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星光記 ~スターライトメモリー~  作者: 松浦図書助
後編
105/144

第18章 インドネシア進駐後 02節


 その人の身に余れば

 破滅は見えぬ間に顕れ

 取り返しのつかない問題を

 散々に撒き散らし

 そして伴に消え逝くのだ



挿絵(By みてみん)

 「ケネス叔父様、現在の状況はどうなっているのですか?」

 そう、現在のフィリピン総督ケネス・ハーディサイトに問いかけるのは、先の総督ナイアス・ハーディサイト中将の一人娘であるカレン・ハーディサイトである。齢17歳と幼いとは言えないが、国を纏めるにはあまりも若いことから、父亡き後、その跡を継いだ叔父のケネス・ハーディサイトの下で庇護されていた。母も既に病死していたが、両親ともベトナム系であったことから肌は白く、髪は金髪に染めた比較的女性的な体系の美少女ではあった。

 「カレンか。フィリピンの現状だが……、状況は最悪だ。」

 問われたケネス将軍は、質問に対してはっきりとそう言い切る。

 「控えめに言って、幕府軍がその本拠木星から軍勢を引っ提げて帰ってきた今、とてもではないが、我々に勝てる要素は一つもない。」

 その発言は、絶対に勝てる余地はないことを、敢えて強調するような言い方である。

 「……国力の差でしょうか?」

 「そうだな。伊達幕府の国力は我々の国力の10倍近くはある。ナイアス兄上の予定通り、幕府の重鎮をなるべく殺し、そして宇宙要塞を奪取していれば幕府復帰も早々起き得ることでもなく、或いはそこでこちら有利の停戦が結べる予想であった。幕府でもナイアス兄上と友好的であったイーグル・フルーレ前執権が謀反を起す予定であったしな。幕府軍の弱点は、その本拠木星と地球が、あまりにも遠く離れていることだ。輸送するにしても周辺海賊などの跋扈なども考えられ、護衛艦隊を運用できるような拠点が無い限り、その兵站維持は困難と言えるだろう。」

 ケネス将軍の言及するように、亡きナイアス中将がその予定通りに作戦を終えていれば、たとえ国力が10倍近くあろうとも、幕府軍と兵力は拮抗し得ると想定されていたのである。それだけ、長距離輸送や遠征は困難であるのだ。

 「だが、幕府軍はナイアス兄上を撃破し、そして宇宙要塞も維持し、それどころか兵站線を脅かしていたフェドラーなどの大海賊も平定してしまっている。加えて先に失陥した北海道がある以上、もはや彼等の長距離遠征や輸送を妨げる要素はない。」

 「…………和平交渉は?」

 「和平交渉どころか、降伏の交渉すら蹴られている状態だ……」

 ケネス将軍は俯き加減でそう嘆息する。戦は勝てないという認識をしている彼は、幕府軍が地球に帰還するという報を受けた時点から、幕府議会へと交渉の使者を送っている。だが使者は追い返される状態であり、条件付き降伏は総て却下、無条件降伏を匂わせてもなお不可という状況であった。

 「父の行為が、幕府の方々をそれだけ怒らせているのでしょうね……」

 「…………そうだな。だが私も兄上とともに考え、それが当時最善だと考えたのだ。この世界は、誰かが旗を振らなければ何も変わりはしない。兄上の理想は、私も共感したものだ。」

 それは一つの言い訳かもしれないが、ただそのために彼もフィリピン軍を支えてきたのは事実である。

 「…………だが、私ではとても力不足だ。」

 彼としても忸怩とした気持ちはあるのだろう。長く兄とともに国を治め導いてきたのだから。現在の彼は、その功績が認められた事と、妻がインドネシア人であることもあって、ナイアス・ハーディサイトの後継として連邦政府にもインドネシア議会にも認められ、総督の地位にいる。彼もまた優れた将軍ではあるとはいえ、一代の英雄であった兄に比べれば、彼の才能はあまりにも過少であった。

