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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
前編
46/144

第10章 木星会戦 05節

 「オルトロスの出撃を確認。衛星要塞の背後にまわったもよう。また衛星要塞がこちらに向けて前進中。」

 一方、イシガヤ側においても索敵手がそう報告をする。包囲しているのだから状況は常に確認中である。

 「なかなか、なかなか。」

 イシガヤが面白そうにそれを聞く。

 「これは間違いなく乱戦になりますな……」

 アークザラットがそう言うが、分かりきった事である。

 「アークザラット、しかし都合は悪くない。最終的に集めた兵力はこちらが上だ。」

 包囲には時間があったため、当然ながら追加で相当数の応援部隊は用意されている。イシガヤ側も抜かりはない。

 「さようで。」

 「アークザラット、お前は此処に残り、艦隊とカタパルト隊の総指揮を取れ。私は、ペルセウスで乗り込む!」

 「無茶なっ」

 「突攻機ペルセウスはその為の機体だ。……全機に告げる。ハーディサイトとシルバー大佐の決着が付く前に、こちらはこちらで決着を付ける。ただ一駆けに敵の要塞を粉砕せん!南無観世音菩薩の我が旗に続け!」


 銀色の騎士が宇宙を駆け

 兵士達はその後ろに従い

 ただ一駆けに進み征く

 剛勇と見えながら

 その実繊細

 烏合を纏める術

 まさにそれである!


 混迷の戦場は粛々と進む。

 「イシガヤ王、衛星激突します!3……2……1…………」

 乱戦に持ち込めば勝ちである。イシガヤとしてはそう考えて衛星の衝突を待つ。危険な状況での戦闘である。兵の命を守るためには、発生するデブリの流れを見極めなければならない。

 「機影確認!」

 「どこだ?」

 だが、索敵手からそう報告が入る。まだ距離はあるに違いないが、敵の動きを掴むことも重要である。

 「上です!!」

 「なんだとっ!!?」

 それは想定外である。彼とて索敵はしているが、しかしこの状況下完全な索敵は不可能である。ましてや戦場の中心地となればなおさらだ。奇襲、いや強襲である。

 「各機散開!また、散開後上方へ突撃をするぞ!」

 イシガヤが慌てて指示を下す。こういう時に守りに入れば兵は逃げる。


 「遅いわ!!」

 一方、強襲に成功したサタケ大尉はそう怒鳴りながら侵攻を進める。「衛星がぶつかる前に仕掛けろ」、そう言ったクルマ元中尉の策はまさに当りだ。

 「全機銃撃!」

 サタケ大尉率いる第一中隊を中心とした部隊がイシガヤ率いる軍勢に迫る。


 「えぇいっ!立て直せ!敵に背を向けるなや!俺の旗に集まれ!」

 イシガヤ少佐が怒鳴る。逃げたら今以上に危険であるからだ。じきに衛星同士もぶつかり逃げる背後から隕石片も当たるだろう。敵と真正面からぶつかった方が、敵と戦う上でも隕石片を避ける上でも都合が良いのである。

 「全機に告げる。敵軍に攻め掛かれぃ!乱戦に持ち込むのだ!我に続け!」

 ペルセウスが先頭を走れば、他の者もそれに従わざるを得ない。パイロットのイシガヤは王族であり執権であるのだ。彼を見捨てようものなら自分たちの首が物理的に飛びかねないのである。


 「イシガヤめ、やるな!しかし……、しかしっ!パイロット能力は俺の方が上だぞ!行けよ、シュード・ホーネット!!」

 ホーネットは思考制御の無線ビーム砲であるがイボルブと呼ばれる思念波の強い超能力者にしか使えないものである。一方のシュード・ホーネットとは有線制御の思考制御ビーム砲であり、思念力の高くない一般兵にも使える疑似ホーネット装備である。これによってライフルとは別の空間から敵を砲撃できる利点を有するが、ホーネットとは違い使用砲数はせいぜい2基という限界はある。それ以上は混線の危険が増えるし、一般兵での思念制御では能力上限があるためである。ただ、それでも2基のビーム砲が上下左右前後から攻撃を仕掛けてくることは脅威であり、一騎討ちにおいては圧倒的な力を見せつける武装であった。


