第三幕 第十二場
いまわたしの目の前でマコトが左手の薬指から指輪をはずし、そしてズボンのポケットへとしまった。
「とにかくいまは、この窮地から脱出することだけを考えよう」マコトが言った。「南側入り口以外で、どこか出入りできそうな場所を探してみようと思う」
「けどマコトさん」わたし記憶を探りながら言う。「たしかガイドの説明ではほかの出入り口は防犯上の問題から、すべて物理的に閉ざされているらしいですけど」
わたしにそう指摘されたのがいやだったのか、マコトは不機嫌そうな顔つきになり、黙してしまう。
「……あの、どうしたんですかマコトさん?」
「さん付けはやめてくれ」
「えっ?」
「きみにさん付けで呼ばれると、他人行儀みたいでいやなんだ。だからさんは付けないでくれ。あとできれば敬語もやめてほしい」
「あっ、はい。わかりまし……わかったわマコト」わたしはぎこちない口調になる。「これでいいかな?」
「……ああ、それでかまわないよ」
そう言ったマコトの顔はまだ不満げだった。おそらくは記憶を失う以前のわたしのしゃべり方を期待していたのだろう。だけどいまのわたしにとって目の前にいる人物は、記憶がないためほぼ初対面の人間だ。そんな人物相手に、いきなりくだけたしゃべり方はうまくできない。それがマコトにとって不満なんだろう。
「ごめんなさ……ごめんねマコト、うまくしゃべれなくて」
「いや、気にする必要はない。アカネはいま記憶喪失なんだから、しかたがないよ。ぼくのほうこそごめん。神経質になっていた」
気まずい沈黙が訪れた。わたしはそれに耐えきれなくなり、無理矢理話題をふってみる。
「……そ、そういえば、さっきはどうしてわたしに長谷川ヒロユキの孫娘について尋ねたの?」わたしは質問する。「こんな状況だというのに、そんなことを突然訊いてくるから、びっくりしたわよ」
「それは……」マコトは口ごもってしまう。「その話はやめておこう。あとで全部ちゃんと説明するから。だからいまはここから脱出することだけ考えよう」
マコトの意見はもっともだ、と思った。「うん、わかった」
わたしたちはこの危険な状況下において、どうするべきか話し合うことにした。




