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第五幕 第三場

 ……氷の女王。そのあだ名の響きから、記憶をなくす以前のわたしは、冷血な人間のように思えてしまう。


 見知らぬ記憶のせいで、不安で押しつぶされそうになっていると、マコトがわたしの肩に手を置いた。そのためわたしがそちらに振り向くと、マコトは疲れきった笑みを浮かべており、とても気分が悪そうに見える。


「……ありがとうアカネ」マコトは弱々しい声音で言う。「もうだいじょうぶだ」


 マコトが立ちあがろうとしたので、わたしはそれを手伝う。ぎこちない動作で立ちあがらせると、マコトを会衆席へとすわらせた。


「マコちゃん、気分はだいじょうぶ?」


「ああ、だいじょうぶ」マコトはうなずいた。「軽い風邪をひいたようなもんさ」そう言って額に浮き出た汗をぬぐう。


「ごめん、わたしのせいでこんな目に」わたしは涙ぐんでしまう。


「アカネ」コハルが会話に割ってはいる。「あんたこういう男が趣味だったの。でもこいつ……たしか女づれだったわよ。いまはしていないみたいだけど、婚約指輪か結婚指輪どっちだが知らないけど、そいつを左手の薬指にはめて女といちゃいちゃしていたし、そんな男に尽くしてなんの意味があるのさ」


 その話を聞いて、なぜだか心が深く沈むのを感じた。まるですべてを失ったかのような、絶望的な気持ちになる。


「いまの話……ほんとうなのマコちゃん?」


「ちがう誤解だ!」マコトは慌てた様子で訂正する。「前にも言ったが、彼女とそういう関係じゃないんだ」


「だまされるなよアカネ」コハルが嘲笑まじりに言う。「女をもてあそぼうとする男のことばだ。信じれば都合のいい浮気相手にされるだけだぞ」


「マコちゃん……」それ以上、ことばを紡ぐことはできなかった。


「アカネ、信じてくれ。ぼくはきみのことが好きだった。きみがいなくなってもその気持ちは変わらない。いまでも好きなんだ」


「ふざけるなよ!」コハルが口調を鋭くさせる。「だったらあの女はなんだ。説明してみろよ」


「……あれは偽装なんだ」マコトは苦々しい顔つきになり、仕方がないといった様子で言う。「先生の指示でカップルのふりをして、ビデオカメラで怪しい人間がいないか記録していただけなんだよ」


「……なるほど」コハルは何かを悟った顔つきになる。「ということは、おまえがアップルだな?」

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