 「ホーネットだと!?」

 イシガヤが声を上げるペルセウスの機体に、数条のビームが機体を掠る。

 「当たらなければどうという事はない……、なんて無理に決まっているだろうが!!」

 かつて100年以上も前の戦場では、多数のホーネットによる攻撃を回避し、しかも総て撃ち落としたパイロットが複数存在したという。よほどのイボルブであったのだろうが、それほどの超人がいながら、彼らがどれほどの事を成したというのか。現世においても今上陛下や亡きハーディサイト中将、アーサー王、イーグルなど、数多のイボルブの将はいるが、彼らはその超人的な能力だけで名を挙げてきたわけではなく、智謀を磨き、国を治め、多くの重圧に耐えて生き抜いてきた者たちである。イシガヤとて彼らと肩を並べなければならない以上、そんな武装一つに負けるわけには行かないのだ。

 「当たった所で、だ!死にはすまいよっ!」

 彼はそう豪語する。実際、多少当たったところでペルセウスの装甲であれば十分に耐えられる。ホーネットのビーム砲は、スペース的に兵器部分に注力できないため、それほど強力ではない。ならばそれで十分だ。

 「各機サイクロプスは敵サイクロプスを叩き潰せ。三機の小隊編成を維持し欠け落ちれば同じように欠け落ちた兵で編成せよ。オルトロスは……、我がペルセウスで対応する!」

 編成の詳細は、現場の小隊長に任せれば良い。

 「イシガヤ少佐、無茶な!相手は木星のエース、サタケ大尉ですよ!」

 だが、一部の小隊長がそう声を上げる。彼らとしてはサタケ大尉と直接ぶつからないのであればその方が楽ではあるのだが、イシガヤに死なれても困るのである。

 「奴も人なら俺も人、支障はない!俺とてエースパイロットだぞ!しかもイボルブだ!俺が抑えている間に敵主力部隊を駆逐せよ!援護はその後でよい!」

 そう言うが、イシガヤ自身はそうは思っていない。時間稼ぎを出来る自信はあっても、操縦技術はサタケの方が上であろうからだ。それでも、大将としてはそう言わざるを得ないだろう。


 「紡錘陣形をとれぃ!目標はペルセウスとイシガヤの首だ!敵は分散している、なだれ込むチャンスだぞ!」

 サタケ大尉が部下を督戦する。他はともかくイシガヤを討てばこの戦場で勝利は固い。そのイシガヤといえば部隊を散開させ、自身は手勢少なく攻め掛かってくる。首を獲るチャンスである。


 「一番隊、二番隊、サタケの軍を左右に回避、三番隊は下方に回り込め。……んぐっ!」

 「イシガヤ少佐!?ご無事ですか!?」

 「支障ない。すなわちだ、逃げるからあたる!」

 サタケ隊の攻撃を肩部に食らったものの、ペルセウスはなお健在である。装甲が厚い部分への被弾であったため、若干装甲強度が落ちたかもしれないとはいっても機能的には問題は出ていない。そして逃げるから当たる、というのは、後退する事で攻撃の弾道と交差する時間が増えるからである。前に進めばその分の時間は減るのだ。ペルセウスは前に前に加速する。


 「イシガヤめ、突っ込んでくるだと!?サーベルを!」

 弾幕をものともせず突っ込んでくるペルセウスの前に、サタケ大尉は驚愕する。シールドへの着弾は認められるが、その他の箇所への着弾はあまりしていないようである。突っ込んでくる相手に当てるのは意外と難しいし、当たったとしてもシールドに当たりやすい。かといって後退すれば友軍の被弾が増えるし、その選択はない。

