「5……4……3……2、1っ!きゃっち!!!」

 機体はそつなくそれをこなし、背中部分にバズーカをマウントする。

 「ヒビキ中尉、もう一本きてます。」

 「了解だよ、クオン曹長!5……4……3……2、1!!きゃぁああっちぃぃぃいいっ!!!!」

 近くに飛んできていた3本中の2本をヒビキ機が回収する。もう一本は無理だったが、最前線での受け渡しである。これで十分だ。

 「バズーカ回収おつかれさまです。」

 「おっけー!そんじゃぁ……取り付くよ!カリン少尉、各隊何機残ってる!?援護してねん!」

 流石に単機で接近するのは至難の業である。

 「報告します。本隊7機、第一戦隊8機、第二戦隊12機、第三戦隊10機。味方機計37機、敵機10機、敵艦3機……」

 想像以上の優勢である。機体の性能差でここまで差が開くとは、ヒビキ中尉としても想定してはいなかった。ただ、友軍有利であるのならば僥倖である。

 「優勢じゃん!カリン少尉、36機で私がとりつくまで、援護してねん!陣形は鶴翼、敵艦に向かって半包囲で援護攻撃!」

 「了解です!」

 「最左翼に突っ込む!よろしく!」

 敵艦艇の対空機銃の弾丸がニンフを掠める。敵の練度も決して低くは無いが、ヒビキ中尉の操縦能力のほうがはるかに上である。難なく、とはいかないが、友軍の援護の中どうにか接近することができた。

 「アンカーっ!」

 その上で、艦橋周辺にアンカーを打ち込む。宇宙空間では空気が無いため音声は通らないが、物体伝いならば音声を拾えるのだ。中でも量産機に比べてニンフのアンカーは音声収集機能も付いた高性能なものであり、より小さな音を拾うことも可能である。

 「おっけー!よし、みんな次は中央の艦を狙って!……っ!クオン曹長!ミサイル行ったよ!!!」

 流石にそちらの対策までは手が回らない。

 「了解しました。こちらはお任せください。」

 「よろしく!……ぐっ!」

 「ヒビキ中尉!?」

 「大丈夫……ちょっとシールドふっとんじゃったわ。」

 通信のために少し注意をそらしたらこれである。ヒビキ中尉のニンフは、左手ごと吹き飛んでしまう。不幸中の幸いは、先の被弾で壊れていた左手であったところだ。さらにバランスは悪くなるが、それでも戦闘可能である。

 「アンカーワイヤーは50mくらいしかないんだよねぇヘルメス!どれくらいいたら良いわけ!?」

 すなわち、とりついた状態でその範囲での回避行動しかとれない、という事だ。自艦にとりついた機体を排除するための攻撃は限られているが、場合によっては自艦を犠牲にしてでも攻撃してこないとは限らない。

 「3分くらいお願いします。」

 「ぅぇ……」

 その中で、3分というのは非常にリスクがあり、時間としては長いものだ。

 「しゃーないか。カリン少尉、バズーカ一本任せるよ!」

 ヒビキ中尉が未使用のバズーカ一本を投げる。

 「分かりました!」

 「さて……」

 他2隻も射程距離にはある。

 「まぁ、それなりには当たるよね。」

 2発を中央、3発を最右翼の艦に放り込む。残念ながらバズーカはそれで弾切れである。

 「ヒビキ中尉、中央敵艦の艦橋とエンジンブロックに着弾、最右翼敵艦の艦橋付近に2発とエンジンブロックに着弾!敵艦戦闘能力の大幅減を確認しました!」

 ヒビキ中尉の攻撃で敵艦は誘爆こそしていないが、エンジンの停止または大幅な出力減である。少なくともビームやレーザー兵器などの使用は難しくなっているため、火力や防御力は大幅に削減されるであろう。

 「じゃ、カリン少尉あとはまかせるかんね。」

 「了解です!」

 そうなれば、新兵に近いものでも比較的安全に敵艦を叩くことが可能である。

 「んじゃ……ヘルメス!もういいよねん!?」

 長いようで短い3分。戦場の興奮状態の中では割とあっという間、であった。

 「OKです。朝鮮語の録音が完了しました。」

 高難易度任務の達成である。ただしボーナスは出ない。

 「おっけー!じゃぁ……潰す!!!」

 艦を潰すというのは結構大変だ。装甲はサイクロプスの攻撃で何とかぶち破れるが、爆破までするのは大変である。そもそも隔壁などでそう簡単には誘爆などないように設計されているのである。

 「まずは……、艦橋だよね。……っ」

 艦橋を潰す。気持ち悪い光景だ。艦橋から兵士達が宇宙空間に吸い出されていく。宇宙服を着ていないものは即死であるし、来ていても破壊された環境の部品などで串刺しになってしまったり、それを回避できたとしても救助されるとは限らない。

 「ついでに。」

 だがそんなことを言っていては、パイロットも指揮官も務まらない。ヒビキ中尉も感情を殺し、ニンフに内蔵されているアームガンを艦橋の奥の通路に向けて撃ち込む。隔壁に守られた艦艇内部は脆い。ビームが撃ち込まれれば簡単に破壊される。この攻撃でどれくらい死んだか、そんなことを考えれば……、いや考えない。

 「次は……格納庫か。」

 とりついたまま移動し、カタパルトに接続された格納庫周辺に向かう。すでに指揮系が破壊されているため、艦の反撃は緩慢である。そして、到着した格納庫の防壁は厚めだが、ニンフ内蔵のビームサーベルでも破れないことはない。溶解するのに若干時間がかかるだけだ。

