表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/99

第一幕 第七場

 おれはため息まじりに言う。「話をまとめるとしよう」


 いまおれたちふたりは、女が倒れていた場所の近くにあるミニトレインの駅舎の中にいた。そこにあるベンチのシートに一席離れてすわっている。


「つまりきみはその頭の怪我のせいで記憶喪失になり、自分の名前や生い立ちにいたるまで、すべて忘れてしまった。そのため自分が何者なのか、なぜこんな場所にいるのか、そしてどうして怪我をして倒れていたのか……全部わからない、そういうことだな?」


「はい」女は申し訳なさそうに言う。「そのとおりです」


「そして持ち物のなかに身元がわかりそうな物は見つからず、所持していたのはスマホとそして」おれはふたりのあいだにあるシートに置いてあったビデオカメラを指差した。「このカメラだけ」


「……あの蝶野さん。ほんとうにこのビデオカメラはわたしの物なのでしょうか」


「たぶんまちがいないよ。こんな廃墟みたいな場所に新品同様のカメラがあるはずない。だからこれはきみのビデオカメラだ。その証拠にきみのすぐそばに落ちていたんだからね」


 女は思案気な表情で、しげしげとビデオカメラを見つめる。どうやらそれを見て、必死に何かを思い出そうとしているらしい。


「このビデオカメラちょとさわらせてもらってもいいかな?」おれは言った。「もしかするときみがだれなのか、その手がかりがあるかもしれない」


「ええ、いいですよ」


 おれはビデオカメラを手に取ると調べはじめる。ビデオカメラは大手メーカーの一般向けのデジタルビデオカメラで、薄くて軽い、人気の売れ筋モデルだ。


 さっそくおれはビデオカメラをいじりだす。すぐに録画された動画ファイルを見つけた。動画ファイルは時系列に一列に並んでおり、その日付はすべてきょうのものだった。いちばん古い動画ファイルが先頭にきている。


「とりあえず観てみよう。何かきみについてわかるかもしれない」

「ええ、わかりました」


 女はおれの隣りのシートに移動する。そしておれが持つビデオカメラの液晶ディスプレの画面に視線を注ごうと、お互いの肩がふれあう距離まで接近する。


「それじゃあ再生するよ」

「お願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