第五幕 第四場
いまおれと小森ミクは、死んでしまった坂本を見おろしている。坂本は死の間際に、気になることを言い残した。
『……失敗した。そっちはどうだマコト?』
それが何を意味するのかわからない。だが坂本のその言動から、あのマコトとカオリのカップルと何かつながりがあるようだ。
「蝶野さん、これ……」小森は坂本の右手にあるビデオカメラを指差した。「またビデオカメラです。これも偶然ってわけには、いきませんよね?」
「いかないな」
おれはため息まじりにそう言うと、ビデオカメラをその手から拾いあげて、それをいじりだす。
「もしこのビデオカメラも、きょうこの日のために用意されていたとしたら、記録されている映像ファイルの日付は……」
おれはそこでことばを切ると、ビデオカメラの液晶ディスプレイ画面を小森に向ける。
「……日付は全部きょうです」小森が言った。「もはや偶然でないことは明白ですね」
「どうやらこの坂本って男も、きょうここで何かが起きることを事前に知っていた。だからビデオカメラで映像を残した」おれはビデオカメラをふたたびいじりだす。「でもどうして映像を記録していたんだ?」
「……防犯カメラ?」小森がぼそっとつぶやいた。
「なんだって小森さん?」おれは聞き返す。
「いや、その……なんだか防犯カメラみたいだなって思って」
「どうしてそう思うんだ?」
「だってきょうここでは、身代金の受け渡しがおこなわれるんですよ。だからビデオカメラで監視していたかもしれない、と思ったらまるで防犯カメラみたいだなって思ったんです」
「もしそうだとすると、この男は犯人側の人間ではないな」
「わたしもそう思います。どちらかというと、犯人を特定したいという思惑があるように思えますよ」
「だとすると警察の人間か」
「いえ、それはないです。警察には通報していませんから」
「そうなると民間の人間か……」
おれはビデオカメラを操作する。動画ファイルは時系列に一列に並んでいた。いちばん古い動画ファイルが先頭にきており、その数はたったの三つだ。さっそく先頭の動画ファイルを再生する。




