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兄妹が音楽祭に行った話  作者: サトイモサイタ
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早朝、いざ行かん音楽祭!

ツイッターに載せた分+αとなっています。よかったら読んでみてください!

設定時間より2時間も早い目覚ましにライトは苛立っていた。

「兄貴!!あーにーきー!!フェスティバル!!今日はフェスティバル!!起きて!!早く起きて!!!」

「今何時だと思っている…5時だぞ?アンナ、早く起きるのは勝手だが俺を巻き込まないでくれ」

そう言って再び布団に入ったライトを、アンナは執拗に叩く。

「今何時って…もう5時なんだよ!!?後7時間で始まるんだよ!!?わかってる!?」

わかった上で言ってるんだからさっさと寝させろ、という顔を布団から出してライトは、

「お前…今起きたとして、12時まで何するんだよ…」

と呆れながら言った。

「そんなの!街を探索するに決まってんじゃん!!」

「…は?何のために?」

「そりゃ、フェスティバルがあるからだよ!」

「フェスは12時からだろ…」

「んもー!違うよ兄貴!始まる前から楽しむもんじゃん!!」

「何を…」

「フェスを!!!!」

そうして妹に無理やり布団から出されたライトは目を細めたままリビングに向かった。

「母さん父さんには手紙を書いといた!」

なんの手紙だよ、とライトは大テーブルの置き手紙を手に取った。

「『“ふたり”でまちに出かけてきます。12じにメインひろばで会いましょう』だと…。おい、アンナ」

「ん?」

「この手紙の差出人に、『ライト、アンナ』と書かれているんだが…」

「あー!それアタシが書いといた!」

「いや書いといたじゃねえよ。俺は行くなんて一言も言ってないぞ」

「兄貴なら絶対付いてきてくれるって信じてたから!」

「それなら俺のことは一生信じるんじゃない」

そしてライトは手洗いに行くそぶりで両親の部屋に入った。

「だそうだ。止めるなら今だぞ」

「え、ライト、私達が起きてたの気づいてたの?」

「あれだけ騒いでたら流石に起きるだろうな、と」

「はー、しっかりしてるなライトは」

「で、どうすんだ、止めるのか?」

「ライトは行きたい?」

「え、」

「私達としては、あんたが付いてるなら良いかなーってかんじなんだけど」

「何の根拠で言ってるんだそれ…」

「お前はもう12歳だし、今日は多分街の警備も厳重になってるから、そこまで心配はしてないんだ。それに、父さんはお前ぐらいの歳にはもう友達と朝早くに出て街を廻ってたしな」

そう言う父に同調して母もうんうんと頷いた。

「はい、そういうことだから、あんたに任せるわ。頼んだわよ〜」

「頼んだわよって…」

思っていた返答が来ず渋々部屋を出るライト。両親の了承さえ得てしまえば、彼の行動は1つだった。

「兄貴遅い!いつまでダラダラしてんの!!はい!サンドイッチ作ったから歩きながら食べよ!!てかまだパジャマ着替えてないの!?はーやーくーきーがーえーてー!」

アンナはいつの間にか着替えも朝食作りも済ませていたらしい。

「サンドイッチ?お前、いつの間にそんなもん作ってたんだ…」

「昨日のうちに材料はあらかた切っといたからね!ほら!兄貴も早く支度して!」

まだ10歳にもなっていない妹がここまでの行動力を示していたことに、ライトは素直に感心していた…と、同時に、

「はぁー、仕方ねえな、ちょっと待ってろ」

感謝もしていた。フェスが始まる何時間も前から街に繰り出すなど、彼にとっては苦ではなかった。寧ろ快諾すべき案件であり、兄としての責任を持つ普段の彼では親に頼むことすらできないことでもあった。

「…簡易楽器、水筒、財布、あ、母さん達と合流するなら旗もいるな…確かあれはアンナが持ってたはず」

「旗ならあるよ〜」

「おぉ…いたのか…」

入念に支度をするライトは、妹にとっては退屈すぎたらしく、

「はい!じゃあ行こう!今行こう!すぐ行こう!」

と、サンドイッチが入っているであろうリュックサックも気にせず飛び跳ねている。

「…アンナは、何を持っていくんだ?」

「ん?あたしはね〜、サンドイッチと、旗と、水筒と、お財布と、くーちゃんと、宝石!」

「あのぬいぐるみ持ってくのか…それとジャラジャラしたおもちゃも…」

「くーちゃんもフェス行きたいもんねー?」

「『うん!僕もフェス行きたい!』」

アンナがリュックの方を軽く向いて一人芝居を始めた。ライトの溜息は尽きない。

『とりあえず、替えの服もあった方がいいか…』

ライトもライトで慎重になって色んなものをリュックへと詰める。兄妹揃って無駄が多い…。

「よし、こんなもんだろ…」

「兄貴準備終わった!?」

「ああ、待たせたな」

と、 パンパンになったリュックを背負って家を出た兄妹。家出と間違えられても文句は言えまい…。


緊張と高揚で満たされた兄妹を、街は高らかに歓迎する。今日はそんな日、水と音楽の国ウンディーネの、年に一度の大音楽祭。街全てが音楽で包まれるこの日を、誰もが待っていたのだ。




「この時間でも人が沢山いるよ!!

