第一幕 第七場
おれはため息まじりに言う。「話をまとめるとしよう」
いまおれたちふたりは、女が倒れていた場所の近くにあるミニトレインの駅舎の中にいた。そこにあるベンチのシートに一席離れてすわっている。
「つまりきみはその頭の怪我のせいで記憶喪失になり、自分の名前や生い立ちにいたるまで、すべて忘れてしまった。そのため自分が何者なのか、なぜこんな場所にいるのか、そしてどうして怪我をして倒れていたのか……全部わからない、そういうことだな?」
「はい」女は申し訳なさそうに言う。「そのとおりです」
「そして持ち物のなかに身元がわかりそうな物は見つからず、所持していたのはスマホとそして」おれはふたりのあいだにあるシートに置いてあったビデオカメラを指差した。「このカメラだけ」
「……あの蝶野さん。ほんとうにこのビデオカメラはわたしの物なのでしょうか」
「たぶんまちがいないよ。こんな廃墟みたいな場所に新品同様のカメラがあるはずない。だからこれはきみのビデオカメラだ。その証拠にきみのすぐそばに落ちていたんだからね」
女は思案気な表情で、しげしげとビデオカメラを見つめる。どうやらそれを見て、必死に何かを思い出そうとしているらしい。
「このビデオカメラちょとさわらせてもらってもいいかな?」おれは言った。「もしかするときみがだれなのか、その手がかりがあるかもしれない」
「ええ、いいですよ」
おれはビデオカメラを手に取ると調べはじめる。ビデオカメラは大手メーカーの一般向けのデジタルビデオカメラで、薄くて軽い、人気の売れ筋モデルだ。
さっそくおれはビデオカメラをいじりだす。すぐに録画された動画ファイルを見つけた。動画ファイルは時系列に一列に並んでおり、その日付はすべてきょうのものだった。いちばん古い動画ファイルが先頭にきている。
「とりあえず観てみよう。何かきみについてわかるかもしれない」
「ええ、わかりました」
女はおれの隣りのシートに移動する。そしておれが持つビデオカメラの液晶ディスプレの画面に視線を注ごうと、お互いの肩がふれあう距離まで接近する。
「それじゃあ再生するよ」
「お願いします」




