表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/99

第三幕 第十一場

 カオリと名乗った女が持っていたビデオカメラには、婚約者であるマコトといっしょにグリム王国を満喫する映像が残されていた。何か気になるところや怪しい行動がないかと早送りでたしかめるも、いまのところ特に見つからない。


 そんなふうに作業をつづけ、やがて残り動画ファイルはあとわずかとなった。動画ファイルを再生すると同時に早送りする。だが画面にグリム王国ではなく、彼らが宿泊していると思われるホテル内部の映像が映し出されたため、すぐに早送りをやめた。いま画面ではホテルの廊下を歩く様子が流れている。


「まったくダーリンはどこへ行ったのでしょうか?」カオリの声が聞こえた。「もうそろそろしたら、グリム王国見学ツアー夜の部がはじまるというのに。これから本番ってときにいなくなるんだから、もう……」


 どうやら撮影者はカオリで婚約者のマコトを探しているらしい。やがて画面は廊下を突きあたり、そこにある窓から外を眺めるような構図になる。あたりはすっかり日が落ち、ホテルの敷地に設置された野外照明には明かりがついていた。


「……んっ、あれは?」


 画面が動き出した。すると外に設置されたベンチのそばで、何やら言い争うふたりの男女の姿をとらえた。


「……もしかしてダーリン?」


 画面がズームアップされると、言い争っている男の人物がマコトで、女が佐藤アカネだとわかった。


「何しているのよ?」カオリは困惑している様子だ。「っていうか相手はだれ?」


 画面ではしばしのあいだ、ふたりが言い争う様子がつづいた。距離があるため、何をしゃべっているのかわからない。

 やがて佐藤が泣き出したらしく、その目をぬぐいはじめた。するとマコトは佐藤を抱きしめた。拒絶される様子はない。


「えっ!」カオリの驚く声が聞こえた。


 ほどなくして抱擁を解くと、マコトは自分の唇を佐藤の唇に重ねた。ふたりはそのまま動かない。それが一分近くつづいた。その間、カオリはひと言もことばを発しない。

 やがて佐藤のほうから唇を離すと、マコトに背を向けてそのまま逃げるようにして立ち去る。マコトはそれを呼び止めようとするが、佐藤はそのまま画面から消えてしまった。


 カオリの重苦しいため息が聞こえると、そこで動画は終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