 「ではどうしたらいいのですか?うまく負ける方法を考えるとか…………」

 「そうだな。だが、さしあたっては戦うしかあるまい。」

 彼は首を横に振りながらそう答えるしかない。

 「叔父上、それではサタケ大尉という方を重用されては如何なのでしょうか?亡くなられたサタケ少佐程でないとしても、幕府軍で師団長クラスと軍制を知っていて、武勇も優れていたと噂を聞きました。」

 「……そうだな。だが、今のフィリピン軍は、彼を受け入れるわけにはいかない。外様であることに加えて、幕府に帰参するために裏切ると考える将校もいるのだ。実際には、彼の立場でそんなことはできないのはわかりきっているのだがな。サタケは追ってその方に付属させる。巧く使うのだ。」

 「…………わかりました。」

 ケネスが姪のカレンを大事にするのも、彼女が兄に似て賢いところがあるためである。敵に対して勝ち目がないことを直ちに理解し、その対策を思案している……。特に、『うまく負ける』などと、この場で即時に判断できるのは稀有な才能である。また、たとえ新参の者であっても、使えるものは使おう、という考え方は柔軟であるのだ。国家や大軍を指揮するには心根の優しい彼女には無理かもしれないが、彼としても今は一人でも頼りになる手駒は必要な時なのである。



 「シルバー様、お茶をお持ちしました。」

 「ありがとう、ソラネ。」

 幕府軍は北海道とインドネシアを平定した後、現在はフィリピン討伐の検討をしているところである。公式な軍議で無いが、総司令であるシルバー大佐は釧路のイシガヤ邸にて身近な幕僚達を集め、その意見を聴取しているのであった。

 「ソラネ、貴女も末席にて話を聞いてください。」

 ソラネはイシガヤの側室ではあるが、家宰としてその家の家政を纏めている。経済面の知識は諸将にも勝るものもあり、身近における信用できる人員としては彼女にとっても有用であった。

 「では、内々の軍議を始めましょう。」

 その場に集まっているのは、夫であるイシガヤ少佐、ソラネと同様側室であるクオン曹長、伊達家重臣のカタクラ大尉、イシガヤ家重臣のクスノキ中尉、オニワ大尉、そのほかにセレーナ少佐とカリスト大尉である。

 「…………その前によろしいでしょうか?」

 「何でしょうか?セレーナ。」

 「些か、わたくしは場違いでは……。カリスト大尉はまだイシガヤ家の扶持をもらっていますので、同席するのもわからなくはないのですが……」

 あまりにも場違いではないかと、呼び出されたセレーナが困惑した顔で述べる。彼女はシルバーともイシガヤとも親しく色々と便宜を図ってもらうことも多いが、決して、その派閥に入っているわけでも家臣になっているわけでもない。

 「そのような些事気にしなくて大丈夫です。」

 が、そんな意見はあっさり無視するのがシルバー大佐である。

 「少々気になることがありまして。セレーナも、軍とは別枠の女神隊軍団長として同席してもらえるのは助かります。」

 通常女神隊は軍の指揮下で動いてはいるが、本質的には軍とは別組織として予算も指揮命令系もつけられており、有事には軍を抑制するために対立することもありうる、国会や朝廷直属の軍勢である。目付としての参加を要請されてしまうと、彼女としても断り難い面があった。

 「それで内容なのですが、国会からフィリピンからの降伏を受けるな、と、通知が来ています。一応、私のほうにもフィリピン総督ケネス・ハーディサイト少将からの親書が届いてはいるのですが、扱いに困って皆を集めました。」

 そういってシルバー大佐は親書を皆の前に広げる。

 「ちなみに俺のところにも届いている。これな。」

 それに合わせてイシガヤ少佐も数枚の親書を皆の前に広げる。

 「実はこちらにも……」

 そういって、オニワ大尉も一枚の親書を広げるのである。内容的には、シルバー宛のものは正式な降伏希望と条件すり合わせ会議の開催要望であり、イシガヤ宛のものは幾つかあり、単純に泣きつくような状況説明の親書、フィリピン側からいくつか条件が提示された親書、無条件降伏をした場合にはどのように扱われるかなどの質問を含む親書などであり、オニワ大尉の持つ親書は義父であるスズキ社長宛で、便宜を図って欲しいという内容である。スズキの経営するアース社は地球方面での商圏を広く獲得しており、フィリピンとも貿易を行っていた。ケネス少将はこのことも把握していたため、王族であるスズキにも頼ったのであろう。

