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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
前編
63/144

第13章 宇宙海賊討伐戦 06節

 「セレーナ少佐、敵艦隊接近!」

 ランファ軍曹が報告を上げる。すでに軍議は終了し、既に全指揮官は配置についている。ダミーによる時間稼ぎは、幸いにもその時間を作り出していたが、しかし、思ったよりもフェドラー准将の動きは迅速である。セレーナ少佐の想定よりも2時間以上早いタイミングでダミー艦隊を排除し、このイザナミに隣接戦を仕掛けようとしてきているのだ。

 「諸将とも迎撃体制につけ!我が指示に従い、独断専行をしないように。このたびの戦いは油断ならぬ合戦であるからして、指示を聞かぬものは特に懲罰の対象とする。先に志願し従軍している学徒兵は我が本陣に集まり、諸将の働きを観察し戦術眼を鍛えるように。」

 特に戦況に影響はないが、セレーナ少佐は学徒兵を集める。木星に帰還せずに軍属として残った元民間人ではあるが、大半は親が軍属だったものだ。死んだ親の仇をとる、そういった気持ちで残った者達の集まりである。



 いくつもの瞬き、星の如く

 星は、月亡くて生き

 月光の下に死す

 たわいもない子らよ

 その命の光貴ぶならば

 我が月光に抱かれて

 その死、早めるとこあるまいに

 SELENEの

 この月光の絹糸に

 捕らわれるべき

 哀れな子らよ……



 「セレーナ少佐、敵艦隊が攻撃射程に入ります。」

 オペレーターを務めるランファ軍曹が告げる。

 「全艦、後退しつつ砲撃。敵の進撃が急であれば、急ぎイザナミに入港し二ノ丸まで退きなさい。」





 「フェドラー准将、敵は後退していきます。」

 セレーナの防衛艦隊が兵を後退させる中、フェドラー艦隊のオペレーターが意気軒昂にそう報告する。つまらない包囲戦、続く意味不明なダミー掃討を終え、ようやく出てきた敵を叩く機会である。

 「イザナミにいる敵は腑抜けですな。このまま攻めかかれば陥落できましょう。」

 そう参謀の一人も述べるが、仮に先ほどからの敵の行動が、怯えて慌てて行った行動と考えれば、全て納得出来ることではある。

 「やもしれん。先日落とした宇宙要塞イザナギは、このイザナミと同じく帝國製の宇宙要塞。力攻めでも落とせないこともなかろう。」

 フェドラー准将もふとそう述べる。無論まだ本気でそう考えているわけではないが。イザナギ要塞はコロニー諸国軍が混乱している最中に攻め取ったこともあって、必ずしも安直に攻め落とせるとまでは考えてはいない。

 「お待ちください!調べによれば、敵要塞イザナミは防衛主体で作られたものだと聞きます。力攻めはしばし待たれたほうがよろしいかと。」

 その発言に対して、慎重な参謀の一人がそう忠告してくる。

 「うむ。それも一理ある。」

 彼とて、ここで力攻めはあまりしたくは無い。現時点では近隣に敵性艦隊は居ない以上、ゆっくり囲んでも兵糧以外の問題はない。

 「全艦に告げる、しばらく砲戦によって敵の出方をみる。敵は大和帝國軍人であるから、不意の強襲に気をつけるように。」

 伊達幕府軍は、まさにその強襲戦が得意と言われている。最近の合戦でも、名将ハーディサイトがその戦法によって破られているのだ。フェドラー准将はそれを危惧して艦隊の引き締めにかかる。用心をするに越したことはないのだ。

 「時に参謀、敵要塞指揮官はセレーナ・スターライト少佐と言ったな。もう一度その人物像を述べよ。」

 「はい。俗称大和帝國、伊達幕府女神隊の軍団長であり、現在、大和帝國地球方面軍の全権を委任されているようです。現在25歳。名将といわれた亡きカゲムネ・カタクラの元で軍事教育され、18歳で初陣してから40戦ほど経験しているようです。一部では現執権イシガヤの愛妾であるため異常な昇進スピードであると噂されていたようですが、実際はその実力を評価され、先の執権イーグル・フルーレに抜擢されたようです。戦術癖は良くわかりませんが、戦績から言えば兵站確保と強襲が得意と思われます。また、野戦築城や防衛戦に長けて、鉄壁スターライトの異名を持つ、と。実際、初陣では指揮官であったカゲムネ・カタクラ負傷後の本陣指揮を執り戦線を鎮静化させ、オーストラリア会戦では崩れる味方を抑え込んで逆撃し勝利、先のハーディサイト中将による襲撃でも素晴らしい艦隊指揮を見せたと絶賛されているようです。」

 鉄壁スターライト、大仰な仇名ではある。しかし、その戦歴を一瞥すればなかなかのものではある。伊達幕府元帥、シルバー・スターの副将として出陣したことも多く、援軍としての派遣軍総指揮官としての実戦経験も多い。かなりの規模の戦争で常に勝利を掴んでいる一方、伊達幕府遊撃隊との共同戦では小さな敗北経験もまた多い。総じて評価すれば、良将以上と言うことは掴んで取れるが、あとはその才能がどれほどか、だ。フェドラー准将はそう一考し、

