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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
前編
30/144

第07章 地球方面軍司令代行の選択 02節

挿絵(By みてみん)

 「あら丁度いいところに。シルバー様ごきげんよう。」

 出くわしたのは金髪を靡かせた威厳のある女性将校であるが、そう表現するとすれば彼女しかいないであろう。

 「セレーナ少佐、ごきげんよう。傷の具合は?」

 シルバー大佐は、先の石狩会戦で負傷したセレーナ少佐を気遣う。そのような無理な命令をした張本人ではあるが、司令官として当然の命令であり、そしてそれはセレーナも納得していることではあった。出した命令で謝るようであれば、総司令は務まらないのだ。

 「正直申し上げまして、いまだに痛みは走りますわ。医者が言うには悪化することはありませんし、そのうち痛みも引くとの事ですがキズは残ると。」

 「そうですか。」

 シルバーが肩に手を置いたセレーナを見やる。セレーナの性格からして痛々しさは無いだけマシである。

 「わたくしも一応女ですから、これでドレスなども着にくくなると言うのはなかなか悲しいものですわね。しかし、あの戦場では生き残ったこと事からして僥幸。腕も無くならずについておりますし、良しという所でしょうか。」

 セレーナはそう嘆く。彼女は武骨で豪胆な采配とは裏腹に、社交界ではなかなかに優美である。多くの男性は、彼女の傍若無人にも映る豪胆さと軍団長としての地位、優れた容姿に鋭い眼光といったところで怖気づいてしまうので、彼女がモテることはなかったのではあるが、生来の美しさに加えてイシガヤ家の御用商人の父に連れられパーティーにも参加するべく優美な礼儀作法も身に着けていたため、外国の軍事特使などとの会合では実に重宝される人材なのであった。

 「そうですね……。負傷者も多く、そして多くの将兵が死んで……殺してしまいました。」

 表情はそのまま、シルバー大佐はそう言い直す。将兵に死ねと言う指示をしたのは彼女自身であるからだ。内心の葛藤はないでもないが、それは司令官の務めである。

 「さておき、シルバー様、地球方面軍の司令をどなたになさるおつもりですか?」

 セレーナ少佐は何やら訝しむような様子でシルバー大佐に問いかける。傷や戦死者の事など些末な事である。問題はその本題だ。

 「バイブルにと。とりあえず立ち話もなんですから部屋へどうぞ。」

 「それでは失礼します。」

 シルバー大佐がセレーナ少佐を自室に招きいれるが、自室といっても女性らしさの全くない部屋だ。本棚には古今の戦記、古典、用兵学の各書物、戦争工学に関する書物、各国の兵器カタログ……そんなものしか入っていない。ただ若干の救いは、伊勢物語やら源氏物語が隅の方に入っていることか……。急な戦闘で私物をあまり持ち出せていないということもあるが、それにしても、であった。しかしそれ故に、戦争に関していえば抜群の知識を有しているのである。

 「それでシルバー様、単刀直入にお聞き致しますが、地球方面軍をヘルメス・バイブル少佐に任せる、と?」

 「そのつもりです。彼女は優秀ですから。」

 シルバーはセレーナの質問にそう淡々と答える。疑うまでも無く、という表現の方が彼女の表情としては適切であろうか。

 「シルバー様、ヘルメス少佐が先の戦闘で勝手に戦艦夕凪を動かし、各国に協力を求めたことをお忘れですか?」

 「それについては天皇陛下の内意を受けていたと報告を受けました。」

 シルバーのそれは、幕府は天皇に認められて初めてその意味をなすのであるから、当然だ、というような言い方である。

 「シルバー様、陛下は幕府の軍司令ではありませんわ。軍を動かす権限があるのはただ一人、貴女だけですわ。」

 セレーナはそうハッキリと述べる。軍の抑制役は、国会直属の女神隊軍団長の務めでもあった。

 「しかし、陛下のお言葉であればやむをえないでしょう?」

 シルバーの軍事指揮能力は抜群ではあるが、彼女の限界は此処である。政治面に些か疎い事が問題であった。普段は政治面でもそれなりに通用する夫であり執権のイシガヤが補佐しているが、今は意識不明である。現状の艦隊に所属するものの中で、政治的判断が出来てシルバー大佐と懇意にしつつも中立的立場か味方側の立場にいて、それだけの発言が出来るものはセレーナ一人であった。

