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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
前編
59/171

第13章 宇宙海賊討伐戦 02節

 「マール隊長、敵は食料を補給するためポイント220に向かうようです。」

 そう伝えられたのは、マール・サンダーというまだ若い海賊軍の頭領である。年齢で言えば30台前半と言ったところだが、その勢力はラグランジュ6周辺においては他の海賊を圧倒するほどである。もっとも、この勢力は彼自身が一代で築いたわけではなく、前任死亡に伴い最も実力を評価されていた彼がその勢力を継承したものであった。

 「そうか。情報通りだな。敵の動きに注視せよ。」

 実のところ、管制官は海賊衆の味方である。輸送艦隊を襲う海賊働きをある程度黙認する代わりに、有事にはコロニー防衛を担う約定もあるためである。伊達幕府軍が指示されたポイント220であるが、ここに向かうには彼らの縄張りを通過する必要がある。通常であれば輸送艦から物資を略奪するために襲う所ではあるのだが……

 「大和帝國艦隊……赤に水飛沫とイルカの女神隊旗のようですぜ。」

 「赤に水飛沫とイルカの女神隊旗?指揮官は誰だ?」

 幕府軍は旗艦には少なくともそれが大尉以上である限り指揮官を示す軍旗を翻している事が多いため、その識別判断は比較的簡単である。大尉以下の場合には、特に許された軍功の多い者等だけが旗が個別の旗を許されている。そのため、マールの指示によってその部下たちがデータベースをあさり始める。

 「過去のデータからいえば……、女神隊副軍団長、カリスト・ハンターの旗でないですかい?」

 「カリスト……?」

 報告にマールが首をかしげる。彼にとっては聞きなれない名前である。

 「ご存じないのですか?彼女こそ貧民街からチャンスを掴み、伊達幕府軍副軍団長まで駆け上っている……、神速カリスト・ハンター大尉です!」

 「しらん。」

 急にハイテンションになった部下を、お前は何を言っているんだ、とでも言いたげにマールは冷たい目線を送る。

 「えぇ……」

 「なんだ、有名なのか?」

 聞いて欲しそうな部下の話を聞くのも上の務めであろう。実のところ噂話の類にはあまり興味はないのだが、彼はそう聞き返す。

 「一部では有名ですぜ。その日暮しの肉体労働者の家庭に生まれて、偶然大和帝國のイシガヤ王の目に留まり、一旦は侍女になったものの、イシガヤ王から援助を受けて直ぐに士官学校に入学し、その後は瞬く間に出世して……、若干20歳で、他国では准将クラスの副軍団長になってますからね!アメリカンドリームって感じで、庶民には人気ありますぜ!」

 「そうか。」

 「マール隊長がつれない……」

 話は聞いてやったのでよかろう、そういう事だ。聞きたいことはそういう事ではない。

 「他に宇宙艦隊の司令格……、大和帝國軍大尉の旗はあるか?」

 「ないですな。」

 「ふむ……。データをよこせ。」

 面倒になった彼は自分でデータを閲覧する。そのデータによれば、カリスト・ハンター大尉というのは幕府軍女神隊軍団長のセレーナ・スターライト少佐の副官であり、参謀能力が高く行軍や兵站管理が得意とのデータが記載される。先の木星圏における戦闘では、いち早く機動艦隊を移動させてイーグル・フルーレ艦隊への横槍を入れ、結果は芳しくはなかったようだがその後は総司令たるシルバー・スター大佐の補佐を務めたとある。他のどの公式データを見てもほとんどは副将や参謀としての活躍が主で、主体的に指揮官を務めた場合にはどのような采配をとるか、というのは掴めないものであった。ただ、少なくともその戦歴は年齢に比して圧倒的に多く、熟練の将校以上の大規模会戦すら経験しており、お飾りの将ではないのは確かであろう。

 「ところでマール隊長、敵が偵察部隊を下げたみたいですぜ?」

 「そうか。敵は何を考えている……?」

 危険がないと判断して偵察部隊を下げたというのは考えられることではあるが、少なくともここは伊達幕府の勢力圏ではない。コロニー諸国を信用しての事であれば単なるお人好しという事だが、少なくとも参謀格の人物がそれをするのは聊か疑問である。

