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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
外伝(0272年4月) クオン・イツクシマとの出逢い<完結済み>
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外伝 クオン・イツクシマとの出逢い 02節

 「偶然にしても、なんとも場所が悪い。」

 深夜3時過ぎ。人が完全に寝静まった住宅街の地下で、イシガヤのため息が漏れる。一般人が通ることはあり得ない、スペース・コロニー管理会社であるCPG管理の、コロニーメンテナンス用通路である。そんな簡単にそして秘密裏に使えるのか、という疑問もあるだろうが、元々『こういったこと』を想定して作られたものであり、そしてイシガヤ家がそう作らせたのである。当然ながら当主であるタカノブはそれらへのアクセスは自由であり、それこそがイシガヤ家が恐怖される遠因の一つなのであった。

 「延期しますか?」

 彼の部下の一人が問いかける。何か問題がある場合に、無理に仕掛けない方が良いこともある。いくらイシガヤ家が力のある王族だとは言っても、これらの行為の証拠が大っぴらに残ってしまうようなら、それは政治的に問題が起こり得ることなのだ。

 「今日が一番都合がいいのだろう?ならば今日叩くまでだ。」

 イシガヤがそう言ったのは、この住民区画がクオンの住居にほど近かったためである。彼女の出自調査や両親への工作のために当然住居は調べていたためで、王族としては当然の事ではある。こうして敵を討つのに何か問題があったわけではない。

 「…………遅かれ早かれ、だ。さすがに今日の相手は見逃すわけにもいくまいしな。」

 イシガヤがそう言う。今日のターゲットは、イシガヤ家の資産を横領していた人物とその家族である。CPG役員でイシガヤ家の家臣でもあるこの人物は、イシガヤ家やオニワ家が木星の管理をする余裕がなかった際に、その木星での家臣団の維持管理費用などの一部を横領した上、情報を海賊やイーグル執権に売り払っていたのであった。大なり小なり横領をしていた者はいるのだが、情報を海賊に売っていたものを認めるわけにはいかないのだ。

 「高級住宅街とも言えない地域に屋敷を構えてはいるが、資産は別に溜め込んでいるのはわかっている。会社勤めの間に羽振りが良くなって疑われないようにするためとはいえ、姑息なものだ。」

 だが、姑息とはいってもツメは甘い。既にイシガヤに反抗的だった者達の大半は処分されており、生き残っているものは土下座をして命乞いをした者達である。もっとも、それで助命されたものは、罪が軽い者達に過ぎないのではあるが。

 「…………御屋形様、自家発電無し。緊急通信機器は電磁波シールドで妨害します。」

 「では行くか。…………やれ。」

 直後、区画において停電が発生する。

 「地域の電源一時的に落としました。また、予備電源も停止。5分でお願いします。」

 彼らが制圧しているのは管理通路だけではない。幕府領の全てのコロニーではないが、CPGの管理するコロニーのすべては、彼の手中にあるのである。

 「赤外線サーチ結果は大人2、子供2、犬1。」

 「犬が厄介だが。」

 人間に比べれば動物の方が反応が早い。深夜に啼き喚かれたら面倒である。

 「犬は庭にいますから、先に狙撃します。突入を。」

 そう言っている間に、犬の頭にニードルガンの弾丸が突き刺さる。啼き声を上げる間もなく即死なのだから、狙撃手の腕は相当優秀であろう。

 「……続け。扉を開けるぞ。」

 用意されていたのは携帯用のヒートホークである。鍵を物理的に溶融破壊するのが、静粛性が高い破壊方法の中で一番早いからだ。

 「鍵破壊完了。急ぐぞ。」

 「先に大人を殺る。」

 「子供の方が良くはないか?」

 イシガヤの言に対して、彼の補佐を務めるクスノキがそう進言する。

 「子供が泣いたところでいつもの事だ。先に対策をとりうる大人を殺る。いいな?」

 「了解。」

 もっとも、イシガヤのその指示は、子供が親より先に死ねば、賽の河原で延々と石積みをする、地獄が待ち受けていることを思い出してしまったのが原因だ。効率的には、別にどちらが先でもたいした違いはない。

