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第六幕 第十一場

 いまわたしとマコトは、中央にグリム兄弟の銅像がある広場へとやってきた。ここまで来れば南側入り口はもうすぐだ。そうすればここから出られる。


「もう少しよマコちゃん」わたしは言った。「だからがんばって」


「ああ、そうみたいだな」マコトは弱々しい声音で言う。


 マコトの体力がだいぶ失われているな、とわたしは感じた。早くここを出て電波の届くところへ行けば助けの電話がかけられる。そう思ったそのとき、不覚にも教会の懺悔室にスマートフォンを置き忘れてきたことに気づいた。せっかく記憶がもどりパスワードも覚えているというのに。だがすぐにマコトも電話を所持していることを思い出し、ほっと息をつく。あぶないところだった。


 そうこうしていると、グリム兄弟の銅像のそばに来ていた。何気なく視線をそちらへと向ける。ビデオカメラの映像で見たよりも、こうして実際に見る方がとても大きく感じられた。台座はワゴン車ほどの大きさで、その上にグリム兄弟の銅像が鎮座している。その高さは地面から五メートル近くはあると思われる。


 わたしがその偉容にしばし目を奪われたそのときだった。銃声が広場に鳴り響き、その瞬間、マコトが苦痛の叫び声をあげた。何事かと思いマコトに顔を向ける。どうやらマコトは脇腹を撃たれたらしく、そこを押さえる手から血が漏れている。


 ふたたび銃声が聞こえ、弾丸がわたしの耳元をかすめた。すぐさま振り返ると、そこにはこちらに向かって走りながら、拳銃を構える女の姿が。一瞬、ツアーガイドの小森ミクかと思った。だが着ている服は同じグリム王国の女性スタッフのものだが、その容姿はかけ離れている。あれは小森ではない。いったいだれだ?


 わたしは混乱しながらもグリム像の陰に隠れると、そこから相手の銃撃に応戦する。この見通しのいい広場で遮蔽物はそこしかなく、そのためここを離れれば、撃たれてしまうのは必然。それを相手も理解しているらしく、こちらから銃撃を受けたことで、わたしたちとは台座を挟んだ反対側へとグリム像の陰に隠れた。


 お互いに、いつ相手が飛び出してくるかわからない状況ができあがった。うかつに動けば撃たれてしまう。


「だれよあなた!」わたしは叫んだ。「なんで撃ってくるのよ!」


「それはわたしが長谷川ヒロユキの妻であるモモコの娘、長谷川ノゾミだからよ!」女は叫び返す。「これだけ言えば、わかるでしょう佐藤アカネ!」


 そのことばですべてを理解した。「ああ、そういうことね」


「アカネ!」ノゾミと名乗った女が怒鳴る。「シンデレラ事件のときからずっとおまえのことが憎かったのよ。おまえがあの事件を引き起こしたせいで義父は変わってしまった。おまえがわたしたちの幸せを壊した」


 こちらの正体がばれている。いったいどこから漏れた? 

 ……いや、いまはそんなこと考えている暇はない。


「憎んでくれて結構よ、ノゾミ!」わたしは言い返した。「わたしもあなたたち親子が憎かったからね。そのせいでわたしと母さんは悲惨な暮らしを過ごしたんだ。だから母さんは死んだ。わたしはおまえたちを許せない」


「何が許せないだ。それはこっちのセリフよ!」ノゾミは怒りで声を振るわせた。「あなたがこんな狂言誘拐という茶番劇を仕組まなければ、わたしの母さんは死なずにすんだ。だからすべての元凶であるおまえを、わたしは絶対にゆるさない。殺してやるから」


 まずいな、とわたしは思った。相手はこちらを殺す気でいる。ここから逃げるにしても、こちらには手負いのマコトがいて圧倒的に不利だ。ここから走って逃げるなどという選択肢はまずない……。


 ならば覚悟を決めよう。ノゾミを殺す、それが唯一の生き残る道だ。それ以外の方法はない!


 わたしはグリム像の台座に背を預けると、いつ相手が飛び出してきてもいいよう、左右に視線を向けて警戒する。だが相手はなかなか出てこない。その間にも、撃たれたマコトの出血はひどくなる。時間がない、こちらから仕掛けるしかない!


「マコちゃん。ここにいて」


 わたしはそう言って、マコトを台座に背を預けるようにしてすわらせる。そして拳銃を片手から両手に持ち替えると、足音を立てぬよう慎重に動き出し——


「上だアカネ!」マコトがやにわに叫んだ。


 その声に反応して銅像を見あげる。そこにはふたりのグリム兄弟とともにノゾミの姿が。ノゾミは勝ち誇った笑みを浮かべながら、こちらに拳銃で狙いをつけている。咄嗟に拳銃を向けようとするも、相手が先に発砲した。弾丸はわたしの腕を貫き、その手から拳銃をこぼれ落とさせる。


 ノゾミがふたたび狙いを定めた。今度は銃口を頭に向けている。


 終わりだ、と思った。死を悟った瞬間、弾切れを告げる乾いた音が響く。その隙をついてマコトが落ちていた拳銃を拾うと、それをすぐさま相手に向けて発砲した。腹を撃たれたノゾミは、崩れ落ちるようにして台座から地面へと落ちていった。


「きみに守られてばかりでは、かっこわるいからね」マコトがこちらに微笑みかける。「それに言っただろ、きみはぼくが守るってさ」

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