第三幕 第十六場
いまおれたちはマコトの姿を探し求めてグリム王国をさまよい、そしてブレーメン広場へとさしかかったところだ。いつウルフが現れてもいいように、左手にはビデオカメラ、右手には拳銃を構えている。そのため小森ミクの肩を借りることはできず、足を引きずりながらでの移動となった。
そんなおれを小森が心配そうな顔で見つめながら、あとをついてくる。小森にもビデオカメラを分け与え、暗視撮影機能を利用して移動させている。
「蝶野さん」小森が小声で言う。「なかなか見つかりませんね」
「ああ、おかげでこっちはへとへとだよ」おれは顔に浮き出た汗をぬぐった。「いったいどこに隠れていやがるマコトのやつ」
「だいじょうぶですか」小森は心配するような口調になる。「その体でひとりで歩くのは大変でしょう。やっぱりわたしの肩を貸しましょうか」
「いや、いい。それじゃあウルフが突然出てきたときに、とっさに反応できない。命取りになる」
おれたちがブレーメン広場に足を踏み入れたそのとき、ブレーメン像の付近で何やら人影らしきものが動いているのを見てとった。すぐさま拳銃を向けると、ビデオカメラをズームアップさせる。するとそこにはブレーメン像に隠れるようにして、こちらにビデオカメラを向けている人物の姿が。どうやら向こうもこちらの姿に気がついたらしく、ブレーメン像から姿を現し、その正体が判明する。
「あれは佐藤のやつだ」おれは拳銃をおろした。
「はずれのほうですね」小森が付け加える。
佐藤アカネはこちらに向かって、すまなさそうに頭をさげている。
「蝶野さん、どうやら彼女は何やらあやまっているみたいですけど、いったいなんなのでしょうね?」
「おそらくはおれから逃げ出したことを、いまになって後悔したんだろう。ひとりっきりで心細くて、心変わりしたってところかな」
「どうしますか?」
「見捨てるわけにもいかないな。それにもしかすると記憶がもどっているかもしれない。彼女と合流しよう」
「わかりました」
おれたちは佐藤と合流すべくブレーメン像へと向かう。そしてブレーメン像にたどり着いたそのとき、突然眩しい光がおれの目をくらませたかと思うと、後頭部に鋭い一撃が加えられた。おれはそのまま地面へと倒れてしまう。




