第四幕 第十二場
「扉を使えなくしたのは、あなたの仕業だったのね」わたしは緊張した面持ちで相手を見つめる。
「あたりまえだろ」神谷は言った。「プランFを実行した」
「プランF?」
「いつまでとぼけるとつもりだ」神谷は語気鋭くさせる。「この誘拐事件を成功させるために、あらゆる事態を想定していくつものプランを考えただろ。プランFはおれたちの逃走時間を稼ぐために、扉を使えなくする手段だ。もっとも外側でなく内側に鎖を巻いて、自分たちごと閉じ込めることになるとは思わなかったけどよ」
たしかにそうだった、とわたしは思った。おもわぬアクシデントにそなえて、いくつものプランをわたしが……計画した?
……何を考えているんだ、わたしは。まさかほんとうにそうなのか。どうしてそう思ったのかはわからない。もしかして神谷の話によって記憶が想起され、よみがえってきているのだろうか?
「まったくほんとうだったら、こんなくだらない格好せずに楽に金が手に入るはずだったのによ」神谷は話をつづける。「それなのに想定外の出来事ばかり起きるし、おまえたちはどこかに消えてしまうし、散々な目にあった。おかげでアリバイ作りやトリックのための準備がすべて台無しだ。あのくだらないドキュメンタリー映画を撮影した苦労もぱあだよ」
蝶野が指摘したとおり、あのドキュメンタリー映画はきょうこの日のために撮影したものらしい。おそらくは何かが起きたときのために、アリバイか何かに利用するつもりだったのだろう。例えば三人で撮影していると思わせて実はふたりしかおらず、残りのひとりがこっそり身代金を回収する、といった具合にだ。
「もう疲れた」神谷は暗鬱なため息をついた。「だから終わりにしようアカネ。さっさとここを出て、長谷川にシンデレラと名乗り出ろ。ことわるのなら、そこにいるおまえの男を殺す。それでも従わないのなら、おまえも殺す」そこで目をぎらりとさせる。「言っておくが本気だぞ。おれは人を殺してしまった。こうなったら何人殺すのも同じだ」
神谷の目に宿る狂気を見てとり、わたしはそれがほんとうだと悟った。神谷は躊躇なくわたしたちを殺すだろう……。
「どうした返事をしろよ」神谷は言った。「それとも長谷川にシンデレラだと名乗りたくない理由を、ようやう教えてくれるのか?」
「……わかった。あなたに従うわ。ここから——」
やにわに教会のドアが音を立て、わたしのことばをさえぎる。