皆演奏の準備してるのかな!!」

「朝早くから調整してんのか、ご苦労だなぁ…」

2人は「とりあえず…」とメインステージのある広場に向かっている。歩きながら食べているサンドイッチは色んな意味で不恰好だが食べられないことはなかった。

「屋台も沢山あるね〜」

「開き始めたら早いうちに買うか。昼頃には混むだろうし」

「じゃああたしあれが良い!肉焼くやつ!」

「お前好きだよなぁ、肉…」

無造作に奏でられる音を聞きながら兄妹は歩いていく。街の至る所に飾られた装飾の青と白がハッキリとわかるようになっていき、空気もまた変わり始める。

「そういえば、お姫様も12歳なんだよね!兄貴と同い年!今年は来てくれるかなぁ〜」

お姫様、というのは、ここウンディーネの次期国王に値する少女で、定例では12歳からこの音楽祭にも参加することになっている。

「リオ殿下か、どうだろうなぁ、あの人、あまり…というか全然姿を見せないから…。噂では病弱らしいし…」

「ええ〜!見てみたかったなあー」

「いや、来ないとは言ってないんだが」

「あー!兄貴!広場見えてきたよ!!もう人も集まってる!」

アンナは手に持ったサンドイッチを口に押し込むや否や広場に向かって走り出した。「食べ物を口に入れながら走るな」というライトの忠告は、耳には入るが聞く気はないらしい。

「ったく、あいつ…」

アンナの後を追う形でライトも走り出した。


「おい…勝手に…どっか行くなって…」

重いリュックからの衝撃を一歩毎に受けたライトは相当息を切らしている。

彼らがいるのは、この国で最も広く、観光地として有名な広場である。今、その広場の中心には、この音楽祭の名物である巨大な特設ステージが、これまた巨大な幕に囲まれ、その姿を民衆に現わすのを悠々と待っているのだ。

「今年もまたデカい物を作ったなぁ…」

「…兄貴ー」

「ん?」

「全っ然見えない、あたし」

「あぁ…まあ俺も上の方しか見えてないが…」

この特設ステージは国民は勿論他の国からも注目を集める。故に朝早い時間ではあるが、広場にはかなりの人集りができていて、身長が100cmいっているかいないかのアンナには満足にもその建造物を拝めそうになかった。

「あの布が取れるのって何時からだっけ?」

「多分9時だったはず。後…2時間後位か?」

「2時間も〜!?兄貴、どうせ見れないし別のとこ行こうよ」

「そう…だな…。いや、」

ライトは、何かを思いついたような顔をし、

「あそこからなら…見えるだろうな」

と、およそ500m先の塔を指差して言った。

「…あ、あの塔って、立ち入り禁止の?」

「立ち入り禁止の」

「よじ登るの?」

「まさか、裏道ってやつだよ」

「え!!凄い兄貴!!どうやって行くの!?」

まあまあ、と笑いながらライトは広場の外へ、それも塔と逆の方向へと歩いていく。

「ん?兄貴、塔はあっちだよ?」

まあまあまあ、と更に畳み掛け、ライトは更に歩いていく。

広場を抜け大通りへ、そして小道へ、さらに路地裏へ進んでいく。階段を登っては降り、入り組んだ道を通っていく内に、全く人の気配のない「行き止まり」に辿り着いた。

「ねぇ…ここって…どこ?」

「こんな場所来たことないだろ」

「そりゃ勿論。兄貴がいないと帰れないよ、あたし」

「だろーな。まあ俺も最初は帰るのに苦労したけど」

そう言ってライトは壁に備え付けられている水道管のバルブハンドルを回し始めた。目一杯回したところで、行き止まりである壁に異変が生じる。

「え!!!壁が溶けてる!!?」

レンガで作られているであろう壁に、成人でギリギリ入れるような穴ができたのだ。溶けたものは地面に吸い込まれるかのように消えていき、そこに壁があったとは最早思えない。