 「ヤりますか!?」

 部下が逸る。油断と見て取れるため当然と言えば当然ではあるのだが……

 「暫く待て。どのみち、ここのポイントに到達するには時間がかかるんだ。もう少し調査をしておけ。それに……」

 彼には彼の都合がある。今回の件について、彼のクライアントは2人いる。これは通常の海賊働きとは異なり、傭兵としての仕事だ。一つ目は、大軍閥を指揮するフェドラー准将からの依頼である。大和帝國と一戦するに当たって大和帝國の別働隊を牽制せよ、と言うのが、彼に課せられた仕事である。マールの率いる海賊衆も海賊の中では知られたほうではあるが、フェドラー准将に逆らって生きながらえるほどの勢力を持ってはいない。小軍閥と言うのは、大勢力に屈して生きざるを得ないものなのだ。そしてもう一つはラグランジュ6のオエライサンからの依頼である。ラグランジュ6首都コロニーにおいて暴動を起こして現政権をひっくり返そうという、革命家まがいからのつまらない仕事だ。確かにこの中立コロニー群においては政治の腐敗により政権交代が叫ばれてはいるのだが、他国の軍勢を海賊に襲わせ、そのコントロールができていないとの理由から政争を起こし、裏で政権に対する暴動やデモを行わせようなどという、完全に腐りきった政治家達からの依頼である。とはいえ、どのみちフェドラー准将からの依頼を受けなければならないので、併せて受けたものである。

 「それにしても……、偵察部隊を下げた事は気になるな。しかし、チャンスであることに変わりはないか。」

 指揮官たるもの、そういった悩みは尽きないのであった。




 「カリスト大尉、なぜ偵察部隊を下げた?」

 一方、カリスト艦隊では参謀部をまとめるクスノキ中尉が、カリスト大尉に詰問調で意見をしているのであった。

 「直ちに偵察部隊を再度展開したほうがいいぞ。」

 クスノキ中尉からすれば、自軍領域外で警戒態勢を解くのは油断に他ならない。長距離行軍距離であれば偵察機を出す以上の速度で移動するためそれで問題ないのだが、ラグランジュポイント周辺ではサイクロプスとの交戦速度程度までの加速でしかない。

 「ラグランジュ6からの指示で動いてるんです。ポイント220にも直ぐに到着できる距離ですし、そう敵を気にしなくても良いんじゃないかな、と。それに、偵察部隊を展開すると、移動速度が遅くなります。サイクロプスより艦艇のほうが最大速度は出るのですから、収容して動いたほうが効率がいいじゃないですか。不用意に襲われる可能性も減るんじゃないかと思いますよ。」

 「一長一短か。」

 サイクロプスの交戦速度レベルとは言っても、そこから加速して離脱することは可能なのだ。その場合は兵を収容いていた方が早い。

 「そうですね……。流石に両方は無理です。」

 そう言われればそういう考え方もあるかもしれない。クスノキ中尉がその対応に納得する。

 「カリスト大尉、後続の駆逐艦が!」

 「どうしたの通信参謀?」

 慌てた通信参謀からの報告が上がる。

 「後続の高速駆逐艦落陽が戦列から遅れています。」

 「慌てなくていい。理由は?」

 「機関部の故障とのことです。修復までに約1時間掛かるとのこと。どうしますか……?」

 襲撃というわけでなければ慌てる必要もないだろう。

 「艦隊減速。落陽の状況確認を急ぎます。」

 補給については急ぐような状況ではない。艦隊の落伍を防ぐ方が優先であろう。



 多くの人に

 運命の女神は微笑むが

 運命の女神は神速である

 認識し分析するよりも先に

 コレを捻じ伏せなければ

 手に入れることなど

 できっこないのだ




 「カリスト大尉、機影補足しました!所属不明です。数3。」

 「どこから?偵さ……」

 そこでカリスト大尉が偵察部隊を帰還させたことに気づく。 

 「後方、駆逐艦落陽に向かっているようです!」

 「ヒビキ中尉に指揮させて、サイクロプス3個小隊を急ぎ展開。」

 その報告にカリスト大尉はサイクロプス隊再展開の指示を行う。仮に小規模な襲撃程度であればヒビキ中尉に任せておけば、特に問題はないだろう。

 「さらに艦艇らしきものをレーダー内に捉えました!後方より近づいてきます!」

 これは、敵以外の可能性はまずないだろう。あまりにも不自然だ。

 「護衛機動駆逐艦隊反転、迎撃を。」

 「周辺、アステロイド帯です。目視偵察に限界あり。」

 アンチレーダーもある程度散布されているようだが、コロニー周辺だけに濃度は薄い。どちらかと言えば周辺を漂うアステロイドで目視できないほうが厄介だ。現代ではアンチレーダーのせいで追尾式の兵器は少なく、仮に使ったところでアステロイドにぶつかっておじゃんである。