 「うぁぁっ……!がッ…………」

 兵の声が途絶える。

 「どうした!?」

 「三番機がペルセウスと衝突!パイロットは気絶したもようです!」

 「ペルセウスは!?」

 「健在です!」

 「化け物めっ……!」


 「損傷は……、左腕マニピュレーターの一部破損、か。」

 敵機に衝突したペルセウスであったが、損傷は軽微である。ぶつかって来た敵パイロットは流石の技術であったが、ペルセウスが無事なのは機体性能差である。同型機であればイシガヤの側の損傷の方が大きかったであろう。

 「王族の機体が化け物なのはな、コストを無視して作られているからだ。我ら王族は前線に立つ。それが兵を黄泉に送る我々の勤めだ。しかし、王族がみなエースと言うわけではない。だからこそ、その技量を埋めるためにこんな化け物がつくられるのだ。王が死ぬのはたやすいが、王の勤めは天下のために兵を黄泉に送ること。だからこそ、そうそう死ぬわけにはいかんのだ!」


 「サーベルはまずいな。近接戦での殴り合いではペルセウスの装甲の前に無力だ。」

 サタケ大尉が部下に指示を出す。先のパイロットはよくやったが、機体性能差で負けたことは明白である。

 「では!?」

 「ライフルで削れ!」

 そうはいってもペルセウスは平然と突っ込んでくる。ライフルの衝撃で多少は装甲を劣化させるが、直撃したとしてもそうそう致命傷にはならない。厄介である。

 「サタケ大尉、ペルセウスと乱戦に入ります!」

 「だめだ離脱しろ!イシガヤは乱戦の妙手だ!ちっ……」

 彼のライフルの射線に味方機が入る。イシガヤがわざとそう誘導しているのだろう。

 「味方機が邪魔だっ!」

 それならば使える武器は一つしかない。

 「シュード・ホーネット、行け!」


 「各隊、展開は?」

 サタケ大尉の攻撃をいなしながら、イシガヤが手勢に問う。

 「イシガヤ少佐、敵軍に我らは突破されましたが損傷は軽微です。」

 「さもありなん。衛星の衝突まであと何分だ?」

 「1分ちょっとです。」

 「……よし。」

 「よし、ではありません!イシガヤ少佐っ!損傷が!危険です!」

 ペルセウスの損傷蓄積は相当なものになってきている。イシガヤ機に攻撃が集中している状況で、決して楽観視できる状況ではない。

 「わかっている。だがな、身を捨てて戦ってこその俺だ。死を決しているからこそ縦横に戦える!」

 サタケ大尉のホーネットがペルセウスの装甲を焼く。他の敵機からもライフルが降り注ぐ。彼の盾はかろうじて形を保ってはいるが、各部装甲は砕け、配線等むき出しになり醜悪な機体に化しつつある。だが幸いにもイシガヤは乱戦経験が多く、敵は実戦経験からして少ない。なんとか耐えて、反撃として機体性能に任せて殴りかかれば、敵は慌てて退くのだ。また、彼が敵の影に入るように動くため、同士討ちを怖れて思うように攻撃をしかねている。それが敵の命取りだ。

 「よし、各隊……」

 イシガヤが手元のモニターを見ながらつぶやく。見れば彼の本陣に攻撃を加えてくる敵は、ペルセウスと護衛を蹴散らしながらではあるが中央に吸い寄せられている。それはまさに……

 「敵の半包囲は完了した!各隊攻撃を開始!」

 思いのほかの、作戦通りである。

 「少佐は!?」

 「構わん!これで沈むペルセウスと俺ではないわ!攻撃せよ!」


 「サタケ大尉!」

 しわがれた声がサタケ大尉のスピーカーに響く。

 「クルマ元中尉、なんだ!?」

 「良く周りを見よ、敵に囲まれてるぞ!退け!」

 右翼を支えるクルマ元中尉の隊は奮戦しているが、それでも数負けで中央寄りに押され始めている。彼の隊だけならいいが、サタケ大尉の部隊はあまりにも敵に囲まれてしまっているのだ。混戦の中で目の前の敵に追いすがりすぎるというのはありがちであるが、失態である。