 「そうか。しばらく様子をみねばなるまいな。」

 そう伝えるのであった。





 その一方で、セレーナ少佐もフェドラー准将のデータを閲覧し戦況を俯瞰していた。

 「フェドラー准将という大将のデータはそれほど多くはありませんが、しかしなかなかに手堅く足場を固めて展開する将ですわね。海賊として軍閥を形成するだけはある、最低でも良将以上の存在ですわ。」

 そう身近の参謀達に伝え、軍の引き締めに掛かってる。強襲突撃を志向する諸将を抑える必要があるためだ。

 「敵もさるもの。力攻めはしてきませんか。諸将に告ぐ。決して強襲をかけるな。」

 「なんと!?セレーナ少佐は我らに怯えていろと仰るか!?」

 セレーナ少佐の発言に、心底驚いたと言いたげにコウサカ大尉が声を上げる。彼らは既に各艦で待機しており通信機越しではあるのだが、その豪快な物言いと態度は隠しようもないほどだ。

 「いえ。とりあえず、艦隊は収容して、人員は昼寝でもしてなさい。敵も様子見ですから、当面要塞防衛隊だけであしらえます。」

 「昼寝……。この状況で昼寝とは剛毅ですな!よろしい、要塞のことは要塞防衛隊にお任せし、我らは英気を養っておりましょうぞ!」

 『わはははっ』と豪快に笑いながら、コウサカ大尉以下の艦長衆が通信を切る。不利な状況でも士気の落ちない彼らの豪胆さは頼りになるのだが、豪快過ぎるのが困り物でもあるのだ。そう思いながらセレーナ少佐はため息をつき、思い出したように司令部を眺め渡す。放置していた志願兵達と会話してみるのも一興と思ったためである。新兵など作戦の足しにはならないのだが、彼等と会話すればコウサカ大尉などはよほど物分かりがよく思えるだろう、そう思ったためである。

 「そこの貴方、名前は?」

 「あ、はい!志願兵のショウゴ・イチハラ伍長であります!」

 そう真っ先に応えたのは、まだ歳若く10代半ばくらいの学徒兵である。

 「志願兵で伍長?……あぁ、パイロットですね。」

 セレーナ少佐は訝しげに彼を眺めながらそういう。学徒兵ながら伍長というからにはパイロットくらいしかないのだが、相当優秀でもあるという事だろう。通常の士官やパイロット候補であれば現在は老兵達の教育下にあって任官前であるし、一般的な志願兵は上等兵以下で雑用兵でしかないからだ。

 「イチハラ伍長、私にレモンティーを持ってきなさい。」

 「え……?レモンティー?……あの、私は衛生兵ではありませんが。」

 セレーナ少佐から唐突にそんな命令を受けたイチハラ伍長が困惑する。彼の言う事は尤もではあって、彼はパイロットなのだからそういった雑務は衛生兵などが行うべきものである。

 「そんなことは分かっています。ランファ軍曹!レモンティーを頼みますわ。」

 だがそんなことは気にも留めず、彼女はイチハラ伍長よりも上位にいるランファ軍曹に要求する。ランファ軍曹も若く決してエリートではないが、実戦も何度と経験しておりイチハラ伍長よりは遥かに格上である。要は彼の鼻っ柱をへし折ろう、そういう意図であった。

 「わかりました。他の志願兵方には緑茶でも頼んどきますかぁ?」

 「そうですね。その辺は任せます。レモンティーは早めに。」

 「わかってますよ。少佐にとって戦闘における必需品ですからね♪」

 ランファ軍曹はそう気さくに応じながら、セレーナ少佐にとって飲み物が重要であると述べる。実際の処、レモンティーは興奮作用があるため向精神薬代わりでもあるのだ。傍若無人に思えるセレーナ少佐とて決してストレスに侵されないというわけではないのである。

 「時に、なにか質問はありますか?」

 イチハラ伍長にセレーナ少佐が問いかける。

 「はっ!失礼ですが……、セレーナ・スターライト少佐は、このまま篭城を続けるおつもりでしょうか?我々志願兵はいつでも攻撃に移る覚悟です!」

 「どうするかは機を見て決めますわ。それと、攻撃、攻撃と……、幕府軍人の悪い癖です。……そうですわね。いい機会ですからよく防衛戦というものを観ておきなさい。」

 「では、セレーナ少佐、敵との和平交渉などは行わないのですか?」

 「和平?」

 「はい。時間稼ぎをするというのならば、和平交渉などによって時間を確保する手も考えられそうですが……」

 イチハラ伍長の言う事は教本通りと言えばその通りで、尤もな話ではある。

 「しても構いませんが……。こちらのカードは相手に対して降伏勧告をする程度しかありませんわ。貴方は、傲慢不遜にもそのような勧告が出来て?」

 「なぜですか?」

 「そもそも……、我々には相手が軍を退くのに値する対価を用意できません。次に、我々は寡兵。相手に対して圧倒的に兵力で劣っている今、和平を申し出ることは相手に泣きつくことと同じですわ。」