 「入ってしまえばなんの事はないな。」

 事前準備のおかげとはいえ、イシガヤ達は瞬く間に夫婦の寝室に押し入り、ニードルガンでその夫妻を殺害する。通常の銃に比べて発砲音がしないことと、猛毒が仕込まれているため、当たりどころが悪くても確殺出来る代物である。それをそれぞれ数発撃ち込むのは、念には念を入れるためだ。

 「次は子供だな。」

 「億劫だな。」

 クスノキの言葉にイシガヤはそう漏らす。

 「しかし、源頼朝や源義経の例もある。今回は見せしめなのだから、後で恨まれぬように確実に一族を殺しておくべきだ。」

 クスノキが引くのは過去の先例である。なまじ幼児だからと命を奪わなかった結果、源氏に滅ぼされたのが平氏である。クスノキの言う通り、脅威は取り除けるときに取り除くべきである。

 「…………そうだな。」

 「開くぞ。」

 扉の先に、もぞもぞと動く小さな影があるが、情けをかけるわけには行かない。イシガヤは銃口を向けてトリガーを引くが、一発外してしまったのはその躊躇いのせいだろう。とはいえ、幼児の頭部と胸部に銃弾は突き刺さり、確実にその命を奪うのだ。

 「冷酷さが足りんな。」

 一方のクスノキとその部下は、まだ寝返りもまともに出来なさそうな乳児に弾丸を撃ち込んだあと、先の幼児の死体にも再度弾丸を撃ち込む。複数人が敢えて死体に弾丸を撃ち込むのは無駄撃ちでもなければ狂気のせいでもない。万一直撃してなかった場合や、毒薬が機能してない場合に備えての事だ。目的は確殺なのだから。

 「目的は果たした。撤収する。急げ!」

 時間が経てば地域の電気が復旧する。防犯システムが起動する前に撤収するのが妥当だ。イシガヤの指示で、物取りの犯行に見せかけるために部屋を荒らしていた部下達も、一斉に退却を開始する。

 「こちらへ!」

 屋敷を退去する彼らを呼ぶのはまた別の部下である。その呼び掛けに従い、マンホールの中に彼等は消える。コロニー整備用の通路で、一般人は通行がかなわないものだ。もちろん別動隊は車両で付近から撤収するように見せかけ、港湾に向かいすぐに離脱するようなダミーまで展開しているのであった。



星海新聞

 宇宙世紀0272年4月18日。昨晩、CPG幹部の家族が殺害された。家宅が荒らされているため富裕層を狙った物取りの犯行と思われるが、今月に入り既に4軒目となる。政府は治安維持に力を入れるべく協議を行っているが、結論がでるまで一両日はかかる見込みとの見解であった。




 「おはよう。」

 「…………おはようございます。」

 翌朝、再び学校に現れたイシガヤの挨拶に、嫌そうに答えるのはクオンである。別にこれは低血圧で朝が弱いから、などといった理由が原因ではないだろう。

 「機嫌が悪そうだな?」

 「…………もちろんそうですが、イシガヤ様の手は、今日も血で汚れていそうですね。」

 「なんの事かわからないが、血で汚れていることは否定しない。これまでも、そして、これからも、だ。」

 血で汚れているなどと言われても、彼としてはその手は血で汚れすぎて、何の話をしているのかはピンとこない。それは、戦乱の世に為政者の一族として産まれたがための、必然の事でしかないのだ。

 「父母から、貴方のところに嫁ぐように強く懇願されました。」

 「ほう?」

 その言葉にイシガヤは些か驚きの声を上げる。現状ではまだ調査のみの段階であり、彼女の両親には何の手も回していないはずだ。

 「昨晩の事件、私の実家の近くでしたので、両親は大変震え上がったようですね。それと、殺害された方と、父の勤める会社との取引がかなり多かったようで、今回の事件以降取引を改めるとの通達があったそうです。倒産まではいかないようですが、じきに従業員整理を行う必要があるのでは?とのことで、私を貴方に嫁がせることで、万一の場合でも生活に困らないようにしたいとのことでした。」

