第五幕 第十一場
「とにかくアップルは危険よ」コハルが言った。「だがそれ以上に本物のウルフも危険だ。あいつ、わたしたちが拳銃を向けて発砲しているのに、こっちに向かって走ってきたんだぜ。そのときすぐに勘づいたよ。こんな頭のいかれた人間はアカネたちの仲間ではなく、本物のウルフにちがいないってさ。おかげでユイとははぐれた」
そのさまを思い描き、わたしは戦慄した。死すらおそれないその行動力。大変な脅威だ。
「でもまさか本物に会えるとは思ってもいなかった」コハルはまるで、あこがれのスターを目撃したかのような口調だ。「しかも殺されそうになるなんて信じられる?」
「……あなた喜んでいるの?」わたしは怪訝な面持ちで尋ねた。
「あたりまえじゃない」コハルはさも当然のように言う。「だってあのウルフなんだよ。見たことあるでしょう、ウルフのスナッフビデオ。わたし大ファンなんだ。知ってたでしょう……って、ごめん。いまは記憶喪失だったね。でも少しは思い出しているんでしょう」
「……狂ってる」わたしは険悪感むき出しに言う。「あなたも頭がいかれているわよ」
「でしょうね。だから惹かれるのかも」
コハルはそう言うと、死体となった神谷のそばに落ちている拳銃を拾った。そしてわたしに歩み寄ると、それをこちらに差し出す。
「はいアカネの分」コハルは微笑んだ。「これが必要でしょう」
わたしはしばしためらったのち、それを受け取った。
「それでこの男はどうするの?」コハルはマコトに向けて拳銃を向けた。「殺して——」
そのことばを聞いた瞬間、わたしは拳銃をコハルに向けて突きつけていた。「銃をおろせ!」すごみを利かせた声で言う。
「こわいわよ」コハルは真顔になると拳銃をおろした。「ほんとは全部思い出しているんじゃないの。いまのあんた、まるで氷の女王みたい。その人を人とも思わないその目つき、わたし好きだわ」
わたしは無言でコハルに鋭い視線をあびせる。
「とにかくウルフには気をつけて」コハルが警告する。「やつは残忍な連続誘拐殺人鬼。わたしの勘だけど、きっとウルフは自分の名をかたる偽物の存在を知って、怒っているにちがいないわ。そしてそいつを見つけて殺そうとしている。そのために、ここにいる人間を手当たりしだい殺しているのよ」
「……とんだサイコパスね。あなたと同じで」
そう言われ、コハルはうれしそうにわたしに微笑みかけた。