 「シルバー様の指揮する軍は、国会の許可のもとに動かす軍です。陛下は立憲君主として高いところにお立ちですが、だからこそ軍を勝手に動かす権限はないのです。」

 セレーナ少佐はそう毅然として言い放つ。

 「それは正論ですが……」

 そういわれては戸惑うのはシルバーである。本人としても政治面に疎いことは承知しているので、セレーナの意見は重要視していた。

 「そういった指示のもと、勝手に動いたヘルメス少佐に地球方面軍を任せるというのは危険だと考えます。」

 「ふむ……」

 「ましてや、現在木星の動きが不審ですわ。」

 「諜報員数名が消息を絶っていると言う話ですか?」

 セレーナに対してシルバーはそう応える。シルバー大佐も指揮下に幕府公式の諜報部隊を抱えているが、以前に比べてその報告が緩慢になっているように感じるのは事実であるし、加えて数名が行方不明になっている。イシガヤ家の有する黒脛巾という私設諜報部隊も同様であって、その原因を調査しているところであった。シルバーには黒脛巾に対する直接の命令権は無いが、正妻としてイシガヤ家にも属するシルバーには定期報告は送られてきているのだ。黒脛巾はCPGに関連する事から、クラウン家・バイブル家・オニワ家には情報供給がされているのは当然として、セレーナに対してもイシガヤ家経由で情報が発信されていた。彼女の実家がイシガヤ家の御用商人の1つであるというのもないではないが、彼女自身が高く評価されているためである。

 「そうですわ。わたくしも先ほど耳にしました。木星と言えば先の仮王執権イーグル・フルーレ様によって統治されていますわ。まぁ……統治と言っても国会の名の下に国民へ各種命令を下すだけの存在ではありますけど。しかしそれでもなお、隠然たる実力をいまなお持っているのです。今回の件と彼と何か繋がりがあるのか無いのかまではわかりません。しかし、彼と親しいヘルメス少佐を地球方面軍司令にして何かあったなら、何かあったでは済まない大問題になりますわ!」

 セレーナの言うこと自体はもっともである。イーグルはシルバーの伯母を正妻にしていたため、シルバーにとっては叔父にも当たるが、元々は日本の血を引いておらず、伊達幕府執権になるに当たっては、伊達家の親族として藤原氏を称してこの正統性を得た人物である。彼と彼の父は伊達幕府の独立戦争時代から活躍し、彼自身は当初は若年のパイロットとして神王マサムネに仕え、その近衛部隊を率いていたという。その後の転戦の中で頭角を現し、マサムネ王から後継の指導者として認められ、彼の娘を正妻として長らく幕府を率いてきたのであった。戦においては勇猛にして絶妙な軍事指揮を持て囃され、政治外交においては世界を向こうに回して一歩も退かず、混沌とするこの世界で伊達幕府の名声を保ち続けるだけの力量を備えていたのである。先に討ち取ったナイアス・ハーディサイト中将とは、亜細亜圏の名将として並び称され、そしてかなりの親交もあったという事実がある。

 「う〜ん……」

 シルバーもそう考えないでもないが、しかしそこまで疑って良いかと言うのも微妙だ。指揮官が下のものを疑ってかかっては下のものは働かないし、指揮官としても下のものの能力を発揮しきれない。だが、セレーナ少佐にそう説得を受けたシルバーの脳裏に不安が広がる。ヘルメスは、決して手放しで信頼できる、というわけではないのだから。

 「しかし、他に残せる将と言ったら貴女くらいしか残っていません。セレーナ少佐、地球方面軍団長代理を承けてくれますか?」

 「そうですか。しかし、わたくしに地球方面軍を任せるとは?」

 そう聞くのは、セレーナ自身も軍団長格で、クラウン中佐を除けばその候補に挙がるのも当然ではあるのだが、先任の軍団長としては海軍のクキ少佐や空軍のリ少佐もいる事に加えて、場合によっては王族や王族の重臣に任せてもおかしくはないためであった。

