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第一幕 第四場

 おれは自分を無視して行ってしまった車を追うようにして、悪態をつきながら道路を進んでいた。最初は道路の左右どちらを行くべきが逡巡していたが、車が進んで行った方向をめざすことにした。


 おそらくこの道路は現在使われていない、もしくはそれに近い状態のはず。たぶんいまは使われてない場所や施設へとつながっていたのではないかと思う。もしそうならどちらかに進めば、いま現在使用されている道路へと出るはずだ。そこにたどり着けさえすれば、町をめざしながらそこを通過する車に助けを求めることができるだろう。


 だからおれは車が進んだ先をめざした。それならばもし行き着く先が現在使用されている道路ではなく、なんらかの場所や施設だとしても、あの車があるはずだ。それならその車の運転手に助けを求めることができる。もしも車とは逆方向へと進み、そこが人のいなであろう場所や施設だったとしたら最悪の展開だからだ。


 やがて息も絶え絶えになる頃、ひらけた場所へとたどり着いた。どうやらそこは何かの駐車場だったらしく、うっすらと残された等間隔の白線の痕跡から推測できた。道路と同じくあちらこちらにひび割れが生じ、そこから草が生えている。


「……ここは?」


 あたりを見まわして、例の車の姿を探した。ここまでの道のりは一本道だった。あの車もここに来ているのはまちがいないはず。だが見渡せる範囲にその姿は見つからなかった。だが驚くに値しない。この駐車場はかなりの広さのようだ。


「車はどこへ行った?」


 おれは奥へと進んだ。そしてほどなくして、それが見えてきた。はじめはそれがいったいなんなのか、よくわからなかった。だが近づくにつれ、それの正体がわかり目を丸くする。


「……なんだこれは?」


 それは大きな壁だった。その高さは二階建ての家ぐらいほどで、それが横一直線に走っている。左右に視線を向けてみるも、壁の終わりは見えてこない。


「……壁?」おれは自分がそうつぶやくのを聞いた。


 さらに近づきその壁を間近に観察する。壁にはたくさんの植物のツタが這い、その表面を覆っていた。どうやらその植物はバラのようで、ところどころでぽつぽつと花を咲かせていたが、大半の花はまだつぼみのままだった。いまは八月の終わり。まだバラにとって花咲く時期ではないのだろう。


 おれはしばしその姿に圧倒されていたが、やがて自分がここに来た理由を思い出し、我に返った。

「こんなことしている場合じゃない。車を探さないと」


 壁に沿って歩いてみる。するとすぐに例の車を発見した。だが持ち主の姿は見当たらない。壁に背を向けて周囲を見まわしてみたが、人の姿はなく、その気配も感じられない。


「どこにいるんだ?」おれは車のボンネットに手を置く。「すでに冷えている」


 ここに車が到着してだいぶ時間が経過したのだろう。持ち主はどこへ行ってしまったんだ?

 ふたたび周囲を見まわすも、やはりその姿は確認できない。ためしに車のドアをあけようと試みるも、ロックされていた。


 途方に暮れながら、後ろを振り返る。するとそこにはヨーロッパのお城に登場しそうな大きな門があった。その門の両扉は分厚く重みがありそうで、表面には華麗な装飾が施されている。

 どうやら車ばかりに気を取られていたようで、その存在にいまのいままで気づかなかったらしい。


「……まさかこの中に?」


 よく見ると片方の扉がわずかに開いているではないか。どうやら車の持ち主はこの中へはいっていったようだ。車がこの位置で停められていることからして、ほぼまちがいないだろう。


 しかしそれにしても、いったいこの壁の向こうに何があるのだろうか。


 おれはゆっくりと門に歩み寄ると、その扉を押してみる。やや重くて固いものの、扉はうなるような低い音を立てて動き出した。そして人が通れそうな隙間ができると、そこへ体を滑り込ませ、中へと足を踏み入れた。


 壁の中は暗く、何らかの明かりは見えない。懐中電灯の光であたりを探ってみる。どうやらここは広場らしき場所のようで、地面はアスファルトではなく石畳になっていた。広場の両脇には奥へと誘うかのように針葉樹の木々が等間隔で配されている。それに従い奥へと視線を向けると、月明かりに照らされたおぼろげな建物とおぼしき輪郭が見てとれた。


「なんだろうあれは?」


 興味を引かれたおれは、当初の目的を忘れて前へと進んでいた。するとまず最初に見えてきたのは大きな噴水の泉だった。やがてそこに近づくにつれて、まわりにある建物の姿があきらかになるや、思わず息をのんでしまう。


 そこにあったのは中世ヨーロッパ風の民家の建物群であり、そこはまるでひとつの町のようになっていたからだ。

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