第四幕 第八場
「わたしがシンデレラ?」わたしはとまどいを覚えた。
「ああ、そうだよ」男はうなずいた。「だからおまえは言ったじゃないか、わたしは長谷川の孫娘の居場所を知っている、と。しかも長谷川の孫娘は自分がその孫娘であると知らない、とも教えてくれた。だからそれを利用して狂言誘拐をでっちあげて、長谷川から金を巻きあげようって計画したんだろ」
「狂言誘拐?」わたしのとまどいはさらに増す。
「ああ、そうさ。おまえが長谷川の孫娘からこっそり血を抜き取り、それをハンカチにしみ込ませてきてくれたじゃないか」
「わたしがどうやって、そんなことをしたの?」
「そんなのおれが知るわけないだろ」男は顔をしかめた。「だいたいおまえは、長谷川の孫娘について詮索しないことを、おれたちに約束させたじゃないか。だからおまえがどうやって孫娘から血を抜き取ったのか、おれにわかるわけないだろ」
何がなんだかわからない。記憶をなくす前のわたしが狂言誘拐を企んだ? 長谷川の孫娘の血を利用して?
「……そのハンカチはいまどこに?」
「何を言っているんだおまえ?」男は正気かと言いたげな顔つきになる。「長谷川宅に送りつけたじゃないか。おれがウルフに、そしておまえが孫娘に扮した脅迫ビデオとともにさ」
わたしは信じられない思いだった。「どうしてそんなことを?」
「おいアカネ、おまえさっきから言っていることがおかしいぞ。忘れたのか?」男は困惑した様子だ。「これはおまえが立てた計画だぞ。長谷川の孫娘の血を利用し、狂言誘拐を実行する。そしてその罪をなすりつけるために、おれたちはウルフのふりをして脅迫状を送りつける。これは全部おまえが考えたことだ」
足下がふらつく思いだった。どうやらわたしたちは、長谷川の孫娘の血を利用して、狂言誘拐をおこなったらしい。しかも主犯はこのわたしだ。それが事実だとしたら、とんでもないことだ……。
「おいアカネ!」男が心配そうにわたしの顔をのぞきこむ。「どうしたんだよ、ぼっとして。しっかりしろよ」
わたしははっとする。「……あなただれ?」
「はあ? 何を言っているんだ。神谷にきまっているだろ」
「そう、あなたが神谷だったんだ。わたしたちの仲間の……」
「どうしたんだよ。まさか忘れたのか?」
「ええ、忘れたわ。だってわたしは記憶喪失なんだもの」
わたしはそう告げると、自然と苦笑する声を漏らしてしまう。