 「軍事的に見て地球圏は非常に危うい状態です。幕府の戦力はすでに小国のそれと同等しか残っておらず、兵站線はイザナミ要塞を経由して火星の所領か木星本国か、いずれにしても遠いところからの補給に頼らざるを得ません。ここで軍を任せるとすれば守勢に強く兵站管理にも優れた将軍が必要です。それを考慮すると、候補はセレーナぐらいしか残っていないのです。」

 シルバー大佐は素直に理由を告げる。別にお世辞を言っているわけではない。

 「カタクラ御爺様やオニワ長老が生きていらっしゃればよかったのですが……。少佐以上の将軍は、クラウン中佐、ヘルメス少佐、タカノブ、セレーナ、クキ少佐、リ少佐ですが、クラウン中佐とヘルメス少佐には、王族として朝廷とのやりとりを任せるつもりです。またタカノブは執権として木星本国に連れていく必要があるでしょう。クキ少佐やリ少佐も優秀な軍事指揮官ですが、二人ともどちらかといえば攻勢に強い将軍で守勢に優れているというほどでもなく、他国との外交関係把握も必要な軍団長を務めさせるには、政治力に些か難があるでしょう。」

 その中ではクキ少佐はそれなりに政治力がある方だが、それでも王族でもない叩き上げの軍団長では出来ることに限界がある。セレーナの場合に有用なのは、王族ではない市井の出身とはいえ、イシガヤ家の御用商人の家系出身で社交界での交流もできるだけの作法を心得ている、という点にある。

 「また、大尉以下も検討しましたが、陸軍師団総長のバーン大尉は意識不明、宇宙軍師団総長のカミジョウ大尉や女神隊副軍団長のカリスト大尉、海軍師団長エン大尉では政治的能力や豪胆さが不足しています。遊撃隊オニワ大尉やカタクラ大尉、女神隊隊ヤオネ大尉にはそれぞれ別の任務がありますし、陸軍のニッコロ中尉はマシですが身分が軽すぎる。」

 軍事、外交、政治、経済、いずれにも秀でている将軍というのは限られているものなのである。

 「セレーナ少佐、受けてくれますね?」

 その物言いと眼光には、意見を言うくらいなら自分でやってみろというニュアンスが若干含まれてはいる。含まれてはいるが、実際のところ人選は限られているのである。

 「……不肖セレーナ・スターライト、地球方面軍司令代行の任、承りましたわ。」

 したがって、そう答えるしかないのである。

 「ありがとう。しかし流石に荷が重いでしょう。出来る限りのことであれば処置します。」

 シルバー大佐がそういうのは、まさに善意での事であるが、自分自身では何が必要か判断しかねるために判断を委ねている、というも同然であった。

 「それでは、伊達家と石谷家の家臣団の内、地球圏に残る方をお預けいただけませんでしょうか?わたくしは市井の出ですから、朝廷や軍事方面に精通する子飼いの部下もおりませんし助かります。それに、わたくしへの目付の役割も果たせましょう?」

 「なるほど、流石セレーナ、慎重ですね。」

 この辺りの芸当はシルバー大佐には思いもつかない事である。目付、というのは確かに大事だ。自ら監視を申し出るというのは、自らの清廉潔白さと忠誠心を示し、シルバーに敵対しない事の証明であった。

 「では、伊達家からは筆頭家臣のカタクラ大尉とサナダ中尉をセレーナにつくよう言い聞かせましょう。彼らは地球に残しますし、貴女とも戦場を供にしてきた仲ですから問題ないでしょう。石谷家からはヤオネ大尉につくようによく言い聞かせましょう。地球の石谷家を纏めるのは彼女の役目ですし、元々貴女の部下でもありますからやり易いでしょう。」

 シルバー大佐のこの人選は、あまりにも大盤振る舞いの人選であった。流石に準王族当主のオニワ大尉をつけるとは言えないが、カタクラ家はダテ家と6代に渡り協力関係にある一族であり、サナダ家は3代に渡る程の歴史のある家老の一族であり、ヤオネは石谷の正妻格の婚約者である事に加えオニワ大尉の義姉弟であるからだ。両家にとってこれほど重要な人材をつけるというのはセレーナの望んだ以上のことであった。シルバー大佐が政治に全く疎く、疑い警戒し牽制するなどの術数を一切使わないからこその判断である。