 「これらから察すると、ケネス少将は決して無能な猪武者などではなく、現状把握を正確にされている理知的な方だと思われますが……?」

 親書を読んだセレーナ少佐がそのような意見を述べる。

 「そうですね。過去の戦歴は少ないほうですが、いずれも無難な采配をしていますね。ぱっとみでも将才はタカノブよりは確実にありそうです。」

 「妻にディスられた、かなしい。」

 シルバー大佐の言葉に、イシガヤは茶化したようにそういう。

 「事実なので。」

 「だが、そうやって冷たいところも良いな。」

 「…………。さておき、ケネス少将の行動についてですが、国会からは降伏を拒否する旨で通達が来ており、交渉に応じるな、とのことなのです。」

 さも面倒くさいかのようにシルバー大佐はそう述べる。ただ、彼女自身は戦にしかあまり興味がないので、面倒くさいと思っているのは夫の方ではなく降伏拒否の方だ。

 「論理的に、そして理知的に考えればここで条件付き降伏を受け入れても良いと思うのですが、何か問題でも?…………血が、足りない、と?」

 セレーナ少佐はやや血の気の引いたような顔で、最後にそう付け加える。

 「流石にセレーナは察しが良い。国会は、降伏を受け入れても、それでは制裁として弱いと主張している。」

 そう伝えるのは、先ほどまでふざけていたイシガヤである。

 「エンドウ首相にも散々苦言を述べたのだが、国会の方針はそうそう変更する事はできそうにない、とのことだった。残念なことだが、与野党の市井出の下っ端議員達が、民衆からの要請で強い制裁を求めているようだな。戦場を知らないから簡単に述べてくれるのだが、現実にはなかなか厳しい。先の木星戦に参加した貴族連中がいる貴族院のほうは、ある程度の理解は示すのだが。」

 幕府においては、一代貴族を含む貴族は、率先して戦争に参加する義務がある。貴族と言っても、朝廷官位があり、地球への往来が比較的制限されないという程度の特権しかないが、たとえその程度の特権でも、その特権を得るための義務は非常に多大である。先のイーグル前執権謀反の際には義勇兵として参加した議員やその一族も多く、シルバー大佐側がコロニー奪還戦では圧倒的だったとはいっても、命を的に戦った経緯は、戦争を考える上では大きかった。

 「一定の戦争によって制裁をすること自体は仕方がないと思いますが、降伏を認めないという国会方針が厄介なのです。呼びたてたのは、意見を聞きたいのと、何か対策が無いか、という事です。」

 「つまり、国会に降伏を認めさせる案だな。もしくは、徹底的に焼き払った方が良いかどうかだ。」

 イシガヤの顔に何らかの含みが見えるが、一同それには無視を決め込む。

 「先ずは、クオン、意見を。」

 シルバー大佐がそう促す。クオン曹長の意見は、つまりシルバー大佐の意見に比較的近いであろうから、である。

 「はい。流石に戦わずに降伏を許すという方法はないでしょうから、先ずは一戦し、フィリピン軍の大半を撃破し、その上で何らかの方法によって降伏を認める、という所でしょうか。残念ながら、それに関する経済影響や、調略案などが全く思いつきません。ただ、フィリピンについてはケネス少将を中心に良くまとまっているので、彼は生かしておいた方が制圧戦で都合が良いとは思うのですが。今後を考えると、フィリピンはなるべく手早く決着を付けたいところです。」

 その意見にシルバー大佐が頷く。意見は同じという表明だろう。

 「タカノブは何かないのですか?」

 「無いな。降伏を許さざるを得ないというならば、王族の一門だったりして特別に多大な身代金などで助命してもらう方法が一番無難だが、ケネス少将とつながっている者など当然いない。或いは、国会議員を脅すという方法もあるが、流石に倫理観としてまずいだろうとは思う。報道による民衆の意識改善については、星海新聞社に依頼すれば反戦運動もある程度は可能だが、他の民放までは弄れないから効果のほどは不明だ。どうしてもというならば、民放を脅して言うことをきかせるという方法もなくはないが。」