 根底にあるのは、イシガヤを敵に回してはいけない、という恐怖である。彼らの立場で敵対したところで直接殺されることはないとしても、奉公構えの通達でも出されてしまえば、転職なども簡単ではなくなる。間接的に殺すことなど簡単な話なのだ。

 「なるほど。俺としてはそれでも歓迎だが、そもそも、俺が昨晩の事件を起こしたと思われているのも困ったことだな。」

 「白々しい事です。」

 クオンはそう言ってイシガヤをジト目で見る。彼はそんなことを言っていながら、やっていないとは否定はしないのだ。もっとも、昨今の流れから言えばクオンの事を意識してやったかどうかは別なのかもしれないが、それはそれ、である。

 「しかし、どうしてもというなら選択肢はやろう。俺の妻にならずとも、当面困らぬ金はやる。必要があれば親の就職先を斡旋しても構わない。金で解決できるものはどうとでもなるからな。しかし、人生というのはままならんものだ。」

 「とは?」

 イシガヤが自嘲気味に言い放ったことを、何事かとクオンは尋ね返す。イシガヤ家の資産は国家規模であり、家業を含めれば幕府経済を握っているほどの影響力を有するのだ。その彼の発言である。

 「俺は別に王族になりたかったわけではない。贅沢をしたいわけでもないし、偉くなりたいわけでもない。だが、生まれながらの王族として、こうして命を狙われ、そして命を奪う役回りを演じている。俺とて絵でも描いて慎ましく暮らせるなら、その方が遥かにいいが…………、世の中がそれを許さぬ。俺に与えられるのは政治や戦争という、どこまでも血塗られたカンバスだけだ。」

 事実、彼自身への暗殺未遂は何度も取り沙汰されてきたし、彼の両親は何者かに暗殺されている。乱世の権力者であるから特に仕方のない事なのかもしれないが、彼の生まれではそれらから逃げることも叶わないのであろう。

 「…………なるほど。たしかにそれらもまた、一つの芸術なのかもしれませんね。」

 「一両日やろう。その間に考えることだな。」

 そう言ったイシガヤは、手をひらひらさせながらその場を去っていく。やるせなさを感じるような、小柄な彼に似合いの小さな後ろ姿であった。



2日後

 「一両日時間を頂けると聴いていたのですが?」

 「もちろんやったではないか。」

 先の別れ際の姿からは考えにくいように、ふてぶてしさを感じる態度で、イシガヤはクオンの詰問を軽く受け流していた。

 「両親が完全に懐柔され、絶対に貴方の妻になれ、と……。私の意見はもう通りません。おかしくないですか?」

 「何かおかしいものでもあったか?」

 無論、表情から察すれば、彼の発言は、明らかにわかっていながら言ってることである。

 「手を回すなんて卑怯ではないですか?」

 それに対して憤りを感じる彼女は、さらにそうはっきりと詰問するのであった。

 「俺は、時間をやるとは言ったが、何もしないとは言っていないからな。屋外で作品を作るとすれば天候にも作業は左右される。悪天候が見込まれるのに、対策の手を回すのが遅かったなら、それはそちらの失態だろう?」

 「……………。」

 そう言われてしまえば、彼女もぐうの音も出ない。イシガヤが無理やり彼女を妻にしようとしているのは、わかりきっていたことなのである。彼女とて学業があるから、通常は昼間に両親をどうにかすることはできないが、学業にかまけて両親への対応をおざなりにしていた、というのは事実である。その間にイシガヤは彼女の両親を説得したのか、或いは脅迫したに違いないのだ。つまり、与えられた一両日というのは、実際は彼が手を回すための期間だったのである。