「じゃ、入るか」

「え!……え!?この中を!?」

「怖いのか?」

「全っ然!!ワクワクしてきた!!」

「そりゃ良かった」

ライトはリュックサックを一旦降ろして先に穴の中へ入る。

「リュックを背負ったままだと入れねえからな、クマが突っかかる」

「くーちゃんね!!!」

兄のリュックサックが真っ暗な穴の中へ引きづりこまれたのを見て、アンナも後へ続く。

穴の中は暗く、入り口から差し込まれる光がその先に階段があることを示していた。

「ここを降りていくの?」

「うん」

「じゃあ兄貴、懐中電灯出して!アタシが持つ!」

「んーや、その必要はない」

ライトはそう言って灯りのない階段を降りていく。

「え、このまま降りるの!?ちょ、待って兄貴ー!!!」

先へ行かれて見失ってはまずいと、アンナも急いで階段を降りていった。




穴の中は地下水路になっていて、人工的な灯りは存在しない。にも関わらず、歩いていけるほどの明かりがあるのには理由がある。

「ノルクルが…こんなに…!」

この国特有の水中生物であり、水蛍とも呼ばれるノルクル。全長3cmほどの小さな体で、淡い青色の光を灯す。この国でも滅多に見られない生き物とされているが、この地下水路はノルクルの灯りで満ちていた。

「多分、ここが巣なんだろ。人は滅多に来ねえし、透明さからみて水質も良い。住むには打ってつけだ」

ライトは「ノルクルの為にもこの地下水路のことは誰にも言うなよ」と釘を刺した。

「わかった!!誰にも言わない!」

「よろしい。じゃあ行こうか」

兄妹は地下水路の奥へと入っていった。


ライトは迷うそぶりも見せず進んでいく。恐らく相当ここに来ているのだろうとアンナは察した。兄の背中を追いながらも、目線はどちらかというとノルクルの方に向かれていて、もっと顔を近づけて見たいものだと心を焦らした。


「ここ」

「え!なに!?」

「ここの階段を上っていくぞ」

「あ、あ〜!はいはい!りょーかいっ!」

道中、地下水路の壁にはいくつもの階段があった。兄妹が階段から降りてここに来たことから察するに、おそらくそれぞれが地上への出口なのだろう。

ライトはリュックを下ろし中を漁りだした。

「…?何探してるの?」

「懐中電灯。ここからは暗いからな」

「なるほど」

ライトは右手に懐中電灯、そして左手で妹の手をとり、足元と階段の奥を交互に照らしながら上っていった。





何十段上っただろうか、アンナが息を切らしはじめた辺りで、階段の先が明るく見えた。

「あ、、光だ、、!」

ようやく上り終わったとアンナは安堵した。しかし、広場に来た時のように駆け上がる気力はないらしい。



上った先は円形の建物の中だった。

「とりあえず、ここで一旦休憩するか」

「休憩?なんで?」

「ここから塔のてっぺんに登るまでまだかかるからな」

光は塔の窓から差し込まれたものだった。どうやら兄妹は地上に出て、目的地である塔の中にいるらしい。

「…後、何段くらいあるの?」

「何段かは数えたことないが、まぁ、今俺たちがいるのが塔の一階だとは言っておこう」

アンナは眉をひそめる。

「──俺たちが目指すのは塔の最上階だ」

「ええええ!?」とアンナは驚愕しながら真上を見上げた。普段首を思いっきり上げて見てきた塔だが、気持ち的には先程上った階段で塔の半分には到達していると思っていたのだ。


視界の先では螺旋階段が塔の壁を伝いながらぐるりぐるりと上っていく。その真ん中の空洞の先は最早見えず、空へと続く深淵と化していた。深淵を見上げる者は、また深淵に見下されているのである。


「ちょ、ちょっとまって!今、何時だっけ?」

「今は…、8時40分くらい」

「ステージのカーテンが取れるのは!?」

「──9時。」

アンナは「くじ」とライトが言う前から階段を上る準備をしていた。なんとしてでも幕が取り払われる瞬間をその目に収めたいのだ。

「これずっとのぼってればいいんだよね!!」

と、言いながら螺旋階段を駆け足で登り始めるアンナに、「まぁ、そうだな」とライトは答えた。

尚、普通に階段を上っていくライトがアンナに追いつくのに5分もかからなかった。

その後、「仕方ねぇな」とアンナの背負っていたリュックをライトが受け持ち、なんとか9時までに最上階に着けそうな所まで上ってこれた。


「この扉を開けたらてっぺん?」

「ああ、意外と間に合うもんだな」

アンナは息を切らしながらも喜びの表情を見せた。息の切らし具合でいえばリュックを2つ背負わされているライトの方が大きいのだが、そこら辺は突っかかってはならない。

「じゃあ、開けるよ!」

「どーぞ」とライトが放ったのを合図に、アンナはウキウキとしながら扉をゆっくりと開けた。

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