 「そんじゃ……。わるいね。」

 格納庫を突き破ってアームガンを撃ち込む。もう、淡々とした作業だ。

 「ヒビキ中尉、敵艦撃破完了です!」

 「んじゃ、カリン少尉、この艦も頼むよん!」

 主な攻撃を終えたところで、カリン少尉に連絡を付ける。彼女達に任せた方も、既に撃沈済みのようだ。

 「はい!一斉攻撃しますね!ファイヤー!」

 友軍の一斉射撃が始まる。反撃の乏しい大型の的に対する乱れ撃ちである。

 「ってちょぉぉぉおおおっ!!!!」

 カリン少尉指揮下の部隊から砲撃を食らった艦が、部分的に爆発を開始する。……もちろんヒビキ中尉は取り残されたままだ。

 「こんのばかっ!」

 「ヒ、ヒビキ中尉すいません!!!!」

 「すいませんじゃない!!!」

 爆散した敵艦の破片がヒビキ機を襲う。ニンフが通常機より遥かに頑丈で、かつ操縦技術に優れているヒビキだからかろうじて大破は免れてはいるが……、一般機であれば撃墜されていてもおかしくはない状況だ。

 「ひっどいよ……死ぬとこだったじゃん…………」

 「す……すいません……」

 とはいえ、まだ帰還前だ。

 「で、敵は!?」

 責任を問うにしても、先に情報の確認を行い帰還するのが先である。

 「一応駆逐完了しました。」

 「おっけ。クオン曹長、結局敵の核ミサイルはどうだったっ!?」

 「5発確認しましたが、すべて撃墜しました。問題ありません。」

 スナイパー部隊は優秀だった、という事だ。前線にいるわけでもないから落ち着いて狙える、というのもあるだろうが。

 「りょーかい!各機きか……」

 「ヒビキ中尉、既に前衛艦隊は降下準備に入っており、ヒビキ中尉の帰還まで待つわけには行きません。女神隊は後続の旗艦朝凪及び周辺空母へ帰還してください。」

 戦闘に意識をもっていかれていたが、存外時間がかかっていたようだ。カリスト大尉率いる前衛艦隊はすでに降下開始中である。ただ、ヒビキ中尉としてはそのほうがありがたい面はある。先陣部隊に帰還してしまっては、休憩も無く再度最前線に立たざるを得ないためだ。

 「りょ〜かい♪」

 旗艦朝凪……、先に石狩湾で沈んだ長門級戦艦の旧型艦の改修艦であり、現在は伊達幕府を代表する戦艦の1つである。元々は、100年近く前の伊達幕府の独立戦争末期に建造され、イーグル・フルーレが執権になるまでの長い間、同型艦夕凪とともに幕府旗艦を務めあげた艦である。イーグル・フルーレの代にはフェンリル級強襲戦艦に旗艦の座を譲ったが、今、大改修を受け、幕府の過去の栄光とともに戦列復帰している。全長300m弱、対サイクロプス迎撃兵器多数、41cm連装実弾砲4基、艦載サイクロプス8機、分厚い装甲に加えて対ビーム撹乱幕発生器を装備している。艦載機数は多くないが、単艦としての戦闘能力は非常に高く、また旗艦に必要な通信索敵設備一式を装備している、超高性能戦艦である。

 「ヒビキ中尉以下、女神隊着艦します!」

 「こちら参謀総長のヘルメス・バイブル少佐です。女神隊の着艦を許可します。先に修理用の備品はカリスト艦双葉より回収しましたので、所属機を可能な限り修理します。女神隊5機のみ朝凪に着艦しなさい。他は護衛空母や所属艦に回りなさい。」

 既に朝凪に搭載されていたサイクロプスは、ヘルメス機、クラウン機、その他1機を除いて搬出されている。女神隊機は幸い5機とも残存しているが、これらは幕府の中でも特殊な機体で秘密事項も多く、また十分な修理設備を有さない艦艇では修理も簡単ではない。このための処置である。

 「ヘルメス、さんきゅ〜」

 「それとヒビキ中尉……」

 「なぁに?」

 ヘルメス少佐が休憩に入ろうとするヒビキ中尉を呼び止める。

 「貴女の機体は損傷過多のために修理不能です。乗り換えてください。」

 左腕が吹き飛んでいることに加えて、先のカレン少尉の失態による損傷が大きい。現実的にはこれ以上の戦闘継続は不可能なレベルである。

 「ん?」

 「ニンフの上位機、コスモ・ガディスⅡを与えます。」

 「さんきゅ!!装備は!?」

 「肩部シールド2枚、肩部ビームナイフ2基、腕部アームガン2基、腕部超振動ナイフ2基、有線制御式ビーム砲2基、ガディス・システム。以上が固定装備です。」

 ニンフはコスモ・ガディスの量産機であるが、コスモ・ガディスⅡはコスモ・ガディスの改修機である。素体性能はほとんど変わらないのだが、一部をビーム兵器に変えることで、若干軽量化されていることに加えて、継戦能力を上げたものに仕上がっている。

 「おっけー!ほんじゃ長巻と実弾ライフルを追加でちょーだい!地球降下に伴い、他の女神隊にも実弾ライフルよろしく!」

 とはいえ、実弾には実弾の良さがある。重量で破壊する攻撃は防ぎきることは不可能であるから、弾数は少なくても確実性が高いのだ。諸国ではコスト削減のためになかなか実弾兵器を満足に配備することはできない場合もあるが、幕府軍の特に女神隊などはそんな予算を気にせずとも良いほどに金が掛けれれているエリート部隊であった。

 「わかりました、用意させます。」

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