第四幕 第十一場
「早乙女モモコがアップル?」おれは言った。
「はい、そうです」小森ミクは力強くうなずく。「それなら長谷川の孫娘の父親がウルフであることも知っていますし、ウルフから脅迫状が届いたことも知っています。だから彼女がアップルですよ」
「でも早乙女モモコがアップルなら、どうして身代金の受け渡しを邪魔するようなことをするんだ」
「答えは簡単です。身代金を渡したくないんですよ。おそらく最初は身代金の受け渡しを阻止して、長谷川の孫娘がウルフに殺されることを望んだ。しかし脅迫状を受け取ったあとに、あなたがやってきた。そしてこの誘拐事件が茶番だとわかり、憤慨したにちがいありません。だからウルフの誘拐事件の失敗を望む熱狂的なスナッフ愛好家や、ウルフに個人的恨みを持つあなたを呼び寄せて、これをぶち壊しにしようとしたんですよ」
「たしかに筋は通る。だがはたしてそうなのだろうか?」
「そうにきまっていますよ。その証拠にあなたが来訪したことを、早乙女モモコは夫である長谷川ヒロユキに伝えていません」
「そうなのか?」
「はい、わたしもいろいろと嗅ぎまわって調べました。長谷川ヒロユキは病床に伏せているため、今回の誘拐事件は早乙女モモコがその対応を仕切っています。用意された身代金を、グリム王国の指定された場所に隠したのも彼女ですよ」
「なるほど」おれは同意のうなずきをする。「それなら彼女がアップルである可能性が高いな」
「まずまちがいありません。早乙女モモコはかなり頭の切れる女性で、おそらくはわたしの正体にうすうす感づいています。だからこそ、それとなくわたしに情報を漏らしました。身代金はシンデレラの懸賞金の三倍である三億円だと。つまり彼女は暗に伝えてきたんです、金を奪ってにげろ、と。だからわたしは横取りしようと考えた。結果は失敗しましたけどね」
「つまりアップルである早乙女モモコは、この誘拐事件を失敗させるために、その邪魔をしそうな連中を呼び寄せたのか」
「はい。おそらく早乙女モモコはどこかに隠れて、この様子を楽しんでいるはずです。彼女なら施錠された建物や施設の鍵を持ち出せますし、それにバスには彼女らしき人物も乗っていました」
おれは記憶を探る。たしかに顔を隠した四十歳ぐらいの女性が乗車していた。あれが早乙女モモコ……いや、もしかすると……。
「早乙女モモコじゃない」おれは言う。「あれは長谷川ユキナだ」