 「何もかも捨てて逃げ出すという選択肢は、まだ残っているぞ?」

 「そのようですね。」

 だが、そう言いながらもクオンは彼の瞳をまっすぐとらえたままである。

 「貴方の言うように、人生とはままならないもののようです。」

 そして、先に目を逸らしたのはクオンの方であった。

 「そうだな。なるべく、要望に沿うようには気を付けよう。」

 そう言って、彼はクオンの肩に手を添える。全てを捨てて逃げだすことは、或いは誰にでも可能ではあるが、実際にそれを選べる者はほとんどいないだろう。世の中のしがらみというものはそう簡単に捨て去れるものでもないし、捨てた先に平穏な生活があるかといえばそれもまた別だからだ。

 …………彼女は、まさにそういったままならぬものに、こうして敗北したのであった。



 咲く花の 下にかくるる 人を多み ありしにまさる 藤のかげかも



星海新聞

 宇宙世紀0272年5月1日、日本協和国伊達幕府第五王家石谷家当主、石谷少納言藤原隆信様、本日御成婚。本日付けをもって、一般家庭から厳島久遠様をご側室となされると発表され、惑星間通信によって朝廷に参内し、正式に天皇陛下にご挨拶をされると伝えられた。隆信様には現在ご正室はいらしゃらないものの、身分や久遠様の要望に沿う形でご側室にされたとの事。また、石谷家が保有する図書少允の官位を授けられたため、公には従七位下厳島図書少允藤原久遠を名乗られることとなる。



 「石谷少納言、そちの婚姻を祝そう。」

 画面越しではあるが、地球新二条城の御所から、凪仁天皇陛下がイシガヤに対してお祝いの言葉を述べる。妻が複数いればいちいち総ての婚姻にこういった言葉をかけることはないのだが、何分にも日本協和国において最大勢力を誇るイシガヤ家当主の初の婚姻である。

 「陛下、ありがとうございます。」

 とはいえ、流石の権威であってイシガヤと言えどもそう軽口をたたくわけにもいかず、こうして簡単に礼を述べるだけだ。

 「また、厳島図書少允には、正式に従七位下図書少允の官位を授ける。」

 「畏れ多い事ではございますが、謹んでお礼申し上げます。」

 凪仁天皇より直接、クオンもまたそう言葉を賜る。クオンの場合には通常参内できる官位ではないが、側室とはいえイシガヤ家初の妻であり、当面の公務においては彼のパートナー役を務める都合、こうして天皇陛下に目通りを許されている。彼女としてはそれすらも本来拒否したいのだが、正式な正室候補や別の立場をもった側室が現れるまでの我慢だとイシガヤに諭され、こうして諦めて出席したに過ぎない。

 「厳島図書少允は、石谷姓は名乗らぬのか?」

 「名乗っても良いとは伝えましたが、本人が厳島のままの方が良いと。公務はなるべく避けたいとの要望がございまして。」

 「なるほどの。」

 伊達幕府においては夫婦は必ずしも同姓でなくても構わないのだが、立場のある家庭で別姓を名乗る場合には一門扱いを受けず、相続や家業に対する立場が非常に弱くなる。イシガヤ家の場合、石谷姓名乗りを許されて御一門扱いを受ける重臣のクスノキ家や、石ヶ谷名乗りを許されている重臣でかつ内縁のソラネよりも弱い立場となるのだ。だが、家に対する権限がそれだけ無いため、その分公務などに参加する必要は少ない。クオンとしては別に公的身分の高さを求めているわけではなく、むしろ煩雑な公務を避けたいため、こうして通常は厳島名乗りのままを選んだのである。

 「乱世の幕府において、イシガヤ家の立場は重い。木星の穀物と水をほぼ独占し、巨大企業クリスタル・ピース・グループの経営権を有しておるのだからな。身に余ると思うのであれば、確かにかかわりはなるべく持たない方が良かろう。たとえそれが側室であっても、だ。」

 凪仁天皇のその言葉は、クオンを労わっているように聞こえて、実はそうではない。単純に、能力に見合わないならイシガヤ家の家政に関与するな、という警告である。天皇が直接そう言うほどに、その影響は大きいのだ。

