次は恋愛結婚する予定です
中世異世界風の乙女ゲームの悪役令嬢に転生する現代女性、ではなく現代社会に転生するガチな悪役令嬢の目指せ恋愛結婚!なお話です。
一話のみシリアス傾向ですが、転生後は基本明るめです。
作者の趣味が過剰に含まれる上、私ウケしか考えない展開です。それでも良いという心の広い方、お待ちしております。
全てのことの始まりは、馬鹿で阿呆で身の程知らずで場違いな馬鹿な女が登場してきたところから。
「エミリー・クラーク公爵令嬢、貴様に婚約破棄を言い渡す」
どよめく夜会のエキストラ、堂々と張る声で判決を言い渡す英雄役の王子様、その後ろで庇われるように立つ平民上がりの恥知らず、二人と私を逃さないように囲う数々のキャスト達。
気分は最悪よ、だって私はまさかの悪役だったから。
主人公とヒロインにはなれっこない、蹴飛ばされる悪役。
ここまでずっと、私に課される苦行は私がヒロインになるためだと思ってたから。
「お姉様…」
「エミリー様が……」
「公爵令嬢が平民に……ねぇ?」
「貴様はアンナ・アガター男爵令嬢の私物を隠し、隠れた場所にて複数人で淑女にあるまじき暴言を吐いた。そのような陰湿な行為をするような令嬢は、このルミエール王国王子婚約者として相応しくない」
確かに、一方的に複数人で言いつけたことはある。頭に血が上って物陰から睨んだこともある。私物を盗んだことはないけれど。
でもそれだってあの女が私の婚約者のノーマン第一王子を誑かしたからでしょ?誰だって私の婚約者のノーマン様になんて恐れ多くて話しかけすらしないわ。
もちろん、婚約者がいる格上の異性になんて絶対触れないし、そもそも自分から話しかけるのなんて言語道断。この上なく失礼極まりない行為。それも複数人のお相手に。私じゃなくても白い目で見られて当然のこと。むしろ殺されなくてよかったですわね貴方。
今だって庇うように出された腕に蛇の如く巻きついて、黒曜石の如き瞳からあふれる涙は止まることを知らない。
何も言わない私に満足なされたのか、ノーマン・キース様はアンナ・アガター男爵令嬢とご婚約なされるご意志を発表された。
羨ましいわ、私だって恋をしてたのに、捨てられて元婚約者だけ恋愛結婚するなんて。それもつい最近新興貴族として成り上がった平民如きと。
そうね、貴方達はいつだって自分のことばかりで、私がどれほど頑張っても興味なんて皆無でしたよね。いつだって、貴方に恥をかかせないよう、必死で頑張ってきたつもりだったのに。いつかは振り向いてくれるって、無邪気に信じてここまでやってきたのに。
全部、無駄だったのね。
「アンナ男爵令嬢…いや、次期王妃が最後に話したいことがあるそうだ」
ツカツカとヒールを鳴らして近寄るアンナご令嬢。優美さなら私の方が断然上ね、そもそも元平民にそんなの求めてないけれど。
「悪役令嬢エミリー・クラーク。結局はヒロインに勝てない運命、ここまで来てくれてありがとう。次会えるときはどんな姿かしらね?」
恐らく豪華なドレスなど身に纏っていないのだろうと、容易に察せた。口からは淑女にあるまじき暴言が溢れ出そうだったけれど、すんでのところで息を戻せた。噛み締めた唇から血の味がする。
シンデレラに誑かされた王国騎士団長に腕を引かれる。ドレスが食い込んで痛いのに、全く配慮しない。歩けるからと腕をはたき落とした。
ほとんど何も発さず、私は静かに夜会の会場から出た。
そのあとはもう何も覚えていない。気がついたら王都から遠い辺境の地で、ボロボロの古いお屋敷に座っていた。
「……もう何もする気が起きない」
使用人も少しだけ。ドレスもほとんど没収されて質素なものばかり。こんな生活なんて想像もしたこともないくらい、質素で昔とは大違いの生活。周りから寄せられる心ない言葉。私の心はどんどんと削られ、身体はやせて誰だか分からなくなった。
数ヶ月後に新聞に載せられた美しいお二人のご成婚の様子。アンナご令嬢には王妃がつけるティアラが輝いていた。
本来ならば、私がつけてその場に居たであろう場所。
あまりのショックに、私は疫病に罹って呆気なく死んだ。