 「……これほどの人選ご助力、ありがとうございます。」

 セレーナとしては想定以上のことであったが、一方でこの2家の絶大な信頼を受けている限り軍事行動は限りなく自由になるし、経済力を有するイシガヤ家の支援を受け兵站の維持が楽になるのは確実である。残りはクラウン中佐やヘルメス少佐と協調しつつ、天皇陛下と歩調を調整する必要があるだろう。そして、イーグル・フルーレと連絡を取る必要がある、と、内心思うのであった。

 「セレーナ、どうかしましたか?」

 「いえ、今後について少々思案を。」

 彼女はそう適当にはぐらかす。

 「シルバー様、地球圏はわたくしに安心してお任せくださいな。シルバー様がお戻りになるまで、よく軍をまとめ勢力を保てるように努力いたしますわ。」

 「うむ。よろしく頼む。さてと……地球圏はセレーナに任せるとして……」

 そう呟きながらシルバーは艦内回線をつなぐ。

 「シルバー・スターからカリスト大尉に告げる、至急私の部屋に来なさい。」

 セレーナと話をつけた後、シルバー大佐はやや砕けた物言いでカリスト大尉を呼びつける。セレーナの副官でもあるが、彼女自身の知己でもあった。

 「セレーナ、カリストが来るまでお茶でも飲みますか?インスタントしかありませんが。」

  セレーナにそう伝えるのは、彼女がお茶にこだわりがあることを知っているからである。シルバー自身もまたこだわりがないわけではないが、どちらかといえばお茶の効能を重視しているのであって、戦場においてまで味にこだわる程ではなかった。

 「いただきますわ。」

 セレーナはそう答える。というより、そう答えるしかないのだが。

 「さて……とりあえず意識の戻らないタカノブは私がそのまま木星に連れて行きますが……それを考慮してもなお、この状況は不安ですね……」

 シルバーが弱気な発言をするのは珍しい。ましてや軍事的なことではなく私的な内容であるのは。

 「セレーナも若いですが、私もまだ今年で21歳の若輩です。経験不足もありますが、大将を務めるのは、中々の心労ですね……」

 それは素直な感情の吐露である。

 「シルバー様、そうはいっても他に道はありませんでしょう。シルバー様は統べる者として生を享けたのですから、残念ながらその義務を果たすしか他はないのですわ。一国民として、国主様には人身御供になっていただきたく思っております。」

 「なかなかずけずけと言いますね。しかし、私はそういったセレーナの胆力に憧れます。」

 カップの中のお茶の水面の小波を見つめながら、シルバーはそうしみじみと言う。まるで揺れる心情の如くであろうか。

 「あらあら。そう言ってくださるのは嬉しいですが。」

 御冗談を、とでもいいたげな口調でセレーナは返す。

 「セレーナ、私は戦争しか出来ません。それは自分でもよくわかっているのです。しかしながら統治者の家系に生まれ、億を超える民衆を守り、将兵を死地に送りながら統治を行っていかねばならない。図らずも比較的政治経済に強いタカノブと婚姻し、それなりに支えあっていけていますが、そのタカノブも今はまだ戦傷で目覚めていない。妹も、育ての親のような師も先の戦闘で失いましたし、正直、逃げ出したいとすら思います。もちろん、他の諸将の前でこんな弱音は言えませんけどね。」

 他の近しい親族と言えば従兄バーン・フルーレ大尉が居るが、彼もまた戦傷で目覚めてはいない。

 「だいぶお疲れのご様子ですわね。」

 「えぇ……。戦闘にも一区切りができました。それで、気が緩んでいるのでしょうね。セレーナ、貴女が大将であれば私のように泣き言も言わない事でしょう。貴女の事は頼りにしています。」

 シルバー大佐は、じっと、セレーナの目を見ながらそう伝える。神算鬼謀の知略を持ちながら、政略謀略には全く疎く純真無垢ともいえる彼女の視線に対し、セレーナも臆することなく見つめ返す。