 「馬鹿な!敵はペルセウスを見殺しにするのか!」

 左右からの攻撃にサタケ隊の損傷が増える。

 「深追いしてしまったか……」

 彼のモニターには被弾したペルセウスが跳ね飛ぶ姿が映る。フレンドリーファイアである。これが圧倒的優勢な状況下であれば滑稽と笑って済むところであるが……、それどころではない。

 「衛星の衝突まで後いくらか!?」

 「30秒と無いぞ!このまま囲まれた状況では危うい、退け!」

 クルマ元中尉が再度警告する。

 「歯がゆい!しかし、撤退する!!!」

 「大尉!?」

 サタケ大尉の指示に部下の一部が不満の声をあげる。

 「このままでは全滅する、退くぞ!我が機が殿軍を務める!退け!」

 どこに撤退するのか、それは問題ではあるのだが、クルマ元中尉が撤退ラインを示す。サタケとしても念のために離脱用の輸送艇などは準備していたので、相当困難ではあるが、上手くやれば撤退できない事も無いだろう。

 「サタケ大尉な、」

 指示を下していたサタケ大尉のスピーカーに、そう問いかける声が届く。

 「誰だ!」

 「イシガヤだ。戦とは呆気ないものだろう。あっさりと片が付くことがある。」

 「貴様を倒せなかった事笑いに来たか!?」

 回線は通常回線の一種である。

 「そうだ。だがそれは大尉と少佐の違いだ。民と王の違いだ。お前はなんで戦う?親父の夢に引きずり込まれるなよ。」

 「うるさい!」

 イシガヤがそう指摘する。サタケ元少佐であれば、長い戦乱を収めきれず、イーグルと伴に戦場往来を重ね、後悔の中に平和に導きたかった、そういう夢があったとしてもおかしくはない。イーグルにしてもそうではあるが、彼等もまた本質は善良な人間である。そうでなければ多くの部下の信望は集められないし、国民の支持は得られなかった。彼らは英雄として戦争を忌避する事は無いが、かといって戦争を楽しみのために行っているわけでは無かったのである。国民を守るために戦い、国民を豊かにするために戦う、一心不乱に戦ってきたとはいっても、そういう乱世の英雄である。だが、サタケ大尉はそうではないだろう。

 「さて、衛星がぶつかる。……貴様が生きていたらまたどこかで合おう。」

 イシガヤは、まるで情けのあるかのような声を掛けるが、

 「……我が軍に告げる敵軍を掃討せよ!可能な限り撃破し、叶うなら一兵足りとも逃さず討ち取れ!」

 その後に続く言葉には慈悲はない。

 「なんだとっ!?」

 どういうつもりで声を掛けたのだとサタケは疑うが、そんな事を悠長に考える場合ではない。反論をする余裕もない。逃げる敵を討つのは容易である。彼らは逃げながら衛星衝突の衝撃に耐えなければならない。イシガヤの側は、追撃という心の余裕をもちながら衝撃に備えればいいだけである。

 「各機!イシガヤの御屋形様をお守りしろ!機体装甲が砕けておられる!盾を合わせペルセウスを囲い込め!」

 サタケ隊にとっての幸いは、アークザラットが指示を加えたその点である。

 「追撃は!?」

 そう問い返されるのは、イシガヤの発言とは異なるからである。

 「程々で良い!御屋形様の命が大事である!何としても御屋形様をデブリから守れ!」


 かくして戦闘は終わった。サタケ大尉を逃したものの、イシガヤ勢の絶対的な勝利である。

 「イシガヤの御屋形様、終わりましたな。」

 「何が終わったものかよ。アークザラット、俺のペルセウスは?あれは我が妻ヤマブキの血を吸った形見だ。」

 修理をしろとの意味である。

 「無茶を言われる。あれだけ損傷しては修理に数ヶ月かかります。資材もエウロパに戻らなければ足りないでしょう。」

 「…………。」

 そういわれ、イシガヤは不満げにペルセウスを眺める。彼女が死んだ時よりも遥かにボロボロの機体を、である。彼女がコクピットさえ開けなければ死ぬわけがなかった、それだけの機体である。悔しく思うのは当然であった。