 彼の率いる工作部隊を使えば、確かに暗殺の可能性などを含ませて脅迫することは可能かもしれないが、確実に揉める問題である。有事には先軍政治も許されるが、基本的には国会を通して国事を行っているのだから。

 「ソラネ、経済面で補足を。オニワ大尉も何かあれば、その後に。」

 「フィリピンについては食料自給率も比較的高く、エネルギー資源などの備蓄もあることから、1年やそこらの籠城には十分耐えられる物資はあるかと思います。従って、これをどうにかしようとすれば攻め入る他はないものかと。経済規模からいうとアジア圏ではかなり巨大で、フィリピンが壊滅した場合、アジア圏のGDPは相当数落ち込むことと思われます。ただ、フィリピンから輸出している製品類は、他国でも生産出来ないわけではないので、影響は一時的なものと需要の減少によるもの程度かと思われます。幕府とフィリピンとの取引はそれほど多くは無いので、影響は限定的かと思われます。」

 基本的に現在のフィリピンの経済規模は大きいが、東南亜細亜連合の盟主の立場を活かした商業中心地としての経済活動が主となっている。特殊な物品や資源についてはそれほど多く作っているわけではないが、同国の人口及び、その経済圏での人口が多いため、他経済圏からの貿易等の窓口を務めるなど商業活動における税収でも膨大なものがあった。これらは亡きナイアス・ハーディサイト中将統治下で急速に整えられたため、産業の脆弱性は見られたが、危機管理はなされており、穀物ベースでの食料自給率は100%以上を達成し、エネルギーや鋼材等の在庫も相当数抱えている状態である。乱世において戦争を想定した内政統治がしっかりとなされており、この点から見ても彼の能力が優れていた事を示していた。

 「一応俺からも補足しますと、アース社については一定の取引はありますが、これはソラネ殿が言う通り、幕府にとってみれば影響は過少なものです。前執権時代にはフィリピンと関係は悪くありませんでしたが、お互いに一定の警戒はしていたようで、国家安全上の物資のやり取りはかなり過少だったようです。現在もその傾向は同様で、取引の中心は嗜好品等中心ですね。もっとも、CPG社生産の部品などで組み立てられた最終製品などは、当国以外と相当数輸出入もしているようですが、他国の貿易まで制裁するのは些か難しいかと。」

 実際のところ、アース社はCPGから半敵対的独立後、戦略的にフィリピンとの取引を増やしてはいたのだが、実態としては大きく直接取引は増えていない。これはフィリピン側の指導者であったナイアス中将が亡くなり政治的混乱が生じたことに加えて、先の通り部品自体は他国が購入して、その組み立て済み製品が最終的にフィリピンに入るという迂回がなされていたためである。

 「なるほど、影響はそれほど多くないと見て、国会は降伏を許さない方針を示しているのですわね。」

 セレーナ少佐がそれらの説明を聞いて頷く。だが、問題はそこではないだろう。

 「それで、シルバー様はどのような未来を想定されているのでしょうか?」

 セレーナ少佐が単刀直入に質問をする。別に時間があるというならば、ゆっくりとフィリピンを始末してもいい。だが……

 「早い段階で、朝鮮半島を攻め潰します。」

 彼女のその言葉はとても鋭く冷たい。

 「…………なるほど。」

 「地球降下作戦においても我々の邪魔をし、そして核弾頭を放ってきた国家です。少なくとも宣戦布告をしてきたフィリピン以上に、その行動は脅威であり、喉元にある以上、これを撃破することは重要なことです。」

 実のところ、幕府首脳部としてはフィリピンに対する悪感情はそれほど大きなものはない。無論、多くの国民が、そして家族が殺された恨みはあるのだが、偽装訓練からの急襲とはいえ、宣戦布告を行い国際法上は問題の無い方法でナイアス中将は攻めてきたのである。攻めてきたこと自体は責めるべき事案だが、守れなかったことは幕府側の失態であった。

