第六幕 第四場
小森ミクはブレーメン広場へと足を踏み入れた。コハルに見つからないよう、ブレーメン像の死角を利用して進んでいる。その様子をおれは遠巻きに見ていた。
「小森のやつ無茶をしやがって!」
おれは悪態をつくと、ビデオカメラをしまい拳銃を握る。そしてつぎに何をすべきか考えた。小森に相手の注意を引け、と言われた。だとすればどうすればいい?
考えあぐねているうちに、小森はいつのまにかブレーメン像を背にして立っている。なんて素早いんだ。しかもこちらに向かって、注意を引けとジャスチャーしている。
「まったく無謀すぎるぞ」
おれは舌打ちすると、ブレーメン広場へと向かい、その姿をさらけだした。
「おいそこの女、動くな!」
おれは拳銃を握った手を、スーツの内側に隠して叫んだ。相手は拳銃を所持している可能性が高く、そのため下手に刺激したくなかったからだ。
コハルはこちらの呼びかけに気づいたらしく、作業する手を止めると、立ちあがりこちらに向き直る。
「おれは警察だ。おとなしく——」
コハルがすばやい動作で拳銃を取り出す。痛めていた体ではそれに反応するのが遅かった。あえて拳銃を隠していたことがあだとなり、相手が先に発砲する。弾丸がほほをかすめ、おれはすぐにその場に伏せた。だが遮蔽物はない。
コハルは両手でしっかり拳銃をにぎると、こちらに慎重に狙いを付けている。その隙をついて小森がその背後に現れると、弾丸を放った。するとコハルは前のめりなり、バランスを崩して倒れた。小森がすぐさま近づいて、握っていた拳銃を蹴り飛ばす。
「だいじょうぶか小森!」
おれはそう叫ぶと、足を引きずりながら小森のもとへ急いだ。その間に、小森はコハルを仰向けにさせると、拳銃を突きつけて何やら叫んでいる。どうやらコハルはまだ生きている様子だ。
「落ち着くんだ小森さん」たどり着くなりおれは言った。
「どうしてよ!」小森はこちらのことばを聞いていない。「金を奪って逃げろと指示しただろ。だれが人を殺せと言った」
そのことばに、おれは驚きを隠せなかった。
コハルがにやりと笑う。「……そうかおまえがアップルだな」