 「それよりも御屋形様、此れからいかがなさいますか。」

 「今、妻のギンはイーグルと戦っている。俺とは遥かな違いだよ。俺は大尉に過ぎないサタケと戦ってこのザマだが、ギンは英雄イーグルと互角に戦う。格の違いはいかんともしがたいな。」

 問いかけに対してイシガヤがズレた回答をする。

 「兵については纏めております。」

 故に、アークザラットは話を促す。

 「それでいい。雪仁親王陛下は?」

 木星に在住する、今上陛下の第一皇子である。一族を分けるのは木星を治めるためでもあるが、一方で万が一の時に離れた親族が血を継承するためでもある。幕府は勤皇家でもあるからそこには余念がない。

 「保護いたしました。」

 「……というより、イーグルの手勢が保護しておりましたが、我が方が参じた際に抵抗せず親王陛下の御前にあがれました。」

 「……イーグルもまた朝臣の分は守る、か。」

 イシガヤはしみじみと感傷的にそう述べる。

 「御屋形様はイーグル殿に似ていらっしゃいますな。采配や野望、他の才覚も彼に劣られますが。」

 「……イーグルは歯がゆいのだ。奴が俺であれば総て世は思うままだろう。しかし奴はそれが出来ずに歳をとりすぎた。」

 もしイーグルに時間の余裕とイシガヤの財力・動員力があれば、歴史は変わったに違いない。今頃は世界の統一をはたしたかもしれない。

 「殿下はそのまま首都に置け。防備は良く固めイーグルの手勢を見習うようにせよ。なんならそのままイーグルの手勢を使ってもかまわん。降伏すればその殿下守護の功績を賞し、罪は不問としよう。我々に抵抗していないのだからそれくらいはしても良い。また、我が主力は撤退の準備をせよ。」

 「やはり撤退の準備ですか?」

 「ギンが勝たなければ、撤退のほかあるまい。」

 「重ねて聞きますが、イーグル殿をそれほどまでに怖れられていらっしゃる?」

 「イーグルは名将だぞ。勝てるわけあるまい。撤収の準備をしろ。」

 経済界に生きるアークザラットは、確かにイーグルの武名を知り恐れてはいるが、しかし畑違いであるからどこまで脅威であるのかは分かっていない。彼の参謀達も同様である。イーグルの元で軍功を成したイシガヤとは、その思案が決定的に異なるのは仕方のない事である。

 「ギンが勝てばよし。しかし、負けたならイーグルの手勢にもよるが、予定通り撤退する。その場合、いずれにしても先ずエウロパに篭る。ついで、反攻可能とみれば、反撃を。不能であれば援軍を待つ。」

 「援軍など何処にいると言うのです?」

 その指摘は尤もである。エウロパで兵器の増産をする事は可能であるが、時間はかかるであろう。資材については当面の建造分程度はストックされているのだが。

 「ギンが戦死した場合、最低でもクオンかヤオネが必要だ。妥協点でカリストだな。彼女らを参謀に迎えれば、俺でもそれなりに戦える。可能であればセレーナを待つ。セレーナであれば、兵数が多少負けたとしてもイーグルを討てるチャンスはある。これを、待つ。」

 「セレーナ殿、セレーナ殿と、どなたも言われる。危険な兆候ですな。」

 アークザラットがそう述べる。実際彼は畑違いといっても、立場上それなりに武官と話すルートは構築している。直接や人づてを含めて、幕府軍団長や師団長の大半が、セレーナ少佐を高く評価している事は把握しているのだ。国民の人気もあるが、指揮官クラスからの評価割合の方が遥かに高い。だが、それだけの人物であるなら、その評は危険でもあるだろう。

 「他に手はない。いずれにしても今は待ちだな。」

 が、そんなことは考えても仕方のない事である。イシガヤはその懸念を一蹴し、そう伝えるのであった。

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