 「それでも時間が稼げればいいのでは?」

 確かに、古来和平交渉を申し出でいる間に時間を稼ぎ、或いは籠城の準備を整えるといったことは多用されている。

 「いいえ。目先の事だけが問題なのではありませんわ。この宇宙要塞の存在意義を考えなさいな。実際の所、この宇宙要塞こそが地球圏に残留する幕府軍の本拠地。それが、むざむざ敵に背を向け、慈悲を請う、或いはそれを演じて時間を稼ぐ、それらの行為を行えば幕府軍全体が総てがなめられます。その場合、実力ではなく幕府の武威だけで保っているような、我々の首都である地球、仙台の維持が出来なくなってしまいますわ。諸国に我々の武威衰えたと思われては、この要塞の補給線すら、完全に断たれるでしょう。また、同盟国の離反も考えられます。」

 「しかし、攻撃がダメであれば、下手に交戦して兵力をすり潰すのは……」

 「それは問題ですわね。とはいえ、ここの兵力は惑星間航行が出来ず、またほかに受け入れてもらえる同盟国もありません。どのみち、攻められたら戦って武威を示すしかないのですわ。逃げ道は無いんですから。」

 優先事項はシルバー大佐の帰還までこの拠点を保ち続ける事ではあるが。保ち続ける為には幾つかの条件をクリアしていなければならない。その最たるものが幕府の武威の維持である。敵性国家としてみれば、伊達幕府の実力が衰えたといっても、これまで築き上げた武威の前には手を出しかねる状態にある。フェドラーほどの大将になれば幕府の武威自体を恐れる事はあまり無いだろうが、特別事情が無い限り手を出したくは無いというのが本音だろう。幕府にとってはそれこそが敵を払う為の護符なのだ。そのために、最悪玉砕する可能性を否定し得ず、そのために将兵の生命を軽んじるわけではないが、国の威信は、兵や首都や足場の拠点以上に大事なのである。

 「セレーナ少佐!敵が少し攻撃の手を強めてきました!」

 そう報告が上がる。

 「そうですか。では、暫く要塞要員で防衛し、艦隊の乗員とそのサイクロプス隊士は、警戒要員を残して全員睡眠をおとりなさい。」

 「敵が攻めてくるのにですか?」

 敵が攻勢を強めてきたところでこの指示である。常識的には防衛強化が筋だろう。

 「このタイミングでの攻勢などどうせ様子見ですわ。私も寝ます。オバタ少尉、私が起きるまであなたを軍監に命じます。宇宙軍師団総長であるラスター大尉を補佐し、宜しく防衛しなさい。万一敵が要塞に取り付きそうなら起こしてください。では、おやすみ。」

 セレーナ少佐は平然とした表情で手をひらひらと振りながら、こともなげに司令室から下がってしまうのであった。




 「不審だな。」

 「はっ?フェドラー准将なにか?」

 「帝國軍とあろうものが、こうも静まり返っているとは。」

 セレーナ少佐がすやすやと寝息をたてている頃、あまりの消極的防御状況をみたフェドラー准将がそう疑念を口にする。

 「なるほど。帝國軍といえば、猛将揃いと聞きますからね。この静まり返った状況は確かに……」

 彼の参謀の一人が同意する。

 「奴らは総じて若い。若さ故に攻めかかってくると思ったが……。思いのほか手堅い行動をしているようだ。敵将はセレーナ・スターライト少佐。『帝國女3将軍』の1人か。25〜26歳の小娘が、それほど軍を掌握できるのか?まして、スターライトは王族出身でもあるまい。」

 「はっ。帝國軍将士は皆若いですから、彼女だけが特別と言うわけでもないでしょう。それに、どうやらセレーナ・スターライトには威があるようで……」

 「威?」

 「はい。聴きますところによれば、彼女と対面した各国の将軍は、彼女の尋常ならざる威厳に圧倒された、と。そして、自然と彼女に采配を任せてしまった将軍も数多いと聞きます。アジア周辺の戦線では有名な逸話になっているようです。」

 セレーナ少佐は女神隊軍団長になってから、新地球連邦軍向けの援軍として多くの戦場に派遣されている。それらを調べれは、存外逸話が多い将校であった。

 「なるほど。女三将軍……。智勇統率全般の用兵術長けたシルバー、私設工作部隊や政治家とのパイプ活用し政略謀略に長けたヘルメス、野戦築城と艦隊運用に長けたセレーナ。噂の通り、油断ならざる将軍と言うことか。」

 「御意。」

 「艦隊はこのまま攻撃を続けよ。決戦をする必要は無い。敵要塞の防衛装備を少しずつでも破壊するのだ。」

 敵の戦力を減衰させるためには、要塞の薄皮1枚1枚剥ぐしかない、彼はそう考えるのであった。

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