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第四幕 第七場

「長谷川の孫娘がウルフに誘拐されただって」おれは言った。「それはいった、どういうことなんだ。説明してくれ」


「つい先週」小森ミクが言った。「長谷川宅に脅迫状とともに映像ファイルが記録されたメモリースティックが送られてきたの。その中身はウルフによる脅迫ビデオで、映像には椅子に縛られ顔を布で隠された長谷川の孫娘らしき女が映っていたわ。その女が長谷川の孫娘である証拠として、その血が付いたハンカチが脅迫状とともに同封されていたんだけど……」そこで言いよどむ。


「どうしたつづけてくれ」おれは興奮気味に先を促す。


「真偽をたしかめるために長谷川は警察の手は借りずに、民間の機関にDNA鑑定を依頼したですけど……」小森は怪訝そうな顔つきになる。「その結果、その血は長谷川の孫娘ではなく、長谷川の失踪した娘である長谷川ユキナのものと判明したの」


「えっ?」おれはとまどいの声を漏らした。「ちょっと待ってくれ。それはおかしい。長谷川ユキナは亡くなったはずなのでは?」


「わたしもそう思っていた。けど鑑定の結果、その血はまちがいなく長谷川ユキナのもので、その血が付着したハンカチは古い物ではなく、今年発売された大手メーカーの商品だったわ」


 おれは思案気な表情を作ると腕を組んだ。「……つまり長谷川ユキナは生きている。それじゃあシンデレラ事件のときに見つかったあの遺骨はだれのものだ?」


「さあ、それはわからない」小森は肩をすくめる。「DNAは熱に弱く、火葬された骨からはその鑑定はできないからね」


「もしほんとうに長谷川ユキナが生きているとしたら、いまは四十歳ぐらいか」


「おそらくね」小森はうなずいた。「この奇妙な鑑定結果にもかかわらず、長谷川はウルフの要求をのんで身代金を用意したわ。受け渡し日はきょう、そして指定された場所はここグリム王国よ」


「……おかしい」おれはあごに手を添える。「長谷川ユキナは失踪後、ウルフの娘を産んでいるはず。つまりは夫婦ってことだ。だとすればこの誘拐事件はとんだ茶番劇になるぞ」


「ええ、そうね」小森はうなずいた。「わたしもあなたから長谷川の孫娘の父親がウルフだと聞いて、同じことを思ったわ。ウルフは自分の娘を誘拐したと言って、身代金を要求している。つまりこれは狂言誘拐になるわね」


「たしかにそうなる。けどどうにも引っかかる。どうしてウルフは自分の娘ではなく、妻であるユキナの血を送りつけたんだ?」

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