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第六幕 第二場

 おれと小森ミクはグリム王国資料館を出る。すぐ近くにはブレーメン広場が見えており、停電から復旧し明かりがついているため、ブレーメン像のそばに倒れているユイの死体の姿が確認できた。その近くには燃え尽きた札束の燃えカスがあり、時間の経過がうかがえる。


 おれたちが移動を開始しようとしたそのとき、ブレーメン広場にだれかがやってきた。なので急いで建物の物陰へと隠れる。


「見えるか小森さん?」おれはビデオカメラを構えると、それを使って相手を観察する。


「ええ、見えています」小森はおれの後ろに隠れ、その肩越しからのぞき込んでいる。「あれは……コスプレをしたレイヤーの片割れですね」


「たしかコハルとか言う名前だったな」おれは記憶を探りながらしゃべる。


 コハルは周囲を警戒していたが、怪しい人物がいないと判断したのか、ブレーメン像へと向かって一直線に走り出す。そして仲間であるユイの死体のそばにかがみ込むと、しばしのあいだそこを動かない。どうやらリュックサックを取り出し、ユイが身につけているバッグから札束を移している。


「蝶野さん、あいつを殺しましょう」小森は決然とした口調だ。


「えっ!」おれは驚きの声を漏らした。


「きめたはずですよ。あのレイヤーも危険人物。ウルフと同じで殺すと」


 おれはとまどいを見せる。「しかしそれはこちらに脅威があった場合の話だ。問答無用で殺すと誓ったわけじゃない」


「脅威がこちらに向けられてからでは遅いんです。あいつの仲間が、わたしたちを殺そうとしたのを忘れたのですか」


「いや、忘れたわけではないが……」おれはことばを濁す。


 小森はきびしい口調になる。「やっぱり自分のかたきじゃないと殺すのを躊躇しますか。自分からわたしにその覚悟を問いただしておきながら、自分にはそれができないと言うんですね、蝶野さん」


 そのことばは胸に突き刺さる。「ちがう、そう言うわけでは……」


「もういいです。わたしがやります」小森は言い切った。「わたしがブレーメン像を死角にして近づきます。だから蝶野さんはおとりになって、あいつの注意を引きつけてください」


 そう告げると、小森は動き出した。おれが呼び止める声を無視して、ブレーメン広場へと向かう。

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