第五幕 第五場
「答えろ!」コハルが言った。「おまえがアップルか?」
「ぼくはアップルなんかじゃない!」マコトは強く否定した。
「だったらおまえの正体はなんだ?」コハルはこれ見よがしに拳銃を掲げる。「おしえてくれないかな。無理にとは言わないけど」いい終えると、微笑んでウインクする。
あきらかな脅しだ、とわたしは思った。けどマコトが何を隠していたのか知りたくて、わたしはあえて口を挟まなかった。そこまでしてマコトに恋人がいたのかどうか、わたしは知りたがっているらしい。どうやらわたしもまた、マコトのことが好きだったようだ。
「ぼくは……」マコトは観念した様子でしゃべりだす。「ぼくたちは先生の助手をしている。ぼくたちが先生と読んでいる坂本という人物は探偵で、今回の事件において犯人を特定するために長谷川ヒロユキ氏に雇われたんだ。ぼくとカオリは先生の助手として、一般人のカップルに偽装し、ビデオカメラで監視役をつとめていた」
「なるほど。おまえの、いやおまえたちの正体はよくわかった」コハルは満足げにうなずく。「けどおまえとカオリとかいう女が恋人ではないとは証明できないよね。もともと恋人同士だったから、カップル役の監視者として任命されたんじゃないの?」
「ちがう」マコトは首を横に振る。「恋人ではない」
「証明できるのかしら?」
「できる」マコトはうなずくと、けわしい顔つきになる。「ぼくはずっとアカネのことをシンデレラ、もしくは長谷川の孫娘じゃないかと疑っていた。だから先生から今回の事件の話を聞かされたとき、アカネのことが心配でみずから志願して参加したんだ」
「なるほど、それで」コハルが先を促す。
「けどアカネはツアー客としてふつうグリム王国にいて、ぼくは驚いた。だからホテルにもどって話しかけたよ。けどぼくのしていた指輪を見て口論になったんだ。そのあともずっとアカネのことが気になっていて、だから停電が起きたとき心配で、すぐさまアカネを探しにいったんだ」そこでマコトはつらそうな表情を見せた。「けどそのせいでカオリは殺されてしまった、と聞いている。ぼくが立場を無視して、身勝手な行動に出たから彼女は死んでしまった」
「……どうやら嘘じゃないみたいだね」コハルは納得した様子だ。
「きみが、いやきみたちが今回の事件の首謀者だろ。なら教えてくれ、長谷川ヒロユキの孫娘はどこにいる?」マコトはくやしげに唇を噛む。「それを突き止めないと、カオリや先生に顔向けできない」
「あら、そんなにわたしに会いたかったの?」コハルが微笑んだ。




