第五幕 第八場
つぎの動画ファイルを再生した。画面には暗闇のグリム王国を、暗視撮影モードを頼りに移動する様子が映し出された。
「いったいだれが電源を落とした?」坂本の声が聞こえた。
やがて画面にグリュック城の正面が見えはじめた。どうやら坂本はそこへ向かっているらしく、その入り口へと一直線に進む。
「こちら坂本。これよりグリュック城の中へはいり、身代金を確認する」
坂本はそう告げると、グリュック城の扉を開いて中へと足を踏み入れた。そこは天助の高いエントランスホールで、豪華なその内装はベルサイユ宮殿を彷彿とさせる。
画面は奥へと進んで行く。エントランスホールを通り抜けて廊下に出ると、そこにはとんがり帽子が落ちていた。画面はその帽子を一瞥すると、廊下を進みつづける。
すると突然物音が聞こえ、画面は進むのをやめた。音の出所を探るようにして、画面があたりを見まわしはじめる。そうしていると、ふたたび物音が聞こえてきた。
「いったいだれだ?」坂本が小声でそう言う。
画面が方向転換し、別の廊下を進みだす。すると行く先にある扉を開こうとする人物の姿が映り込んだ。画面がその人物に向かってズームアップされる。だがピントを合わせる前に、そのぽっちゃりとした人物は扉を開いて出て行った。
「……いまのはだれだ?」
画面は廊下を進み、扉の前にたどり着いた。すると画面端から坂本とおぼしき手が現れ、その扉を開くと中庭を映し出す。
「馬鹿な。正面入り口以外は施錠されているはずだぞ」
しばし画面では、荒れた中庭を探る様子が流れた。やがて扉を閉めてきびすを返すと、ふたたび廊下を進みはじめる。そして階段をのぼり二階にたどりつくと、立ち入り禁止を示すポールをまたぎ越し、とある部屋へと侵入する。
部屋の中はこぢんまりとした場所で、中央にあるテーブルにはスポーツバッグが置かれている。テーブルのまわりには荒らされたかのように椅子が転がっていた。部屋にある窓のいくつかは割れており、その破片が床に散乱している。
画面がテーブルへと近づいた。すると坂本の手が現れ、スポーツバッグの中身をたしかめる。中には何もはいってはいない。
「身代金はない。奪われた」
坂本がそう告げると、動画はそこで終了した。




