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第五幕 第九場

「……なるほど」コハルが言った。「それで記憶喪失なのね。どおりで様子がおかしいわけだ」そこでため息をつく。「それでアカネ、あんたはどうするわけ?」


 そのことばにわたしは当惑してしまう。「どうすればいいの?」


「わたしが知るわけないじゃないのよ。でもいまさら警察に出頭するなんて、馬鹿なことはよしてよね。死人が出ているんだ。もうあともどりはできないわよ」


 犯罪者の烙印を押され、わたしは暗鬱な気分に陥った。


「だいたいわたしの相方が勝手なまねをして、電波妨害工作していたとはいえ、あんたがプランどおり作戦を実行していれば、死人なんてでなかったんだよ」


「……わたしのせいなの?」


「全部と言わない。けどあんたが自分の仲間たちの手綱をしっかりとにぎっていれば、わたしたちと殺し合うはめにはならなかった。これじゃあ、アップルの思惑どおりじゃないのよ。せっかく金が手にはいったとはいえ、この誘拐事件は失敗だわ。いまごろどこかでアップルは、ほくそ笑んでいるにちがいない。せっかくアップルの裏をかくはずだったのに」


 わたしは眉をひそめた。「アップルの裏をかく?」


「ああ、そうだよ。もともとこの誘拐計画はウルフに扮したあんたたちが狂言誘拐を実行し、わたしたちがその身代金を横取りして、あんたは馬鹿どもを切り捨てる。そういう計画を立てた。そしてあんたらが脅迫状を送りつけたら、アップルがわたしたちに接触してきた」コハルはくすっと笑う。「そのときは思わず笑ったよ。計画の実行犯に向かって、身代金を横取りしろと言われたときにはさ。だからわたしたちはアップルを利用して、長谷川たちの動きを探ることにした。警察が動いているかどうか、その他もろもろを知るためにね」そこで一息つく。「どお、話を聞いて何か思い出せた?」


「……なんとなく」わたしは小さくうなずく。「断片的なことだけ」


「そう……」コハルは頭を抱える。「しかしまあ、状況は最悪だよ。どうやらアップルは誘拐計画を失敗させるために、わたしたちだけじゃなく、本物のウルフまでもここに呼び寄せたらしい。どうしてあなたたちが偽物だとばれたのかわからないし、どうやって本物のウルフを見つけ出したのかもわからない。けれどアップルに裏をかかれたのはまちがない。してやられたよ。おかげでこの惨状だ」


 話を聞いてわたしは背筋を凍らせた。「何者なのアップルは?」


「さあな」コハルは肩をすくめた。「わたしが知りたいよ」

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