 「御意。」

 それ対してクオンは素直にそう応える。彼女としても特に関わりたいわけではないからだ。

 「それはそうと、厳島図書少允は女神補正が高く、パイロットとしても有望と聞いたが?」

 「お耳が早いようで。当人は軍に所属をしたいわけではないのですが、女神補正が抜群に高く、パイロット補正もまずまず、また幕僚としても期待できそうなため、遊撃隊軍団長のカタクラ少佐殿から軍学の講義を受け、別途パイロット課程も受講させる予定です。」

 「なるほど。女神隊は、幕府軍が暴走しないように監視を行う軍組織でもあり、幕府国会及び日本協和国朝廷、つまり朕からの命令を幕府軍を介さずに受ける立場にもある。よく鍛え、良く尽くせ。」

 「御意。」

 クオンとしては断りたいところだが、流石に天皇の御前でそれは不可能である。無難な回答をするしかないのであった。




後日譚

 「御屋形様!私を差し置いて、他に側室をお持ちになるなどどういう事ですか!」

 わざわざ首都イシガヤ邸にまでやってきて、イシガヤに詰め寄るのは、侍女長を務めるソラネである。現在は安全の都合からエウロパのイシガヤ邸の管理と、そこでの仕事を任せているのだが、クオンを側室にしたとの報を受けて慌ててやってきたのであった。

 「…………俺の勘が、どうしてもクオンを手に入れておくようにと、激しく訴えたのだ。」

 「そんなに勘が鋭い方じゃないですよね?」

 が、彼の言葉などは一刀両断である。

 「でもほら、俺はイボルブで直感良い方だから。…………多分。」

 「ですが、私を側室にしていただけると!…………私の安定した生活のために!」

 実際、幼少時にイシガヤ家に保護された彼女は、一般教育というよりもイシガヤの従者として必要な専門的な教育を受けており、且つ内縁関係にもある。世間一般でも暮らせる程度の才能はあるにはあるが、これまでの経緯を考え安定した生活をしたいならば、彼の側室になるのが一番には違いないのだ。

 「しないとは言っていないが。ただ、身分の都合で正室にはし難いのと、年齢がまだ微妙に若いのと、側室にすると公務に出る必要があるから家政を任せられないという致命的な問題もあるから仕方なかった。そう、仕方なかったのだ。」

 「クオン様は、私が側室になっても?」

 しどろもどろに言い訳を始めたイシガヤは放置して、正式に側室になったクオンにソラネは問う。家内政治的にはソラネの方が権力はあるが、それでも公の身分はクオンの方が高いからだ。

 「私は、邪険にされなければ別にそんなことはどうでもいいです。無理やり側室にされただけなので。公務も出たくないですが?」

 「じゃあオッケーということで、言質はもらっておきましたからね!」

 ソラネがいつの間にか用意していた録音機を見せながら、そう高らかに宣言するが、

 「どうぞお好きに。公務もできれば代って欲しいです。」

 クオンからすればどうでもいい事だ。何なら彼女は公務もやりたくはないのだから。

 「それについてはすまないと思っている。しばらく我慢してくれ。」

 「軍事教練も本当は嫌なのですが?」

 「それについても申し訳ないと思っている!」

 「言葉だけでは誠意が足りないですよね?」

 クオンが彼の事をジト目で見つめる。何と言う事はない、出すものはさっさと出せ、という催促である。

 「アトリエでも講師でも、画材でも作品でも好きに手配してかまわない。出入りの…………、スターライト商会にでも言っておけば、だいたいなんでもそういったものは揃えてくれるか、手配先を紹介をしてくれるはずだ。」

 「分かりました。」

 クオンからすれば望まぬ婚姻ではあったが、欲しいものが手に入るのであれば、それはそれでアリである。逃げようがないのだから、もう諦めてなるようにするしかないのだ。

 「贅沢をし過ぎて民に後ろ指をさされない程度なら何でもいい。加減はよろしく頼むぞ。」

 「承知しました。」

 内心のホクホク顔を、表の冷たい表情に隠しながら、彼女はそう承諾するのであった。

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