 「過大評価ですわ。」

 ただ、そう答えるのがやっとであった。

 「セレーナ、いずれにしても私には他に頼る人がいません。よろしくお願いしますね?」

 「……承りますわ。」

 他に何と答えたらいいのであろうか。セレーナは内心ずるい、とは思いつつもそう答える。セレーナ自身は政略にも謀略にも強い方ではあるし、純真無垢とは到底言えない腹芸すらして見せる人物であったが、なんの計略もなく純粋に頼りにされて、それを無碍に出来るほどの人物ではなかったのだから。

 「カリスト・ハンター大尉、到着しました!」

 そんなことをしている内にカリスト大尉が到着する。イシガヤに見いだされて士官学校に推薦され、今や女神隊副軍団長を務める俊才である。際立った兵站管理能力を有し、シルバー大佐の帷幕に呼ばれる事もたびたびであった。

 「さて……。カリスト大尉、入室を許可します。」

 「失礼します!」

 そう言われ、やや青味がかった長い黒髪を靡かせながら、赤眼の美女が入室する。豊満とまでは言えないが、小柄ながら比較的肉付きがよい体型で、その快活で明るい表情は女性らしさを感じさせ好印象であった。

 「カリスト大尉、早速ですが……」

 シルバー大佐が前置きを省略して切り出す。

 「私はセレーナ少佐を地球方面軍司令代行に任命しました。今後セレーナ少佐は地球方面軍をまとめて、私が木星の戦力を持って帰還するまで、宇宙要塞に篭り時期を待つ作戦に移るでしょう。その間、地球圏の各種外交や兵士の訓練など、まさに一国の元帥と同じレベルの作業を行っていく必要があります。一方で、木星に帰還する私としても、新兵の募集や兵器の開発・配備などの軍事面だけでも、木星圏の膨大な戦力の再編成を行っていく必要があります。兵站管理や事務作業の出来る参謀官は全く足りない状況なのです。どちらも同じように大事なものですが……カリスト大尉には好きなほうを選んでもらおうと考えています。」

 重要な人事ではあるが、シルバーとしても決めかねる、といった所であった。

 「マジで!?」

 カリスト大尉がそう返すのは比較的気安い仲だからであった。

 「マジで。」

 「ナ、ナンダッテーっ!?」

 「まぁ、居たいほうを選べばいいのですよ。」

 実際兵站管理に優れた副軍団長格のカリスト大尉が居る戦線のほうが幕僚の運用が楽になるという点はあるが、どちらにしても一長一短の政局であって、また居なくてもクオン、ニッコロなどの将でもある程度は代用は可能であった。

 「シルバー様、カリストの副官としてクスノキ中尉を貰ってもよろしいですか?」

 「ちょっ!?セレーナねぇさん!!」

 セレーナ少佐がそう口を挟む。カリスト大尉が遊撃隊旅団長のクスノキ中尉に気があるのは公然の秘密であって、彼女がどちらに行くにしてもその人事が懸念点であったからだ。通常、別軍団の士官を副官に付けることはあまりないが、女神隊と遊撃隊は同時運用されることが多かったことから例外であった。事実、遊撃隊軍団長のイシガヤの副官を兵站管理に優れた女神隊のヤオネ大尉やクオン曹長が務めることも多く、反対に女神隊のセレーナ少佐の補佐官をサイクロプス戦術に強い遊撃隊のカタクラ大尉やクスノキ中尉が務めることも多々あったのである。

 「なんでまたクスノキが必要なのかはわかりませんが……。まぁ、セレーナの望みであれば聞いてあげましょう。」

 恋路に全く疎いシルバーはそう答えるのであった。

 「シルバー様、感謝いたしますわ。」

 「それでカリスト、貴女はどっちを選ぶのですか?」

 「木星帰還についていきます!地球は地球で大変だと思いますけど、向こうでの再編成に人員も必要だと思うので。」

 「その通りです。カリスト大尉、貴女には帰還艦隊の艦隊指揮を任せますので、よろしくお願いしますね。」

 「えぇ…………」

 こうして幕府軍の主要人員の編成は終わり、木星への帰路に就く。だが、事はそう簡単に進むわけではないのであった。

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