第五幕 第六場
動画ファイルを再生した。画面には高所から陣取るようにして、グリュック城の正面入り口が映し出された。どうやら付近にある建物の窓から隠し撮りしている様子で、時間帯は夜のようだ。そのためグリュック城が明るく照らされている。
しばらく何も起きないまま一分が過ぎた。そのため早送りをする。やがて人が現れたので通常再生にもどした。いま画面には女が映り込んでいる。四十歳ぐらいと思われるスタイルのいい女性で、スポーツバッグを肩からさげている。帽子を目深にかぶり、マスクをしているため顔はよくわからない。
その女性はさりげなくあたりに視線を向けて、周囲の状況をさぐっている。やがてだれにも見られていないと悟ったのか、グリュック城の中へとはいっていく。
その後、しばらく画面に変化はない。そのためふたたび早送りする。やがて女性がグリュック城から出てくると通常再生にもどす。女性はスポーツバッグは持っておらず、そのまま画面からフェードアウトしていった。
その後、しばらく画面に変化はない。ふたたび早送りをする。だがなかなか変化は起きない。四倍速、そして六倍速へとスピードを速める。
しばらくして画面に何者かが現れたかと思うと、一瞬でグリュク城の中へとはいっていく。そのため倍速をやめ、該当シーンまで巻きもどして通常再生する。現れたのは魔女と赤ずきんのコスプレをしたユイとコハルだ。ふたりが城にはいってほどなくして、突然あたりは闇に包まれた。
「なんだ?」坂本の当惑声が聞こえた。「停電か……」
画面はすぐに暗視撮影モードに切り替わると、坂本の緊張した息づかいだけが聞こえてくる。だが画面に変化は現れない。そのため早送りをはじめた。しばらくすると、画面に黒いレインコートを着た人物が映り込んだ。そのため通常再生にもどす。その人物はこちらに背を向けたままグリュック城へとはいっていった。
それからほどなくして銃撃音が聞こえてきた。
「銃声!」坂本が驚きの声をあげた。「中で何が起きている」
やがてレインコートを着た人物がグリュック城から出てくると、全力で走り出して画面から消えていった。
しばらくは何も起きない。それから一分後、あたりの様子をうかがうように、こっそりとユイとコハルがグリュク城から出てくる。そしてそそくさと画面からいなくなると、動画はそこで終了した。