 「少しの動きも見落とさないようにお願い。」

 「後方に敵影が増えているようです!艦影4、サイクロプスも数機居るようです。」

 3個小隊じゃ足りなかったかな……、そうカリスト大尉は思うが後の祭りである。至急次の対策が必要だ。

 「クスノキ中尉、全サイクロプス隊の発進準備を。」

 ヒビキ中尉に続いてクスノキ中尉に出撃指示を出す。彼もまた優れたサイクロプス隊指揮官であり、工作部隊を率いている都合、対海賊戦でも期待できる。

 「了解した。」

 言葉少なげに彼は格納庫に向かう。

 「通信参謀、正面モニターに拡大映像を映せる?」

 「いえ……。流石にアンチレーダーのせいで簡単な光点位置しか映し出せません。」

 まぁ、情報が少ない中で戦闘をするのは通常の事だ。欲張っても仕方はない。切り替えが大事である。

 「そう……。ともかく、敵であれば艦隊を反転して粉砕します。全艦反転!艦隊は輪形陣。指示があるまでEタイプの全方位を警戒した応戦対応を。ヒビキ中尉、サイクロプス隊発進完了までの間、周囲防衛を頼みます。」

 「アイ、マーっ!みんな、いっくよんっ!」

 先行して出撃してるヒビキ隊が敵と思われる光点に突撃していく。

 「後発の部隊はクスノキ中尉の指示に従い順次展開せよ。発進後は主力攻撃部隊として敵の殲滅に向かってください。」

 ヒビキ中尉の部隊の中核は女神隊の精鋭機、『ニンフ』と呼ばれるサイクロプスだ。ブラックボックス化された特殊AIによる『女神の加護』補正を発動させる、ガディスタイプの量産機種である。専用機『コスモ・ガディス』には機動性や防御力において劣るが、幕府軍の一般機と比べればはるかに高性能を誇っている。この機体であれば、たとえ少数でも時間くらい稼げるはずである。

 「カリスト大尉、敵が後退をはじめました。」

 「後退?」

 「はい。」

 「後退…………?」

 兵力展開図を見れば、反転の後に敵部隊を追撃するべく急遽展開をしたため、まだ輪形陣すら整わずに戦列が乱れてしまっている。しかも、そのままアステロイド帯へ突入してしまっているという状況だ。

 「ちょっとこれは……」

 所詮は海賊だ。普通に考えれば致命傷にはならないはずであるが……

 「カリスト大尉、敵襲です!」

 「どこ!?」

 「この、艦隊旗艦『秋葉』のすぐ近くです!その数、艦艇5、サイクロプス34機!た、大軍です!」

 「ちょっ!?どこに隠してたの!?」

 普通の海賊が持っているような戦力ではない。小国とならやり合えるクラスの戦力である。アステロイドベルトの岩石にでも擬態していたのだろうが、驚いているのはその隠し方よりも兵数である。

 「カリスト大尉、あのサイクロプスを良く見ろ。」

 そのカリスト大尉の通信機にクスノキ中尉から連絡が届く。

 「なんです、クスノキ中尉?」

 「オペレーター、私モニターデータを艦橋のモニターに投影せよ!」

 参謀でもあるクスノキ中尉からの指示で、彼のサイクロプスの映像を直接艦橋につなげる。映っていたのはコロニー諸国でよく使われる量産型サイクロプスである。もちろん細部やカラーリングは違ってはいるが。

 「なるほど……。対サイクロプス、対人機雷散布準備。各員対ショック姿勢。」

 「……対人?……落陽に対しミサイル来ます!」

 カリスト大尉の指示に疑問を覚えつつも、作業を開始したところでコレである。

 「落陽の人員は至急退艦せよ!記録映像を撮れたら、そっち優先!」

 「しかしっ!」

 直後駆逐落陽が沈む。

 「よし、機雷散布!」

 「秋葉、艦直下に閃光!」

 閃光弾は目くらましの攻撃であろう。

 「敵のステルス機と工作兵のはずです。各人迎撃せよ!ラグランジュ6政府に連絡を。」

 であれば、艦に乗り込んで来ようとでもするはずだ。対人機雷が効果を発揮するだろう。

 「あぁ!アレは政府の軍ですかっ!?サイクロプスが……」

 「脅えるな!アレはただの海賊です。艦隊前進、輪形陣への展開急げ!輪形陣への展開が完了したら、紡錘陣へ密集!進路このままラグランジュ6へ戻ります!」



 これこそがゲリラ屋の真髄

 一死など省みず弾雨抜け

 一死を犠牲に懐に殴りこむ

 俺たちに敵に優る兵数などなく

 ただあるのはこの無謀さのみ

 食べるために戦う者

 理想のために戦う者

 それがなんであれ、

 これこそがゲリラ屋の真髄



 「マール隊長、用意できたそうですぜ!」

 幕府軍のカリスト大尉が慌てて対応している一方で、マール率いる海賊衆は予定通りの作戦展開である。

 「よし、やれ!俺らは眼前の敵に取り付いて、旗艦の占拠を目指せ!」

 如何に作戦勝ちしようとも、彼らは圧倒的に兵力で劣る。勝つためには敵の頭を抑えて降伏勧告でもするか少なくともそれで交渉を有利に進めるしかないのであった。

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