第四幕 第九場
「とりあえずウルフが自分の娘を利用して、狂言誘拐を実行していることはわかった」おれは言った。「けどなぜやつはここで無差別殺人をおこなっているんだ?」
「蝶野さん」小森ミクが言う。「それはたぶんですけど、身代金を横取りされたからだと思います」
「身代金を横取りだと?」
「はい、そうです」小森はうなずく。「実を言うと、わたしも身代金を横取りしようと考えた人間のひとりで、それを奪って雲隠れするつもりだったんです。けれど指定された場所へ行ったら、ウルフとあのレイヤーたちが銃撃戦を繰り広げていたんですよ」
「なんだって!」おれは思わず声を荒らげた。
「二対一でしたので、そのうちウルフが逃げ出し、レイヤーたちが身代金を奪って逃走したんです」
「なるほど。それでやつはレイヤーを殺したんだな……」そこまで口にして、おれは首をかしげる。「ってちょっと待ってくれ。レイヤーが殺される理由はわかったが、ほかのやつらはどうなるんだ。ウルフに殺される理由がないぞ」
「あの蝶野さん、信じられないと思うんですけど」小森はそこで声の調子を落とした。「いまこのグリム王国には、ふたりのウルフがいます。たぶんまちがいありません」
「……そんな馬鹿な」おれはにわかには信じられなかった。「やつは単独犯だぞ。それはこれまでの事件からあきらかだ」
「でもわたし見たんです。刃物を持って徘徊するウルフ、やつは右利きだった。でも拳銃を持っていたウルフは左利きでしたよ」
「ウルフがふたりいる?」おれは眉根を寄せた。「いや、ありえない。やつは単独犯……だけど、ふたりいる。どういうことだ?」
「もしかして片方は偽物なのかも」
「偽物……あるいはコピーキャットなのかもしれない。どっちにしろやっかいだ」おれはため息をついた。「ただでさえやっかいな状況なのに、混乱させやがって。そもそもあのレイヤーはなんだ。なんで身代金があることを知っていた」そこではっとする。「そういえばアップルだったな。やつらもおれと同じで、アップルが呼び寄せた……のか?」
「あのですね、蝶野さん。アップルについてですが、わたしはその正体に見当がついています」
「アップルがだれなのかわかるのか!」思わず声を大にする。
「たぶんですけど、アップルの正体は早乙女モモコだと思います」