 「朝鮮を焼くために、フィリピンを速く落としたい、と。」

 「そうです。また、アジア圏での混乱は早めに収めたいという気持ちもあります。」

 「と、いうと?」

 まさか平和のためだ、などと、甘い考えがなされることは無いからである。シルバー大佐はただ戦争の効率しか考えない人物である。問題を武力で解決する。それが正しい武官の在り方であった。

 「ソラネに諮問しましたが、戦争を継続するとやはり経済損失が大きいためです。地球圏での収益もありますが、やはり木星からの輸送がネックですね。生産性の少ない物流コストの増大が、国家財政に悪影響を与えるようです。」

 そのあたりはシルバー大佐の得意分野ではない。物流コストについてはソラネが中心に資料を用意しており、軍事的に必要な輸送量などはカタクラ大尉やサナダ中尉などが算出して、互いに照合したものである。イシガヤ家家宰のソラネは、当然ながらその影響下にあるCPG物流事業も掌握しているため、そのデータの精度は高いものだ。そこから見ると、長期的な戦争継続もできなくはないだけの国力があるのははっきりしてはいるのだが、それに伴う公共事業等の縮小をしない限り、長大な兵站輸送の維持が困難であることははっきりしていることに加え、物量が増えることで人員を取られるので、本来行うべき経済活動に必要な人員の確保が難しくなり得る、という問題が考えられていた。計算上は、長期に渡る緩慢な戦争を行うよりは、短期間で長大な負荷を与えるとしても速戦即決で敵軍を平定したほうが、総コストは抑えられるという結果である。

 「戦争はつまりお金の遣り繰りでもありますから、確かに問題ですわね。それで、わたくし達にどうしろと?」

 「なるべく早めにフィリピンを平定する案を、それぞれ考えて欲しいのです。国民を懐柔する、国会を脅迫する、他にもあるかも知れませんが。前述にもありましたが、タカノブやサナダは、反戦映画を放映しろなどと言っていますね。タカノブとクスノキは、同時に国会の脅迫をしろとも言っていますが。」

 事も無げにそう言って述べるシルバー大佐には、そのことに関する感慨など全くない。だが、軍事指揮官にそんな感情などは不要だ。

 「……そうですわね。流石に脅迫は発覚した場合に問題があるので、女神隊軍団長のわたくしとしては反対申し上げます。反戦映画などで国民感情を緩和することには賛成ですわ。…………それと、スズキ様には、公的に公聴会を開き、状況を諮問されては如何でしょうか。」

 スサノオ・スズキは幕府王族バイルブ家の一人ではあるが、現在は独立した立場である。CPGの地球事業部の株式を半数以上保有していたことから、その事業部をハーディサイト中将の侵攻以降に半ば敵対的な形で独立会社に改編していた。

 「悪いが、今スズキ殿に便宜を図るわけにはいかん。」

 セレーナ少佐がそう言ったのは、蠢動しているかと思われるスズキに弁明の機会などを与えることで、関係を取り持とうという意図があるからである。

 「スズキ殿とは関係が悪いというわけではないが、半ば敵対的であるという、それが重要なのだろう?」

 イシガヤ少佐はそうオニワ大尉に問う。

 「…………その通りです。」

 「まぁ、王族もそれぞれ分散していたほうが、リスク回避には都合がいい。古来家を割ることは当たり前のことだ。だが、セレーナはスズキ殿とはあまり接点を持たないようにしておけ。少なくともこのフィリピン攻略が完了するまではな。」

 実際これは繊細な内容である。どちらかと言えば議会寄りのセレーナ少佐が、それとは敵対的なスズキと親密である、となれば、色々な交渉事で不都合が多い。幕府首脳と議会ともまた考えに差はあるが、こちらは公には同一のものであるから、セレーナがダテ家やイシガヤ家と親しいといっても、まだしも問題は少ないのであった。

 「まぁ、いずれにしてもです。国会はフィリピンへの制裁を強めたいようですが、私としてはフィリピンはさっさと陥落させておきたいのです。各自、何かいい案があったら随時でいいので連絡くださいね。」

 シルバー大佐は今の話は取り急ぎそうやってまとめる。アイデアがない状況で無駄に打ち合わせを延ばしても意味がないからである。ただ、錚々たるメンバーが集まっていることから、引き続き各種戦略に関する打ち合わせは続くのであった。

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