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第六幕 第十三場

 わたしとマコトはグリム像のある広場をあとにすると、グリム王国の南側入り口へと向かっていた。だが先ほどの銃撃でマコトは脇腹を撃たれてしまい、さらにはわたしも腕を撃たれてしまった。そのためさらなる負傷したマコトを、片手で支えながらの移動はとても遅く、もうすぐでたどり着くという距離なのに、なかなかたどり着けずにとてもはがゆい。


「マコちゃん……あともう少しだからね」わたしは疲労をにじませた声で言う。「だから……がんばって」


 マコトは息を喘がせながら、小さくうなずいた。どうやら声を出すのもつらく、いまにも意識を失いそうだ。だからわたしに必死に声をかける。


「そうだマコちゃん聞いてよ。わたしね、きょうここでドキュメンタリー映画を撮ってたんだよ。しかも内容はシンデレラ事件についてなの」わたしはそこで小さく笑う。「シンデレラ事件について、当の本人であるシンデレラが、そのドキュメンタリー撮影するなんて驚きでしょう」


「ああ……そうだな」マコトはいまにも消え入りそうな声で言う。


「わたしね今回の誘拐事件が成功して身代金を手に入れたら、撮影した映像を編集してドキュメンタリー映画として、長谷川に送りつけるつもりだったんだ。自分の娘と孫娘がいかに苦しい生活を送っていたのか皮肉たっぷりに編集してね。そして映画の最後には、身代金の受け渡しに失敗したため、ウルフに殺されたとおぼしき孫娘の偽の死体を映すつもりだったの。でもいまではそれも無理な話」


 話しているうちに南側入り口へとたどり着いた。わたしは扉に背をもたせるようにしてマコトをすわらせると、南京錠の鍵をあけて、巻き付けられていた鎖をはずしはじめる。


「もうすぐだからマコちゃん。もう外に出れるから」


 鎖をはずし終え、わたしは扉の片方を開いた。あけた隙間から心地よい風が流れ込んでくる。ようやくここを脱出できる。わたしは喜びの笑みをマコトに向けた。だがその瞬間、脈拍が早まった。なぜならマコトは前のめりになるようにして、倒れていたからだ。


「マコちゃん!」


 わたしはマコトのもとへとかがむと、その名を泣き叫びながら必死に体をゆさぶる。何度も何度も。だがなんの反応もない。マコトはすでに息絶えていた。その死を悟り、わたしは激しく絶望する。


 わたしはマコトの亡骸を抱きしめるようして扉の前ですわると、そのまま泣きつづけ、やがて極度の疲労から深い眠りへと落ちていった。

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