第四幕 第一場
おれはブレーメン広場から、ウルフが行ってしまった道をくやしげに見つめる。この体では走って追いかけるなど無理だ。
「動くと撃つわよ!」
小森ミクの叫ぶ声が聞こえたので振り返る。するとそこには倒れたユイが胸元を押さえながら苦しみ喘いでいる。そんなユイに対して小森が拳銃を向けていた。おそらくはユイが撃たれた際に落とした物を拾ったのだろう。
「落ち着くんだ、小森さん」おれはふたりに歩み寄る。「撃ってはいけない」
「でも蝶野さん」小森はこちらにけわしい顔を向ける。「こいつはわたしたちを殺そうとしたのよ」
「わかっている。けど彼女のその傷では、もうこちらに危害を加えることはできない。おそらくはもう……」長くはないだろ。
おれはユイに目を向ける。胸元を押さえる手からは血があふれ、ユイのそばに落ちているいつくかの札束を赤く染めあげている。その札束は、どうやらユイの背中に背負ったバッグからこぼれ落ちたらしく、開いたファスナーの隙間から札束が見えていた。バッグはユイの衣装と同系色の黒で、マントで隠すように背負われており、そのため先ほどは暗さもあって、その存在に気づけなかった。
おれは近寄るとユイを見おろす。「その金はなんだ?」
ユイはうつろな目でおれを見る。「金は……金だろ」
要領の得ない答えに、おれは顔をしかめる。「いったいおまえは何者だ?」
「ただのファンさ」そこでユイは咳き込んだ。「……ウルフのね」
そのことばでおれはすぐさま悟った。「まさかおまえはスナッフ愛好家で、つまりはウルフの信者だな」
「ちがうよ。言っただろ……ファンだって。信者ってのはコハルみたいなやつのことを言うんだよ。わたしも大概いかれているが、あいつはそれ以上だ。あそこまで熱狂できるなんて——」
ユイは激しく咳き込むと吐血する。
「おいしっかりしろ!」おれはそう言ってかがみ込む。「助けてやる。だから妨害装置がどこにあるのか教えてくれ。そうすればすぐに救急車を呼んでやるから」
ユイはか細い声で何かをつぶやいたかと思うと、その唇の動きが止まり、そして息を引き取った。
「ちくしょう!」
ふたたびおれはブレーメン広場でおたけびをあげた。




